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第165話 海賊の哀れな最後

 宝石から放たれた青い光はすぐに消えた。ジーガーとクローディアは何事かと驚き呆然としていた。ジーガーの額に当たっていた細長い光も同時に消えていた。

 おそるおそる周囲を確認するジーガーだった。周囲に変化はなく扉も開いていない。彼はクローディアに視線を動かして口を開く。


「なんもおこらんね…… なぁ? 終わりか?」

「……」


 黙ってクローディアは宝石を見上げ、ジーガーに反応しなかった。眉間にしわを寄せ彼女を睨んだジーガーは歩き出した。どすどすと音をあげクローディアに向かって来た。


「ちょっちょっと!? 何をしているの? もどりなさい」


 向かって来るジーガーに向かって叫ぶクローディアだったが、今度は彼女の言葉をジーガーが無視していた。クローディアの前に来たジーガーは左手を伸ばす。


「うるさい!!!」

「やめて! いい加減にしなさい!」


 自分を押し倒そうとするジーガーに抵抗するクローディアだった。ジーガーの裏切りに慌てたクローディアは腰にさした剣に手を伸ばした。


「おいは海賊たい! こんな扉を開けるよりもお前を奪う!!」

「なっ!? この下衆野郎!」

「黙れ!!」

「キャッ!!」


 ジーガーはクローディアを殴りつけた。彼女は悲鳴をあげ吹き飛ばされ床に転がる。

 部屋の入口から中を覗く複数の人影がいる。壁の左右に別れ部屋を覗き込む二人の男女の姿が見える。グレンとクレアだ。ジーガーを見てグレンはため息をついた。


「やっぱりあいつ…… 殺しとくべきだったな。余計なことしかしねえ……」

「グレン君…… 二人を制圧して鎧を奪いますよ」

「あぁ。了解っと」


 グレンが剣に手をかけうなずいて返事をした。二人はほぼ同時に駆け出そうとした。


「待て! 見ろ」

「えっ!?」


 オリビアが二人を止め部屋の中を指さした。

 扉の前では倒れたクローディアの上にジーガーが馬乗りになって拳を振り上げていた。その拳に向かって宝石から出た細長い青い光が当たっていた。


「うわあああああ!!!!」

「キャッ!!!」


 青い宝石が強烈に光り出しクローディアとジーガーは目がくらみ顔を手で覆う。光がまたすぐに消えた。ただ、今度は青い宝石がうっすらと光ったまま瞬きだした。


「スーツ着用…… 階級コードHアンドE…… 実験生物…… 下級市民…… 実験体ヲ承認…… 対神獣実験兵器…… ハイパーキラーブループロトタイプヲ起動シマス」


 無機質で機械的な声が部屋に響いた。ジーガーとクローディアは聞いたことない声に驚いた表情をしていた。しかし、部屋の外にいるグレンとクレアとキティルの三人には聞き覚えのある声だった。


「今…… キラーブルーって…… 言いましたよね」

「あぁ……」

「まずいですね」


 キティルとグレンとクレアは室内をジッと見つめ様子をうかがっていた。


「うわああああああああああああ!!!」

「キャッ!!!」


 巨大な金属の扉が勢いよく開いた。開いた扉にぶつかってクローディアとジーガーが吹き飛ばされ床に転がっていく。

 ドーンドーンと足音が響きわずかに床や壁が振動する。開いた扉から大きな銀色の魔物が歩いて出て来た。人型で角の生えた赤い目を光らせ床に転がった二人を照らす。


「なんね…… あれ…… 銀色のミノタウロス……」


 扉から現れたのは銀色のミノタウロスだった。ただ、その体は第七十六階層で見たミノタウロスよりも大きく五メートルはあろうかという巨体だった。ミノタウロスは右手に斧、左手に杖を持ち青い宝石がついたゴールドの鎖の首飾りをつけている。杖は白い金属で出来ており、ドラゴンの鱗のような装飾され先端に赤い丸い石がついている。


