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第149話 呪いを解くために

 階段を下りて皆がいるリビングへと向かうグレンとクレア、ラウルの家はかつては弟子が何人も住んでいたため寝室も多く広い。リビングも広く十人ぐらいが同時に滞在しても狭さを感じないほどだった。

 扉を開けた二人に真っ先にグレゴリウスが駆け寄って来て声をかけてくる。


「グレンさん! ベルちゃんは?」


 心配そうに目を潤ませてグレンを見つめるグレゴリウスだった。美少女の姿のままのグレゴリウスに見つめられグレンは頬を赤くして答える。


「矢を受けた傷があってな。それは大したことない。ただ…… 矢に体力低下の呪いをかけられてたみたいだな…… あの文字がベルナルドの体力を吸いこんでいって衰弱している」

「そんな……」


 うつむくグレゴリウスにグレンは二階に視線を向けすぐに戻し口を開く。


「普通の人間なら矢を受けて数分もすれば立てなくなるだろうに…… ベルナルドは一日以上砂海を走ったんだろ? すげえやつだよ」


 体力を吸われ続けても一昼夜走りぬいた、ベルナルドを讃えるグレンにオリビアが答える。


「まぁベルナルドは帝国騎士の中でも相当な手練れだ。私でも本気をださなきゃ倒せないくらいにな。ただの護衛にしておくにはもったいない男だよ」

「へぇ。そのうち出世して偉くなりそうだな」


 グレンの言葉にオリビアは静かに首を横に振る。


「いや…… 帝国軍の中じゃ獣人って言うだけで軽んじられるからな…… 彼はまだミナリーに気に入られて護衛に付いてるだけ扱いはマシな方だ」

「そうか…… 下らねえな。相変わらず」


 吐き捨てるようにグレンは帝国へ悪態をつくと話を続ける。オリビアは気まずそうに笑うのだった。


「とりあえず。体力を奪う速度を遅らせる処置はした。今のところ容態は安定しているが…… 時間の問題だ。徐々にベルナルドの体力は奪われ…… そのうちに死んじまうだろう」


 淡々とグレンはベルナルドの現状を皆に伝える。グレゴリウスは彼の言葉に下を向きオリビアに背中を支えられている。クロースがグレンに尋ねる。


「呪いを解く方法はありませんの?」

「あるにはあるが…… 道具がな…… あっ! そうだ。キティル!」

「えっ!?」


 グレンはキティルを呼んだ。キティルはなぜ呼ばれたかわからず驚いていた。


「呪いを解くには紅魔水晶とニジヤモリの燻製が必要なんだ。持ってるか?」

「ごめんなさい。持ってないです。だけど…… 町の魔術屋にありましたよ。やすらぎの枝を買いに行ったと時に見たから確かです」

「わかった。すぐに買って来てくれ」


 紅魔水晶とニジヤモリは魔法使いが魔法薬によく使う材料だ。グレンは魔法使いのキティルが材料を持っていないか尋ねた。あいにくと彼女も持ち合わせいなかったようだが町に売っているという。グレンはすぐに材料を買いに行くように依頼するのだった。

 

「わかりました。行ってきます」

「あぁ! 待ってキティル! 私も行くわ」


 キティルは返事をして買い物へと向かう。彼女を心配したメルダが付いていく。


「じゃあ後は二人が戻るまでベルナルドの様子を……」

「あっあの…… 私も一緒に……」

「私もグレと一緒に行こう」

「あぁ。わかった。二人ともついて来い」


 グレンはグレゴリウスとオリビアの二人を連れて寝室へと戻るのだった。

 一時間ほど後…… キティルとメルダが戻って来た。グレンたちは寝室から一階へと移動しリビングへと向かう。入って来たグレンを見たキティルは申し訳なさげに口を開く


「ごめんなさい。二つとも売り切れでした」

「売り切れって…… そんな」


 呆然とするグレンにメルダが口を開く。


「えぇ。一昨日にちょうど売り切れたらしいわ。でも、普通なら一日おきにくるサンドロックからの定期船ですぐに運ばれてくるみたいなんだけど…… 昨日の船が来てないらしいわ……」

