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第147話 提督は砂漠に散る

 ドラゴンスローン洞窟から戻ったグレン達はサウンドロックへ報告へ済ませ。オリビア達へと合流するためにランドヘルズへ向かった。オリビア達と無事に合流し砂上船技師であるラウルの船も完成し、彼らは準備を整え砂塵回廊への出発を翌日に控えていた。

 ここはサンドロックとランドヘルズの間にある砂海…… 周囲には砂の波が延々とどこまでも広がる中を一隻の砂上船がランドヘルズへと向かっていた。

 甲板に積み上げられた荷物を少し離れた場所で見上げる女性、彼女は照り付ける太陽を苦々しく見つめながら口を開く。


「いやぁ。すごい量だねぇ…… 用意するのに一週間くらいかかったし…… 船をチャーターしないとダメなわけだ」

「すごいでがんすよ」


 積み荷を見ていたのはミナリーで、彼女の横に居たベルナルドも腰に手を当て積み荷を見上げている。

 日傘をさし荷物の前に立っていたエミリアが振り返りミナリーとベルナルドへ微笑む。


「えへへ。でも…… オっちゃんはこれくらい一日で食べちゃうよ」


 積まれた大量の箱の中身は食材で、全てオリビアに食べさせるためにエミリアが用意したものだ。

 ちなみに甲板に置かれた食材は倉庫に入りきらない分を置いてあるだけで、下の船倉には大量の食材でぱんぱんに詰まっている。


「二人ともありがとうね。わたしのわがままで…… お金も全部使っちゃったし……」

「なーに! あたいは接客とか楽しかったしねぇ」

「そうでがんすよ」


 頭を下げるエミリアに向かって胸を叩いてミナリーは笑っていた。ミナリーの横に立つベルナルドは彼女の言葉に大きくうなずいていた。エミリアは訪れた町で屋台を使って、旅費とオリビアに作る料理の食材を買うために費用を稼いだ。


「ぼっちゃんとの初めての旅は楽しかったでがんすなぁ。いてぇでがんす!!」


 懐かしそうに木箱を見つめるベルナルドの背中をミナリーがいきおいよくひっぱたいた。乾いたパチンという音が甲板に響く。驚く目を見開くエミリア、ミナリーは笑顔で口を開く。


「おいおい。ベル! あんたなにもう終わった感じになってるんだい。あたいらの旅はオリビアにエミリアを渡して終わりだよ」

「おぉ! そうでがんした! きっちり最後までやらないといけないでがんすね」


 ハッとしてベルナルドは頭をかきながら申し訳なさげに頭を下げる、ミナリーは腕を組んでうなずくのだった。ホッとするエミリアは日傘を斜めにして悲し気な表情をする。


「二人は私をオッちゃんのところに届けたら…… 帰るんだよね? 帝国に……」


 流れる砂を見ながら寂しそうに尋ねるエミリアだった。三人の旅の目的はエミリアをオリビアの元へと届けることだ。それが終われば三人の旅は終わる……


「にー」

「にやにやでがんす」


 寂しそうにエミリアと対照的にミナリーとベルナルドは彼女の質問を聞くと、二人は顔を見合せて明るく笑うのだった。


「あたい達はここで冒険者を続けるよ! 帝国に戻ってもあたい達は皇子誘拐の反逆者だからね」

「そうでがんす! 逃げるのはもう飽きたでがんす。それにここは面白いものがたくさんでがんす。まだやりたいことがいっぱいあるでがんすよ!」


 ベルナルドがかがんでミナリーを肩を組んでエミリアに向いて笑う。ノウレッジに二人が残ると聞いてエミリアは嬉しそうに笑うのだった。

 しかし……


「なんだ!? 見て来るよ。あんた達はここにいな」

「へい」

「気をつけて」


 警笛が響いた。ミナリーが甲板から船首に向かって走っていく。怯えるエミリアの元へベルナルドが駆け寄った。船主に立ったミナリーは眉間にシワを寄せる。


「砂上船が…… あの旗…… クソ!!!」


 二隻の砂上船が横になってミナリー達が乗る砂上船の進路をふさいでいた。

 ミナリー達を乗った船を進路をふさいだ砂上船には、帝国のレッドホークを描かれた旗がなびいていた。


「帝国だ! 二人とも逃げるよ!」


 振り向いたミナリーは叫びながら二人の元へ戻ろうと走り出した。


「うわあ!!!」


 走っていたミナリーの前に黒い炎が上がり彼女はすぐに足を止めた。


「ミナリー!」

「姐さん!」

「来るじゃあないよ!!!」


 炎が上がりベルナルドとエミリアがミナリーの元へ向かおうとするが、彼女がすぐに叫んで止める。

 ミナリーは振り向きサーベルに手をかけ視線を上に向ける。


「ロック……」


 ミナリーの視線の先に軍服に身を包んだロックとスフィアが並んで空に浮かんでいた。二人は降下して甲板へと下り立った。彼らの二メートルほど前方にミナリーが居て、そこから五メートルほど前にベルナルドとエミリアがいる。


