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第133話 子供じゃないもん

 ドラゴンスローン遺跡からグレン達はサンドロックへと帰還した。報告へ向かうタミーに付き添い二人はギルドマスターの部屋へ向かう。日が落ち傾いた夕方の長い影が廊下にできていた。

 ギルドマスターの部屋の前でタミーが扉をノックした。


「あれ!? 返事がない?」


 首をかしげるタミー、ノックをしたが返事がなく困惑した表情を浮かべている。


「確か…… 今日はどこにも行く予定が…… そもそも報告に来いと言ったのはティラミスさんから……」

「どうした?」


 困惑するタミーにグレンが尋ねる。タミーは扉か手をはなしグレンに顔を向け答える。


「いえ…… 部屋から返事がなくて……」

「報告しろって言われたんだろ? だったら先に入って待ってようぜ」

「あっ!? ちょっ!?」


 グレンが前に出てタミーの横から扉を開けて中へと入った。


「入るぞ……」

「わっ! おかえりな…… はううう!? キャッ!」

「なっなんだ!?」


 壁からいきなりティラミスが、飛び出して来てグレンを見て驚いて声をあげ尻もちをついた。どうやら彼女は横から飛び出して、タミーを脅かそうとしていたようだ。しかし、部屋に入って来たのはグレンだった。

 尻もちをついたティラミスは後ずさりする。ピンク色の下着が裾の間から見えてグレンは気まずそうに頭をかく仕草をする。


「もうグレン君! 子供を怖がらせちゃダメじゃないですか! ごめんさない。大丈夫ですか」


 ティラミスの悲鳴を聞き、クレアは部屋に入って来て彼女を見てグレンに注意した。クレアはすぐに倒れたティラミスの前でしゃがんで声をかけた。


「こっ子供!? 子供じゃありません!!」


 ティラミスが叫びながら立ち上がってクレアに抗議しようとする。


「もう! この中じゃ私が一番年上…… ヒッ!」

「なっなんだよ……」


 しゃがんだクレアの後ろから、グレンが顔をだすと怯えるティラミスだった。彼女は涙目でグレンを見つめている。子供のようなティラミスに泣き出されそうになり気まずいグレンだった。


「あらぁ。ごめんなさい。クレア様、グレン様。だからおふざけはおやめなさいって…… さぁ、ティラミス様、早くお席に戻って……」

「うぅ…… はい」

 

 部屋の奥からアーラが近づいて来て丁寧にグレンとクレアに謝罪する。彼女が現れて恥ずかしそうにするグレンとその彼を見て苦々しい顔をするクレアだった。

 アーラに注意されしょんぼりとうつむいて自席へと戻ろうとティラミスだった。グレンはティラミスを指してアーラに尋ねる。


「アーラさん…… こいつは?」

「こいつ…… 失礼な! 私はティラミス! サンドロックの冒険者ギルドのギルドマスターですよ!」

「えっ!? ギルドマスター!?」

「はい。当ギルドのマスター、ティラミス様ですわ」


 冷静に丁寧に答えるアーラだった。驚くグレンにティラミスは腰に手をあて胸を張って得意げに答える。


「へへん。驚きましたか? 私はあなた達の上司であるテオドールのキーセン神父よりも先輩なんですからね!」


 鼻息が荒く自分はテオドールのキーセン神父よりも先輩だと自慢するティラミスだった。ティラミスとキーセンは年齢は一つしか違わないが、ティラミスは幼い頃から教会で主に仕えているので十五歳から主に仕えたキーセンより彼女が先輩なのは事実である……

