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第144話 心配はいりません

 真っ暗な空間を三人は離れないように、密集しながら慎重に数メートルほど進む。隊列はクレアが前に居て彼女のすぐ後ろにキティルとグレンが並んでいる。

 三人が腰に付けたランタンが灯りで照らせるのは周囲一メートルほどの空間でだけその先は闇が広がっている。漂う空気が時折乱れ砂漠の乾燥した空気がわずかに湿っている。闇の向こう側に何かがうごめいていることは確かだった。

 周囲に目を配らせていたグレンが静かに立ち止まった。


「義姉ちゃん、キティル、止まってランタンを消せ……」


 グレンは二人を止めた。クレアは前方を警戒したまま立ち止まり、キティルは彼に視線を向けた。


「どうしたんですか? 灯りを消したら真っ暗に……」

「大丈夫だ」


 不安にするキティルに力強くうなずくグレンだった。クレアはすでに彼の指示に従いランタンを消していた。グレンはランタンを消すと最後にキティルが消す。辺りは闇へと包まれていく、視界はほぼなくなりかすかに近くにいる三人が見えるだけだった。

 闇に包まれたグレンはポケットに手を突っ込んだ。


「「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」」


 闇の中からリザードマンの声が聞こえた。かすかに聞こえる足音が早く大きくなり闇から感じる空気が圧力をましていく。

 ポケットからグレンは瓶を取り出して頭上に掲げる。彼の行動を見ていたキティルが声をあげた。


「グレンさん!? 何を?」

「月の光が闇を照らしてくれる…… ルナライト!!!」


 グレンが叫ぶと同時にクレアは視線を床に向けた。月菜っ葉の酢漬けの瓶が闇夜を照らす月のごとく強烈に光り出した。眩い黄色い光が部屋全体を照らし出す。

 真っ暗だった空間が白く染まるほどの光が照らしだすと、まぶしくてキティルは手で顔を覆う。照らし出された部屋にはいくつも砂が盛られている。盛られた砂は天井をへこませて器のようにしてあり、器の中には緑と青の水玉模様をした楕円形の卵が置かれている。

 光りは三人を挟むように近づいていたリザードマンたちをあぶりだした。左から六匹、右から四匹と計十匹がグレンたちへ迫っていた。


「「「「「「「「「「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」


 不意に強烈な光に照らされたリザードマンたちは目をつむって叫び声をあげて。あまりのまぶしさに目を押さえうずくまっているリザードマンもいる。グレンの目は赤く光りオーラを纏つと、彼は周りを見ながら光を放つ瓶を床にゆっくりと置きつぶやく。


「十匹ってとこか。意外と少ないな」

「ですね!」

「えっ!?」


 振り向いてニコッとほほ笑んだクレアとグレンは目を合わせた。互いにうなずいた二人はほぼ同時に駆け出した。キティルは二人の動きについていけなかった。二人は走りながら剣を抜くと、リザードマンたちへと次々に斬りかかる。


「ウギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

「グワアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」


 グレンとクレアは次々にリザードマンを倒していく。出遅れてしまったキティルはうつむき悔しそうに左手の拳を握る。


「また…… でも、私だって!」


 顔をあげたキティルは右手を背中に伸ばし杖を抜いた。気合をいれたのか彼女は石突で床を強く叩く。


「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

「!!!!」


 声が聞こえたキティルが振り向くと、槍を持ったリザードマンが彼女へと迫って来ていた。グレンとクレアとの戦闘を避け回り込んで背後からキティルを襲うつもりだ。


「キティル! 頭を下げ…… えっ!?」


 キティルの背後からグレンが駆けつけて剣を振り上げた。グレンとクレアはリザードマンが回り込み、背後から強襲してくることを想定しておりグレンが警戒していたのだ。しかし、キティルは体を横にし左手をグレンに向け止まるように合図を送った。


「はあああああああああああああああああああああああ!!!」


 キティルが右腕を伸ばし杖を持ったまま石突で床に線を描くように横に動かす。キティルの腕の動きに呼応するようにして彼女の一メートルほど前方の地面から火柱が上る。上がった火柱は二十本ほどで太さは十センチで天井まで届きそうなほど高く中心は真っ赤な金属で炎を纏っている。キティルの前に炎を纏った柱の壁が出来上がった。リザードマンは突如現れた火柱に突っ込むことも出来ずに止まるしかできなかった。