「見つけましたよ…… エミリアさん…… いや。グレゴリウス皇子!!」


 ロックの視線は目の前にいるミナリーではなくエミリアへ向けられている。グレゴリスの母親の名前から推測し、彼が女装していることにロックは気づいたのだ。


「逃げろ! ベルナルド!」

「はいでがんす!」

「えっ!? 待って! ベルちゃん!」


 サーベルを抜いて叫ぶミナリーだった。ベルナルドはエミリアの手を掴んで走り出した。


「逃がしませんよ」

「そうはいかないよ」


 ミナリーがサーベルを横に動かした。周囲の砂がどこからともなく沸き上がりミナリーとロックたちの間に砂の壁が立ちはだかる。


「これで少しは…… なっ!? あたいの砂の壁が…… うわ!!」


 砂の壁から拳を握った銀色の左腕が突き破って出て来た。腕はミナリーの胸倉をつかんで持ち上げた。砂の壁はすぐにくずれそこには眉間にシワを寄せたロックが立って居た。


「旧人類はすぐに特殊能力に頼るから負けるんだ…… よ!!!」

「がっ!!!」


 ロックはミナリーを床に投げつけた。腹から床に叩きつけられた衝撃で声をあげるミナリー、さらにロックは足を振り上げミナリーの背中を踏みつけた。


「ギャアアアアアアアアアアアアアア!!!」


 苦しそうに声をあげるミナリーだった。声を聞いたエミリアはベルナルドの手を振り払い立ち止まった。


「ミナリー!!」

「ダメでがんす!!」

「いやッ!!!!」


 手をつかんで逃げようとするベルナルドに必死に抵抗するエミリアだった。

 甲板でロックに踏まつけながら、ミナリーは腰に手を伸ばす。彼女の手が腰につけたベルに触れる。


「ベルナルド! 何やってんだい! プランBだよ! さっさと行きな!!」


 ミナリーの声を聞いたベルナルドは悔しそうにし首を横に振った。しゃがんだベルナルドは彼女を抱きかかえて走り出した。


「えっ!? ベルちゃん! ダメよ!!! 戻って!!! ミナリーを助けなきゃ!」

「……」

「ベルちゃん!? ダメ! 離して!!! いや!!! いやああああああああああ!!!」


 必死に叫ぶエミリアだがベルナルドは無言で走って一心不乱に走る。暴れるエミリアをベルナルドはしっかりと捕まえ拘束し動けないようにする。

 ニヤリと笑って走って逃げるベルナルドに向かって銀色に染まった左手を向けるロックだった。


「逃がしません…… はっ!?」


 激しいベルの音が響くと砂上船が激しく揺れて周囲に砂嵐が巻き起こる。ベルナルドは砂嵐で揺れる中を平気で走り甲板から砂海へ飛び出した。エミリアを抱えて飛んだベルナルドを砂嵐が左右に別れて避けた。


「いやあああああああああ!!! ミナリーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」


 エミリアの声が遠くになっていく。ロックは悔しそうに顔をしかめるのだった。


「クソ! スフィア!」

「はい」

 

 スフィアは静かに左手を前に出した。彼女の手が白く光ると光の弓と矢が現れる。彼女は素早く矢をつがえるとベルナルドへ向かって矢を放った。一直線に伸びていく矢は飛び上がったベルナルドへ向かって行く。しかし、途中で別れていた砂嵐が戻って矢とベルナルドが見えなくなった。


「耐えましたか…… でも…… 私の矢を受けたら…… ふふふ」


 うっすらと不気味に笑うスフィアだった。


「はははっ! よくやったよ! さすがベルナルド!」

「チッ! クソ!!!」

「ガッ!!!!」


 ロックは舌打ちをしてミナリーの背中を足で踏みつけた。大きな音がしてミナリーの背中にロックの足がめり込む。息が出来ずにわずかに声をあげるミナリー、彼女は視界が暗くなっていく見えなくなっていく。彼女は気絶してしまった。

 砂嵐の中をエミリアを抱えて必死に走っているベルナルドだった。ミナリーが使った魔法で彼の周りに砂はなく足ばも踏み込む度に砂が固まり埋もれることはなく普通に走れている。


「いや!!!! ミナリー!!!!!!! ダメだよ!!! ベルちゃん! 戻って!!!」


 泣きながらエミリアは走るベルナルドへ戻るように必死に懇願する。ベルナルドは視線を横に向け申し訳なさげに眉を下げる。


「すまんでがんす。ぼっちゃんの頼みでも聞けないでがんすよ…… 姐さんとあっしで決めたことでがんすから……」

「でも! でも!! 嫌だ…… 嫌だよ…… ミナリー……」


 目をつむり声を震わせ泣いているエミリアをベルナルドは悲し気に見つめていた……


「ぐっ……」


 顔をしかめたベルナルドはエミリアに聞こえないように声を必死に押さえ体に力を込める。走るベルナルドの背中からポツリポツリと血が砂海へ流れていた……

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