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第130話 シルバーリヴァイアサン

 海賊たちを撃退したグレン達は負傷者の保護と死体回収の仕事が増えた。グレン達は話し合いクレモント洞窟の調査を後回しにして、負傷者の保護と死体回収を優先することにした。

 

「うわぁ……」


 洞窟を抜けたグレンに太陽が照り付け、思わず彼は額に手をかざし目を覆った。わずかな時間とはいえ暗闇を抜けて来たグレン達に砂漠の太陽はまぶしすぎたのだ。二つの棺桶を引っ張るグレンの横には一緒に洞窟から出て来たタミーと斜め後ろに女性冒険者に肩をかしているクレアがいた。ジーガーは一緒に運べず縄で縛って動かなくしクレアの魔法で眠らせて洞窟の中に放置してある。

 洞窟の先は岩山の頂上で平坦な岩の地面が左右に広がり十メートルほどなだらかに降った先に砂海が広がっている。目が慣れるまで細くしながら辺りを見渡すグレン、彼の視線の先に巨大な砂の壁が見え思わず彼は声をあげた。


「すごい…… あれが…… 雨天蓋か?」


 呆然と砂の壁を見つめるグレンがつぶやく。彼の言葉にタミーがうなずいて反応する。


「はい。モニー浮遊島から溢れ落ちる砂の滝それが雨天蓋です」

「ほえぇ。砂の滝ですか…… 綺麗ですね。グレン君」

「あぁ」


 砂の壁は上から下へと落ちている砂の滝だった。雨天蓋は直径二キロほどの巨大な空に浮かぶモニー浮遊島と呼ばれる島から流れ落ちる砂の滝だった。砂の滝は薄く時おり風に揺れわずかに薄くなった先から、灰色の岩がごつごつしている島の下部が見える。ちなみにモニーとはこの浮遊島を発見した女性冒険者の名前である。

 滝の下はやや砂が盛り上がっているが、風によってすぐに砂が流され一定以上は大きくならない。モニー浮遊島の周囲は砂海が広がり、その砂海をせき止めるようにぐるっと四つの頂上が平坦な岩山が囲んでいる。雨天蓋から落ちた砂は風に流され四つの岩山の間からグレートワインダー砂海へと注ぐため溢れだすことはない。

 雨天蓋はモニー浮遊島と砂の滝ことだが、実は四つの岩山と下の砂海も含んでいる。


「グレートワインダー砂海の砂は雨天蓋から生まれて旅をして戻ると言われています」

「へぇ…… 島は人工物なんですかそれとも自然の?」

「おそらく古代文明が作ったと言われてます。ただウィンターツリー学園都市みたいな自然に出来たもっと大きな浮遊島もあるので…… まだまだ調査が必要です」


 タミーは雨天蓋から落ちる滝を見ながら話をしていた。


「うっ……」

「ごめんなさい。二人とも先を急ぎましょう」

「あぁ。悪い」


 日差しに照らされた女性冒険者が声をあげた。彼女は怪我の治療は終わったが衰弱しており安全な場所に移動し休ませる必要がある。

 グレン達は雨天蓋から離れ洞窟からほど近いメリル村へと向うのだった。

 メリル村はクレモント洞窟の出口から東へ一時間ほど歩くと着く。歩き始めてすぐ岩はなだらかに下りになり半分ほど岩山を下ると村が見えてくる。メリル村は岩山と岩山の間にあり目の前を川のように砂が流れている。この村の特産品は村の前を流れる砂から作るガラスとそれを使ったガラス工芸品だ。流れる川のような砂は上質なガラスの材料となり、作られたガラスは美しくそれを使った工芸品やステンドグラスは人気でノウレッジの内外から注文が絶えないほどの人気を誇る。

