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第162話 認証が必要です

 錆びた金属が擦れるキーっという甲高い音がして古い扉が開かれた。真っ暗な通路をランタンのわずかな光が照らしていた。クレアが先頭で続いてキティル、最後尾はグレンと順で三人は通路を進む。

 迷宮のように入り組んだ通路を三人は進む。他の階層と違い魔物はおらず、三人が扉を開けてから数時間が静かに過ぎていった。

 三人は大きな空間へと出た。空間は丸みを帯びた高いドーム状の天井をした円形の形をしており、かなり広く直径が五十メートルはある。通路と違い天井が発光して明るい。

 グレン達が部屋に入った出入口は高さ二メートルほどのアーチ状で対面に同じような出入口が見える。おそらく対面の出入口は次のフロアへと向かう通路へと続くのだろう。部屋の左手にははるかに巨大な幅十メートル高さ五メートルの扉が見える。

 慎重に周囲をうかがいながらグレン達は扉の前へとやってきた。


「大きな扉ですね……」


 金属の扉を見上げてつぶやくキティルだった。グレンは扉に触れ軽く押してみたりしていた。クレアは二人を守ろうと周囲を警戒している。

 扉を見ていたキティルが視線を上に向けハッと目を大きく見開いた。彼女は扉の上を指して叫ぶ。


「クレアさん。グレンさん。見てください扉の上!」


 二人がキティルの声に反応して彼女が指した先へ視線を向けるとそこには……


「青い宝石……」


 大きな青い宝石が埋め込まれていた。宝石は扉の上に埃をかぶり近くには大きな蜘蛛の巣が張られていた。


「扉にさっき上で見た鍜治場のマークもあります。間違いないですね」


 クレアとグレンがうなずく。扉には第七十六階層で見た壁の絵と同じ剣と炎の鍜治場のマークが描かれていた。


「じゃあ後はどうやって扉をあけるかだな。鍵がかかっているみたいだぜ…… ほら」

「そうですね…… うーん」


 前に出たグレンは扉を押して開けようとするがビクともしない。腕を組んでクレアはじっと扉を見つめていた。


「はっ!? もしかしたら…… これで」


 キティルは何かに気づいてすぐに自分の服の首元を引っ張って胸の中に手を入れた。彼女はテオドールオオジカから見つけた、古代文明の遺物である銀の短剣を首から下げている。

 銀の短剣を引っ張り出したキティルは二人に声をかける。


「私がこれを使ってみます。二人は下がってもらっていいですか?」


 キティルの言葉にグレンとクレアは従い彼女の後ろへ向かう。キティルは二人と入れ替わるようにして前に出て一人で扉の前に立つと短剣を鞘から抜く。


「どこかに短剣を刺しこむ場所とかは……」

 

 短剣を右手に持ち扉の見つめながらキティルは左右に動いた。何も起きずにキティルは扉の中央へと戻って来た。


「うーん。違うのかなぁ…… えっ!?」


 首をひねりながら右肘を曲げ短剣を見つめるキティルだった。彼女の動きに反応して青い宝石がわずかに光った。直後に細長い青い光が短剣へと伸びていった。短剣に当たった光は刀身をなぞるように動き、キティルの手へと移動した。光に気づいたキティルは動くのを止めた。光は手から腕へ移動し肩、首を通りキティルの額で止まって消えた。


「イラッシャイマセ…… プラティニア家ノオ嬢様。認証キーヲ再度カザシテ要望ヲ選択シテクダサイ」

「えっ!?」


 扉から声が聞こえしゃべり出し驚くキティルだった。彼女はすぐに落ち着き宝石を見上げた。宝石が瞬いているどうやら扉ではなく宝石から声がでているようだ。


「認証キーって…… なに? 短剣でいいのかかな…… 再度って言ってたし…… これしかないか……


 ぶつぶつとつぶやきながらキティルは短剣を宝石に向かってかざす。宝石から細長い青い光が伸びて行き再び短剣へと当たった。短剣を光がなぜるように動くと宝石がまたしゃべりだす。


