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第159話 牢獄の住み心地

 ゴブリンの死体が転がる広場を超え、グレン達は外で見たのと同じ木製の扉を開けた。扉の先は迷宮の外で先ほどクレアが指して教えてくれた階段へとつながっていた。

 クレアを先頭にして階段を下りていくとまた木製の扉があった。先ほどと違いこちらの扉は新しくしたのか木が輝き扉の上部中央に小さな小窓がついている。クレアが扉をノックした。


「なんだ!?」


 扉の上部にある小窓が開き鉄格子の間から、ひげ面の中年男性が顔をだした。クレアは首から下げた冒険者ギルドの職員証を男性に見せる。


「私達は冒険者ギルド支援課の者です。開けてください」

「うん?! あぁ。あんたらが例のか」


 ガチャンという大きな音がした。クレアの職員証を確認すると彼はゆっくりと扉を開けたのだ。


「入りな…… もてなしは出来ねけどな」


 扉を持って右手の親指で扉の中を指して笑う男性だった。クレアは頭を下げて中へと入り彼女に皆が続く。扉の向こうは木箱や棚に乱雑に書類などが詰め込まれたいた倉庫のような場所だった。

 全員が中に入ると男性は扉を閉めて鍵をかけた。男性は小走りでクレアたちの前にやって来た。


「いやぁ? どうだい砂塵回廊は? 暗くて陰湿な場所だろ? はははっ」

「そっそんなことは」

 

 返答に困るクレアに豪快に笑う中年男性だった。彼は鉄の鎧に身を包み兜をかぶって、身長はグレンより少し低いほどで腰は剣をさし背中には丸い盾を背負っていた。男性は顎と口は長いひげに覆われており目は丸く優しい感じで瞳は赤色をしていた。

 男性はクレアの前に手を差し出した。


「俺は砂塵回廊の守備隊隊長ローレンだ」

「冒険者ギルドのクレアです」

「ここは第二階層の…… まぁ牢獄の事務所みたいなとこだ」


 周囲を見ながら笑うローレンだった。彼は聖騎士であり砂塵回廊の守備を任されている。


「こんなところにもちゃんと守備隊とかいるんだな……」

「グレン君! ごめんなさい。失礼なこと……」

「はははっ。かまわないさ。上をみたやつはみんなそういうよ」


 グレンの言葉に豪快に笑うローレンだった。クレアはグレンを注意し彼は気まずそうに頭をかくのだった。ローレンはクレア達を見渡して真顔になる。


「ただ…… あんたちは下層に行きたいんだろ? 気をつけな」


 声を低くしローレンは視線を下に向けた。少し間を開けてゆっくりとローレンがまたしゃべり出す。


「覚悟を決めたやつしか砂塵回廊は受け入れないからな…… 中途半端な覚悟だと砂に飲まれちまうぜ」


 にっこりと微笑むローレンだった。その笑みはどこか不気味でグレゴリウスは怯えて震えるのだった。


「さぁ。こっちだ」

 

 ローレンは手招きをしてついてくるようにクレア達に指示し歩き出した。棚や箱が並ぶ中を歩くと目の前に扉が見えて来た。ローレンは扉を開けた。扉の向こうは長方形の空間でかなり広く幅は二十メートルほどに長さは二百メートルはあろうかという空間の左右に扉が並んでいる。一番奥には硬く大きな閂がかけられた金属の扉があり両脇に兵士が立って居る。右手の兵士の背後にはハンドルが置かれている。


「ここは守備隊の宿舎だ。囚人たちは入れない。まぁ…… あいつらにここから出ようなんて気力はないだろうがな」


 歩きながらこの場所の説明をするローレンだった。彼はハッと目を見開いて慌てて振り向いた。


「あっと! ここでは静かにな交代制で寝ているみんな寝ているんだ。だから静かにしてくれ」


 静かにしてくれるように口に指を当てる仕草をした、ローレンにクレア達はうなずいて答える。

 ローレンの先導でクレア達は扉の前までやって来た。扉の前までやって来るとローレンは立ち止まり振り返る。


「ここから先は砂塵回廊の牢獄部分となる……」


 扉の向こうが牢獄と聞いてクレアたちはみな緊張した面持ちに変わる。ローレンは彼らを見てにっこりと微笑む。


「なーにそんなに緊張するな。砂塵回廊はここ何年も事件は起きてない。むしろ他の町よりも安全だよ」


ローレンは右手を上げると左脇にいた兵士の一人が閂を外し、右脇に居た兵士は閂が外れるとハンドルを回し始める。ゆっくりと手前に扉が開き同時に扉の裏にある落とし格子が上がっていく。

 扉の向こうは人が行き交うにぎやかな空間となっていた。開いた扉を人々を見たがローレンの姿を見るといつものことなのかすぐに視線を戻した。


「よし! 行くぞ」


 クレア達に声をかけローレンは扉の中へと入っていきクレア達も彼に続く。扉の向こうは天井が高くなった長方形の空間であった。両脇に壁際には屋台が並び壁の中央には奥へ続く通路が見える。一番奥には砂塵回廊の外へと続く木製の扉がある。

