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第136話 路地裏の名店

 サンドロックの冒険者ギルド前にティラミスとアーラが立って居た。二人は誰かを待っているようだ。


「遅れました。申し訳ありません」

「大丈夫です。行きましょう」

「はい」


 扉を開けてタミーが出て来て二人に声をかける。二人は笑顔で彼女に向かってうなずくのだった。

 ティラミス、アーラ、タミーで遅めの昼食を取りに行こうとしている。多忙な三人は昼食がずれる時が多く、よくこうして三人で連れ立って食事に行く。


「クレアさんからの連絡はなんでした?」


 歩きながらタミーに尋ねるティラミス、三人が冒険者ギルドを出る直前にランドヘルズからタミーへ連絡があった。


「はい。クレアさんからはジーガーの鎧を貸してほしいというものでした。なんでもシルバーリヴァイアサン対策で雨天蓋へ向かう船の砂クジラに使うそうです」

「えぇ!? 砂クジラさんに!? 大丈夫なのかな。それにジーガーの鎧の使用許可ですか……」


 ティラミスは驚いた後に視線をアーラへと向けた。アーラは静かにほほ笑み口を開く。


「シルバーリヴァイアサンの対処に使うのであればよろしいかと…… ただし終了後の返却を条件にしておきましょう」

「そうですね…… じゃあ後で許可を発行するので輸送の手配をお願いします」

「かしこまりました。では、タミーさん後でクレアさんに返事をしておいてください」


 うなずいてティラミスに返事をするアーラだった。ティラミスはすぐにハッとした表情をして立ち止まった。


「あっでもその前に…… 聖騎士さん達から鎧を返してもらわないといけませんね」

「そうですわね。そちらの手配もすぐに……」

「お昼が終わったらお願いします! じゃあこっちですよ!」


 三人はティラミスの通りを進みさらに小さな路地へと入る。アーラは首を傾げてティラミスに尋ねる。


「あら!? こちらですか? この辺に食堂はなかったような」


 不安な様子のアーラにティラミスは振り向いて笑顔を向ける。


「えへへ。この先の広場にある新しいお店があるんですよ。最近できた屋台ですごく美味しいらしいです。特にワンダーパーチと野菜の砂蒸しが絶品との情報です」

「へぇ。それは楽しみです」


 得意げに語るティラミスにアーラは微笑むのだった。なお、彼女らの少し後ろにいるタミーは不安げな様子で周囲に目を配らせてるのだった。おそらくティラミスが道に迷わないかタミーは心配しているようだ。ティラミスにはなぜか冒険者ギルドの職員から美味しい食堂や店の情報が集められる。また、彼女に対して職員からの菓子などの差し入れも多い。

 路地を抜けると小さな広場になっておりぽつんと屋台が一軒だけ出ていた。屋台の前には丸い四人掛けのテーブルが五席ほどあり二組が食事をとっていた。昼時が忙しかったのか裏では大きな体の獣人が皿を必死に洗っている姿とテーブルを拭く小さな女の子の給仕の姿が見える。

 

「へいいらっしゃい! 適当に座っておくれ」


 三人が屋台に近づくのに気づくと、テーブルを拭いていた小さい女の子が振り向いて威勢よく三人に声をかけた。近くのテーブル席に三人は座った。すぐに女の子が注文を取りに来る。彼女が給仕係のようだ。


「待たせたね。注文はなんでぇ?」

「ワンダーパーチと野菜の砂蒸しを三つください」

「へい。特製ソースと塩があるけどどうするんだい?」


 メモを取りながら女の子は三人に尋ねる。ティラミスは二人の顔を交互に見た。二人は少し困った顔をしていたほほ笑んだティラミスは女の子に軽やかに返事をする。


「私たちは初めてなんでおすすめを教えてもらっていいですか?」

「そりゃあ。うちのシェフが作る特製ソースよ。少し辛めのソースにゴロゴロ野菜の自然なうまみが溶け出してほっぺたがおっこちること間違いなしだぜぇ」

「じゃあソースでお願いします。お二人は?」


 女の子におすすめを聞いたティラミスはタミーとアーラに返事をうながした。タミーとアーラは順に答える。


「同じので大丈夫です」

「では、わたくしはお塩でお願いします」

「おうよ! ソース二つに塩一つだね。じゃあお嬢ちゃんたちちょっとお待ちなせえ!」


 威勢よく右手をあげると女の子は屋台へと向かって行くのだった。彼女の背中をアーラが見つめていた。


「カイノプス共和国の訛ですね…… 少し懐かしいですわ」

「アーラさんはカイノプス共和国のギント出身でしたもんね…… ってじゃあ昔はあんな訛ってたんですか?」

「えぇ。ノウレッジに来る前にお姉さまに大分しごかれましたわ」


 ほほ笑んで小さくうなずき懐かしそうに答えるアーラだった。注文を受けた女の子は屋台の前で覗き込むような仕草をする。奥に居るシェフの少女が立っていて彼女の前に、グレートワインダー砂漠の砂で作られたかまどが置かれている。


