第172話 残酷な事実を突きつけられて
転げまわるクローディアの脇から血が流れて床を染めている。
「いやあああああああああああ…… なんで…… なんでよおおおおおおおおお……」
クローディアは泣きながらのたうちまわっている。扉の上の宝石が再度赤く光りだした、石の変化に気づい板クレアはのたうちまわるクローディアに視線を向けため息をつく。
「はぁ…… キティルさん。なんとかして石を止められますか」
「やってみます」
キティルが宝石に向け短剣をかざす。クレアは鞄を開け手を中へ入れ毛布を取り出し振り向いてクロースを呼ぶのだった。
「クロースちゃん。クローディアさんを治療しますよ。来てください」
「わかりました」
返事をしたクロースとクレアは並んでクローディアの元へ向かう。歩き出してすぐにクレアはまた振り向いてグレンに向かって眉間にシワを寄せた。
「グレン君は絶対に来ちゃダメですよ」
「もう行かねえよ……」
あきれた顔で右を左右に振って答えるグレンだった。
「ねえ!! もう彼女は動かないから攻撃を止めて!!!」
短剣を振りながら扉の上にある宝石に声をかけるキティルだった。宝石から短剣に細長い赤い光が伸びて来た。光は短剣からキティルの手へと伝って行く。
「認証キーノ返却ヲ確認…… 警戒態勢ヲ解除シマス」
声がして宝石の赤い光が消えた。光が消えた宝石を見てキティルはホッと胸を撫でおろす。
「ふぅ。これで大丈夫です……」
「わかった。オリビア! メルダ! 手伝ってくれ」
振り向いたキティルに皆が笑顔を向けた。グレンは返事をしてオリビアとメルダを呼んだ。グレンとオリビアとメルダがばらばらになった鎧を持って運ぶ。
クレアとクロースは毛布をクローディアにかけ治療をする。グレンとオリビアとメルダとキティルとグレゴリウスが扉の前に立って居た。
腕を組んで扉を見つめていたグレンがおもむろに口を開く。
「さて…… 今度こそ扉を開けるか…… キティル。頼む」
「はーい。やってみます」
銀色の短剣を掲げるキティルだった。扉の上の宝石が青く光り彼女が持つ短剣へと伸びていく。刀身に当たった光はキティルの体を移動していき彼女の額へと到達した。
「認証キー…… プラティニア家所有…… オ嬢様…… 訪問理由ヲ選択シテクダサイ」
「内部見学と……」
慣れた様子で現れたディスプレイの文字に触れるキティルだった。彼女が文字に触れると文字が白く光ってディスプレイは消えた。
「性能試験…… 新データ蓄積…… 性能試験ノ終了…… 確認……」
「うわ!?」
「なっなんだ!?」
扉の上にある宝石が静かに青く光り、また細長い光が真下へと伸び床へ到達した。直後に光は水平に横に広がると床を舐めるようにして奥へ広がり壁を上って天井へと行き消えて行った。
グレン達は光が自分を照らして通り過ぎていったことに驚いて声をあげていた。
「性能試験終了ヲ確認…… 承認…… 開錠シマス…… 扉カラ離レテオ待チクダサイ」
振り向いたキティルが皆に下がるように手で合図を送った。グレンたちは彼女の指示に従いクレアたちがいる場所まで下がるのだった。
大きな音がしてゆっくりと扉が開かれていく。同時に侵入を阻んでいた鉄格子もせり上がっていった。治療を終え毛布に巻かれ寝かされていたクローディアが飛び起きた。
「なんでよ!!!! 私の時は…… どうして!!!! 私が…… 一族がこの大陸の……」
「こら! まだ動くんじゃありませんわよ」
「はなして!!!」
起きて扉へ向かおうとしたクローディアをクロースが羽交い絞めにした。
「当該施設ハ…… サウスカイナー帝国…… プラティニア家所有ノ施設…… 下級市民ニ権限ハアリマセン」
クローディアの言葉に淡々と答える宝石だった。話を聞いてたオリビアは顎に手を置き扉を見つめた。
「つまり…… 古代人にも身分差があったということか……」
「えぇ…… 現代のガルバルディア帝国と変わらないってことですね」
オリビアの言葉にクレアがうなずいて同意する。二人のすぐ横で話を聞いていたグレンが首をかしげた。
