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第141話 ここは冒険者ギルド

 冒険者ギルドに併設されている。酒場にキティルとグレンが向かい合って座っている。キティルの目が給仕のトレイに乗って運ばれる酒へ向けられた。


「今日はグレンさんがいるからお酒を……」

「ダメだ! 俺は仕事中だし君もだ」

「うぅ……」


 首を大きく横に振って真顔でグレンはキティルを睨むように見つめる。しょんぼりとうつむくキティルだった。なお、オリビアとクロースとメルダはキティルの酒癖で痛い目を見ており、パーティ内で彼女の飲酒は硬く禁止されている。グレンは自らの経験と三人の話からキティルに酒を飲ませない。

 二人の席に三冊の薄い本を抱えたクレアがやってきた。


「お待たせしました。これがレリウス司祭の資料です」

 

 テーブルの上に本を置いていく。彼女が持って来た薄い本の一冊はレリウス司祭の経歴が書かれた教会に保管されている資料だった。他の二冊は直近に書かれた職員の報告書である。


「えっと……」


 資料を開いて読もうとするグレンの背後から何者かがすっと近づく。


「レリウス・オルセン。ガルバルディア帝国の西にある辺境の地領主ガーランド公爵に仕える下級貴族の家出身。年齢は三十六歳。家は貧しく八歳で主の元へ奉仕へと出される。後に一時的に教会から離脱し魔王討伐軍に参加。戦後、自ら開発局に志願しノウレッジ大陸へ……」

「へっ!?」

 

 背後で何者がいきなりしゃべり出し驚いて振り向くグレンだった。彼の背後には……


「あっアーラさん!?」


 グレンの真後ろにアーラが立って居て資料を覗き込んでいた。グレンは彼女に気づくと顔を真っ赤にして驚いた顔をする。恥ずかしそうに顔を真っ赤にしてアーラを見つめるグレン、彼を見たキティルとクレアは顔をしかめていた。


「ふふふ。クレアさん、グレンさん、その資料はギルドから持ち出し禁止ですよ」


 アーラはグレンの見てほほ笑み、テーブルの上に広げられた資料を指して優しく注意するのだった。笑顔のアーラに安心したのかグレンは軽口を叩く。

 

