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第15話 まだ終わらない

「うっうそでしょ…… 私…… こんなところで……」


 放物線を描き大樹の森の上空を飛ぶエリィが、声を震わせながら彼女は力無くつぶやいた。強い衝撃を受けた彼女だったが意識ははっきりとしていた。しかし、体は衝撃でボロボロで動かそうとすると全身がしびれ何も出来ずにいた。

 視界に流れる景色を見つめる彼女は自分がこのまま落下して、地面に叩きつけられて死ぬことを理解した。自然とエリィの表情は暗く目には涙が潤んでくる。

 エリィの表情には夢を見て渡った新大陸での生活が、わずか数日で終わることの悔しさがにじんでいた。しかし、運命というのはエリィの気持ちなどを汲むことはなく、彼女の体は地面に向かって落下を始めるのだった。


「えっ!?」


 落下し死を待つだけだったエリィの体がふわっと浮かび上がった。驚いた顔をあげたエリィの目に微笑むクレアの顔が見えた。吹き飛ばされたエリィを、飛んできたクレアが受け止めたのだ。クレアはエリィの左腕をつかんで落下する彼女を拾い上げていた。


「ふぅ…… ギリギリ間に合いました。遅くなってごめんなさーい」


 クレアは小さく息を吐いてエリィに謝った。エリィは目を見開いて呆然とクレアの顔を見つめていた。


「あなたは…… 確かグレンさんの上司……」

「ふふ。はい。冒険者支援課課長のクレアですよー」


 名乗ったクレアはエリィの左腕を引っ張り自分に引き寄せた。クレアはエリィを抱えようと左腕を脇に腕を通す。


「イタ!」

「わわっ。ごめんなさーい。少し我慢してくださいねぇ。すぐに治療しますから…… ヒールビッグシスターハンド」


 エリィを抱えたクレアの手が緑に光りだした。光に照らされた、エリィの胸から右腕の傷が徐々に癒え、痛みが引いていく。


「はっ!? そうだ! キティル!? キティルを助けないと」


 痛みが消えたエリィが、キティルのことを思い出して必死にクレアに訴えかける。クレアは落ち着いた様子でニッコリと、微笑んで彼女が居た場所を地面を指す。


「大丈夫ですよ。ほら」

「あれは……」


 クレアが指さした方角には、黒い毛皮で紫の光をまとうテオドールオオジカが、頭を下げた姿勢で止まっていた。


「(あっあれ!? 私…… まだ生きてるの!?)」


 死を覚悟し目をつむったキティルは、自分の身に何も起きないのを不思議に思いゆっくりと目を開く。目を開けたキティル、そこには……


「グッグレンさん!?」


 キティルの一メートルくらい前に、目を赤くし赤いオーラを纏ったグレンが、剣を下から振り上げた姿勢でテオドールオオジカの角を受け止めていた姿だった。右手に持った剣でテオドールオオジカの角を受け止めていたグレンが静かに振り返る。キティルの顔を見たグレンが声をかける。


「大丈夫か? お疲れさん。俺の背中から出るなよ。死にたくなければな」

「はっはい!」

「よし! うおりゃああああああああああああああああああ!!!!!!!」


 気合を込めた叫びをあげ、グレンが右手に力を込めて剣を上へと振り抜いた。テオドールオオジカはグレンの剣に押されるようになって後ろに下がり、同時にパキーンという何かが砕ける音がして、巨大なテオドールオオジカの角がバラバラに砕けた。


「ピィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 角が砕けたテオドールオオジカが鳴き声を上げ、背中を向けて逃げていった。グレンは剣を戻して剣先を地面に向けた。二十メートルほど離れた場所でテオドールオオジカは振り返り、顔を上げる、残った片側のテオドールオオジカの角が青白く光りだした。


「あっあれは……」

「電撃だ。さっきも言ったが死にたくなけば俺の背中から出るなよ」


 驚いて声をあげたキティル、グレンは冷静に表情で彼女に声をかけた。


「ピィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」


 テオドールオオジカが角をグレンに向けたる。角から青白く光る雷撃が放たれてグレンを襲う。迫ってくる雷撃の青白い光に照らされたグレンは、ニヤリと笑って迫る雷撃に向かって左手を開いて突き出した。左手は白く強烈な光を放っていた。


