第173話 答えはもっと奥にある
スタスタと歩いて扉へ向かう、グレンをクレアはあきれた顔で見つめていた。彼の背中に目を細めてクレアは言葉をぶつける。
「もう…… 本当は置いて行きたくないくせに…… かっこつけちゃって…… ほら行きますよ」
首を横に振ったクレアは再度クローディアを立たせようと腕を引っ張った。グレンにオリビアとグレゴリウスとメルダが続き、キティルとクロースとクレアの三人がその場に残っていた。
「いや!!」
「もう…… みんなわがままなんですから…… 私は本当に置いて行きます!!! クロースちゃん!」
クレアがクロースを呼んだ。彼女はうなずいて右手を開いてクローディアへと向けた。
「かしこまりましたわ…… プリズンウインドウ!」
クローディアの足元がわずかに白く光るとどこからともなく風が巻き起こる。巻き起こった風に小さく穏やかなあ飾是の渦となってクローディアを包み、彼女の体をゆっくりと浮かび上がらせる。プリズンウインドウは風で物や人を風の中に閉じ込める魔法である。また、使用者の意思で物や人間を閉じ込めたまま移動することもできる。
「キャッ!!!! おろして…… う…… うぅ…… ううーーーー!!!」
必死に叫ぶクローディアだったが、クロースが風の渦を指すと彼女を運ぶ風が強くなっていった。風の音はクローディアの言葉をかき消し徐々に聞こえなくなっていった。
「これで良いですか?」
「えぇ」
満足そうにうなずいたクレアは振り向いて駆け出すのだった。
「グレンくーん! 待って下さーい!」
クレアの声が聞こえグレンが立ち止まり振り返る。クローディアが運ばれるとクレアは駆け足でグレンの元へと駆だした。彼女にキティルとクロースが続く。
扉の前で全員が並んで立った。グレンは横に視線を向けた。そこにはクローディアが身に着けていた鎧が転がっていた。
「さて…… まずは鎧を…… 義姉ちゃんの鞄に」
「いえ! 私が保管します。はっ!」
グレンは鎧をクレアの鞄に預けようとしたが、キティルが手をあげて自分が保管すると申し出た。彼女は帽子を外し鎧の上に投げた。帽子は鎧の上で止まった。キティルが指を鳴らすと帽子が鎧を吸い込んでいった。鎧を吸い込むと帽子はキティルの手へと戻った。キティルは帽子をかぶってグレンにほほ笑む。
「これでいつでも出せます」
「わかった。じゃあ行くか」
グレン達は全員で扉の中へと足を踏み入れた。扉の向こうは薄暗いアーチ状の天井を持つ幅の廊下が伸びていた。廊下の先二十メートルほど向こうが明るくなっていた。グレンを先頭にして彼らは先に進み廊下の先へ向かう。
「なんだ…… ここは……」
廊下の先は細長い部屋で左右の壁に二メートルほどの透明な容器が等間隔で置かれていた。透明な緑色の液体で満たされた容器の中にはミノタウロスやドラゴンの幼体などが入っているのが見えた。グレンは左右に視線を向けゆっくりと歩く彼はどこかこの容器に見覚えがあったが思い出せないでいた。
立ち止まり容器を見たキティルがハッとしてグレンに声をかける。
「グレンさん…… この透明な容器…… テオドールでキラーブルーが……」
「そうだ! キラーブルーが魔法士隊に使ったやつだな」
透明の容器はテオドールでキラーブルーと対峙した際に使用された物と酷似していた。グレンはキティルの言葉で思い出した。
「おい。みんな! これを見てみろ」
反対側で容器を見ていたオリビアが皆を呼んだ。彼女の周りにグレン達が集まる。オリビアは一つの容器を指さした。そこには……
「囚人服…… ってこれって…… クローディアのか!」
「あぁ」