 ティラミスの後ろからアーラそっと忍びより両肩をつかむ。肩を掴まれたティラミスは振り向くとにっこりと目が笑っていないアーラが微笑んでいた。


「ふふふ。ティラミス様…… 七年も先輩なのに同じギルマスターなんだからそんなこと自慢になりませんよ」

「うっ…… でも…… 私の方が……」


 声が小さくなるティラミスにアーラはさらに口を開く。


「それに…… 早く中級神官試験に受からないとキーセン様に先を越されますよ。優秀ですからあちらは」

「うぅ…… 試験の話はしないでください……」

「では…… お席に着きましょうねぇ」

「ごっごめんなさい……」


 痛いところを突かれたティラミスは意気消沈し彼女の言う通りにするのだった。

 しょんぼりとして自席に戻るティラミスを見送るアーラ、グレン達は呆然と彼女達のやり取りを見つめていた。アーラはそんなグレン達に優しくほほ笑み声をかけるのだった。


「では皆さんもどうぞこちらへ」


 ティラミスが席に戻るとアーラは彼女の机の前に三人を呼んだ。三人はアーラに促されティラミスの机の前に並ぶ。

 アーラは三人が並ぶと机の横に立ち、手を前に出して合図を送りティラミスに話すように促す。


「ドラゴンスローン洞窟の調査お疲れまでした。報告を聞かせてください」

「はい!」


 タミーがドラゴンスローン洞窟にあった絵についてティラミスとアーラに報告した。


「ありがとうございます…… 他に武具や鎧などはありましてでしょうか?」

「いえ発見できませんでした」


 首を横に振り回答したタミーにアーラは少し安堵したかのような表情を浮かべる。彼女は部屋にテーブルへ行くと置かれていた一枚の紙を持って戻って来た。

 アーラは静か紙を机の上に置いた。


「では…… 皆さまこちらをご覧ください」

「これはジーガーが着ていた鎧の……」

「はい。詳しくは調査中ですが現在わかっていることですわ」


 小さくうなずくアーラだった。彼女が机の上に置いたのはジーガーの鎧についての報告書だった。アーラは書類に視線を向け口を開く。


「鎧には未発見の素材が使われているようです。素材はグランド鋼と似た伸縮性のある魔法金属ですが…… 魔力の内蔵量が段違いのようです」

「新しい金属…… おそらく古代文明の技術で…… しかもジーガーが使える……」


 クレアは難しい顔をして考え込んでいる。少ししてから彼女は口を開く。


「この情報が外部に漏れると…… サンドロックに人が殺到しますね」

「はい…… おそらくは……」


 アーラはクレアの言葉に同意した。話を聞いたティラミスは嬉しそうに笑う。


「おぉ! シルバーリヴァイアサンで遠のいていた人がたくさん来るってことですか? 新しい冒険者さんもいっぱい来てくれますね」

「ふふふ。そうですね。ただ…… 武器や防具の新発見は気をつけないといけませんよ」

「どうしてですか?」


 首をかしげるティラミスにアーラは優しい口調で答える。


「いまだに世界は魔王との戦いの傷から癒えていません。ジーガー程度の人間が使いこなせる強力な武具の発見は世界の情勢を変えてしまうかも知れません」

「あっ! そっか…… そうなれば武具の奪い合いに…… それは困ります。サンドロックは厳しい環境なんですから皆が協力しないと……」


 暗い顔をするティラミスに優しくほほ笑むアーラだった。

 ノウレッジで武具が見つかることは珍しくない。ただ、見つかるのは時代が古く劣化した武具が多く、強力な物が見つかったとしても使いこなせる者は限られていた。

 今回のジーガーが身に着けていた武具はグレンの攻撃でも傷がつかないほど強力であり、ただの海賊である彼が使用できており人の体形も選ばないと汎用性が高い。そのような武具が見つかることは珍しく、万が一大量生産された物が見つかれば四大強国の介入は免れない。


「うーん…… どうしたら良いでしょう。冒険者さんに教えればみんな喜ぶでしょうけど……」


 腕を組んで悩むティラミスにアーラは静かに口を開いた。


「隠していてもいずれ情報は外にでてしまうでしょう。であれば積極的に開示していく方が良いですわ…… ねぇ? クレアさん?」

「えっ!? そうですね。隠すより情報を出して各国が互いに牽制しあうのでそちらの方が良いかと…… それに冒険者さんたちに情報をあげないのはギルドの方針にも反しますね」


 話を振られたクレアはアーラに同意した。ティラミスは二人の意見を聞いて大きくうなずいた。


「わかりました。アーラさん。今の報告書の情報を精査して開示してください」

「かしこまりました」


 丁寧に頭を下げて返事をしたアーラだった。つまらなそうに話を聞いていたグレンは右手を上げた。


「じゃあ俺達はもう……」

「お待ちください。グレン様…… あなた達には明日ランドヘルズへ向かってください」


 アーラはグレンを引き止めて次の仕事を依頼する。グレンはランドヘルズという地名に聞き覚えがあった。現在キティルたちが滞在している町だ。


「何かあったのか?」

「はい。砂上船の手配に行ったキティルさん達を助けていただきたいのです。難題をラウル様から受けているうようで…… よろしいでしょうか?」


 キティルと言う名前が出て、すぐにグレンとクレアは顔を見合せてすぐに返事をした。


「わかった…… 行って来る」

「よろしくお願いいたします。では今日は解散です」


 アーラはグレンとクレアに深く頭を下げたのだった。二人はティラミスの執務室から出ていった。


「聡明で…… 公平な目を持つ良い方々ですね。特に殿方はすごい才能にあふれている…… それにすごい優しい」

「そうですか? 怖い人にしか見えなかった……」

「ふふふ。彼は常に一歩さがってクレアさんを視界に入れてましたよ。いつでも彼女を守れるように……」

「えぇ!? そうなんですか?」


 優しく笑うアーラに驚いて首をかしげるティラミスだった。タミーは静かにうなずくのだった。

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