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第153話 戻って来た勇者

 倉庫から廊下へ出て階段を駆け上がり、キティルとオリビアが砂上船の甲板へ急いでいた。

 甲板の上ではクロースとメルダがスフィアと戦闘をしていた。


「はあああああああああああ!!!」


 弓を構えたメルダが空を飛んで横に移動しながら連続で矢を放つ。放たれた三本の矢は正確にスフィアに捉え一直線に飛んで行く。


「ふふふ。あなた程度の矢は当たりません」


 笑いながらふわふわと浮かぶ、スフィアがいきなり速度を素早く移動していく。矢は彼女の横を静かに通過していく。悔しそうな顔をしたメルダの口元が緩む。

 

「別に必死に当てようとなんて考えてないしね……」


 静かにつぶやくメルダだった。スフィアの背後から白い影が高速で移動して近づいていた。


「えっ!?」


 クロースが目を大きく見開いた。スフィアの背後から近づいていたのはクロースで、彼女はハルバードで背後から斬りかかった。しかし、スフィアは振り向くと足を上げ、斜め上から向かって来ていたクロースのハルバードへ向けている。透ける黒のストッキングに包まれた色香を漂わすスラリと伸びたスフィアの足が、巨大なハルバードをいとも簡単に受け止めていた。

 足を大きく上げた姿勢のスフィア。彼女が履いているスリットの入ったスカートが風にはためき、彼女が履く透けた濃いピンク色の下着がストッキング越しにさらされている。


「良い反応でしたわね。でも……」

 

 ハルバードが青白い光が長いクロースの髪が何本か浮かび上がり彼女の周囲から、パチパチという音がして短い閃光がいくつも走った。直後に大きな音がしてハルバードに稲妻が走り、激しい青白い光を纏った稲妻がスフィアへと向かって行く。


「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


 強烈な青白い光が瞬いた後に激しい音が響いた。直後に悲鳴のような声が聞こえた。

 甲板にハルバードが落下し、体を反りながらクロースが吹き飛ばされた。放物線を描いて彼女は甲板へと落下していく。


「わっわたくしが雷で負けた…… そんな!?」

「ふふふ。特殊能力ごときでは止められませんよ」


 落下しながら驚いた顔をするクロースをスフィアは上から見下ろして笑っている。彼女が上げた足が青白く光りバチバチと音を立ていた。クロースが放った稲妻をスフィアは稲妻で打ち返し負かしたのだ。


「クッ!!!」


 甲板に落下していたクロースだったがなんとか姿勢を直し着地した。しかし、すぐに膝をついてしまった。スフィアが出した稲妻が彼女を凌駕しダメージを負ってしまったようだ。


「クロース!」


 甲板へと飛び出してきたオリビアが叫んですぐにクロースに駆け寄る。膝をついた彼女の肩を抱いてオリビアが支え声をかける。


「大丈夫か?」

「えぇ。油断するなとか言っておいて…… わたくしもダメでしたわね」

「ははっ。もう大丈夫だ。後は任せておけ」


 クロースはオリビアに向かって微笑んでうなずき自分の足で立ち上がる。オリビアは立ち上がるクロースの肩から手を離し振り向いた。


「キティル! クロースの治療を頼む」

「はい!」

「メルダ! 君も下がって良い…… あとは任せろ」

「はいはい。頼んだわよ」


 オリビアはうなずいて前へと歩き出した。彼女の指示に受けクロースの元へと駆け寄るキティルだった。オリビアに適当に返事したメルダは甲板に下りて来て二人の元へと向かってきた。

 歩きながらオリビアは静かに背負っていたメイスを引き抜く。スフィアは静かに甲板へと下り来てオリビアの前に立つ。


「なんだ!? 下りて来てくれるとはな」

「あなたが飛べないことくらい知っておりますよ。ふふふ」


 勝ち誇ったように笑うスフィアに、オリビアは真顔でメイスを構え膝をまげて腰を落とした。


「わざわざ殴られに下りて来るなんてとんだ馬鹿だな!!!」


 スフィアに向かって笑って叫んだオリビアは駆け出し一気に距離を詰めた。横からメイスをスフィアに叩きつける。スフィアは視線を横に動かすろ左足を引いて体を斜めにすると太ももを振り上げ膝を曲げた。

