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第138話 白銀の左

 広場から離れた屋根の上、両肩にエミリアとミナリーを乗せたベルナルドが屋根を駆けて必死に逃げて来た。

 

「えっほえっほでがんす。ここにきて一週間…… 姐さんのことバレるの早かったでがんすね」

「ここの行政官は帝国出身だからねぇ。思ったよりは遅かったよ」

「まぁ。あっしらはぼっちゃんが守れればいいでがんすからね」

「そうだねぇ」


 走りながら会話するミナリーとベルナルド、エミリアは二人に申し訳なさげにしていた。


「でもミナリー達が今日みたいに危険な目に合うのは嫌だな……」

「なーに言ってんだい! あたいらはあんたにとことん付き合うって決めてるんだからいいんだよ!」

「そうでがんす。ぼっちゃんが自分の希望を言ってくれてあっしは嬉しかったでがんす!」


 二人は笑顔でエミリアに答えていた。直後に二人の表情が変わり、厳しい顔で視線を横に向ける。


「来るよ! またあたいが足止めする。下ろしな!」

「がってんでがんす!」


 立ち止まったベルナルドはすぐにミナリーを下ろした。すぐにベルナルドは駆け出し、屋根から静かに降りて人ごみの中へと消えて行った。

 屋根からその様子を見ていたミナリーは静かにうなずき振り向いた。彼女の五メートルほど後方にロックが立って居た。


「おや…… 他の方は?」

「残念だったね。あいつらはあたいを置いて行ったよ。ノウレッジで知り合ったやつらは薄情なもんだ」

「ほざくな! あの獣人は下級騎士のベルナルド!! お前の護衛だろう!!!!」

「おやおや…… 面白いこというねえ。帝国軍人様は護衛対象を見捨てるほど落ちぶれたのかい?」


 とぼけて笑うミナリーにロックは静かに怒り剣に手をかけ引き抜く。ミナリーは笑って彼を見ながら手をそっと腰のベルへかけた。ロックは彼女の動き見て足を踏み出して駆け出し瞬時に距離を詰めた。


「いつまで笑顔でいられるでしょうかね」

「ずっとだよ!!!」


 剣を振り上げミナリーを見下ろすロックだった。視線を上に向けミナリーは左手で腰につけたベルの取っ手を叩いて鳴らした。二つのベルが同時になって重なった音色が響く。

 

「なっ!?」


 ロックの振り下ろした剣がいきなり現れた砂の壁に当たった。砂は下から上に流れるように上り透けるほど薄いが強度は高くロックの剣は止まった。


「クッ!? はっ!? 後ろも!?」


 下がろうとしたロックだったが、背中に何か当たる感触がして振り返った。砂の薄い壁はミナリーを囲ったのではなく、ロックを囲んで彼は閉じ込められたのだ。

 砂の壁に閉じ込められ悔しそうにロックはミナリーを睨みつけていた。ミナリーは二メートルほど後ろに下がり屋根のヘリにたつと勝ち誇ったように笑って右手をあげた。


「じゃあ、あたいは行くわ。しばらくしたら…… はっ!?」


 目を見開き固まるミナリーだった。砂の壁からロックの左腕が突き破って飛び出していた。彼の左腕は銀色になっており殴って壁を破壊したのか拳が握られていた。

 ロックが呆然とするミナリーへ視線を向けた直後に砂の壁は音を立てて崩れた。


「ただの人間が…… 偉そうに……」


 左腕で砂を払うロックだった。彼の左腕は肩まで銀色になっており、破れて軍服が肩の周りで風になびいている。


「その左腕…… あんたも特殊能力を……」

「特殊能力? はははっ! いつまでも魔王との引きずる愚かな旧人類め!」

「なっ!?」


 ロックの左腕を前に突き出した。彼の腕が柔らかく鞭のようにしなりが伸びた。伸びたロックの左腕はミナリーの足へと伸びる。


「しまった!」


 不意をつかれたミナリーは足首を掴まれ、そのまま持ち上げられてしまった。ミナリーは腰にさしているサーベルへと手を伸ばした。


「無駄ですよ。このまま地面に叩き落としてあげますよ」

「ふん! だったらグレ坊の居場所はわからないよ」

「構うものですか! ベルナルドを捕まえて拷問すればいい!」

「チッ!」


 悔しそうに舌打ちをしたミナリーは逆さに吊るされた中で、必死にサーベルと抜くとロックに左腕に斬ろうと構えた。


「だから無駄だと言っているだろうが!!!」

「うあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」


 ロックは左腕をいきおいよく振り下ろした。彼の左腕をはいきおよく伸びて行き、ミナリーは声をあげながら屋上から地面へと向かって行く。

 