「どういうこと? 義姉ちゃん……」
グレンの問いかけにキティルから羽交い絞めにされ倒されるクローディアへ視線を移しながらクレアが答える。
「キティルちゃんの祖先は古代人の中でも身分の高い貴族とかなんでしょうね。それで……・ クローディアさんの祖先は平民だったんですよ」
「うん!? なんで身分が高いからって……」
「冒険者の仕事一緒ですよ。クラスが高ければ重要な仕事を扱えます。クラスが低ければ重要な仕事は任せられません。遺跡が重要な物であれば身分の低い人は弾いて高い人しか通さないのでしょう」
「ふーん…… なるほどね……」
クレアはクローディアの祖先は平民で、キティルは古代人の貴族だったという。身分の違いで遺跡の対応が違うと推測は当たっている。口を尖らせてやや納得がいかないという顔で宝石を見つめるグレンだった。
「なっなによそれ!!!! 私が…… 私が古代人なのよ! 私は…… だって……」
羽交い絞めにされた状態でクレアたちの会話を聞いていたクローディアから力が抜けていく。クロースが手を離すと彼女はその場で座り来んでしまった。クローディアは膝の上で悔しそうに拳を握りしめていた。床にぽつちぽつりと染みが出来る彼女は泣いているようだ。
「帝国では…… 平民…… でも祖先は立派な大陸の支配者…… だから…… 私はここで…… 何よ!!! 結局どっちでも何も変わらないじゃない!!!!!」
顔をあげ天井に向かって叫ぶクローディア、彼女の目から大粒の涙があふれている。
「なんで…… こんななのに…… 私はあいつに…… やだ!!! やだああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
クローディアは叫びながら泣き続けていた。彼女はガルバルディア帝国の辺境にある小さな村の農家に次女として生まれた。両親に六人兄弟という家は貧しく土地を治める貴族からは見下されていた。そんな彼女の唯一の誇りは、自身が古代人の末裔であり祖先は大陸の支配者という両親からの教えだった。十歳で両親に懇願され兵役に就いた彼女はアランドロに目をつけられ第三統合軍へと強引に入隊させられた。
以後はアランドロのおもちゃとして扱われていた。いつかノウレッジへと赴き自身が大陸の支配者の子孫であることを証明し帝国を見返すことが、クローディアの望みだった。だが、それはもろく崩れ彼女は自身の人生に絶望し泣くしかできない。
泣き続けるクローディアに困惑したような表情を浮かべるグレン達、ただ一人クレアだけは真顔で静かに彼女の腕をつかんだ。
「立って下さい。行きますよ」
「いや…… 私は…… ひっぐ……」
「立ちなさい!!!」
強い口調で盾と命令しクローディアの腕を引っ張り、強引に彼女を立たせるクレアだった。
「いや…… いやああああああああああ!!! なんでよ! あんたに私の気持ちが分かる? ここは私の場所じゃなくて…… 私はなんでもないただの平民だったのよ!!!」
暴れて叫び続けるクローディアにグレンはうんざりと言った表情をする。
「うるせえな!!!! 黙れ!!! お前が何者かなんて興味ねえし昔にここがなんだったが知らねえよ。なに勝手に期待したくせに裏切られたみたいな面してんだよ!!!」
「ちょっ!? グっグレンさん……」
グレンはクローディアを怒鳴りつけた。大きな声が部屋に響いたがクローディアは構わず泣き続けていた。グレンは構わずに話を続ける。
「今のここはノウレッジ! 夢と希望の新大陸だ。過去は問わない。自分が何者かなんてな。自分で探すしかねえんだよ!!」
「いやあああああああああ……」
どんな言葉も今のクローディアには届かないようで彼女はずっと泣き続ける。もうわめくことはなかったが静かにずっと涙を流していた。
「義姉ちゃん! もう行こうぜ! 鎧も手に入れたしこいつは俺達にも用済みだ。動かないんだったら邪魔だから置いていくしかねえ」
グレンはクローディアに背を向けると一人で歩き出すのだった。