「照合…… 当センター外…… 訪問理由ヲ選択シテクダサイ」


 宝石から光が伸びていき徐々に幅が広くなった。キティルの胸辺りで光は四角いディスプレイを表示した。


「発注…… 新規開発…… 内部見学……」


 ディスプレイを見てつぶやくキティルだった。ディスプレイには古代文字で発注、開発、内部見学と三つ書かれている。文字をジッと見つめてキティルは少し間考え込んでいた。


「えっと…… これは…… 内部見学でいいのかな…… 見学なら扉開けてくれるよね……」


 小さくうなずいてキティルは左手を前に伸ばす。


「これを触ればいいのかな……」


 左手を光の画面に持って行きキティルは、古代文字で内部見学と書かれた部分に触れた。キティルが触れると内部見学と書かれた白く光った。

 直後に青い光がまた宝石からでキティルの額に当たると二つに分かれ、左右から光は彼女のつま先までなぞるようにして下に動いて消えた。


「認証…… 不可。性能試験中…… スーツガ必要デス」

「スーツ? 何それ?」

「見学者ノ安全義務デス…… スーツヲ着用シ再度選択ヲオ願イタシマス」


 青い宝石から光が消えた。キティルは残念そうに口を開く。


「消えちゃった…… もう一度やっても同じだよね……」


 小さくうなずいたキティルは短剣をしまい振り返る。


「ダメでした」


 振り返りグレンとクレアに申し訳なさそうにするキティルだった。二人はキティルに向かって小さくうなずくと彼女のよこに行き挟むようにして両脇に立った。


「スーツですか。なんでしょうね」

「わかりません…… 安全に着ろって……」

「ふーん…… 着る…… はっ!」


 腕を組んでいたグレンはハッと目を大きく見開いた。彼はスーツに何か心当たりがあるようだ。扉を指してグレンは二人に口を開く。


「なぁ!? こいつの言うスーツってジーガーの鎧じゃねえか?」

「えっ!? でも、グレンの言う通りですよね。帝国がここに送るってことは…… 必要なものってことですから」


 扉が必要と言っているのはジーガーが着ていた青い鎧ではという、グレンの推察に賛同するクレアだった。帝国が青い鎧を強引に砂塵回廊に送ったのも合点がいくのだ。


「じゃっじゃあ、あの青い鎧を持ってくれば良いんですかね……」

「あぁ。ただ…… あの鎧はクローディアが身に着けてたよな」

「そうですね。どうやって…… 鎧を……」


 困った顔をするグレンとクレアだった。青い鎧はクローディアが身に着けており、鍜治場に行くためにはどうにか彼女から鎧を奪うか譲り受ける必要がある。


「どうする? クローディアをとっ捕まえて鎧を奪うか?」

「いや…… 何かしらでアランドロと連絡を取っているはずですからね…… 彼女を襲うのはここを確保してからです」

「何かいい手があるのか?」

「ちょっと待ってください」


 腕を組んで考え込むクレアだった。強引にクローディアから鎧を奪っても、アランドロと連絡を取り合っている彼女に何かあればアランドロが動きだすだろう。


「あまりやりたくはないですが…… 二人ともちょっと!」


 クレアは手招きして二人を呼び耳元で何やらしゃべり出した。二人は彼女の話を真剣な表情で聞く。話が終わるとグレンは複雑な表情でうなずいた。


「まぁ…… それしか手はないか」

「そうですね…… なんかどっちがどっちだがわからないですね」

「しょうがないです。綺麗な仕事ばかりするのが冒険者じゃありませんからね」


 得意げな顔をするクレアにキティルは口を開く。


「いや…… 二人は冒険者じゃなくて冒険者支援課ですよね……」

「そうです。だから私達はもっと汚い仕事をするんですよ…… フフフ」

「まぁそうだな……」

「ははっ」


 キティルの指摘に怪しくほほ笑んで答えるクレアにキティルは苦笑いをするのだった。


「じゃあ、上に戻ってオリビアちゃん達と合流しましょう」

「そうだな」

「はい」


 三人はオリビア達と合流するため第八十二階層を出るのだった。

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