「残念。まだ持ち出してねえよ。ここは敷地内だろ?」

「そうですよー」


 冒険者ギルドに併設されている酒場なので、敷地内であり持ち出してないと主張するグレンとクレアだった。キティルは二人の態度に気まずそうにする。


「もう…… ティラミス様と同じようなことを言うんですね…… ふふふ。しょうがないですね」


 あきれたアーラは笑って椅子を引くとキティルの隣に座った。アーラの行動に三人は驚いた。


「アーラさん? なにを?」

「資料を持ち出さないか監視です…… いけませんか?」


 首をかしげるアーラにグレンとクレアは顔を見合せた。小さくうなずいて二人は前を向く。


「しゃーない。別に聞かれてまずい話はないしな」

「えぇ。それにアーラさんに詳しい話を聞きたいこともありますしね」


 二人の言葉ににっこりと微笑むアーラだった。彼女は隣にいるキティルに目を向けた。


「こちらは?」


 キティルを手で指してグレンとクレアに尋ねるアーラだった。


「冒険者のキティルだ。キティル。この人はアーラさん。この冒険者ギルドのサブマスターだ」

「キティルです。よろそくお願いします」

「よろしくお願いいたします。キティルさん…… あぁ。あなたがあの勇者オリビアを付き従えている凄腕の冒険者さんですか」

「そっそんな…… むしろオリビアちゃんには助けられてばかりで……」


 凄腕の冒険者と言われ恥ずかしいするキティルだった。アーラは本を一冊持って目を通した後に顔をあげグレンとクレアを交互に見た。


「資料をご覧の通りレリウス司祭様はガルバルディア帝国の出身です。彼が帝国の意図で動いていることは間違いないでしょう」


 テーブルの資料を見ながら話すアーラ、彼女の言葉にグレンとクレアは静かにうなついた。


「後はなんで帝国が砂塵回廊に鎧に送りたいかだよな」

「そうですね…… それと…… 気になるのは……」


 報告書を持ち上げ中身を見るクレアだった。ページをめくってすぐに手を止めグレンに向かって差し出す。そこにはミナリーがロックに襲われた時の詳細な報告が書かれている。


「これによると先日。ミナリーさん達が銀色の腕を持つ帝国兵士に襲われたようです」

「銀色の腕…… イプラージか? それとも白銀兵(シロガネヘイ)か」

「どうですかね? 撃退した人に聞いてみましょう。ねぇ。アーラさん?」

「ふふふ。報告書の通りですわ。左腕だけが銀色で膨大な魔力を放出していました」


 顔をアーラへと向けたクレアだった。アーラは微笑むと帝国兵ロックと対峙した時のことを話した。


「左腕のみ銀色…… イプラージとも白銀兵とも違うのか……」

「イプラージ…… アルファーブル様による薬師学術法が定めた第十六禁忌薬ですね。やはりゴールド司教様を……」

「あれぇ。それはどうでしょうかね。ねぇグレン君」

「あぁ。あれは誰も関与しない話だしな」


 アーラの言葉を遮ったクレアはグレンと顔を見合せて笑うのだった。二人の様子を見たアーラは納得したように微笑むのだった。キティルだけが意味がわからず首をかしげていた。

 クレアは報告書をめくって話を続ける。


「第三統合軍の動きも気になります。ランドヘルズでは砂上船を買っているようですね。グレゴリウス皇子、砂上船、そして鎧の件と…… 多くの部隊が様々な活動しているようです」

「あいつらの目的はグレゴリウスだけじゃないと…… 他にも何かあると……」

「えぇ。アランドロが私を狙ったのもおそらく…… ノウレッジの情報を得たかったんだと思います」


 難しい顔で考えこむグレンとクレアだった。アランドロはグレゴリウス以外にも、ノウレッジで何かをしようとしているのは確かだったが彼の目的はわからない。

 クレアは報告書を静かに閉じてテーブルに置く。


「ここで分かるのはこれくらいですね。後は動いて調べてみましょう」

「あぁ。そうだな。まずはキティルをドラゴンスローン洞窟に連れて行こう」

「はい」


 グレンの言葉に大きくうなずくクレアだった。資料を返却したクレア達はドラゴンスローン洞窟へと向かうのだった。

 通りに出て並んで歩く三人。グレンが中央でクレアとキティルは彼の斜め後ろを歩いている。グレンは頭に両手を持って行く。


「いやぁ。しかしアーラさん…… 急に現れてびっくりしたぜ。タワーかと思った…… なっなに?」


 歩いていたクレアがグレンの側に来て、眉間にシワをよせ彼の顔を横から覗き込んだ。クレアの行動にグレンは困惑した表情を浮かべている。


「彼女が現れてすぐ鼻の下を伸ばしてそっちの心配でしたよ!」

「そうですよ!!! にやにやして! グレンさんはあんな人が良いんですか?」

「なっなんだよ。二人して!」


 反対側にいたキティルもグレンの横に来て怒った顔で彼を見つめる。

 キティルにもグレンが怒られたことに、クレアは満足したのかすぐに彼か離れて前を向き真剣な表情をする。


「まぁでも本当に気をつけてくださいね。彼女に余計なこと言わないが方が良いです」

「なんだ!? アーラさんが何か?」


 首をかしげるグレンにクレアは小さくうなずいた。


「えぇ。アーラさんはカイノプス共和国秘密諜報部隊ブラックウィドウの一人ですよ。どこかで見たと思ってましたが……」

「えっ!? じゃああの人はスパイなのか?」

「ちょっと違いますかね。きっとレリウス司祭やゴールド司教と同じですよ。今は教会に仕えていてもいざとなれば祖国のために動く…… まぁとりあえずは味方でしょう。彼女からはかつての秘めた殺意のような物は感じられませんからね」

「ふーん…… とりあえず味方って…… 俺と義姉ちゃんもカイノプス共和国の人間なんだけどな」


 自分とクレアを交互に指すグレンだった。地域は違うが二人の故郷はアーラと同じカイノプス共和国だ。


「そうでしたね。でも私はテオドール…… いやもうノウレッジが故郷で良いですね」

「ははっ。俺もだ」


 空を見上げ笑うクレアにグレンも自分を指して笑った。顔を見合せ笑い合う二人の背中をキティルは少しだけうらやましそうに見つめていた。

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