 グレン達は村に入ったガラス工芸などを見学するまもなく、保護した女性と死体を聖騎士へと引き渡しクレモント洞窟に拘束した海賊ジーガーの確保も要請したのだった。

 既に日が傾き夕刻が迫るなか三人はようやく雨の天蓋へと戻って来た。


「夕焼けだと赤く染まってこれはこれで綺麗ですね」

「そうだな」


 傾いた赤い日が空から舞い散る砂を照らし、キラキラと輝き幻想的な風景を作り出していた。グレンとクレアは並んで寄り添い雨天蓋を見つめていた。


「それで…… シルバーリヴァイアサンってのはどこに居るんだ?」


 静かに砂が舞い散る風景を見つめ横にいるタミーに尋ねるグレンだった。タミーは腕を前に出してモニー浮遊島の下を指すのだった。


「シルバーリヴァイアサンは雨天蓋の周り砂海の下を泳いでますよ……」

「ふーん…… これじゃ見るのも難しいか」

「魔物や人間が浮遊島に近づかないと姿は現しません」

「ふーん」


 つまらそうに頭の後ろに両手を持って行き口を尖らすグレンだった。シルバーリヴァイアサンは姿を現すのは魔物や人間がモニー浮遊島に近づいた時だけだという。


「あらあら。ジーガーさんを渡さないで餌にすればよかったですね」


 とぼけた顔で顎の下に立てた右の人差し指を当てている。グレンはあきれた顔で彼女に口を開く。


「義姉ちゃん…… 確かに排除確実でもそれはかわいそうだろ」

「なんでですか!? グレン君の真似なのに……」

「いくら俺でも魔物の餌にはしねえぞ。海に捨てるかも知れんが」

「たいして変わりませんよ!」


 口を尖らせるクレアに不服そうなグレンだった。タミーは二人のやり取りを見て笑っていた。


「大丈夫ですよ。おそらく…… すぐに来るはずです」

「えっ!?」


 タミーは笑いながら空を見上げている。グレンとクレアは首をかしげた。


「「!!!!???」」


 三人が大きな影が覆った上空を何か巨大な物が飛んで行ったのだ。


「グワアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


 咆哮が響く。頭の額から前にまっすぐに伸びた角が生え、首が長く背中に大きな蝙蝠のような膜の張った翼が生えた鮮やかな黄色の鱗の飛竜がまっすぐにモニー浮遊島へと飛んでいった。飛竜は尾が長く全長二十メートルはあろうかという大きさだった。


「あいつは……」

「イエローワイバーンです。この辺りで発見されている種では最強の魔物です」

「ふーん」


 現れたのはグレードワインダー砂海で、捕食者の頂点に立つイエローワイバーンだった。


「以前はイエローワイバーンの群れの一つがモニー浮遊島を根城にしていたんですが…… シルバーリヴァイアサンに追い出されてしまったんですよ」

「取り返そうとしているのか?」

「はい。それか…… 別の群れが奪おうとしているのかも知れませんね」


 モニー浮遊島へと飛んで行くイエローワイバーンをジッと見つめるタミーだった。


「来ますよ」


 ふわりと風が吹き抜けていくと、モニー浮遊島の手前の砂がうずまき始めた。うずは大きくなり直径は百メートルを超えている。


「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!」


 砂の渦の中からシルバーリヴァイアサンが姿を現した。神々しく光る銀の龍のような細長い体に尖った口から大きな牙にほん見える。目は真っ青で頭の後ろに二本の下に向かって湾曲した角が生えている。

 シルバーリヴァイアサンは首を上げ空へと体を伸ばしている。細長い体の頭の後ろに蝙蝠のような膜がはった翼が生え、そこから十メートルほど下にもっと大きな翼が生えている。

 砂から体の全体は出ていないが出ている部分だけでも三十メートルはあろうかという大きさだった。


「がうああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」


 イエローワイバーンが吠えた。直後に口から大きな火球を連続して吐き出した。四つの火の玉がうねりを上げながらシルバーリヴァイアサンへと向かって行く。


「キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」


 甲高い鳴き声がして青白くシルバーリヴァイアサンの体が光る。シルバーリヴァイアサンが口を開けた青い光線が伸びていく。首を大きく横に動かしシルバーリヴァイアサンは青い光線で火球へ向け薙ぎ払った。

 青い光線に触れると火球は全て爆発して消えていった。


「おぉ」

「すごい…… ここまで熱気と振動が……」


 クレモント洞窟は二頭が戦う場所からかなり離れているが、それでも眩い光と風と地響きがグレン達まで届いた。


「ぐあああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


 シルバーリヴァイアサンは口をあげ体を伸ばすとイエローワイバーンの喉元に噛みついた。そのまま首をまげ体を回しながら、イエローワイバーンの体に自分の体を巻き付けていく。


「ギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 悲鳴が轟くイエローワイバーンは動かなくなり、シルバーリヴァイアサンに巻き付かれたまま一緒に砂海へと沈んでいったのだった。

 グレンとクレアはその光景を呆然と見守っていた。

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