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第169話 勇者の一撃

 激しい音が響き高速で飛んで来た青い塊が壁に叩きつけられ、衝撃が広がりわずかに周囲を震わせていく。


「くっ……」


 叩きつけられたのはクローディアだった。倒れていたところを蹴り上げられ肩からぶつかった、彼女は壁からずり落ちて座り顔をあげ銀色のミノタウロスを睨みつけている。かなりの速度でクローディアがぶつかった壁だが傷は一つもなく崩れることもなかった。また、彼女自身も頑丈な鎧のおかげでダメージはほとんどなかった。

 銀色のミノタウロスはクローディアから十メートルはなれた場所に立っておりジッと彼女を見つめて


「えっ!?」


 青い宝石から細長い光が伸びて来て壁に座っているクローディの額へと当たった。目を寄らせ光を見つめるクローディアだった。


「実験体…… 無傷…… 検証ヲ移行シマス……」


 部屋の声が響いた。直後に銀色のミノタウロスの足元の床が円形に開いて穴が現れる。穴は直径二メートルほどあり巨大なものだった。


「なっなによ…… あれ」


 開いた床から台に垂直に置かれた銀色の斧がせり上がって来た。斧は柄が長く巨大で左右に大きな刃がついており、柄頭に赤い宝石が見える。

 銀色のミノタウロスはすっと両手に持っていた斧と杖を捨て、せり上がって来た巨大な銀の斧をつかんで持ち上げ両手に持つ。斧がなくなると台はすっと下がって床は元に戻った。


「うがあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」


 声を手に持った斧を頭上で一回転させ振り下すと、銀のミノタウロスはクローディアに向け駆け出した。


「いっいや……」


 クローディアは逃げようと立ち上がるが距離はあっという間に詰められてしまった。銀色のミノタウロスは右手を引き左手をあげ斧を斜めにし、刃を地上を滑らせるようにしてクローディアを斬りつける。


「がっは!!」


 地面をわずかにこするような音がした直後に斧はクローディアに叩きつけられた。背後は壁で右から迫る斧から逃げようと左に向いたクローディアの背中に巨大な斧の刃が命中した。鎧のおかげで致命傷は免れたが、かなりの衝撃を受けたクローディアは体をのけぞらせ姿勢で吹き飛び地面にたたきつけられた。


「ゴホ…… にっ逃げなきゃ……」


 必死に逃げようと立ち上がろうと両手を床につけたクローディアだった。彼女の着る鎧の背面装甲がへこんでいる。クローディアは鎧がひしゃげて背中が圧迫されうまく息ができず足は衝撃でしびれ動きは鈍い。


「うがあああああああああああああああああああああああああ!!!」


 声が聞こえて振り返った。クローディアに斧を振り上げた銀色のミノタウロスが見えた。


「いや…… 誰か…… 助け……」


 泣きそうに顔をゆがめてクローディアは諦めて目をつむった。暗闇の中で彼女の耳に部屋中に響き渡るほど大きな金属と金属がぶつかり合う甲高い音が届いた。

 ただ、体には何もなくクローディアは静かにゆっくりと目を開ける。


「えっ!? あんたなんで……」

「……」


 クローディアの目にはグレンの背中が見えた。彼は獣化全解放ビーストモードプリズンブレイクで巨大化し月樹大剣(ムーンフォレスト)を垂直に持って刀身に左手を添え銀のミノタウロスの斧を受け止めていた。

 驚くクローディアを無視してグレンは両手に力を込め、伸びあがるようにして銀のミノタウロスの斧を押し返した。


「フン!!!」

「うがあああああああああああああああああああああああああ!!!!」


 グレンが両手を伸ばすと同時に銀のミノタウロスの斧は大きく弾かれ、反動で銀のミノタウロスは後ずさりする。銀色のミノタウロスはグレンを睨みつけ声をあげていた。その表情は悔しさがにじんでいる。銀のミノタウロスの様子を見てグレンは余裕の笑みを浮かべる。