「はい。定期船は一隻しかないから次に来る予定も未定だそうです」

「クソ!」


 拳を握ってグレンが膝を叩く。彼の態度にキティルはひどく驚いていた。


「とにかく急がないと…… ベルナルドの体力はいつまでもつかわからない。俺がサンドロックまで行って買って来る」

「グレンさんが? でっでも、どうやってですか? 船はないんですよ」

「飛んで行く。俺が全力なら三日もかからず往復できるはずだ」

 

 自分の胸に手をあてグレンは自らが呪いを解くのに必要な、紅魔水晶とニジヤモリを買いに行くと言い出した。話を聞いていたクレアが彼を止める。


「待ってグレン君! 私が行って来ます。グレン君しか呪いの対応できないんですから!」

「そうか…… わかった。じゃあ義姉ちゃん頼む。急いでな」

「はーい」


 手をあげ大きくうなずくクレアだった。クレアがサンドロックへ材料を買いに行くことになった。二人の会話を聞いてたオリビアが何かを思いついた顔をした。


「じゃあ…… クロースと私で行方不明の船を探してみよう」

「そうですわね。近くにいるならクレアよりも早く持ってこられるでしょうし」

「あたしも行くわ」

「私も行きます」


 オリビアとクロースとキティルとメルダは定期船を探すという。クレアと四人はすぐにラウルの家から出ていった。クレアはサンドロックへと速度をあげ飛んで行き、オリビア達はランドヘルズの周辺で定期船を探す。クロースはオリビアを抱え、メルダがキティルを抱えて飛んでいた。サンドロックからランドヘルズの間の砂海は魔物も少なく、砂丘が静かにどこまでも続いていた。


「どこへ…… 行ったんだろうなぁ」

「穏やかな砂海で砂嵐でもないとなりますと……」

「襲われたか。ただ…… 魔物だったら残骸がすぐ見つかるはずだ……」


 日に照らされまぶしそうに地図を見ながらつぶやいた、オリビアにクロースが答える。定期船が何者か襲われた可能性が高いと二人は推測しているようだ。


「そうなると…… 定期船を隠すなら近くの岩山か……」

「行ってみますか」

「あぁ。頼む。メルダ! キティル! こっちだ。クロースに付いて来てくれ」


 クロースは北東の方角へ進みだした。メルダは彼女についていく。しばらくして四人に小さな岩山が三つ並んだ光景が見えて来た。


「定期船を襲ったのが人間なら見張りがいるかもな。高度を下げてくれ」

「了解ですわ」


 うなずいたクロースは砂海から三メートルほどの高さまで下がっていった。メルダも彼女に続く。


「このまま岩山の間を…… って!? クソ!」

「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」


 砂海の黄色い砂の中から大きな蛇が飛び上がって来た。砂の色より少しだけ黄色が濃いほぼ同じ色の鱗に覆われた蛇は大きく口を開け下からオリビアに食いつこうとする。蛇の大きさは全長十メートルほどで開いた口は一メートルほどの幅だった。


「あれはサンドサーペントですわね!」


 蛇を見たクロースが叫ぶ。現れたのはサンドサーペントという肉食の魔物だ。砂海を泳ぎ群れ行動し頻繁に人間や砂クジラなどを襲う。


「よし! そのまま下ろせ! クロース!」

「はい!」


 クロースは両手をオリビアから離した。オリビアはサンドサーペントの口へ向かって落ちていく。オリビアは落下しながら背中に手を回しメイスを抜き


「私も行くわ! お願い。メルダ!」

「わかったわ」


 うなずいたメルダもキティルから、手をはなし彼女を砂海へと下ろすのだった。


「はあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」


 両足を開いて膝をあげた姿勢になった、オリビアは両手に持ったメイスを振り下ろした。メイスはサンドサーペントの上あごに命中し鈍い音を立てめり込んでいった。ひしゃげた顎の鱗の間から血が滲みサンドサーペントは力なく砂海へと落ちていった。

 

「よっと!」


 砂が舞い上がる。オリビアとサンドサーペントは同時に砂へと落ちた。着地して砂をわずかに舞い上げるオリビアの後ろで体を砂にうちつけサンドサーペントは激しく砂を舞い上げている。


「「「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」」」


 サンドサーペントが三匹が顔を出してオリビアを囲むように周囲を泳ぎだした。彼女はメイスを横に持って力を込めるのだった。

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