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第155話 二人の伝令

 サンドロックの路地裏。人通りがまったくない場所にクレアは下りた。彼女はすぐに路地を抜け表通りへと出た。

 呪いを解くための材料を買いに行くため、彼女がランドヘルズから飛び立って一日が経っていた。表通りで見つけた魔術屋へ駆け込んだ。クレアは紅魔水晶とニジヤモリの燻製を買ってすぐにランドヘルズへ戻ろうと路地裏へと戻って来た。


「早く戻らないと…… うん!?」


 人の気配がして振り返るクレアだった。彼女視線の先にある路地に帽子をかぶり何かを前に抱えた人影が見えた。


「にゃああ!」

「やあ」

「ナーちゃん!!!!」


 路地裏に現れたのは猫妖精(ケットシー)の子供であるナーを抱えたソーラだった。クレアはソーラを見るとすぐにかけよりナーを愛でるのだった。


「うわーい。ナーちゃんもサンドロックへ来たんですかぁ? 可愛いでちゅねぇ。えらいでちゅねぇ」


 クレアは猫なで声でナーに声をかけ夢中で撫でるんだった。数分後……


「もう…… 僕もいるんだけど…… 話があるのも僕だし……」


 夢中でナーを撫で続け自分を無視する、クレアにソーラは寂しそうな顔で声をかけた。ナーから手をはなしたクレアはいたずらに笑って謝るのだった。


「ごめんなさーい。ソーラさんもサンドロックへ来てたんですね」

「うん。少し前に課長が戻って来てね。君達を助けてやってってさ…… もう人使いが荒い。でも砂海での釣りはたのしいけどね」

「ふふ」


 腕をまくって後ろを振り向くソーラ、彼の背後には猫に囲まれた釣竿と魚籠が置いてあった。クレアはソーラと釣竿を見てほほ笑むのだった。

 前を向いたソーラはクレアに声をかける。


「あっ。あと…… もう急がなくても大丈夫だよ。定期船をオリビアたちが見つけてもうグレンに材料は届いている」

「ほっそうですか」


 オリビアが先に対処したと聞いて安堵の表情を浮かべるクレアだった。ソーラは猫の情報網を使ってオリビアとクレアたちの状況をほぼ把握している。クレアはすぐに顔をソーラに向けた。


「わざわざそれを伝えにですか?」

「ううん。言いたいことがあるんだ主に二つかな」


 右手の人指指と中指を立ててクレアに見せすぐに下してソーラは口を開いた。


「まず…… 帝国は砂塵回廊の周囲に購入した砂上船を集結させている。昨日…… 君達がテオドールで捕まえたクローディアが収監されたみたいだね」

「そうですか…… クローディアさんを…… やはり鍜治場を探して確保しようと……」

「うん…… クローディアさんに鍜治場を探させるみたいだね…… 見つけたら占領しようという魂胆だろう」


 心配そうにするクレア、うなずいたソーラは話を続ける。


「集合した砂上船にミナリーは居ると思うけど正確な場所はまだわからない。帝国には猫好きが少ないみたいななかなか重要な情報を教えてくれなくてさ。だいたい皆猫には気を許してペラペラしゃべるのに……」

「そうですねぇ。帝国は気まぐれな猫より忠実な犬が好まれますからね」

「なるほど…… ありがとう」


 ニコッと怪しくほほ笑み礼を言ったソーラはまたすぐに口を開く。


「あともう一つはすぐにサンドロックの冒険者ギルドに行ったほうがいい…… アランドロが君を待っててティラミスたちが困っているみたいだよ」

「えっ!? わかりました。ありがとうございます」


 アランドロが冒険者ギルドを訪れていると聞いた。クレアは驚いた様子で、すぐに冒険者ギルドに向かおうと教えてくれたソーラに頭を下げた。


「きっと捕まえたミナリーとグレゴリウスを交換しようと言って来るはずだよ」

「そうですよね…… じゃあちょっと行って来ますね」

「あぁ。頼んだよ…… あとこっちで調べておくことは?」


 ソーラの質問にクレアは右手の人指し指を立て顎にあて少し考えてから答える。


「うーん…… そうですねぇ。砂塵回廊の現状ですかね。あまりテオドールでは噂は聞かないので」

「わかった…… じゃあ後でランドヘルズへ持って行くね」

「お願いしまーす。じゃあねナーちゃん」

「ナー」


 クレアは名残惜しそうにナーを撫でてから路地裏から立ち去った。ソーラはナーを抱えたまま彼女の背中を見送っていた。真顔でクレアが見えなくなるを見つめるソーラに向かってナーが静かに顔を向けた。


「ナー」

「大丈夫だよ。あの二人に任せておけば…… さぁ。僕たちは砂海での釣りを満喫しよう」

「ナーナー! ナーナー!!」

「えっ!? 昨日は君のせいだろう。暴れるから逃げちゃったんじゃないか!!!」


 不満そうにナーが鳴くとソーラが驚くのだった。前日の砂海での釣りについてナーから何か言われたようだ。ソーラはナーと言い争いながらクレアに背を向け路地裏から静かに消えていくのだった。

 サウンドロックの冒険者ギルドに到着したクレアは扉を開いて中に入った。直後に酒場の奥のギルドから怒鳴り声た聞こえた。サンドロックの冒険者ギルドは扉を入ってすぐは酒場で、奥が冒険者ギルドという構造になっている。


