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第129話 海賊の鎧は硬い

 松明がわずかに照らす薄暗い暗闇を動く二つの光、片方は赤くもう片方は白く細長い。二つの閃光はジーガーとタミーの対決で盛り上がる海賊たちへと迫っていた。


「「「うぎゃああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」」」

「「「「「!!!!!!!」」」」」


 悲鳴が響いた。三人の海賊達のうち一人は頭を掴まれ握りつぶされ、一人は胸を剣で刺されもう一人は蹴り飛ばされて壁に叩きつけられていた。彼らの近くにいた五人の海賊達は声をあげることなく首が地面に転がった。


「なっなんだ!? こりゃあ」


 海賊達は怯えたように声をあげ波が引くように左右に別れて後退していった。左右に別れた海賊達が青ざめた表情で中央を見つめている。そこには…… 月樹大剣(ムーンフォレスト)を肩にかつぎ獣化全解放ビーストモードプリズンブレイクで巨大化したグレンと大剣を両手に持ったクレアが立っていた。


「ぐっグレンさん…… クレアさん……」


 膝で頭を押さえられながらタミーが声をあげる。彼女の姿を見た二人の表情は変わらないが、目の奥に怒りが灯っていく。


「なんだ! お前らは!? 今はおいとこの女の勝負の途中ばい! じゃますんじゃなか!!!」


 顔を二人に向けジーガーは怒鳴りつけてきた。グレンとクレアは互いに顔を見合せ笑った。すぐに首をすぼめて心底あきれた顔をするグレンだった。


「あらあら…… 怒ってますねぇ」

「あぁん!? なにが勝負だ? お前は馬鹿か! 少しはそのない頭を使え! なんで冒険者ギルドの俺たちが海賊風情のいうことを聞くんだよ」

「そうですよ。海賊行為は開拓法違反ですから問答無用で排除です。私達は暇じゃないんで手間はかけませんからね」


 クレアの瞳が鋭く細くなり大剣を構える。グレンは足を曲げ腰を落とし威嚇するように鋭い視線を周囲にむけるのだった。


「けっ!? お前ら!? こいつがどうなってもよか?」

「そうだよ! こっちには人質が二人いるんだよ!?」

「クッ」

「きゃああああああああああああああああ!!!」

 

 ジーガーはハンマーをタミーに振り上げた。女海賊が冒険者の女性に短剣をつきつける。グレンとクレアの視線がほぼ同時にジーガーとタミーと人質女性と女海賊へ動く。二人は動揺することなく、平然と視線を合わせた。目が合うとクレアが小さくうなずく、彼女を確認したグレンは笑って口を開く。

 

「だってよ…… 義姉ちゃん?」

「あらあら。おいたはいけません…… よっ!」


 クレアは左手中指と人差し指を立てると、女海賊とジーガーへと向けた。彼女の指先から光の剣が伸びていき一瞬でジーガーと女性海賊へと伸びていく。同時にグレンの姿がクレアの横から消えた。


「ヒッ!」


 悲鳴をあげる女性だった。彼女の横に立つ女海賊の額を光の剣が貫いていた。女海賊は目から光が消え短剣を地面に落とす。


「なんね!? ぐふ!!!!!!!!!!!!!!!!」

「ギャッ!!!!」

「うわ!!」


 伸びて来た光りの剣がハンマーにぶつかった。バランスを崩したジーガーの目の前にグレンが現れ横からジーガーを薙ぎ払った。大きな衝撃音がしてグレンの剣が彼の鎧を斬れずに叩いたようなった。衝撃でジーガーは吹き飛ばされていく。ジーガーは二人の海賊を巻き込みながら地面へと叩きつけられた。


「なんだあいつ…… かてえな」


 大剣を持つ右手をジーガーを見てグレンはつぶやく。彼の右手はジーガーを斬りつけた衝撃で少ししびれていた。右手の指を曲げ伸ばしするグレンは視線をタミーへと向けた。


「立てるか?」

「なっなんとか…… はっ!?」

「よし! さっさとしまえよ」

「うっ……」


 視線をすぐにタミーからそらすグレンだった。立ち上がったタミーは目に涙をため顔を真っ赤にして下着とストッキングを戻していた。


「あと…… これ!」


 振り返らずにグレンは袋から薬玉を放り投げた。タミーの近くに落ちた薬玉が破裂すると緑の煙が彼女を包む。タミーの体の傷が徐々に癒えていく。


「傷が治るまで動くなよ…… 大丈夫…… もう手出しはさせないから」

「はっはい」


 タミーはグレンの背中を潤んだ瞳で見つめるのだった。グレンは右腕を伸ばし残った海賊達に剣先を向ける。


「どこの馬の骨海賊団か知らねえがお前らは今日で解散だ!」

「えぇ。全員排除決定です」


 叫んだ二人の姿が海賊たちの視界から消えた。彼らが次に二人を目にするのは死を迎える直前だった。


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

「やっやめろおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」


 薄暗い中で海賊たちの悲鳴が聞こえバタバタと海賊が倒れていく。海賊が倒れる度に彼らが持っていた松明が落ち周囲の灯りが消えて暗くなっていく。オレンジ色の松明の光が一つ一つと地面へと消える様はどこか幻想的ですらあった。