「まずいわ!」

「あっ待ちなね!!!!」


 銀のミノタウロスを見てクローディアは立ち上がると一目散に逃げだした。気づいたジーガーが彼女を追いかける。


「対神獣魔法ヘルボルケーノノ使用ヲ許可…… サンプルヲ採取セヨ」

「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!」


 声が響くとミノタウロスは返事をするかのように顔を上げ吠えた。振り返ったクローディアとジーガーの顔が青ざめる。

 ミノタウロスは左手に持った杖を二人に向けていた。ミノタウロスが口を開け吠える。


「ウガアア!!!」

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


 細長い赤い光がミノタウロスが持つ杖の先端から伸びていった。光はあっという間にジーガーの後頭部にぶつかる激しい痛みと熱にさらに頭を叩かれたような衝撃がジーガーを襲い彼は前のめりに倒れる。


「クッ!!!」


 バランスを崩し倒れながらもなんとか顔をあげた、必死の形相でジーガーは右手を伸ばす。彼の右手は一メートルほど先を走るクローディアの足へと向かって行く。駆けるクローディアの左足が曲がった瞬間にジーガーの右手は彼女のふくらはぎの下辺りをつかむ。掴んだ足を彼はいきおいよく引っ張る。


「キャッ!!!」

「逃がすか! おまんはおいのもんやけんな」


 悲鳴をあげ倒れたクローディアだった。ジーガーは倒れた彼女の足に左手をすぐに持って行き、ギュッと掴んで逃がさないようにする。


「はなしなさい!」


 両手をついて体を起こしクローディアはジーガーの手を離そうと必死に彼の顔を蹴った。


「はなせ! えっ…… いや!!!! ぎゃあああああ!!!」


 ジーガーを蹴りつけたクローディアが悲鳴を上げた。彼の顔が徐々に溶け始めたのだ。青かった鎧は熱せられ燃え上がるように赤くなりジーガーの体は溶かしていた。


「ヤメロ! ヤメロオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!! グボオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!」


 ジーガーは溶けていく彼の体と声は崩れていった。直後に後頭部から火が上がりジーガーの体は燃え上がる。炎が広がり体から胸や腰へと向かい両足や両手にも伸びて来る。


「なにこれ…… はっ!? 逃げなきゃ」


 我に返ったクローディアは足を必死に振ってジーガーの手を外し立ち上がった。燃え上がるジーガーを見つめていたミノタウロスの赤い目が強く光った。


「実験生物ノ撃退ヲ確認。実験ヲ第二段階ヘ移行シマス……」


 声が部屋に響くとミノタウロスはジーガーに杖を向けた。青い光が燃え上がるジーガーへと伸びていく。燃え盛る炎の中から鎧が浮き上がって出て来た。


「なんで…… えっ!?」


 出て来た鎧は近くに立っていたクローディアの元へ向かって行った。飛んで来る勝手に変形する鎧を不気味に思った彼女は後ずさりしてすぐに振り向いて逃げ出した。

 しかし、鎧はスピードをあげクローディアに追いついた。


「キャッ!」


 追いついた鎧はクローディアの体に勝手に装着される。いきなり鎧が体に装着されたことに驚いた彼女はバランスを崩し前のめりに倒れた。倒れた彼女に構うことなく残った鎧の部位は変形して装着されていく。


「実験対象ヲ下級市民ヘト移行シマス。対神獣用白兵戦モードノ試験ヲ開始シマス」


 無機質な声が部屋に響き、ミノタウロスはクローディアをジッと見つめるのだった。鎧を装着したクローディアは立ち上がろうと両手をついくのだった。

 部屋の入口でグレン達は中の様子をうかがっている。グレンが鎧をつけたクローディアを見て口を開く。


「クローディアに鎧が…… なんなんだこれ?」

「なんでしょうね…… でも良い機会です」

「うん!?」


 笑顔でクレアは部屋の中を指した。彼女が指した先へグレンが視線を移すと開いた扉が見えた。

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