第151話 定期船を強襲せよ
砂海を歩いてキティルとオリビアが岩山へと近づく。岩山は高さ二十メートルほどで細長い長方形の山が三つ並んでいる。三つの山は二つはくっついて数十メートルの間隔だが、一つだけ百メートル以上離れている。砂上船の航路からは離れた山と山の間は死角になっている。
オリビアとキティルは山と山の間を正面に見ながら砂丘を超え近づいていく。岩山から二つ手前の砂丘を上ったところでオリビアがクレアに叫んだ。
「伏せろ!!」
「えっ!?」
キティルは指示通り砂丘の上に伏せた。二人は砂丘の頂上でうつ伏せに伏せた顔をあげる。右手を伸ばしてオリビアが岩山の間を指す。
「あれ……」
「砂上船だな」
岩山と岩山の間の奥に砂上船が停泊しているのが見える。二隻が並んで前に見え、奥に一隻が停泊している。オリビアは手前に停泊している二隻の砂上船を見つめる。
「右側の船の旗を見ろ」
「えっと…… 赤くて何か鳥が描いてあるね」
キティルの言葉にオリビアは静かにうなずいて答える。
「あぁ。あれはレッドホーク…… 帝国軍旗だ」
「じゃあやっぱり帝国が定期船を」
「おそらくはな。隣の船には掲げられてない…… あれが定期船だろう。帝国軍人はあの旗を認めたところにしか掲げないからな」
少しあきれた口調で話すオリビアにキティルは少し寂しそうに見つめるのだった。
「でもどうして…… 定期船を……」
「そうだなぁ。呪いをかけた人間なら呪いを解くのに必要な物を知ってるんじゃないか?」
「あっ!? そうか……」
にやりと笑ったオリビアは手を額に当てジッと岩山を見つめている。彼女の行動を見たキティルは首をかしげる。
「何をしているの?」
「人の配置をな……」
手を額に当てオリビアは岩山の様子を探っている。砂丘から岩山に帝国の軍服に身を包んだ警備の人間が立って居るのが見える。
「岩山に軍服を着た見張りが四人だけか…… 砂上船の上にいるのは何か別の作業をしているな」
「意外と見張りは少ないね」
オリビアは振り返り背後を見る。背後には無限に砂が広がっていた。前を向いたオリビアはキティルに口を開く。
「きっと岩山から遠くみているんだろう。船か飛んでくるか…… 歩いて来る奴は想定してないってことだな。君の魔法のおかげで我々の足跡もないしな……」
横を向いてキティルに微笑むオリビアだった。キティルは恥ずかしそうに笑い小さくうなずく。
「ありがとう。それじゃあ…… 私達なら不意をつけるってことだね」
「あぁ。そうだ! 行くぞ! キティル!」
「うん!」
うなずいたキティルは静かに立ち上がった二人は走って岩山に近づく。オリビアの言った通り岩山で警備している帝国軍は二人が近づくの気づかない。二人は岩山と岩山の間にすんなりと入った。
しかし……
「笛!?」
岩山の上から激しい笛の音が鳴り響いた。どうやら二人の接近を気付かれたようだ。慌ててキティルは並んで走るオリビアに顔を向けた。
「みっ見つかったみたいだよ。どうしよう?」
「いや違うな…… あの二人が来たんだ!」
「えっ!? キャッ!!!」
キティルの言葉に上を指すオリビアだった。直後に上から軍服を着た帝国軍の女性がキティルとオリビアの前に落ちて来た。仰向けに倒れた彼女の胸には木の矢が刺さっていた。
「矢…… これはメルダの……」
「あぁ! このままいくぞ」
二人は走って定期船へと近づいていく。砂に浮かぶ船の横へと二人はやってきた。
「敵襲!!!!!!!!!!!」
定期船に乗っている帝国軍が大声を上げているのが聞こえる。オリビアとキティルは定期船に背をつけ上を覗き込んでいた。
「さて…… どうやって上に行こうかな……」
「任せて!」
「おっおい!?」
胸を叩いたキティルはオリビアに手を伸ばし彼女の腰に手を回した。しっかりとオリビアのベルトをつかむキティル、オリビアは彼女が何をしたいのかわからず慌てている。
「行くよ! オリビアちゃん!」
「うわ!?」
杖を隣の帝国船のマストへと向けた。彼女の杖からファイアウィップが出て一気に伸びていった。マストにファイアウィップは巻き付くと、今度はファイアウィップが急速に縮んでいく。二人の体は一気にマストへ向かって行く。
「おい! 敵だ! 下にもいるぞ!」
甲板に居る帝国軍人がマストに向かって行く二人を指して叫んでいる。下を見ながらキティルは舌をだして笑う。
