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第180話 忍び寄る船

 一隻の砂上船が砂海を進む。柔らかな風を浴びなら真新しい船は猛スピードで砂を巻き上げ駆けていた。

 船体後部にあるオルガンの前にラウルが座っている。ラウルの演奏能力は高く、太くて無骨な指が華麗に鍵盤の上を滑るように動いていた。

 甲板のヘリにグレンとクレアが立ち過ぎ去る砂たちを見つめていた。クレアは両手で猫を抱えている。


「標的は動いてないんだよな?」

「はい。そうですよね?」

「にゃーん」


 クレアが抱えている猫が鳴いた。グレンは静かにうなずいた。


「やっぱりか…… 義姉ちゃんの予想通りだな」

「えぇ。やっぱり時間が経ってもクズはクズでしたね……」


 寂しそうに顔をあげクレアはつぶやき抱えた猫の優しく抱きしめる。


「うん!?」


 景色の流れるスピードが落ち砂上船が揺れて止まった。


「標的からの距離は五キロ。こちらは準備を始めます」


 ジョシュアが二人の元へと駆けてきて声をかける。二人は静かにうなずいて右手をあげ答えた。ジョシュアは二人が返事をすると振り向いて去って行った。クレアは視線をグレンに向けた。


「じゃあ私達も準備をしますか」

「あぁ」

「まず…… うん!?」


 クレアの言葉にグレンは返事をした。二人は背後に気配を感じ振り向いた。背後に振り向いたクレアはニコッとほほ笑み口を開く。


「ちょうど良かったです。こっちへ来てください」

「かしこまりました」


 二人の背後十メートルほど先にアーラが立って居た。彼女はクレアに返事をして丁寧に頭を下げ二人の元へと歩いてくる。三人はとある目的で砂上船に乗り移動していた。

 並んだクレアとグレンの前にアーラがやってきた。彼女が立ち止まるとクレアはしゃがんで猫を床に置き撫でてから顔をあげ静かに口を開く。


「今回の仕事はミナリーさんの保護です。そして…… アランドロを排除します」


 二人は同時にうなずきクレアは微笑んだ。グレンとクレアとアーラは”天使の涙”を実行しアランドロをノウレッジ大陸から排除するために移動をしていた。

 立ち上がったクレアは静かに砂海へ視線を向けた。


「そして今回も……」


 話の途中でクレアの言葉をグレンが遮った。


「教会は関与しないんだろ?」

「はい。帝国軍第三統合軍司令官アランドロとその部下は…… グレゴリウス捜索中に砂塵回廊付近で砂上船ごと行方不明になります。良いですね?」


 グレンは黙って右手をあげ大きく力強くうなずいた。クレアはグレンの返事を見て静かにアーラへ顔を向ける。


「私とグレン君がアランドロを沈黙させますので、アーラさんはミナリーさんの保護をお願いします。彼女は船尾にある下層の船室に監禁されています」

「かしこまりました」

「後…… 相手は謎の技術銀細工で武装しています。ミナリーさんを保護したら私達を待たずになるべく戦闘は避けて船に戻ってください」

「わかりました」


 アーラはクレアの指示にうなずいてから返事をした。砂が舞い上がるぷしゅーっという音がして、止まっていた砂上船がゆっくりと静かに動き出した。


「じゃあ…… 動ける準備をして待機です」


 クレアの言葉にグレンとアーラがうなずいた。クレアは鞄からフードを二枚出して一枚をグレンに渡した。二人はフードを深くかぶる。二人がフードをかぶってもアーラは何もせずにいた。アーラが何もしないのを見て、首をかしげてグレンが彼女に声をかける。


「アーラさん…… すぐにばれると思うけど一応は顔を隠さないと」

「ふふふ。平気ですわ」

「「えっ!?」」


 ほほ笑んだアーラがその場で回転し驚いて声をあげるクレアとグレンだった。アーラが回転すると同時にシスター服が足元へ落ちた。慌てて顔を背け目を閉じるグレンだった。しかし…… 欲望にかられた彼は目を薄っすらとあけ彼女のシスター服から伸びた細い足の上へと視線をあげていく……