「ファイアウォールですよ。これなら近づけません……」


 振り向いてグレンに向かって胸を張り得意げに笑うキティルだった。彼女は前を向くと燃え盛るファイアウォールへ向け右腕を伸ばす。


「でも、これだけじゃないです」

「グギャ!?」


 キティルは手首を曲げ杖の先端を倒していく。先ほどの杖の動きに呼応してファイアウォールがリザードマンに覆いかぶさるように倒れた。倒れる速度は速くリザードマンが気づいた時には彼の頭はすでに炎に包まれていた。


「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 倒れた火柱によってリザードマンは焼き尽くされた。火柱はすぐに消えて焦げて真っ黒になり仰向けに倒れたリザードマンだけが地面に転がっていた。

 キティルは静かに杖を下ろして小さく息を吐いた。彼女にグレンは笑って声をかける。


「腕をあげたな」

「えぇ。魔法使いは一歩下がって戦況を見るパーティの指揮者ですからね。後ろからの強襲には常に気をつけているんです」

「おう。もうベテラン魔法使いだな…… いや冒険者か」

「はい! だから……」


 グレンの言葉にキティルは大きくうなずき嬉しそうに笑うのだった。彼女の側に居ようと前に出たグレンに向かったキティルは今度は大きく首を横に振った。


「だから心配しなくて大丈夫です! 自分の身は自分で守ります…… 私だって冒険者なんですから!」


 力強くしゃべるキティルにグレンは前に出た足を戻す。彼はキティルに背中を向け右手をあげた。


「そうか…… じゃあそっちは任せたぜ」

「はい!」


 グレンの言葉にキティルは目に涙を溜め嬉しそうに笑うのだった。彼女は杖を構えてグレンに背中を向けた。グレンは心配そうに顔を横に向けキティルに気づかれないようにそっと彼女を確認する。そっと彼の横にクレアが近づいてくる。


「偉いですよ。冒険者の成長を見守るも冒険者支援課の仕事です」

「はいはい。ほら! 来るぞ!」

「えぇ……」


 二人に前に残りのリザードマンが向かってくる。二人は剣を構えた彼らを迎え撃つために駆けだした。


「はっ!」

「うぎゃああああああああああああああ!!!」

「おりゃ!」

「がっは!!!!!!」


 キティルから十メートルほど離れた地面に倒れたリザードマンへ、大剣を突き立てていたクレアが勢いよく振り向いた。彼女は振り向くとほぼ同時に拳を握った左手を前へと突き出した。彼女の手から光の剣が伸びる。クレアを背後から襲おうとしていたリザードマンの額に伸びた光の剣が突き刺さる。

 クレアの側でグレン体勢を低くして右腕をいきおいよく突き出した。右手に持った剣が鋭く伸びて前にいるリザードマンの胸を貫く。左手を前に出してリザードマンを押し右腕を引いて剣を引き抜いた。剣を抜くと同時に地面とグレンの体にリザードマンの緑の血が降りかかる。グレンはそのまま左手でリザードマンを押して倒した。


「あらかた片付けたか……」

「えぇ」


 左を軽くふり光の剣を消し、右手を上げて地面に倒れたリザードマンから大剣を引き抜くクレアだった。光の剣で貫かれてリザードマンが力なく地面へと倒れた。


「うん!?」


 二人を大きな影が覆ってすぐに明るくなった。何か巨大な物が近くを通ってキティルが居る方角へと向かって行ったようだ。


「あれは…… キティル! 行ったぞ!」

「えっ!?」

「上だ! 上!!! 上!!!!!!」

「はっ!? えええええええええええええぇぇぇぇぇ!?!?!?」


 グレンはキティルに向かって叫ぶのだった。振り向いたキティルは周囲を見渡すがグレンに言われて視線を上に向ける。同時に彼女は大きな影に覆われ驚いて叫ぶのだった。

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