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第170話 情けは無駄に

 倒れた銀のミノタウロスをキティルは呆然と見つめていた。ゆっくり顔を横に向けた彼女の視線に笑顔のクレアが見える。


「なっなんで…… オリビアちゃんは何をしたの……」

「スティンガーオリビアです。オリビアちゃんの一撃に着けられた名前です。壁や標的を貫いて相手にダメージを与えることができるんです。元々は彼女の師匠の技で転送魔法を応用しているらしいですよ」

「すっすごい……」


 武器に転送魔法の魔力と込めて繰り出す、オリビアの一撃は障害物を超えて相手にダメージを与えられる。スティンガーオリビアと呼ばれるこの一撃で彼女は数々の魔族を葬りさった。

 ゆっくりと歩いてくるオリビアに目を輝かせるキティルだったがクレアから聞いた話にハッとする。

 

「あれ!? でもオリビアちゃんって…… 魔法が使えないんじゃ……」

「うーんとちょっと違います。あなたと同じですよ。得手と不得手が激しいんです。まぁ。彼女の場合は魔法個別で属性じゃないですけど……」

「えっ!? そうなんですね。えへへ」


 クレアはキティルを見て笑顔で答える。彼女の答えを聞いたキティルはどこか嬉しそうに笑っている。オリビアは魔法が全く使えないのではなく、退魔の魔法など一部は得意としている。

 笑顔のキティルにクレアはさらに話を続ける。


「使える魔法の方が少ないですからね。覚えておいた方がいいですよ。元彼女の仲間としてのアドバイスです」

「わかりました。後で聞いておきます」

「ふふふ」


 得意気に胸を張るクレアにキティルは素直に大きくうなずき返事をする。クレアは嬉しそうにほほ笑むのだった。

 逃げたグレンとクローディアはキティル達の前方二十メートルほど先に居た。銀のミノタウロスを見つめるグレンの足元でクローディアは立てずに寝転がっていた。


「さすが…… 勇者だな」


 倒れた銀のミノタウロスを見てつぶやくグレンだった。顔をあげ彼を見つめクローディアは少し悔しそうな顔で口を開く。


「あんた達はなんで…… 私を……」

「冒険者からあいつを倒すって依頼されただけだ。それで俺は邪魔なお前を戦場から排除しただけだ」


 視線を横に向けクローディアを見下ろし銀のミノタウロスを指して答えるグレンだった。クローディアは納得いかないといった顔をしていた。


「ほらよ…… 動くなよ。しばらくしたら傷は治るから大人しくそこに倒れてな」


 納得いかないといった顔のクローディアを気にすることなく、グレンはポケットから薬玉を取り出して彼女の近くへ投げた。薬玉から緑色の煙が沸き上がるのを確認しグレンはクレア達の元へと歩き出した。