「ほっ……」


 安堵して胸を撫でおろすグレン、ただ彼からは若干の期待外れの失望が滲んでいた。シスター服が脱げたアーラはふくらはぎの上までの長さがある黒のブーツに、黒の厚手のストッキングにミニスカートを履き黒い長そでぴっちりとした黒の上着を着ていた。両手には黒の手袋をつけ首にはマスクがかけられている。ベールで覆われてほとんど目にできなかった長いストレートの髪には白のカチューシャが見える。


「この格好は久しぶりですわ……」


 マスクで顔を覆いうれしそうに胸に手をあて笑うアーラだった。クレアはホッとした表情で、グレンはなぜかちょっと残念そうにしていた。クレアが目を細めてグレンに冷たい視線を送る、彼女がグレンの表情の変化を見逃すはずがないのだ。


「いた!!!」

「いまろくでもない期待してましたよね! エッチ!!!」

「しっしてねえよ……」


 クレアがグレンの足を踏んで声をあげていた。二人の様子を見てアーラは微笑むのだった。


「見えて来ました! 標的です!!」


 マストの見張り台からジョシュアが声をあげた。三人は顔を見合せてうなずくと船首へと向かって走って行った。

 船首の手前まで来た三人は前方に視線を向ける。砂上船の先には帝国軍旗をなびかせたアランドロの船が見える。グレン達の船はアランドロのちょうど左側面から近づいていた。

 赤と白の派手な船にグレンは顔をしかめた。


「なんか目がチカチカする船だな」

「アランドロの趣味ですね…… 相変わらずけばいのが好きですねぇ」

「本当ですわね…… 船名はピーチィエイミー号で可愛らしいのに……」


 アランドロの船を見つけるとグレン達が乗る砂上船は、さらに加速しどんどんと距離を詰めていく。クレアはアランドロの船の側面を指した。


「この船を相手の側面にぶつけて乗り込みますよ」

「えっ!? 船にぶつけるって…… 砂クジラ大丈夫なのか?」


 驚いたグレンがクレアに尋ねる。砂上船は通常の船と違い砂クジラが引っ張って動いている。船体をぶつければ砂を泳ぐ砂クジラに影響があり動けなくなる可能性もあるのだ。


「大丈夫ですよ…… ほら」


 ニコッとほほ笑みクレアは乗っている船の引っ張る砂クジラと船首を交互に指す。


「あれは……」


 船の先端には青く輝く装甲が装備され、さらに泳ぐ砂クジラも青い装甲を纏い輝いている。


「古代の鎧か…… って!! 勝手に持ち出しのか!?」

「勝手じゃありませんよ。ジーガーさんが亡くなったので審査がすぐに終わって私達の所有物です」

「あぁ。そういうこと……」

「これで鎧がクジラさんが着られることもわかりました!」


 グレンの言葉にクレアは不服そうに口を尖らせて答えていた。クレアはジーガーが身に着けていた鎧の所有者となり砂塵回廊から持ち出し砂クジラと船首に装備させていた。


「じゃあこれが終わったら…… シルバーリヴァイアサンに殴り込みだな」

「はい」


 ニコッとグレンにほほ笑むクレアだった。

 激しい音が響く。近づくグレン達の船にアランドロの船が警笛を鳴らしているのだ。アランドロの船は避けようと動くがラウルが操る船が速くアランドロの船との距離を確実に詰めていく。


「うわ!?」


 船が激しく揺れて船体の砂海から横から砂が巻きあがって黒煙が上がる。アランドロの船から炎の球が飛んで来たのだ。ラウルの巧みな操作でなんなく砂上船は炎の球をかわした。


「私の後ろに隠れて!」


 背負っていた大剣を抜いてクレアが叫ぶ。グレンとアーラが彼女の背中に隠れた。直後に矢が甲板へと降り注いだ。クレアは飛んで来た矢を大剣ではたき落としていく。近づかせないように必死なアランドロ達の抵抗むなしく砂上船は至近距離へと迫って来ていた。


「そろそろですね…… つかまってください!」


 クレアが手を伸ばし船の壁をつかむ。アーラとグレンも彼女の後ろで同じように壁をつかむ。クレアは顔をあげ視線を船首へと向けた。アランドロの船が大きくなって目の前まで迫って来ていた。衝突が迫る砂上船、三人は顔を背け両手に力を込め踏ん張るのだった。

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