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第13話 補助

 草の上で気持ちよさそうにぐっすりと眠っているフレイムベア、黒い熱い毛に覆われ牙がやや長く額に一メートル近い角を生やしている。角を除いてもその体長は四メートルほどありかなり大きい。

 街道の周辺の草原と違いほとんど人が入らないこの辺りの草は長く一メートル以上はあり、前方の視界はほとんど草に覆われて見えない。インパクトブルーの三人がほぼ横並びで、ハモンドは彼らから一メートルほど離れた後方を歩き慎重にフレイムベアへと近づいていく。


「これで口と鼻を隠してください。ハモンドさん」

「えっ!? わっわかりました」


 フレイムベアから二十メートルほどのところで、タイラーが振り返りハモンドに赤いバンダナを渡してきた。見本を示すようにタイラーがバンダナを口元に巻いた。女性格闘家とレンジャーの男性も同じように赤いバンダナを巻いて口元と鼻を隠していた。

 三人の真似をしてハモンドもバンダナを口元に巻いた。四人はそのまま前進を続ける。

 インパクトブルー達の接近を察知のしたのか、フレイムベアの丸い耳がピクッとなって顔を上げた。

 のっそりと起き上がったフレイムベアは、四本足で歩いてインパクトブルー達に近づいてく。数メートル先で草がゆれたタイラーは背中から盾を出して左手に持って構え。直後に草をかき分けて黒い大きな塊のような、フレイムベアが横に揺れながら近づいて来るのが見えた。彼は盾を構えたまま剣を抜き、視線を左右に動かしパーティメンバーに声をかける。


「来たぞ! みんな」


 タイラーの声にインパクトブルーの二人が反応した。武闘家の女性は拳を上げて構えレンジャーの男性は短剣を抜き、左手には黒い手に乗るくらいの大きな玉を持った。ハモンドは三人から一メートルくらい後方で、右手に閉じた本の背を持って立っている。


「ブルルゥ」


 小さな声で鳴いたフレイムベアが立ち上がった。前にいる四人がフレイムベアを見上げる。フレイムベアは四人を見渡しすと、両手をあげて大きな巨体を揺らして鼻で息をして口を開ける。長い牙の先端からよだれが糸を引く。


「ガウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 草原にフレイムベアのうなり声が響いて、フレイムベアの角が赤く光りだす。


「行くぞ」


 タイラーの号令で女性武闘家とレンジャーが同時に走り出した。二人は左右に別れて挟むようにして、フレイムベアへと迫っていく。


「はあぁぁぁぁ!」


 フレイムベアの左から来た女性武闘家が飛び上がる。彼女は体を回転させて右足を大きく開くとフレイムベアの首筋を狙って蹴りを繰り出した。左前足を器用に折り曲げて首筋に持っていくフレイムベア。

 大きな音がして女性武闘家の右足とフレイムベアの前足がぶつかった。フレイムベアと女性格闘家の動きが一瞬だけ止まった。


「ほらよ!」

「ガフアアァ!?」


 レンジャーの男が左手に持っていた黒い玉を、フレイムベアの足元に向かって投げた。地面に転がった黒い玉はパンという音を立てて爆発した。破裂した黒いたまから、黒煙と激しく刺激的な臭いが周囲に撒き散らされた。咳きむような鳴き声をあげて後ずさりしていく。

 タイラーはそのスキをついて、フレイムベアの正面から突っ込む。盾をを前に出し剣を持った構えてフレイムベアへと近づく。

 だが、直後に激しくフレイムベアの角が赤い強烈な光だし炎が角から吹き出した。上空へとうねりを上げながら伸びる炎が黒煙を吹き飛ばす。フレイムベアは頭を下げて角を前に出した状態で体を回転させた。角から吹き出した炎がフレイムベアの周囲に漂っていた黒い煙を完全に吹き飛ばしてしまった。


「チッ!」


 振り回された炎で近づけない、タイラーが舌打ちをした。その音に反応して回転したフレイムベアの動きが止まり顔をあげた。フレイムベアとタイラーの目が合った。


「しまった!」


 目があった直後にフレイムベアは、駆けだし素早くタイラーとの距離をつめてきた。

 タイラーの直前で頭を下げ角の先端を下にむけ、タイラーの体が接触する直前に頭を上へとだしていく。しなったムチのように斜め下からタイラーに向かって角が向かってくる。


「こいつ…… ぶへええええええええええええええええええ!!!?!?!?」


 タイラーはなんとか反応して、盾を向かってくる角へ出して防ごうとする。大きな音が平原に響いた。しなりを上げる強烈な角の威力に、タイラーは耐えきれず上へと突き上げられてしまった。彼の盾はひしゃげ角を支えきれずに押し込まれた盾はタイラーの顔面を叩いた。

