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第154話 よき仲間たち

 オリビアの首へとスフィアの右足が伸びて来る。鋭い空気を切り裂く音がオリビアの耳にも届く。反応できないオリビアに勝利を確信したのかスフィアの顔は自然とほころんだ……


「なっ!? なぜ…… 先ほどは私の動きに…… クッ!」


 すっとオリビアの左手が上がりいとも簡単にスフィアの足を受け止めた。スフィアが足を抜こうとするががっしりと掴まれて外れない。青ざめ慌てた顔をするスフィアにオリビアは笑う。


「はははっ。勇者を舐めてもらって困る。私の特殊能力はちょっと特殊でね……」


 左手を上にあげながら嬉しそうに話すオリビアだった。強引に足を上げられたスフィアは必死にバランスを取って倒れないように必死に耐えており、わずかだがオリビアの手に握られた足が震えている。

 

「キャッ!」


 オリビアはニヤリと笑いながら自分の胸の高さの辺りまで左手を下ろした。上げられた足を急に下ろされスフィアはまた必死にバランスを取るのだった。

 必死なスフィアに笑いをこらえるように震えながらオリヴィアは口を開く。


「君の作戦は正しかったよ。ただ…… 一つだけの大きな間違いを犯した」

「間違いですって!?」

「あぁ。君がクロースの足止めを許したことだよ。クロースの相手をせずに全力で私を倒すべきだった。それで私に食事の機会を与えてしまったからね」

「なっなんで…… 空腹を克服した程度でわたくしに……」


 にやりと笑ったオリビアはスフィアの足を掴む手をギュッと強く握る。足をつぶされる痛みでスフィアの顔が苦痛に歪む。オリビアは握ってつぶれていくスフィアの足にさらに力を込めていく。銀色の彼女の足がつぶれヒビが入っていく。


「私は空腹時に食べた時…… 能力の上がり幅は百倍になるんだ。つまり…… さっきより私は百倍強い!!!!」

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 グシャバキバキという音が嫌な響く、スフィアの銀色の右足はオリビアの左手でいとも簡単に握りつぶされ砕かれた。

 つぶされたスフィアの右足はちぎれて彼女はグレンの左手から解放された。叫び声をあげながらスフィアは背中から甲板へと倒れた。


「即断即決即死…… かつての仲間が教えてくれた教訓だ。敵を前にしてためらいや余裕は死を招く。決めたら最後までだ!!!」


 オリビアはメイスを振り上げた。彼女の視線はスフィアの頭を狙う。気づいたスフィアは逃げようとするが、砕かれた足ではうまく立ち上がれない。体を横に向け這うように逃げようとするスフィアだった。

 メイスが振り下ろされようとする直前、パチンと言う音がした。スフィアが右手を鳴らしたのだ。オリビアの動きが止まった彼女は顔をしかめ左手をメイスから離して腹を押さえた。


「はあはあ…… これでしばらくは動けないはず……」


 這うようにしていたスフィアは浮かび上がり飛んで逃げる。彼女は人を空腹にさせるサンダーハングリーをオリビアにはなったのだ。

 帝国の砂上船まで来たスフィアはニヤリと笑って振り返る。

 

「なにが余裕は死を招くよ! あんたこそ何も学んで…… えっ!? ぐはああああああああああああああああああああああ!!!」


 振り返ろったスフィアの前の前にオリビアのメイスが来ていた。とっさにかわそうと横を向いた彼女の顔面にメイスがめり込んでいく。スフィアは横から殴られたようにして吹き飛んでいった。飛ばれされたスフィアはマストに激突し砂上船の甲板へと落ちていった。

 定期船の甲板の上では右手を前に突き出した姿勢のオリビアが立って居た。彼女は頬がもごもごと動き顔をしかめていた。オリビアの左手には革袋が握られている。


「まずい…… キティルめぇ。こんなものを…… まぁいい。味は関係ない……」


 舌を出して苦い顔をするオリビアだった。彼女の出した舌には黒い丸薬のような丸い球が乗っている。


「あれは……」


 オリビアの舌に乗った黒い丸薬にクロースが気づいた。彼女の横に居たキティルが得意げな顔をする。


魔力丸(まりょくがん)です。魔法使いの携帯食ですよ。蝙蝠の干し肉やイモリの干した内蔵や発酵させた青魚とかをニガニガ草の液でまとめて芋虫の皮で包んだ食べ物です。一つ食べればすぐに体力と魔力を回復してくれます」

