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第145話 キングは任せた

「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」


 天井からキティルに向かって巨大なリザードマンが口を広げて飛んで来た。巨大なリザードマンは他の個体と違い口は細長くワニのようになっており尻尾だけで二メートルはある。

 リザードマンは口を大きくあけキティルに噛みつこうとしていた。


「えい!」


 飛んでくるリザードマンにキティルは背を向け飛び上がる。キティルは杖の先を柱へと向けると、彼女の杖から炎が伸びていく。キティルが杖をわずかに横に動かすと、炎は鞭のようにしなり柱へと巻き付きそのままいきおいよく縮んだ。着地したリザードマンは両手を地面につて顔を横にして、キティルに噛みつこうとした。口が閉まる寸前に彼女の体は柱へと向かって高速で飛んで行った。

 キティルが杖から伸びた炎は炎魔法ファイアウィップだ。


「ふぅ……」


 着地したキティルの背後でガキッという音がした。彼女が振り向くと顔を横にして口を閉じたまま巨大なリザードマンが悔しそうに彼女を見ていた。

 巨大なリザードマンはすぐに体を起こした。キティルは巨大なリザードマンを見上げる。巨大なリザードマンは三メートル近い身長があり筋肉で鍛えられた腕や足をしているが、腹が大きく膨れて飛び出しており太った人間のような体つきをしていた。背中には巨大なリザードマンの得物なのか大きな石で作られた斧を背負っている。


「気をつけてください。それがキングリザードです」

「これが……」


 クレアの声が室内に響いた。巨大なリザードマンがキングリザードだった。続いてキティルに向かってグレンが口を開く。


「今の時期は腹の中に卵があってな。捕まえた人間の体内に産みつけようとしてくるからなるべく捕まらないようにしろよ」

「特に噛む力は強いですからね。噛みつかれそうになったら受けないでかわしてください」

「えっ!? はっ!? もしかして……」


 二人から次にキングリザードの特徴がキティルに告げられる。経験豊富な冒険者支援課としての実戦的なアドバイスで非常に有用なことだが、キティルはとあることに気づいた。二人は武器をしまっている…… ということは……


「たっ助けてくれないんですか!?」


 不安そうに声を震わせて尋ねるキティルをグレンとクレアは不思議そうに見つめていた。


「あぁ。だって任せたって言ったろ?」

「成長したところを私にも見せてください」

「確かに私もって言ったけど…… いきなりこんな…… もう!」


 腕を組み首をかしげるグレンの横で、右手を握って笑顔をキティルに向けるクレアだった。二人は一緒に戦うのではなくキティルにキングリザードの討伐を任せた。

 キティルは少し前の自分の言葉を激しく後悔するのだった。


「いいですよ。私だって……」


 覚悟を決めたキティルは顔をあげ杖を構えた。

 背中から斧を出して肩にかついだ、キングリザードはギロリとキティルを睨む。瞳孔が開いた感情があまり感じられない瞳にグレンの作った光がキティルの姿を反射させていた。鱗に覆われた巨大な体に筋肉質な腕や足にぎょろりとした瞳に尖った牙などを見るキティル、段々と彼女の心の中が恐怖であふれて来る。

 構えた杖の先がわずかに震え出しキティルは慌てて手で押さえる。


「やっぱり怖い…… でっでも…… え!?」

「うがああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

 

 顔をあげたキティルにキングリザードが斧を振り下ろす姿が見えた。キティルは必死に震えを押さえ杖をキングリザードへと向けた。


「クッ!」

「グギャ!!!」


 キティルの杖から火の玉が飛び出しキングリザードの斧に命中する。キングリザードの動きが止まり、その隙にキティルは杖を構えたまま後ろに下がり距離を取っていく。


「おぉ! ファイアボールを動く斧に魔法を当てて止めたぞ」

「えぇ。やはり成長してますね…… それに……」


 グレンとクレアは武器を持っていつでも動けるようにしながらキティルとキングリザードの戦いをみつめている。

 距離を取ったキティルは右手に杖を持ちファイアボールを何度もはなつ。キングリザードは飛んでくるファイアボールを斧で叩き落としていく。チラッと視線を左に向けるキティル、彼女の左手が薄っすらと赤い光を放っている。


「まだ赤…… もうちょっと…… はあああああああああああああああああああ!!!」


 赤く光る左手を見ながらつぶやいたキティルは声をあげ杖を持つ手に力を込める。彼女の持つ杖の先端は赤く光ってさらに多くのファイアボールを放つ。

 キングリザードは飛んでくるファイアボールを斧で叩き落としていた。視線がわずかに動いて、キティルと見たにキングリザードは斧を振り上げたまま左足を引き体を斜めにした。


「うがああああ!!!」


 体を斜めにしたキングリザードの前をうなりをあげファイボールが飛んで行った。キングリザードは斧を振り上げ正面に体を向けようと戻す。


「うがああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」


 雄たけびをあげたキングリザードは、正面を向くと同時に斧をキティルに向けて投げた。回転しながら斧はキティルへと飛んで行く。冷静にキティルは飛んでくる斧を見つめ杖を向ける。


「はああああああああああああ!!!!」


 狙いすました放たれたファイアボールは斧に命中し爆発した。推進力を失った斧は床に落ちて大きな音を立てた。空中に刃ファイアウォールが爆発して残った黒煙が静かに漂っていた。


「はっ!?」


 キティルは黒い影に覆われた目を大きく見開き視線を上に向けた。そこには……


「がうああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 視線を上にむけたキティルに口を大きく開いたキングリザードが、顔を斜めにして上から彼女に噛みつこうとする姿が見えた。キングリザードは斧を投げると同時に走り出し距離を詰めていたのだ。


「負けません!!!」


 杖を大きく横に振ったキティルだった。彼女の覆うように地面から火柱が上がる。ファイアウォールが彼女を彼女を硬く守る。キングリザードの大きな口はファイアウォールごと噛みついた。キングリザードの口は厚い炎の壁により阻まれた。


「ファイアウォールが…… でも!」


 ガキッという音がする。キングリザードの上下の顎が震えゆっくりと火柱が斜めになっていく。キティルが作り出したファイアウォールをキングリザードがかみ砕こうとしている。

 驚いたキティルだったがキティルは白く光る左手に視線を向け小さくうなずいた。彼女は杖から手を離した。倒れるようにして静かに杖が転がる。


「キティル!」

「大丈夫です。信じてあげてください」

「義姉ちゃん!?」


 斜めになった柱を見てグレンがキティルを助けようと前にでるが彼の袖を引っ張ってクレアが止めた。振り向いたグレンにクレアは微笑んでいた。今にも倒れそうな火柱を前にしてもクレアはどこか余裕が溢れていた。

 直後に崩壊が訪れる……


「がああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

「はあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」


 バキンという音がしてファイアウォールがかみ砕かれた。キングリザードの顎はファイアウォールをかみ砕いた勢いのままキティルをも飲み込もうとしていた。ファイアウォールが砕かれる寸前にキティルは声をあげ両手を頭上で、クロスさせ一気に下に振り下ろす。

 大きな音が響いて砕かれたファイアウォールが爆発し黒煙と土煙が舞い上がりキングリザードとキティルを飲み込み彼らの姿が見えなくなった。


「キティル!!!!!!!!!!!!!」


 舞い上がる黒煙と砂煙に向かってグレンは大声で叫ぶのだった。

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