表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

152/210

第152話 勇者は冒険者失格であります

「さすが勇者ですね」


 帝国の砂上船のマストの上に左手に光の弓を握った、スフィアが浮かんで微笑んでいた。彼女はマストから一歩踏み出すとスーッと甲板の上へと下りて来た。甲板の十五センチほど上でスフィアが止まった。

 彼女を見たオリビアは首を傾げて尋ねる。


「君は誰だい?」

「私はスフィア…… ロック様よりここをお預かりしている者ですわ」

「ロック…… ミナリーをさらった男か。ちょうどいい」


 両手に力を込めメイスを握りしめオリビアは笑った。彼女を見たスフィアは優しくほほ笑んだ。スフィアの手からすっと光の弓が消える。


「ふふ。あなたは…… 元勇者のオリビア様ですね……」

「いや。残念だが辞めたつもりはない…… 今も一応勇者だ」


 首を横に振って笑ってメイスを構えるオリビアは駆け出す。船のヘリから飛んでスフィアとの距離を詰めようと考えているようだ。


「ふふふふふ」


 走り出したオリビアを見た、スフィアは微笑んで静かに右手をあげパチンと鳴らした。


「うっ…… うううう…… 腹が……」


 走っていたオリビアが膝をつき腹を押さえてうずくまってしまった。にやりと笑ったスフィアは持っていた光の弓を構える。スフィアが右手をあげると光の矢が現れた。彼女は矢をつがえてオリビアを狙う。

 

「では…… 終わりですね」


 スフィアが矢を放った。一直線にオリビアに向かって光を矢が飛んで行く。


「はああああああああああああああああああ!!!!」


 キティルがオリビアに左手を向けた。地面から炎の壁が沸き上がり、オリビアとスフィアの間を塞いだ。光の矢は炎に巻かれて防がれた。


「ファイアウォール…… ふふふ。やりますね。良い魔法使いですわ」


 真っ赤に燃え盛る炎の壁を見てスフィアは微笑むのだった。


「クソ…… 腹が…… 腹がアアアアアアア……」

「オリビアちゃん!? お腹が!? どっどうしたの!?」


 キティルはすぐにオリビアに駆け寄った。うずくまって苦しそうに叫ぶオリビアに彼女の背中をさすりキティルは必死に声をかける……


「腹が…… 減った!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「えぇ!? えぇぇぇぇ!?」


 うずくまっていたオリビアが立ち上がり顔をあげ大声で叫んだ。キティルは彼女の言葉に呆然と見つめるしかできなかった。ただ…… これは彼女たちが窮地に陥っていることを示していた。

 

「とりゃあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」


 声がして振り向くキティル、彼女が出した炎の壁に光が横に走った。直後にファイアウォールは切り裂かれ左足を軸にして右足を蹴り上げた姿勢のスフィアが見えてきた。切り裂かれたファイアウォールは消えていスフィアはゆっくりと右足を下ろした。

 顔をあげてスフィアを見たオリビアが顔を青くする。スフィアの左右の足のくるぶしから下が銀色の変わっていた。オリビアは立ってキティルをスフィアから遠ざけようと必死に肩を押しながら叫ぶ。


「まずい…… キティル! 君だけでも逃げろ!」

「どうしたのオリビアちゃん!!! 置いていけない! やだよ!」

「ダメだ…… 私はもう」


 オリビアはキティルだけでも逃がそうと必死に彼女を押す。だが、力が入らないのか押されたキティルは容易に踏ん張り動かない。

 二人を見たスフィアは静かにほほ笑み右手に再び矢を出した。


「ふふふ…… では終わりにしましょうか…… 何!!!」


 弓を構えようとしたスフィアが青白い光に照らされた。上空から激しい音をなびかせ稲妻が落ちて来た。間一髪のところで後ろに移動してスフィアは稲妻を避けた。しかし、後ろに移動したスフィアにさらに二本の矢が飛んでくる。


「この!」


 スフィアは矢に反応し体を横にすると左足で上げた。二本の矢は左足によって薙ぎ払われ力なく地面へと落ちて行った。


「まったく…… 油断しすぎですわよ!」

「本当よ。勇者のくせに」

「すまん! 助かったよ」


 空からハルバードを持ったクロースと弓を持った、メルダが下りて来てオリビアとキティルの前に立った。クロースは腹を押さえるオリビアを見て小さく首を横に振った。


「サンダーハングリーですわね。彼女にこれが有効なのを知っているとは……」

「あれって…… 確かただ人を空腹にするだけの魔法だよね」


 スフィアが使った魔法はサンダーハングリーという魔法で人を空腹にする魔法である。元々はとある部族が空腹による狂暴性を利用し部族間での抗争時に戦意向上させるために使ってた魔法だ。今ではそのような用途はなくなり、主に毒などを誤って食べてしまった時の解毒魔法として使われている。


