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第157話 先を急げ

 近づくアーラを警戒しながら徐々に足が速くなっていくベルナルドだった。息遣い荒くアーラはベルナルドの速さについていく、彼女の目は涙でうるんで光っているように見えて余計に不気味だった……


「はあはあ…… アーラさん! なんで一人で行っちゃうんですか!」

「何か問題がありましたか?」

「そうですよ。はあはあ」


 アーラを追いかけティラミス、クレア、タミーが走って来た。グレゴリウスは聞き覚えのあるクレアの声を聞いて振り返り


「あっ! クレアさーん! 助けてください! その人が!?」

「えっ!? 彼女がなにか?」

「追いかけて来るんです! 気持ち悪い! だから助けてくださーい」


 怯えて泣きそうな顔でアーラを指してグレゴリウスが叫ぶ。グレゴリウスに指をさされ気持ち悪いと言われ、ショックなのか呆然として立ち止まるアーラだった。

 クレアは呆然とするアーラを呆れた顔で見つめてため息をつく。


「はああああ…… まったく…… アーラさん…… なにをしているんですか……」

「ごっごめんなさい……」


 しょんぼりとうつむいて謝罪するアーラだった。クレアはグレゴリウスに向かってアーラを手で指して紹介する。


「この人はアーラさん。冒険者ギルドの人ですよ。怖くないですよ」


 必死にアーラが無害だとアピールするクレアだった。アーラは悲し気にグレゴリウスを見た。


「そうですわ…… わたくしとしたことが…… つい…… 女装する男の子が可愛くて…… はあはあ……」


 息遣いを荒くしジッとグレゴリウスを見ながら、垂れそうになるよだれを手で拭うアーラだった。どうやら彼女は小さい男の子が好きなようだ。ただ、グレゴリウスは見た目が少年なだけで成人した男性なのだが……


「なんか怖い……」

「大丈夫でがんす。ぼっちゃんはあっしが命に代えてでも守るでがんす!!!」


 胸を叩いてベルナルドは怯えるグレゴリウスを安心させるのだった。ベルナルドの肩の上で震えるグレゴリウスをアーラは見て目頭を押さえる。


「うう! あの怯えた顔も良い! それに…… 獣人としゃべってるぅ!!!」

「「アーラさん!!!」」


 顔を上げ満面の笑みをグレゴリウスに向けるアーラだった。タミーとティラミスが同時に叫んで彼女をグレゴリウスから遠ざけるのだった。クレア達の説得でなんとかアーラに危険はないであろうと判断した、ベルナルドとグレゴリウスはオリビア達がいるラウルの建造ドックへと戻るのだった。

 建造ドッグの前でグレンが背伸びをした。彼を見たクレアが手を振って駆け寄って来る。


「グレーンくーん」

「おう。義姉ちゃん! お帰り。ふわあああああ…… あっ!」


 だるそうにクレアに挨拶をして、あくびをしたグレンだったがすぐに何かに気づいてしゃんとした。クレアの後ろからアーラが歩いて来て先ほどの取り乱していた彼女とは違って上品に挨拶をする。


「こんにちは。眠そうですねぇ」

「へへへっ。こんにちは…… アーラさんもいらしてたんですね」

「ふふふ」


 微笑んで通り過ぎていくアーラに後頭部に手を持って行き、恥ずかしそうに挨拶を返すグレンだった。彼の表情はにやけており嬉しさが滲み出ている。愛する弟の自分への態度との違いに気づいた姉は当然の如く不機嫌になっていき、自然と足を上げ弟の足に素早く重ねた。


「いて!」

「何するんだよ!」

「べーーーーーーー!!!」


 足を踏まれて叫ぶグレンに舌を出すクレアだった。クレアは不機嫌に口を尖らせそっぽを向き、グレンは彼女の背中をジッと睨んですぐにほほ笑むのだった。

 クレアは腕を組みながらチラッと横目でアーラを見た。


「まったくさっきのアーラさんの姿を見せてあげたかったです」

「えっ!? なんかあったの?」


 クレアの言葉に食いつくグレンだった。アーラは慌ててグレンの元へと戻ってくる。


「なっなんでもありませんわ。グッグレンさん! はっ早く皆さんを集めてください」

「おう。みんなー。義姉ちゃんが帰って来たぞ」


 ドッグの扉に立ってグレンが皆に声をかけるのだった。

 少ししてドッグの中央に皆が集まった。四つある椅子にキティル、クレア、ティラミス、グレゴリウスが座り他は後ろに立ってラウルとジョシュアは彼らの少し離れた場所に二人でならんで立って居る。


「えっと…… こちらはサンドロックの冒険者ギルドのマスターティラミスさん。そちらはサブマスターのアーラさんと受付のタミーさんです」


 クレアがティラミスたち三人を皆に紹介する。続いてアランドロの要求を伝えた。彼の要求はグレゴリウスの身柄を差し出すこと、差し出さなあい場合はサンドロックを攻撃するものだ。