「なぁ!? だから言うてるやろ? クレアに会いたいんだって!!!」

「かしこまりました。職員の安全のためまずは冒険者の指輪をお見せてください」

「だからんなもん持ってない!!!」


 怒鳴るアランドロの声に淡々とした冷静なアーラの言葉が聞こえてくる。クレアは急いで酒場を通って冒険者ギルドへと向かう。


「では…… 冒険者登録がない方はこちらに必要事項を記入してください」

「あぁ! もうええ!!!」


 アーラは淡々と書類を見せて記入するように促す。怒鳴ったアランドロはアーラから書類を奪って破り捨てている。何度か同じやり取りをしているのかカウンターの上や床に書類の切れ端が落ちている。カウンターの向こうには他の受付嬢が怯えた様子で二人を見ている。さらにギルドの長として呼ばれたであろうティラミスも受付嬢であるタミーの背中に隠れて様子をうかがっていた。

 酒場を抜けたクレアがカウンターを見てすぐに駆け寄ってきた。


「アーラさん!」

「おぉ! クレア!! えぇ!? おい!!!!!」


 クレアの声を聞いたアランドロが振り向いて笑顔で両手を広げるが、彼の脇をすっと通り抜けてカウンターの中へと入っていった。振り向いたアランドロはクレアを睨みつける。


「何があったんですか?」

「えぇ。いつものことですわ。こちらの殿方があなたに会いたいというので…… でも、大丈夫ですわ。冒険者でない方はアポイントが必要と説明いたしましたから」

「あぁ。そうなんですね。ありがとうございます」


 カウンター内でアーラとクレアは事務的な会話をしている。顔上げたクレアとアーラはアランドロを見て小さく首を横に振った。

 アランドロは二人の態度に眉間にシワを寄せカウンターを叩いてまた怒鳴る。


「おい! 無視すんなや!! クレア! お前に用事があんねん。とっととこっちへ来い」

「声は聞こえているのでそこで話ししてください」

「んだと!? じゃあそっちに行ったらぁ!!」

「待ってください!」


 カウンター内に向かおうとするアランドロに、クレアは左手で停止の合図をすると同時に右手を背中の大剣に持っていき牽制した。彼女の動作にアランドロは歩くのを止めた。クレアは穏やかな口調で彼に口を開く。


「許可なくカウンターに入らないでくださいね。また斬られたいなら別ですけど……」

「クソが!!」

「では、クレアの指示通りにそちらでお話を始めてください」


 悔しそうにするアランドロに右手を差し出ししゃべるように促すアーラだった。咳ばらいをしたアランドロはさきほどまで怒鳴っていた時とは違い落ち着いた様子で口調を変え話を始めた。


「ゴホン! 皇子誘拐犯であるミナリーがそちらの冒険者ギルドに所属しているな?」

「誘拐犯? なんのことですか?」

「黙れ! 帝国からグレゴリウス皇子を連れ出した誘拐犯だ」


 首をかしげるクレアにアランドロは激しい口調で言い返す。クレアは首を横に振って彼に答える。


「残念ですけど…… ノウレッジ大陸では他国での罪は裁かれません。それがここのルールですからね」

「どうでもいい。ミナリーは逮捕したがグレゴリウス皇子の行方がわからない。我が帝国第三統合軍はグレゴリウス皇子の引き渡しをサンドロック冒険者ギルドへ要求する」

「申し訳ありませんが…… グレゴリウス皇子様は冒険者ではないみたいなので私達は彼がどこにいるかなんかわかりませんよ」

「とぼけるな! あなた達がグレゴリウス皇子を匿っているのはわかっている。彼は我が帝国において皇位継承権を持つ重要人物であり、私は皇帝陛下の命を受け彼を即座に帰国させる義務を負っている!」


 アランドロの口調が強くなり周囲を脅すように声が大きくなっていく。クレアとアーラは真顔で彼の話を聞いていた。


「グレゴリウス皇子の引き渡しを拒否するなら帝国第三統合軍はサンドロックへの無差別攻撃を開始する」

「なっなんで!? そんな……」


 カウンターの奥でタミーの背中に隠れていた、ティラミスがアランドロの言葉に反応した。彼はうっすらと笑みを浮かべながらティラミスを見つめ答える。


「当たり前だ。誘拐犯のミナリーは冒険者だ。グレゴリウス様の引き渡しに協力しないなら冒険者ギルドが皇子誘拐への関与をしているとみなす…… それだけだ!!!」


 ティラミスを指さして怒鳴るアランドロ、彼女は怖かったのかすぐにタミーの背中にまた隠れた。アーラは冷たく彼を見つめていた。


「ノウレッジでの武力行為で帝国は全世界を敵に回すことになりますが? よろしいのですか」

「ふん。帝国の皇子を誘拐し匿ったのはそちらであろう」


 帝国と世界が戦争になるという、アーラの脅しにアランドロは動じることはなく鼻で笑う。青ざめると周囲の人たち、アーラとクレアの二人は動じる様子もなく真顔だった。周囲を見て満足そうに笑みを浮かべアランドロは話を続ける。


「まぁ、本当にグレゴリウス皇子の行方が分からないなら…… 探せ! 猶予は一ヶ月だ。期限を過ぎたら即座に攻撃する。以上だ」


 右手をあげたアランドロは振り向いて背中を向け去って行った。


「おっと! 忘れたてたわ! グレゴリウス皇子を見つけたら砂塵回廊へ連れて来い」


 途中で足を止めてアランドロが振り返って叫んだ。扉が閉じる音が聞こえるとクレアがすぐにアーラに頭をさげた。


「ふぅ…… ごめんなさい」

「いえ。クレア様のせいではありません。でも状況は悪いみたいですね…… とりあえずお話をお伺いしたいので奥へ行きましょう」

「はい」


 クレアがうなずいて答える。二人は連れ立ってカウンターの扉へと向かうのだった。

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