「えぇ…… オリビアは空腹になると力が落ちていくのですわ」

「そうなの!?」

「そういえば伝えてなかったな…… すまん」


 キティルはハッと目を見開いてオリビアを見た。気まずそうにオリビアが頭を下げていた。オリビアの特殊能力は食べて能力アップ(レベルイーター)で食べれば食べるほど強くなるが空腹になると力は落ちてしまうのだ。

 クロースは両手にハルバードを構えてスフィアを見ながら口を開く。


「キティルさん…… ここはわたくしとメルダに任せてオリビアに何か食べさせてください。空腹は彼女の唯一の弱点ですからね」

「わかった。行くよ。オリビアちゃん」

「すっすまない……」


 この場をメルダとクロースに任せキティルはオリビアを支えて定期船の船室へと向かうのだった。船室に入った二人は船底へと向かう。定期船は食料や日用品などを運んでおり、それらが船底の倉庫にあるはずだ。

 二人は倉庫を開けて中へ入った。倉庫の中には木箱に入ったリンゴや果物、さらに干し肉がつまった箱などが置かれている。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」


 部屋に入るなり声をあげオリビアは果物が入った木箱へと突撃していった。


「オリビアちゃん!? まぁいいか……」


 木箱を開け中からグレートワインダーオレンジを両手につかんで頬張るオリビアだった。オリビアを見てキティルは微笑んでいた。しかし……


「うっうぐ!」

「あぁ! 大変お水! お水!」


 喉にオレンジを詰まらせて苦しむオリビアだった。慌ててキティルは持っていた水筒をオリビアに渡すのだった。


「ふぅ…… ありがとう」


 キティルから渡された水筒から口を離して彼女に差し出して微笑むオリビアだった。水筒をキティルが受け取るとオリビアはまた果物を食べ始めた。キティルは水筒を持ったまま寂しそうにオレンジを頬張るオリビアを見つめている。


「なっなんで…… オリビアちゃんの弱点を教えてくれなかったの? メルダは最初から知ってたみたいだけど……」

「えっ!? えっえっと…… メルダは昔からの知り合いだし…… 今の私は君を守る立場……」


 声を震わせ寂しそうに尋ねるキティル、手を止め果物の果汁で汚れた口を拭いながらやや気まずそうに話すオリビアだった。彼女の言葉にキティルは悲し気に答える。


「違う…… 仲間よ。それに今回はあなたが弱点を教えてくれれば私はすぐに食べ物を渡してスフィアと戦えた! 違う?」

「うぅ……」


 自身が頼られていないことが悲しいと訴えるような、キティルの言葉に答えられないオリビアだった。うつむくオリビアにキティルは優しくそして強い意志を持った言葉をかける。


「冒険者は過去の実績も罪は問われない。あなたは他の大陸では勇者かも知れないけど…… ここでは私の名仲間オリビアよ。今のあなたは冒険者としては最低よ!」

「うっ!? そっそうだな。すまん……」

「私達は命を預け合う仲間なんだから! これからは何でも言って私にも頼って…… お願い……」

「わかった。そうするよ」


 オリビアの言葉にキティルの表情は明るくなった。


「うん。ありがとう。私ももっと頑張るからね」

「あぁ…… 頼むな」


 握手をしようとオリビアは手を差し出した。キティルも手を出そうと……

 

「待って! 手を拭いてから! べとべとになるでしょ! もう」

「あぁ。すまん……」


 オリビアの手を見たキティルは怒って彼女に注意してすぐにハンカチを渡した。オリビアは申し訳なさげに手を拭くのだった。手を拭くオリビアを見たキティルはハッと何かを思い出した。彼女はかぶっていた帽子を外して手を突っ込んだ。彼女が被っている帽子はクレアの鞄のように物を収納できるようになっている。

 鞄の中から小さな革袋を出してオリビアに差し出した。


「後! これを渡しておくね!」

「なんだこれ?」

「緊急用の食糧だよ。次、同じことがあったらこれを食べて!」

「おぉ! 食べ物か! わかった。ありがとう」


 食糧だと聞いたオリビアは嬉しそうに笑って、革袋をいきなり開けようとした。キティルは慌てて彼女に注意する。


「だから! 今食べないの! それは緊急用だよ!!!」

「すっすまん」

「ふふふ。ほら早く食べて! クロースちゃんたちを助けにいかないと!」

「あぁ行こう。」


 焦って皮具黒をしまい申し訳なさそうに頭を下げる、オリビアにキティルは優しく笑うのだった。オリビアはすぐに果物を食べすぐに空腹は解消された。二人は急いで甲板へと戻る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