「そうなんですね…… でも、なんともあまり……」


 話を聞いたクロースが顔をしかめた。キティルはなぜか嬉しそうにうなずく。


「えぇ。かなりまずいですよ! あれを食べるくらいなら土を食った方がましと魔法学校で言われてました」

「ですわよね……」

「食べてみます? まだありますよ。あっ! そうだ! これ確かポーションの回復効果も高めるんでした! ぜひ!」


 帽子を外したキティルは中から、魔力丸の革袋を取り出してクロースに差し出した。


「いや…… 遠慮しておきますわ」


 右手を丁寧に横に振って断るクロースだった。彼女の後ろから人影が忍び寄る。


「あらあ!? せっかくキティルが進めているのに! 遠慮なんかしないでよ」

「メッメルダ!? おやめなさい」

「わがままはダメよ。ポーションの効果を高めるんだから!」

「いいですわ。わたくしはもう平気ですわ!」


 背後からメルダがクロースを押さえつけた。キティルはにっこりと微笑み魔力丸をつまんだ取り出した。必死に抵抗するクロースだったがスフィアとの戦闘で体力が低下しておりメルダの拘束から逃れられない。


「はい。あーん」

「うっが! あーー」


 クロースの顎をつかみメルダが強引に口を開けさせた。直後にキティルがつまんだ魔力丸を彼女の口に放り込んだ。口にした瞬間にクロースの顔は青ざめて両肩が上がる。

 メルダはクロースの様子を見てニヤニヤと笑っていた。


「こっちにも」

「えっ!? パク!!」


 革袋から素早くもう一つの魔力丸を取り出し、メルダの口に向かって投げたキティルだった。魔力丸は吸い込まれるようにしてメルダの口へ落ちていった。

 その後……

 

「「ウゲエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」


 口を押えて苦しみだす二人だった。魔力丸は材料から恐ろしく苦く、また若い魔法使いが作り安いように安価な材料でできているため舌触りや臭いも悪い。

 顔を上にあげてメルダが叫ぶ!


「まっまずーーーーーーい!!! ゴッホ! なっなんで私にも食べさせるのよ!」

「だってメルダだけこれの味を知らないと仲間外れになっちゃうから……」

「そんな余計な優しさを向けなくていいわよ!!」

「えへへ」


 キティルに文句をいうメルダだった。キティルは笑って答えるが眉間にシを寄せてメルダが怒るのだった。


「あーあ…… 何やってんだが…… 私の仲間は…… やれやれ」


 三人を見てオリビアはあきれて笑っている。ただその笑顔は心底うれしそうに輝いていた。


「さて…… おーい。早く船倉へ戻るぞ! さっさと紅魔水晶とニジヤモリの燻製を見つけてベルナルドを助けけるんだからな」


 オリビアが三人に向かって叫ぶ。キティル達は彼女の言葉にうなずいた。四人は急いで定期船の船倉へと向かうのだった。キティル達は船倉で無事に紅魔水晶とニジヤモリの燻製を手に入れた。

 甲板の上でオリビアが首をかしげている。

 

「さて…… おい? クロースどうしたんだ?」

「ちょっと……」


 甲板に散らばった砕かれた銀色のスフィアの足を拾っていた。

 メルダとキティルは手に入れた材料を持って急いでランドヘルズへと戻っていった。クロースとオリビアは聖騎士に引き渡すため生きている帝国兵とスフィアを拘束し残っていた。


「持って帰って調べてもらおうかと思いましてね」

「そうか…… あいつら銀細工って言ってな……」

「えぇ……」


 クロースは拾ったスフィアの足の破片をハンカチに包み不安そうに見つめるのだった。

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