 角度がなくほぼフレイムベアの真上と飛んだタイラー、浮力を失った彼はフレイムベアのすぐ前に落下していく。下に向いている彼の手から剣が滑り落ちていった。盾はしっかりと握られているが、角が直撃した中心からやや上の部分が直径十センチほど丸くへこんでひしゃげている。落ちてくるタイラーに向かって一歩前に出たフレイムベア、角で突き刺さそうと先端を彼に向ける。


「タイラー!? この!!」


 女性武闘家がフレイムベアの横っ腹へ飛び蹴りをはなった。不意をつかれたフレイムベアはバランスを崩してよろけた。直後にタイラーがフレイムベアのすぐ近くに背中から地面に叩きつけられた。彼の右一メートルほどのところに剣が落下して地面に突き刺さっていた。

 よろけたフレイムベアは女性格闘家をにらみつけた。女性格闘家は右拳を前に出して構えた。

 フレイムベアから逃れようと、タイラーはすぐに仰向けになって這いずりながら前に出る。体を起こして数メートル先にいるハモンドに向かって手をのばす。


「はぁはぁ…… かっ回復を……」

「はい!」


 返事をしたハモンドは、本を左手で持ち本の上に右手をかざした。

 自動でパラパラとページがめくれて止まった。ハモンドが持っている本はただのアーリア教会の経典だが、聖女の力で魔法道具となっており、魔法紙に書かれた経典の字を、呪文を魔力が持った者がなぞると魔法を発動してくれる。魔法が使える修道士が好んで使う武器兼経典である

 ハモンドが持つ聖なる書が緑色の光を放つ。優しくじんわりと温かい光に照らされた、タイラーから痛みが消えて傷が癒える。


「おぉ! すごい! 動くぞ」


 傷が癒え元気に立ち上がったタイラーは、近くに落ちていた剣を拾い構えるとまたフレイムベアに向かっていった。彼の様子を見て満足そうにハモンドはうなずく。

 四人がフレイムベアと戦う様子を、グレンとクレアは並んで岩の上で見つめていた。


「さすがハモンド君だな」

「ハイプリーストにもなれる才能の持ち主ですからね。本当はずっと居てほしいんですけど…… ここでの修行が終わったら教会に戻っちゃうんですよねぇ」

「しょうがない。彼の本業は修道士だからな」


 グレンとクレアは少しさみしげに話している。ハモンドは修行の一環として冒険者ギルドの職員をしているが、いずれ教会へと戻り宣教師として新大陸での布教活動に専念することになる。


「でも…… ヒーラー代理だったら俺の薬草粉でもよかっただろ。わざわざハモンド君に頼むなんて……」

「ダメですよ。今日のグレンくんは嘘つきですから」

「まだ怒ってるのかよ」

「怒ってるのはグレンくんです。ちゃんと薬草粉を使うかわからないからです」


 タイラーに対してグレンが快く思ってないことをクレアは見抜いていた。彼は過去経験から仕事中に女を口説く冒険者に嫌悪感を抱くのだ。

 自分の気持ちを見透かされて、恥ずかしいグレンはそれを隠そうとわざと不機嫌そうにする。


「ふん…… しかし、あのタイラーってやつ。義姉ちゃんを口説くなんて命知らずなやつだな。いや…… 物好きと言うべきか」

「ムッ!」


 クレアはプクッと頬を膨らませてグレンをにらみつけた。大きく息を吸ったクレアは笑っているグレンに向かって叫ぶ。


「そのお姉ちゃんの胸に毎晩、抱きついてないと寝んねができない人に言われたくないですけどねぇぇぇ!!!!!」

「ねっ義姉ちゃん! 声がでかいよ! みんなに聞こえるだろ」


 草原に響くクレアの声に顔を真っ赤にしてグレンは彼女を慌てて止める。慌てるグレンにクレアは勝ち誇った顔をするのであった。

 それから少しして、フレイムベアとインパクトブルーとの戦いは終わりを迎えようとしていた。

 ハモンドの補助によりインパクトブルーは、回復をしながら持久戦へと持ち込んだ。一頭で四人を相手にしていたフレイムベアの体力が徐々に削られ足元がおぼつかなくなってきている。