 話を聞いたグレンがクレアに問いかける。


「グレゴリウスを差し出したらミナリーは返してくれるのか?」

「どうですかね…… 彼の性格なら返さないでしょう。二人を連れ帰って責任を全てミナリーさんへ被せて帝国で処分するってことですかね」


 首をかしげてグレンの質問に答えるクレアだった。彼女の言葉を聞いたグレゴリウスはうつむいて膝に手を置いて拳を強く握った。


「お従姉(ねえ)ちゃん…… ごめん」

「大丈夫だ。グレ…… アランドロは私が許さん…… 必ず倒す。そしてミナリーを救う」

「オッちゃん……」


 しょんぼりとするグレゴリウスの両肩にオリビアが肩を置いて励ます。グレゴリウスはオリビアを見つめ目を輝かせ頬を赤くするのだった。アーラは二人を見て目を手で覆ってにやりと笑うのだった。

 オリビアの横に立つクロースがあきれた顔で咳ばらいをする。


「おほん…… まったくあなたって人はそうやってすぐに……」

「元はついたとはいえ私は勇者だ。困っている人間を助けるのが仕事だ」

「ふふふ。そうでしたわね」


 堂々と胸を叩くオリビアにクロースは微笑み、キティルは嬉しそうにメルダはあきれて笑うのだった。


「それでクレア…… どうする? 帝国を強襲してミナリーを救うか?」

「いえ…… 数が多いですし…… まだ彼女の正確な情報は来てません。砂塵回廊の鍜治場を帝国が狙い集まってます。私達も砂塵回廊に向かいましょう」


 砂塵回廊に向かうという言葉にアーラがうなずいた。


「なるほど帝国より先に鍜治場を押さえるんですね」

「えぇ。そして確保した鍜治場とミナリーさんを交換という交渉を持ち掛けます……」

 

 クレアは帝国より先に砂塵回廊にあるとされる、鍜治場を確保しミナリー解放の交渉に利用するというものだった。首をひねってベルナルドは腕を組んだ。


「うーん。でも、鍜治場を先に見つけたとしてがんすよ。アランドロはそんな交渉に乗って来るでがんすかね? ぼっちゃんを連れ帰るのが目的何でがんすよね?」

「ふふふ…… 大丈夫ですよ。彼はグレゴリウス様の奪還を皇帝陛下の命令とか言ってましたが、ただ単に帝国での立場を上げたいだけです。グレゴリウス様よりも鍜治場の価値があると分かれば興味はそちらに向かうはずです」

「もし…… グレゴリウス様より価値がなかったらどうしますの?」


 ベルナルドとクレアの会話にクロースが入って来て尋ねる。クレアは彼女の疑問にうなずいて答える。


「だから先に確保するんです。何も相手に情報を渡さなければ受け取る必要がでますからね」

「わかった…… 皆クレアの作戦で良いか? 他になければ砂塵回廊へ行こう」

 

 オリビアが尋ねると全員が小さくうなずくのだった。クレアはそれを見てニヤリを笑う。


「もちろん交渉の後…… 彼は排除しますけど…… 砂塵回廊ならちょうどいいですしね……」

「義姉ちゃん……」

「ふふふ」


 背後に立つグレンだけに聞こえる声でつぶやくクレアだった。聞こえたグレンがあきれた反応をすると、クレアは振り向いて優しくほほ笑むのだった。

 オリビアがクレアに顔を向けた。


「じゃあどうやって砂塵回廊に行く? 帝国の砂上船が集まっているんだろ?」

「えぇ。アーラさん。魔導石が砂塵回廊にはあるんですよね?」


 アーラは静かにうなずいた。魔導石はクレアたち冒険者ギルドの職員証を使って、転送できるようになる特殊な魔法道具だ。


「はい。中には転送魔法で入れますが出られないようにされてますけど……」

「じゃあ、オリビアちゃんたちに冒険者ギルドの職員証を渡してください」

「かしこまりました」


 クレアはアーラが答えると視線をオリビアに向けて口を開く。


「砂塵回廊にはオリビアちゃんたちと私とグレン君が向かいます。タミーさん達とベルナルドさん達はラウルさんの船で待機してください。鍜治場を確保したら連絡します」

「わかりました」


 グレンとクレアにオリビア達四人が砂塵回廊に向かい、残った者はラウルの船に乗り待機となる。クレアの言葉にアーラは静かにうなずいた。しかし、一人が手をあげてクレアに口を開く。


「あの! 僕も…… クレアさん…… オリビアと一緒に行く!」

「えっ!? でも」


 グレゴリウスがオリビアと一緒に行くと言い出した。連れて行くのを躊躇するクレアにオリビアが笑顔でうなずいて口を開く。


「大丈夫だ。何があっても私が彼を守る。だから一緒に連れて行ってやってほしい。ダメか?」

「わかりました。行きましょう。アランドロも彼を砂塵回廊に連れて来いって言ってましたしね」


 クレアはオリビアにうなずいた。クレアの答えに二人は見つめあって喜びあうのだった。他の者は喜ぶ二人になごんでいたが、アーラだけは二人を見て少し複雑な顔をしていた。

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