「ハイパーキラブルーノ停止ヲ確認…… 試験ヲ終了シマス……」

「「「あっ!!」」」


 宝石が光り声が部屋に響くと開いていた鍜治場への扉が勢いよく閉じられた。近くにいたクロースたちが声をあげた。

 鍜治場への扉の前へとグレン達が集合する。グレンが前に出て扉に触れて悔しそうに声をあげる。


「また閉じられたな……」

「どうしましょうね……」


 クレアとグレンが顔を見合せ困った顔をしていた。二人の少し後ろで顔をあげキティルは扉の上の宝石を見つめていた。


「もう一度短剣を…… ううん。ダメ…… 同じ…… やっぱり必要なのは……」


 キティルは振り向いた。彼女の視線の先には倒れたクローディアが見えていた。意を決した表情をしたキティルは皆から離れて一歩ずつクローディアへと近づいていく。


「えっ!? キティル!? 何を」


 メルダがキティルが移動したことに気づいて声をかけた。すぐにクローディアに彼女が向かっていることに気づいたメルダがキティルを追いかけるのだった。

 キティルはクローディアの元へとやって来て、足を横にして座っている彼女の前にしゃがみ手を差し伸べた。


「歩ける?」

「……」


 クローディアは差し出されたキティルの手を払うと一人で立ち上がった。だが、まだダメージが残っているようで足元がおぼつかないでフラフラとしていた。


「えっ!?」


 声を上げるクローディア、おぼつかない足取りを見かねたキティルが彼女の肩を支えた。クローディアは視線をキティルに向け不満そうに口を開く。


「なんのつもり?」

「まだ歩けないみたいだから…… 一緒に来てほしいの」


 ほほ笑むキティルにクローディアは諦めたように彼女に支えられた。二人の元へメルダが駆けて来た。


「キティル! 何やってるのよ?」

「連れて行くのよ。あの宝石の前に! 彼女…… 彼女の鎧が必要なの……」

「はぁ。しょうがないわね……」


 メルダの質問にキティルは顔をあげ宝石を見つめていた。メルダは笑って肩をすぼめて首を横に振った。キティルを手伝おうとメルダはクローディアの反対側に回り彼女に肩を貸した。クローディアは両腕を広げ二人に支えられながらゆっくりと歩く。


「ほら! あんたちゃんと歩きなさい」

「……」


 歩きながらクローディアはメルダから顔を背けた。彼女の視線はキティルの体へと向けられた。


「!!!!」


 自分の肩を支えるキティルの胸元があるくたびに動いて隙間から懐が見えた。そこには銀色の短剣がある。短剣を見たクローディアは目を大きく見開いてジッと見つめていた。

 三人は並んで扉の前にいるグレン達の元へと近づく。うつむいたクローディアは自分の足を見ながら、何かを確かめるように二度三度強く地面に足をつけた。顔をあげグレン達の側に来ると彼女は右腕をスッとメルダの肩から外す。


「キャッ!!!」


 クローディアは右手でメルダを突き飛ばした。不意を突かれたメルダは悲鳴を上げ尻もちをついた。すぐに腕を引いたクローディアだった。彼女は左腕でキティルの肩を掴み彼女が逃げないように拘束した。

 引いた右手をクローディアはキティルの胸元から服の中へと滑り込ませる。短剣をつかんでクローディアは右手を引き抜いた。クローディアはキティルから短剣を奪い取った。

 すぐにグレン達が駆けつけて来る。グレンとクレアとオリビアがクローディアの前を塞ぎ、クロースとグレゴリウスがメルダの元へ向かう。

 クローディアはキティルを引き寄せ右手を彼女の喉元へと持って行く。


「動かないで!!!」


 キティルの胸から奪い取った短剣をクローディアは彼女の喉元に突きつけて叫ぶ。駆けつけたグレン達はキティルを人質にされ動けないでいた。


「クローディア! お前…… 助けるんじゃなかったな」

「えぇ。やっぱり無駄でしたね……」


 クローディアを見て眉をひそめるグレンとクレアだった。二人をクローディアは睨みつける。


「なんとでも言いなさい。私は…… 帝国に貢献できる…… もうただの平民じゃない…… さぁ道を開けなさい!!!」


 短剣を前に出して横に動かし道を開けるように叫ぶクローディアだった。


「グレンさん…… 道を開けてください。私は大丈夫ですから」

「キティル…… でも……」

「大丈夫です」


 まっすぐな瞳でうなずくキティルだった。グレンとクレアとオリビアは顔を見合せるとうなずいて道を開けた。


「こっちに来い!」


 クローディアはキティルを引きずって扉の前へと連れて行く。キティルの喉元に突きつけた短剣へクローディアが視線を落とした。


「これがあれば私も……」


 キティルはクローディアのつぶやきに反応し短剣について尋ねる。


「その短剣がなんなの?」

「ふん…… 何も知らないで持ってたの? ノウレッジの人は無知で何も知らないのね」


 鼻でキティルのことを笑うクローディアは得意げな表情で話し始めた。


「この短剣は古代遺跡を操作する鍵になるものよ」

「そうなのね…… でもあなたは何でそれを」

「ふふふ。それはね……」


 扉の前まで来たクローディアは立ち止まり笑顔で短剣を見つめるのだった。

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