「悪いな。森に俺の味方はたくさんいるんだ! ヒドゥンフォレスト!!!」


 青白い光の雷撃はグレンの左手へとぶつかった。キティルはまぶしくて目を閉じてしまった。雷撃はグレンの左手へと吸収されるように消えて行った。ゆっくりと目を開けるキティルに左を前にだしたまま立つ、グレンと彼の少し先に立つテオドールオオジカが見える。


「グレンさん…… 何を!?」

「まだだ! 動くな!」

「キャッ!!!」


 キティルに声をかけ、グレンは開いていた手を閉じた。バリバリという巨大な音がなぜか周囲から聞こえキティルが驚いて声をあげ視線を下に向けた。


「えっ!? これって……」


 下を向いたキティルはやんわりとした暖かさ感じ、さらに周囲の地面が何かに照らされているのを感じた。彼女がゆっくりと顔をあげると、周囲の木の枝の葉が燃え松明のようになっていた。


「もらった栄養は大地に返さないとな…… リーフレイン!!!」


 グレンはニヤリと笑って左手を下に下した。直後に炎の葉はテオドールオオジカの角へと集中的に降りそそいだ。テオドールオオジカは大きく頭を左右に振ってにげようとした。しかし、炎の葉によりテオドールオオジカの根元は焦がされ、角は根元からからちぎれるように折れた。キティルは目を開けて角がないテオドールオオジカを見て唖然とした表情をした。


「すごい…… そうか! ヒドゥンフォレストで雷を吸収して周囲にまいて熱で葉を……」

「おぉ。よく気づいたな。さすが魔法使い。良い冒険者になるぜ」

 

 振り向いて笑うグレン褒められたキティルは、頬を赤くし恥ずかしそうにするのだった。ヒドゥンフォレストとリーフレインは共に木属性だ。ヒドゥンフォレストは森の神秘の力によりあらゆるものを受け入れ隠し、任意の場所へと再出現させる魔法だ。リーフレインは周囲の木々の葉を操り敵にぶつける攻撃魔法だ。


「これでこいつも大人しく……」


 前を向いてテオドールオオジカを見つめるグレン、彼らにとって角は力の象徴だ、角を折れば戦意喪失して逃げ出すはずだ……


「ピィーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」


 角を失ったテオドールオオジカだったが、足をあげて体を揺らして暴れだす。鳴き声をあげ紫色の光る目でグレンを見つめて頭を下げて足で数回地面をかいた。


「チッ! やる気か。わかった…… 俺も手加減しねえよ」


 グレンは剣を左に持ち替えた。右手で左手首の袖を少しだけまくって手首を出した。彼は茶色いガントレットの手首に埋め込まれている琥珀を外して持つ。

 彼の装備しているガントレットはアンバーグローブという。魔大樹の樹皮を動物の革のように加工した物で、左手首に宝石が埋め込まれている。宝石は琥珀で透明なオレンジ色の宝石の中に小さな二枚の羽が浮かぶように閉じ込められている。宝石の名前はフェアリーアンバーという。中に浮かぶ羽は太古の昔に魔物に戦いを挑み破れ羽をもがれた妖精のものと言われている。アンバーグローブは防具として優秀なほかに木属性魔法を強化してくれる。

 さらにもう一つ……


「よっと」


 グレンはムーンライトの十字の形をした鍔の中央にあるくぼみにフェアリーアンバーを差し込んだ。ムーライトが光を放つ。木が大きくなるようにぐんぐんとムーライトの持ち手が伸びて刀身は太く長くなっていく。

 ムーンライトは刀身の幅は五十センチ、長さが二メートルの巨大な剣へと変化した。持ち手も二十センチほど長くなり銀色の鍔には同じ色をした木の枝が巻き付いた装飾がされていた。この大剣の名前は月樹大剣(ムーンフォレスト)という。ムーンライトの本当の姿は月樹大剣(ムーンフォレスト)であり、その大きさから本来は人間用の武器ではなく巨人族などが使用していた。フェアリーアンバーも元々月樹大剣(ムーンフォレスト)の鍔に装着されていたものだ。フェアリーアンバーに力を封じ込めることで、人間サイズの剣へと変化しムーンライトとなったのだ。

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