「キティル! 準備はできたか?」


 グレンは前を向いて銀のミノタウロスに向こう側にいるキティルを大きな声で呼んだ。振り向く銀色のミノタウロスの後ろで大きな赤い炎が上がるのがグレンに見える彼の表情は緩みにやりと笑った。


「はい!!! いっけーーーーーーーーーーーーー!!!!」


 炎の下でキティルはグレンに返事をして杖を前にだした。グレンに見えた炎は炎の魔人の髪だった。キティルの号令で炎の魔人は駆け出す。


「えっ!? ちょっと!?」


 振り向いたグレンは剣を右肩に担いで走り出す。彼はクローディアの横へ来ると左手を伸ばし鎧の首を縁をつかむとひきずりながら移動した。銀のミノタウロスは目を大きく見開き慌てて体を背後に向けようとしたところで両足に衝撃を受けた。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」


 炎の魔人が体勢を低くして銀のミノタウロスにタックルをした。両腕で銀のミノタウロスの両足を炎の魔人は刈り取るようにして掴んだ。二体の巨人は床に倒れ込み大きな音が響く。

 横に倒れた銀のミノタウロスは体や足を動かし、炎の魔人から逃れようとするが必死にしがみつかれなかなか離れない。銀のミノタウロスは持っていた柄の長い斧を左手で持ち柄の宝石を炎の魔人へとむけた。柄頭に装着された宝石から白い空気が一気に噴き出した。


「うがあああああああああああ!!!」


 宝石の部分から吹き出したのは冷気で炎の魔人を包みこんだ。冷たい空気を浴びせられ炎の魔人は苦しそうに声をあげている。

 

「はっ!」

「うぎゃあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」


 音もなく鋭くどこからともなく飛んで来た白い刀身の大剣エフォールが銀色のミノタウロスの左を貫いた。大剣の刀身は幅が広く、銀のミノタウロスの左手の中央から指先を貫くとえぐり切るようにして吹き飛ばした。驚き声をあげた銀色のミノタウロスの手から支えを失った斧が滑り落ちる。刃の部分が頭へと向かって銀色の落ちミノタウロスの角をぶつかり音を立てる。

 キティルの横に並び右手を前に出した姿勢で立つクレアは口を開く。


「さあ…… あとは頼みましたよ。オリビアちゃん」


 右手腕を伸ばして何とか斧を掴もうとした、銀のミノタウロスだったが諦めて今度は体をなんとか起こして炎の魔人を殴ろうと拳を振り上げた。


「その魔人は仲間の大事な物だ。やめてもらおうか……」


 体を起こした銀のミノタウロスの背後から五メートルほど離れた場所に、メイスを持ったオリビアが静かにたたずんでいる。顔をあげ右足を前にだした彼女は左手を引きメイスの先をミノタウロスへと向けた。


「はあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」


 気合を入れた声をだしてオリビアがメイスを銀のミノタウロスの背中へ向け突き出した。オリビアのメイスの長さは一メートル五十センチほど彼女が射る場所で前に突き出したところで銀のミノタウロスには届かない。


「終わった……」


 すっとメイスを下ろして背中にしまうオリビアだった。キティルはメイスをしまったオリビアを見て激しく動揺する。


「えっ!? オリビアちゃん!? 終わりって…… 何も……」

「ふふふ。大丈夫ですよ。終わりました。完全な勝利です。炎の魔人さんも帰ってもらって大丈夫ですよ」

「クックレアさんまで!?」


 キティルの横に立つクレアが彼女に笑顔を向けうなずいた。わかがわからずさらに動揺するキティルだった。だが、直後……


「ウギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 銀のミノタウロスが両手で胸を押さえて来るそうな声をあげた。そのまま銀のミノタウロスは後ろに倒れた。大きな音がして銀のミノタウロスは腕を広げた姿勢で仰向けに倒れている。

 倒れた銀のミノタウロスが胸から下げていた首飾りについていた青い宝石がいつの間にか砕かれていた。

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