「えっ!?」


 体が上下に揺れミナリーの動きが止まった。サーベルと握った彼女の右腕の手首に白い糸が絡んでいた。


「また…… あなたですか?」


 苦い顔で視線を後ろへ向けるロック、彼の背後に背中の足を広げた通りの向こうの建物足をかけた状態でアーラが浮かぶように立って居た。彼女の右手は鉄扇をロックの首の横に突きつけ、左手はミナリーに向けられ左手に握られた鉄扇の先に糸が巻き付き伸びている。

 ロックの耳元でアーラは静かに口を開く。


「彼女を離さないととこのまま喉をかっきりますよ」

「ふっ!」

「うわ!!」

「!!」


 言われた通りにロックはミナリーから手を離した。しかし、彼は手首を動かし放り投げるように手を離したためミナリーの体は投げ飛ばされた。アーラの視線がわずかに投げ捨てられたミナリーへ向かった。

 ロックの左腕をしなりながら元の長さえと戻って来る。彼は戻る腕を見てタイミングを合わせて腕を軽く上に動かした。


「おりゃ!」

「キャッ!」


 戻りなが腕が鞭のようにしなってロックの喉元にあったアーラの鉄扇を弾いた。彼は前に走って逃げだす。

 

「おっと! ダメだよ!」

「なっ!?」


 逃げようとしたロックの前に尖った砂の槍が飛んで来た。彼の足元で砂の矢がささりすぐに消えた。逃げようとしたロックは足を止めた地面を見て顔を上げた……


「よくもやってくれたねぇ。あんた!!」


 顔を前に向けたロックの前にサーベルとベルを持った砂に乗ったミナリーが居た。彼女は飛ばされた後にベルを鳴らして砂の集め波のようにして自分を乗せたのだ。

 悔しそうに前を見つめるロックだった。


「終わりにしましょうか」


 背後で声がして視線を後ろに向けるとロックの後ろには、アーラが両手に鉄扇を持って構えている。前と後ろでロックは挟まれてしまった。状況を把握した彼はニヤリと笑って眼鏡のツルを左手で押して直す。


「さすがに特殊能力者を持つ二人を相手にするのは分が悪いですね……」

「えっ!? クソ!」

「逃がしません!」


 ロックの左腕が黄色く光り、彼は上から下に縦に動かした。目の前の空間が二メートルほど裂け黄色い光が漏れだした。ロックはニヤリと笑ってその空間に飛び込んだ。

 アーラは鉄扇を投げミナリーは砂の槍を飛ばしたが、ロックと空間の裂け目は消えてしまった。砂の矢と鉄扇はぶつかり、砂の槍は砕け鉄扇は地面に落ちて音を立てる。


「転送ゲートを一瞬で作り出した…… すごい魔力を持っていますね……」


 難しい顔をしてロックが居た場所を見つめるアーラだった。ミナリーは砂から降りると駆け出してアーラの元へと駆け寄る。途中でミナリーはアーラの鉄扇を拾い彼女の元へとやってきて畳んだ鉄扇を差し出す。


「いやぁ。姉ちゃんありがとう。助かったよ……」

「いえ…… わたくしたちは冒険者を支援するのも仕事ですから」

「ははっ」


 鉄扇を受け取りにっこりと微笑むアーラだった。鉄扇を受け取った彼女の体がわずかに沈み足がつくと背中の生えていた足が縮んでなくなった。

 ミナリーは彼女を見て小さくうなずいた。


「なるほど…… あんた…… カイノプスのブラックウィドウだろ?」

「えぇ。そちらは帝国海軍提督のご息女ミナリーさんですわね。本当に噂通りのお転婆さん」

「そっちもな…… お上品なやつらって聞いてたんだけどな」

「ふふふ」


 ほほ笑むアーラにミナリーは首をかしげて尋ねる。


「あたいらがここで何をしているのか聞かないのかい? それにあいつが何者かとか?」

「あの殿方は帝国第三統合軍のロック上級中尉ですね。おそらくは行方不明となったグレゴリウス皇子の捜索にいらして…… 一番近いあなたを見つけてやってきたというところでしょう」


 ロックの正体から目的をあっさりと言い当てるアーラだった。彼女は視線をミナリーに向けた。ミナリーはアーラの言葉に驚いたがアーラにさとられないように必死に平静を装っていた。アーラは優しくほほ笑み話を続ける。


「それと…… わたくしは今は冒険者ギルドの職員ですわ。過去と実績は問いませんよ。最初に言われましたでしょ?」

「あっははははは。そうだったねぇ。じゃあ世話になったね」


 ミナリーはアーラの言葉を聞いて笑顔になると右手をあげ挨拶をした。去ろうとする彼女をアーラは慌てて止める。


「あっ! お待ちください! 昼食のお代を支払いますので後で冒険者ギルドへお越しください」

「おうよ。じゃあ後で邪魔させてもらうよ」


 右手を振ったミナリーは屋上から飛び降りると町の中へと消えていった。アーラは彼女の姿を見送るのだった。

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