「義姉ちゃん一人は残しておく?」

「うーん。できればでいいですかね…… どうせ尋問が終わったら砂海に沈めますから」

「じゃああいつでいいや。出来る限り生かしておくよ」

「お願いしまーす」


 海賊を掃除ながら二人が会話をしている。グレンがジーガーを指すとクレアはうなずいた。ジーガー以外の二十人近く居た海賊達はわずかな時間でグレンとクレアによって駆逐されていく。

 女海賊の亡骸の近くに座った女性冒険者は呆然と周囲を見つめていた。彼女の後方に五メートルくらいにジーガーが倒れている。


「風…… 綺麗……」


 ふわりとした風ふき彼女が飾りにしていた花びらが舞って近くに落ちていた。彼女は海賊が消えていくのにほほ笑んでいる…… だが、背後に大きな影が忍び寄っていることに女性冒険者は気づいていなかった。


「きゃあああああああああああああああああああああああああああ!!!」


 悲鳴が聞こえたグレンとクレアが足を止めた。振り返ると女性冒険者の髪をつかんでジーガーが持ち上げていた。


「うっうごくな!! こいつがどうなっても……」

「いっい…… いああああ…… ああああ……」


 ジーガーは女性冒険者の顔にハンマーを突きつけ二人に向かって叫ぶ。グレンとクレアは武器を下すジーガーはにっこりと笑った。


「ははっ! いい心がけだ。動くなよ」


 ゆっくりと前に動きだしたジーガーを見てグレンは首を横に振る。


「残念…… そこはもう俺の領域だ」

「なっ!?」


 左手をジーガーに向けるグレン、地面にばら撒かれていた女性冒険者の首飾りの残骸が浮かび上がった。花びらや茎が素早く動いてジーガーの周囲を囲む。


「なんだぁ! ただの花びらじゃねえか。脅かしやがって!! えっ!?」


 浮かんだ花を見たジーガーが笑った。直後に彼の周りに浮かぶ花びらが黄色く光り出す。


「月の精霊よ。その慈愛溢れる優しき輝きを用いて悪しきものを焼き払えルナレーザー!!!」


 グレンが叫ぶと同時にジーガーを囲む花びらから光線が放たれた。グレンの意思によって操作れたた光線は女性冒険者を避けてジーガーへと命中する。衝撃と灼熱がジーガーを襲い彼は女性冒険者から手を離した。


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!」


 光線が消えると叫び声をあげながら体から白い煙をあげジーガーは後ろに倒れた。横に穴だらけになった彼のハンマーが転がる。

 グレンとクレアは武器を下し倒れたジーガーの元へと向かう。


「あれ!? こいつ生きてるぞ。気を失っているだけだ……」

「えぇ…… この鎧のせいですかね……」


 ジーガーはルナレーザーの衝撃で気絶し倒れているだけだった。


「グレン君の月魔法でも傷つかないって…… この鎧は……」

「古代文明の物だと彼が言っていました」


 タミーが近づいて来て二人の会話に入って来る。


「古代文明…… タミーさん。後でこの鎧を冒険者ギルドの調査に回してください」

「はっはい。わかりました」


 大きくうなずいてタミーは返事をした。大きくグレンは右手をあげた息を吐いた。


「ふぅ。じゃあ。これで海賊退治は終わりだな……」


 グレンは月樹大剣をムーライトへ戻そうとした。しかし、クレアが横で彼を睨みつけてるようにして見つめている。視線に気づいたグレンが問いかける。


「義姉ちゃん? どうした?」

「別に…… ただ…… さっき言ったそこは俺の領域ってクロースちゃんがよく言ってたから真似しているのかなって?」

「あぁ。そうそう。第五十三坑道でオークに遭遇した時にクロースが言ってて…… かっこよくてさ…… えっ!? なんだよ」


 笑顔でグレンが答えると、クレアは不満そうに口を尖らせ腕を組んで彼に背を向けた。


「私の真似なんかしてくれたことないのに…… なんかクロースちゃんのこと…… 異様に持ち上げますよね…… 悪い弟です……」

「はぁ!?」


 ぶつぶつと不満を漏らすクレアの声はグレンの耳にも届いた。


「いや…… そもそも剣術も魔法も全部俺は義姉ちゃんから教わってるから…… ほぼ義姉ちゃんの真似だし…… 昔から一番の憧れだよ」

 

 グレンは頭をかきながら小声でクレアの背中に向けてつぶやいた。すぐにクレアが振り向く。


「なんか言いました?」

「いやぁ。なーんも言ってねえよ。ほらあいつを拘束して怪我人の治療をしないと…… あと下に残した死体も回収しないと」

「はーい。そうですね。とりあえずこの洞窟を抜けたら雨天蓋に向かう前に保護と回収優先させましょう」

「あぁ……」


 返事をしてグレンはがうなずくとクレアはニコッとほほ笑んだ。二人は女性冒険者の治療へと向かうのだった。

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