「ごめーん。気づかれたちゃったね」
「もういいさ」
「ふふ」
キティルはマストへ到着する直前で杖を軽く振った。ファイアウィップはマストを中心とした振り子のように大きく揺れ二人は帝国船を超えて一気に岩山へと向かって行く。
「オリビアちゃん! 岩山を蹴って! 一気に行くよ!」
「おう!」
迫った来た岩をオリビアは思いっきり蹴った。二人は帝国船の甲板をかすめるようにして一気にまた定期船の甲板の上へと向かって行った。
甲板の直前でキティルはファイアウィップを消した。支えを失った二人は飛んで行く。
「あれ!? あれ!? どっどうよう」
「はっ!」
「キャッ!」
空中を飛んで焦り出すキティルだった。想定よりもスピードが速く自身の体を制御できなかったようだ。オリビアは彼女を引き寄せ抱きかかえた。二人の体は勢いがなくなり甲板へと落下していく。
「ほっ!!!」
大きな音がしてオリビアは甲板へと着地した。周囲に居る帝国軍人が二人を一斉に見た。
「邪魔するよっと」
笑顔で帝国軍に挨拶するとキティルを下ろすオリビアだった。十人ほどの帝国軍は武器に構え彼女達を取り囲む。二人を取りココム帝国軍の数は二十人ほどだ。先頭に立った男が剣先をオリビアに向け叫ぶ。
「貴様ら! 何しに来た!」
「何しに? ちょっとこの定期船に必要な物があるんでな取りに来ただけだ。もらったら帰るよ」
ふざけたように笑ってオリビアは帝国軍に答えると背中のメイスに手を回す。オリビアを見たキティルも慌てて背負った杖を抜いて構える。彼女の言葉を聞いた帝国軍は眉間にシワを寄せた。
「ふざけやがって! もういい! 片付けろ!!!」
「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」」」
剣先をオリビアに向けたまま男が叫ぶと一斉に帝国軍が二人に襲い掛かる。オリビアは膝を曲げ一気に指示を出した男との距離をつめ右手を前にしてメイスを地面と水平に持って行く。
「はっ!!!」
「がはっ!」
男の腹にオリビアはメイスを勢いよく突き出した。メイスは男の腹にめり込み前かがみになり、顔は苦痛に歪み口の端から血が垂れていく。オリビアはすっとメイスを横に動かすと、めり込んだ男の体はメイスについていくようにして動く。
「おりゃアアアアアアアアアア!!!!!」
「「うわあああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」」
メイスを横に振りぬくオリビアだった。男の体は吹き飛んで行き、近くの帝国兵二人を巻き込んだ。三人を一瞬でやられた帝国兵の勢いがなくなりみんな立ち止まった。
オリビアはメイスを両手に持って構えた。
「オリビアちゃん!」
杖を前にだしたキティルがオリビアの後ろで叫んだ。彼女の杖から赤い光が飛んでいき、オリビアのメイスに当たって光がメイスを包んだ。
「ファイアウィップだよ。使って」
「おう!」
返事をした右手一本でメイスを振り回すオリビアだった。彼女のメイスから炎の鞭が伸びていった。回転するメイスから伸びた炎の鞭がしなりながら次々と帝国兵に叩きつけられた。
「「「ウギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」」」
声があげながら焼き払われる帝国兵、オリビアが前に出ると彼女との距離を取ってキティルも進む。キティルは周囲に視線を向け静かに杖の柄を床につける引きずるようにして歩いている。
「いつでもオリビアちゃんに…… ファイアウォールを…… キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
オリビアを守ろうとキティルは周囲を警戒していた、ファイアウィップで帝国軍を蹴散らして前を歩いてオリビアがいきなり振り返った。彼女はキティルに向かってファイアウィップを叩きつけてきた。オリビアの突然の行動に悲鳴をあげ目をつむった。
「あっあれ…… オリビアちゃん」
目を開けたキティルに甲板の上に立って帝国の砂上船を見つめるオリビアが見えた。彼女が持つファイアウィップの先端がキティルの横にあり先端には光の矢が巻き付いていた。すぐにキティルは彼女の視線の先に自分も目を向けるのだった。