 屋台の上は二メートルほど突き出た廊下になっており、壁の端に備え付けられた階段から上がれるようになっており、廊下には扉がいくつも並んでいた。

 右手の壁を指してローレンが口を開く。


「右側通路は食堂街へ続いている。店が並んでるから自由に使ってくれ。並んでいる屋台にはアイテムと魔術用品店だ。そっちも自由に使って良い」


 次にローレンは体を開くようにして左手の壁を指した。


「左の通路の先は囚人の宿舎につながっている。その宿舎の手前には換金所がある。換金って言っても金だけじゃないぞ。下層で見つけたものと刑期とも交換できるんだ…… まぁあんたらには関係ない場所だな」


 少し得意げな顔で話をするローレンだった。囚人たちは投獄されている間は毎日のように砂塵回廊に探索に向かい、発見した遺物などを換金する生活している。交換対象は金だけではなく遺物によっては刑期と交換できる。

 ローレンは体を前に向け正面にある扉を最後に指した。


「あの扉が外へ続く扉だ。手前にあるのは鍜治場兼武器預かり所だ。囚人はここでは武器の携帯は禁止されているから安心しろ」


 振り向いたローレンにグレンが周囲を見ながら答える。


「鍜治場…… 食堂…… アイテム屋に魔術屋もあるのか…… なんか牢獄と言うより町みてえだな」

「間違いじゃない。ここには常時五百人くらい住んでいるが…… 囚人はそのうち六割くらいでな。砂塵回廊目当ての冒険者とそいつらに群がる商人が結構多いんだ」


 得意気に笑うローレンだった。砂塵回廊は牢獄として使われているが遺跡であり、冒険者や彼ら目当ての商人も多く滞在している。この場所は牢獄というより遺跡探査へ向かう拠点しての役割としても機能していた。


「へぇ…… でも囚人たちが万が一暴れたらどうするんだ?」

「それはな…… えっと…… あれを見ろ!」


 グレンの質問にローレンは近くを歩く囚人の女性を指した。彼女は茶色のブーツに黒いズボンを履き、白いシャツを半そでシャツの上から黒色の袖のない上着を羽織っていた。シャツの上には薄く光る青色の十字架が見える。


「彼女の胸に十字架があるだろ?」

「あぁ」

「あれは拘束の呪いだ。囚人の犯した罪によって白、赤、緑、茶、青、黄と呪いの強さが変わっている。もし囚人が君達に危害を加えるなら…… タルパ!!! と叫べばいい」


 囚人には呪いがかけられており、守備隊や一般人が彼らに危害を加えられそうになった際はタルパという言葉をなげかければ良いと言う。囚人がこの言葉を聞くと……


「そうすれば呪いが発動する……」

「うぅ…… 苦しい…… たっ助けて……」

「あああ!!!! すまん!!」

 

 急に歩いていた女性が苦しみうずくまってしまった。慌ててローレンは歩いていた女性の元に駆け寄った。どうやらローレンの声が彼女に聞こえてしまい呪いが発動してしまったようだ。


「すまん。誰か医務室に連れて行ってやれ」


 近くの兵士を呼び対処を依頼するローレンだった。女性は兵士に肩を支えられ連れて行かれた。ローレンは心配そうに彼女を見つめ振り返り咳ばらいをする。


「ウォッホン! 囚人はあぁやって苦しむことになる。無暗やたらに使うなよ」

「わかった」


 苦笑いをしながらグレンはうなずくのだった。ローレンはクレア達を引き連れ再び歩き出そうとしてすぐに振り向く。


「あっ! それと拘束の呪いは空飛ぶ魔法も封印している。もし囚人が砂塵回廊から落ちたら助けてやってくれ…… まぁ面倒なら見捨てても問題はないがな」


 ローレンの言葉に黙って右手を上げて答えるグレンだった。ニコッとほほ笑みローレンは前を向いて歩き出すのだった。


「確か…… 古代の鍜治場を探しているんだろ?」

「そうです」


 歩きながらクレアに尋ねるとクレアは大きくうなずいた。


「よかったな…… 一週間前に来た囚人たちが優秀でな。階層をすでに一つ調査済みにしているんだ」


 ローレンは嬉しそうに話している。砂塵回廊はまだ最下層に到達したものはいない。囚人や冒険者が一階層ずつ調査している。


「確か…… クローディアともう一人はドーガーとか言ったかな…… 今は地下七十六階へ行っているはずだ」


 クレアたちはローレンの口から出たクローディアという名前を聞いて表情が変わった。


「義姉ちゃん…… クローディアが……」

「えぇ。すぐに私達も向かいましょう。ローレンさんお願いします」

「わかった。ついて来な」


 うなずいたローレンはクレア達を町の奥にある扉の前へと連れて行くのだった。


 砂塵回廊の外へと続く扉の前でローレンは立ち止まり、クレアの胸元に職員証を指して口を開く。


「ここから砂塵回廊の外に続いている。出たら職員証を使いな」

「えっ!?」


 驚くクレアにローレンは静かにうなずいた。


「調査済みの階層の扉前に魔導石を打ち込んであるからな。ただし砂塵回廊の外には移動できないように制限されているから気をつけろ」

「わかりました。じゃあ行って来ます」

「おう。気をつけてな」


 頭を下げるクレアにローレンは右手をあげて答える。クレアがいきおい扉を開け外へ出た。彼女に皆が続いて外へ出た。階段で職員証に手を駆けた彼らは一斉に同じことを叫ぶ


「「「「「「第七十六階層」」」」」」


 六人の体は白い光に包まれて消えて行った。

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