「ガウアアアアア!」


 レンジャーを殴ろうとした、フレイムベアがバランスを崩して倒れた。鳴きながら体を横にして倒れたフレイムベアはすぐに起き上がろうと必死にもがく。


「邪魔な角ね! はあぁぁぁぁ!」


 女性武闘家が距離をつめ、フレイムベアの頭の上に飛び上がる。右足を前に大きく上げ勢いよくフレイムベアに角を狙って振り下ろした。

 草原にパキーンと言う音が響く。振り下ろされた女性格闘家の右足が、フレイムベアの角をへし折った。回転しながら角の先端は飛んで地面に突き刺さった。


「ガウアアアアア!」


 目を大きく見開いてフレイムベアが、地面に突き刺さった自分の角を見て鳴き声を上げた。女性武闘家は満足そうにうなずいて振り返った。


「今よ! タイラー!」

「おう! 任せろ!」


 タイラーが剣を構えて走ってくる。彼は持っていた盾を捨て、両手で剣を持ち剣先をフレイムベアへ向けた。

 渾身の力を込めてタイラーは剣をフレイムベアの額に向けて突き出した。金属音のような音がして、硬く重い感触がして剣が弾かれそうになる。彼は必死に足を踏ん張り体重を駆けて前進で剣を押し込んだ。


「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!」


 草原にフレイムベアの叫び声が響く。タイラーの剣はフレイムベアの額に突き刺さった。額から流れた血が剣を伝って地面にポタポタと落ちる。フレイムベアの目から光が消えた。


「クッ! クソ!」


 剣を抜こうとするタイラーだったが、深く突き刺さった剣は簡単には抜けずに剣から手を離した。

 ズシッと言う音がして、フレイムベアはその場に倒れた。


「やったわ!!!」

「あぁ!!」

「えぇ!? あぁ。やった!!!」


 女性武闘家がレンジャーに抱き着く。タイラーは少し遅れた二人の元へ駆けていく。

 三人は抱き合って喜んでいた。喜ぶ三人から少し離れた場所で、ハモンドはホッと胸をなでおろして安堵の表情を浮かべていた。


「義姉ちゃん終わったぞ…… どうした?」


 クレアが右手に、小さな水晶を置いて真剣な表情をしてる。彼女が持っているのは、昨日グレンに渡したのと物と同じ水晶だ。


「これを…・・」


 水晶をグレンの前に差し出した、水晶の光が照らし出す地図上の二つの点がオレンジ色と黄色に変化していた。

 これはキティルとエリィが戦闘状態で、一人が怪我をしていることを意味していた。


「義姉ちゃん!」

「うん。すぐに行きましょう」

「わっ!? わっ!?」

 

 手を伸ばしグレンの左腕をつかんだクレアが、左足のつま先を少し上に上げ地面を踏むような動作をした。するとクレアの体が浮かび上がり、グレンとクレアは一緒に上空へ向かっていく。

 靴で見えないが、今のクレアの左足の甲には青い六芒星が浮かび上がってる。これは魔法の刻印と言われる物で、魔法の刻印に魔法を登録すると詠唱をしなくとも魔法を使用できる。

 クレアは左足にブルースカイウォークと言う、空を飛ぶ魔法を登録している、彼女が左足を踏み出す動作をするといつでも任意で空を飛ぶことができる。


「ありがとうございました」


 ハモンドはタイラーと握手を終え、クレアとグレンが居る岩の方向を振り返った。


「えぇ!?」


 驚きの声をあげるハモンド、彼の視界には上空へと向かっていく、グレンを掴んだクレアが見えた。インパクトブルーの三人はその光景を見て呆然としていた。

 慌ててハモンドは岩へ駆け寄り叫ぶ。


「先輩!? クレアさーん!!!」

「ごめんなさーい。緊急事態みたいです。残りの作業をお願いします」

「はっ!? わっわかりました……」

「後、悪いけど冒険者ギルドに戻ったらミレイユに医療版を大樹の森まで派遣するように言っといてくれ」


 グレンとクレアはハモンドに手を振って空高く上がって飛んでいってしまった。ハモンドは空を見上げたまま困惑した様子で、二人の姿を見送るのだった。

 上空でクレアはずっとグレンの腕を掴んで飛んでいた。


「大丈夫ですかね。ハモンド君……」

「平気だよ。彼は優秀だからな。それと…… 俺も一人で飛べるから……」


 グレンは左足のつま先を上げて下ろす、彼の体が浮かび上がった。グレンもクレアと同様に左足にブルースカイウォークを登録している。ムッとした顔を不服そうにクレアは彼を見た。


「えぇ。良いじゃないですか。お姉ちゃんが連れいってあげますよ」

「いいから! はなせ!!」

「ぷく…… 残念……」


 左腕を上下に動かして逃げようとするグレン、渋々クレアはグレンから手を離す。二人はキティルとエリィが居る大樹の森へと飛んで行くのだった。

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