「エミリア! 砂蒸し三つ。ソース二つにひおしと…… おっと! 塩一つだ」

「はーい。ソース二つにお塩一つね」


 キッチンコートにコック帽子をかぶったエミリアが返事をした。ティラミス達を接客した給仕係はミナリーだ。この屋台はエミリアが出店していたものだった。彼らは帝国の目を欺くために、テオドールを出た後は記録の残る冒険者の仕事は極力避けエミリアの料理で旅の資金を調達していた。エミリアの後ろでは必死にベルナルドが皿を洗っている。エミリアの前に置かれたかまどはミナリーの特殊能力で作り出したものだ。グレートワインダー砂海の砂で作ったかまどなら、客の目を引けるというエミリアのアイデアでよって生み出された。

 しばらくして…… テーブルに座る三人に風に乗り魚とハーブの香りが漂って来る。


「出来たよー!」

「おうよ」


 屋台の台の上に料理を並べていくエミリアだった。返事をしたミナリーが皿を持ってティラミス達の席へ向かう。


「はい。お待たせ。ワンダーパーチと野菜の砂蒸しでい」

「わー!」


 目を輝かせるティラミスだった。彼女の目の前の皿には分厚く斬られた白身の魚の上にゴロゴロと大きく斬られた野菜が転がり、野菜と魚の上から薄く赤色で刻んだ野菜が入ったとろみのついたソースがたっぷりとかけられていた。

 ミナリーはティラミスの次にタミーの前に料理を置き、最後にアーラの前に皿を置く。


「ほい。こっちは塩だぜ」

「ありがとうございます」


 湯気を立てる白身の魚に野菜が転がる皿に塩が振られ輝いて見える。料理を見た三人は期待した様子で口に運んだ。


「うーん!!! 美味しい!」

「はい。淡白なワンダーパーチにソースが絡んで…… これはすごい」

「蒸し加減に塩加減…… 柔らかすぎず薄くも濃くもなく…… 絶妙ですわ。こちらのシェフはかなりの腕前をおもちの方ですわね」


 三人がエミリアの料理を食べてうなりを上げている。三人の様子を見てミナリーは満足げにうなずき屋台から見ていたエミリアも安堵の表情を浮かべるのだった。

 

「申し訳ありません。ティラミス様、一口いだけますか?」

「えっ!? もちろん! わたしもそっちを食べてみたい!」


 アーラはフォーク乗せた魚の切り身をティラミスの皿へ移動させ料理の交換を提案した。ティラミスはすぐに応じ、自分もアーラと同じようにソースがかかった切り身をフォークに乗せ彼女の皿へと移す。


「タミー様もどうぞ」

「えっ!? 申し訳ありません」


 にっこりと微笑みアーラはタミーにも同じことをする。三人は塩とソースの二つの味を分け合うのだった。


「ふぅ。美味しかった」

「えぇ。素敵なお料理でした。ありがとうございます。ティラミス様」

「いやぁ。私は何もしてません。教えてもらっただけですから」


 食事が終わってゆっくりとする三人だった。そこへ……


「お邪魔しますよ!」


 軍服にマントをつけ細長い剣を腰にさした、男女五人が広場に入って来て大声をあげる。入って来た五人は通り道にあったテーブルや椅子を蹴り飛ばしたり乱暴にどかしている。


「…… コク」


 ミナリーは五人を見てすぐにベルナルドに目で合図を送った。ベルナルドがうなずくと彼女は前に出て五人を怒鳴りつけた。


「おう! 邪魔するならけえれ!!」

「なっ!?」


 腕を伸ばし五人が来た道を指し威勢よく叫ぶミナリー、五人は驚いて立ち止まって困惑した顔をする。五人のマントには帝国のレッドイーグルが見えるそう彼らは帝国軍の人間だ。ミナリーは彼らの正体に気付き注意を自分に引こうとしているようだ。


「ここは屋台なんでね。食事を楽しむお客さん以外はお断りでぇ」

「ふっ…… ミナリーさん…… 海軍提督の娘がこんなところで屋台の給仕とは落ちたものですね」


 軍服を着た男の一人が前に出て来た。小呂湖は眼鏡をかけ黒い瞳の目が細い青年だ。彼の名前はロック帝国軍の第三統合軍の第一特別捜索隊の上級中尉である。


「へん! だったらなんでぇ? ここは新大陸だ。ガルバルディア帝国でのあたいの身分なんて関係ないんだよ」

「そうですか。じゃああなたを捕まえてグレゴリウスの場所を吐いてもらいましょう!」


 ロックが右手をあげると他の四人が一斉に剣を抜く。ミナリーは腰につけていたベルに手を伸ばすのだった。

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