 大きな音が響くオリビアのメイスはスフィアの銀色の足で防がれた。手に大きな衝撃が走り顔をしかめるオリビアだった。


「くぅ!」 

「ふふふ」


 膝を伸ばしてオリビアを突き飛ばすスフィアだった。オリビアは押されるようになり、メイスを引いて後ずさりする。彼女を見て不敵に笑うスフィアだった。


「どこまで笑っていられるかな!」

「ふふふ」


 なんとか踏ん張って体勢を整えたオリビアはメイスを構えスフィアとの距離を再び詰めるのだった。

 オリビアはメイスでスフィアは足で互いに攻防を繰り広げた。ただ、攻撃を繰り出す回数はオリビアの方が少なくわずかにスフィアが押しているように見えた。

 二人から少し離れたところで、キティルとメルダとクロースの三人は戦いを見つめていた。


「オリビアちゃんが負けてる……」

「そう見えるの? まだまだね。キティルは」

「えぇ!?」

「そうですわ…… まったくまた油断して……」


 クロースとメルダはオリビアの戦いにあきれた顔をする。キティルがよくわからず首をかしげていた。


「おおっと!!」

 

 オリビアが体の前で水平にメイスを持った。前から鋭くスフィアの右足が伸びて来て彼女のメイスに命中する。大きな音がしてオリビアの体は強烈な蹴りで押され、彼女の体は後ろに引きずられるようにして下がっていく。


「ふぅ」


 なんとか踏ん張って耐えたオリビアがメイスを下ろして一息ついた。彼女の二メートルほど先で右足を突き出した姿勢でスフィアが立って居る。スフィアはオリビアを見ながらゆっくりと足を下ろした。

 大きくオリビアの肩が上下に動く。


「はあはあ…… さすがにまずいかな…… おっと!!!」


 オリビアが両手に持ったメイスを上にあげる。顔をあげたオリビアの前にはスフィアが立っており足を大きく振り上げていた。スフィアはオリビアの頭を狙ってかかとを振り下ろした。

 間一髪でオリビアのメイスが間に合い、スフィアの足を受け止めた。


「クソ!」


 甲板に音が響いて上から全身にかけてオリビアに衝撃が走った。しょうげきにより彼女がたつ甲板がわずかにたわんですぐに元に戻る。足を受け止めたオリビアを見下ろしながら微笑むスフィアだった。


「ふふふ。特殊能力だけでわたくしに勝てませんわよ」

「あぁ! そうだ…… なっ!!!」


 両手に力を込め腕をあげオリビアはメイスでスフィアの足を押し返した。バランスを崩して後ずさりして踏ん張って体勢を戻すスフィアだった。オリビアは追撃せずにメイスの柄を地面につけ体を支えて息を整える。


「はぁはぁ…… きついなぁ……」


 つぶやくオリビアにスフィアはにっこりと微笑んでいる。彼女の笑顔には余裕が溢れていた。視線を下に向けたオリビアはスフィアの銀色の足を見ながら口を開く。


「君のその足が魔力や力を高めているようだな…… 特殊能力みたいな物か?」

「違います。銀細工ですよ…… 古代文明の!」

「なに!? しまっ!!!」


 目を見開き驚き顔を青くするオリビアだった。スフィアが彼女との距離を詰めて来たのだ。不意を突かれたオリビアは反応できずに動けない。スフィアは優しくほほ笑み足を上げ横から蹴りを繰り出す。


「終わりですわ」


 勝ち誇ったようにスフィアが口を開く。右側からスフィアの足がオリビアの首を目掛けて鋭く飛んでくる。驚愕の表情で固まっていたオリビアの口もとがわずかに緩むのだった。

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