容器の中には白くボロボロの囚人服と青い下着が浮かんでいた。囚人服はクローディアが身に着けていたものだ。
グレンは身を乗り出して緑の液体に浮かぶ囚人服を見つめていた。しばらくして彼は体を戻し前を向いて考え込んでいた。
「何で…… 囚人服が…… なんのために…… うん!?」
視線を上げてグレンが何か気づいた。彼の横に居たクレアがその様子に気づいて声をかける。
「どうしたのグレン君?」
「あれ!」
グレンが前方を指した。通路の先は金属の大きな扉が開いた状態で置かれていた。
「扉ですね…… それが何か?」
「違う上!」
腕を斜め上に向け通路の先を指すグレンだった。クレアは彼が指す方向へ視線を向ける。そこには先ほどの部屋と同じ青い宝石が設置されていた。
「青い石ですね…… キティルさん。お願いできますか?」
「わかりました」
グレン達は扉の前へと移動した。キティルが前に出ると短剣を抜いて宝石に向けて掲げ左右に静かに揺らす。宝石が青く光り細長い光線が伸びて来て短剣にぶつかる。
「何カゴ用デショウカ。オ嬢様」
宝石が瞬いて感情のない声が聞こえる。キティルは慣れた様子で宝石に問いかける。
「ここは何なの?」
「ココハ試作品保管庫ニナリマス……」
「試作品?」
首をかしげるキティルに宝石は青く光を瞬かせて返事をする。
「ハイ…… 現在サウスカイナー帝国ハ神獣ニヨル侵略ヲ受ケテオリ。ソレニ対抗スルタメノ生物兵器デス……」
「ふーん…… でも…… ここって鍜治場なんだよね? 他に武器とかないの?」
「鍜治場…… 武器……」
宝石は間を少し開けキティルの問いかけに答える。
「ハイ。通常兵器ノ生産モ行ッテオリマス。コノ奥デ製造ヲ行ッテオリマス」
音がしてゆっくりと金属の扉が開かれた。キティルはグレンたちに確認するように静かに振り向いた。
「行きましょうか。危険はないと思いますが皆さん。気をつけてください」
クレアの言葉に皆がうなずいた。グレン達はさらに奥へと進むのだった。扉の向こうの部屋は同じように細長い空間で通路の台が等間隔で並んでいた。右手の台の上には斧や大剣などの武器が置かれ、左手の台に鎧や盾などの防具が置かれている。武器の色は全て銀色で防具は全て青色だった。
「さっきせり上がって来たやつみたいだな……」
「ここから転送していたようですね……」
通路を歩きながら左右に並ぶ武器防具を見つめグレンとクレアが会話をしている。銀色の武器はキラーブルーや銀色のミノタウロスが持っていた物に酷似していた。
「それと鎧は…… ジーガーの野郎が見つけたのと一緒だな」
「はい」
防具はキティルの帽子にしまわれた鎧に酷似し同じものに見えた。クレアとグレンは立ち止まり武器と防具を見つめ会話をしていた。
「でも……」
ふとグレンは台へと近づき置かれた銀色の槍を見て首を傾げた。
「これは保管されているだけで…… 鍜治場じゃないよな。おーい。ここが鍜治場なんだろ?」
振り向いてグレンがキティルへ視線を向け尋ねる。ここは鍜治場でなく台に武器と防具が置かれた保管庫のようである。尋ねられたキティルは慌てた様子で周囲に目を向ける。
「えっと…… あっ!! もっと奥じゃないですか? ほら! 扉が開いてますよ」
何かに気づき通路の奥を指すキティルだった。彼女が指した先には前の部屋と同じように扉が見える。ただ、前の部屋と違い扉は開かれたままだった。
グレンは開かれた扉を見て隣にたつクレアと顔を見合せた。
「そうか…… じゃあ奥に行くか……」
「そうですね」
クレアに向かって奥の扉を親指で指すグレン、彼女はうなずいて返事をして視線を奥にある扉へと向けた。グレン達は扉からさらに奥へと進むのであった。