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第127話 勝負しようぜ

 タミーはランタンの光が照らす薄暗い階段を駆け上がっていく。階段を上り切ると廊下のような狭い通路が続いている。通路の先はわずかに明るく光っておりどこかへつながっているようだ。


「!!!」


 階段を上がり通路の先を見た、タミーは足を止めることなく腰を落とし走り出した。タミーの視線の先に光に照らされ黒い人影が見えたのだ。

 暗闇に慣れた目が廊下の先をはっきりとさせていく。通路の先に槍を肩に担いだ男が立って居た。男は軽装で靴にズボンに半そでシャツを着て革の胸当てを装備していた。タミーは拳を振り上げ男へと近づく。


「なっ!? お前は!? おっ……」


 男にタミーが拳を突き出した。タミーの手袋の先端から十センチのほどの刃が飛び出し男の首筋に突き刺さる。声をあげることなく男は絶命した。タミーは男の槍を素早くつかんで支えるとゆっくりと首に刺した刃に下に力をかける。男の体は静かにゆっくりと地面へと倒れた。

 通路の壁に背中をつけタミーは焦る心を押さえてゆっくりと慎重に顔をだした。


「あれは……」


 通路の先は開けて空間で小さな岩が転がっている。中央に焚火があり通路で倒した男と同じ格好をした、三人の男が座って談笑しているのが見える。三人の奥には鎧に身を包んだ巨大な男が一人で椅子に座っている。鎧を着た男は巨漢で二メートル超える身長に、丸いボールのような体形で丸太で作ったような頑丈そうな椅子だったが重さできしみ歪んでいる。椅子の近くには先端に巨大な鉄球をつけたハンマーが置いてある。彼らが冒険者を岩にはりつけにした海賊たちであろう。

 タミーは必死に周囲を見ていた。彼女は相手の人数がこれだけなのか必死に確認している。


「いやあああああああ!! やめてええええええええええええええ!!!!」


 悲鳴が聞こえタミーが視線を声の方角へ向ける。焚火から少し離れた場所で二人の男女が居る。男はズボンを下し女性を押し倒し覆いかぶさっている。女性は長い茶色の髪を振り乱し赤色の瞳の切れ長の目で男を見つめ必死に抵抗していた。

 男をはなそうと必死に腕を伸ばす女性、彼女は白い花で編まれた首飾りをつけ、上半身は白いシャツで下半身はピンク色の下着だけをつけている。近くに捨てられたズボンと袖のない上着は彼女が男に脱がされたものであろう。


「騒いであんまり体力使うなよ。順番がつかえてんだからな」

「あぁ。そんなに嫌なら俺が変わってやろうか? 俺の方がイケメンだしな」

「はははっ」


 悲鳴を上げる女性を見て焚火に居る男たちが笑っている。必死に抵抗する女性に彼らの会話は聞こえあずずっと男を睨み続けていた。男は女性に馬乗りになった。


「チッ!」


 馬乗りになった男をどかそうと体や手を必死にばたつかせて暴れた女性。ニヤニヤと笑っていた男だったが彼女の手が男の頬に当たると舌打ちをして彼女を睨みつけた。


「いい加減! 大人しくしろ! このやろ!!!」

「キャッ!!」


 男は女性を上から殴りつけた。悲鳴をあげる女性だった、頬がじんわりと痛みをおび熱をもつ彼女は見下ろされながら睨みつけられると恐怖で体が動かなくなってしまった。


「おいおい。傷つけるなよ。みんなのもんだぞ」

「黙れ!!!」


 殴った男は仲間にからかわれて怒鳴る。大人しくなった男は女性の上着をつかんで引きちぎった。彼は同時に花の首飾りもつかんでおりバラバラになった首飾りが地面に散っていった。同時に彼女の冒険者の指輪が転がって音を立てる。女性は冒険者で支給されたチェーンではなく、自らが編んだ花の飾りに指輪を通していた。


「へへへへっ」

「いや…… どうして…… いた!!!」


 大きな胸を包むピンクの下着が見えて来る。男は下着を強引にずらし、女性の胸をあらわにして強くつかむ。女性は胸を強く掴まれた痛みで顔をゆがませた。男は大きく口を開ける。目に涙を溜め女性はもう抵抗する気力はなく震えるしかできなかった。

 よだれがひく男の汚い口が女性の胸へと迫っていく。


「観念しな!!!」

「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」


 悲鳴がまた響いた。男は女性をもう一度殴ろうと拳を振り上げた。タミーはもう我慢できなかった彼女は自然と体が動き通路から飛び出した。

 怒りのこもったタミーの瞳が一直線に男をとらえた。彼女は拳を強くにぎりしめ振り上げる


「がっ!!!」


 横から来たタミーは男の耳と目の間くらいを殴りつけた。拳は男の頬骨を砕き、飛び出した刃が男の目の横に突き刺さる。男は声をあげ振り上げたこぶしが落ちて動かなくなった。目が飛び出し血だらけになった男を女性は呆然と見つめている。

 タミーは彼女に声をかける。


「大丈夫ですか?」


 小さくうなずく女性にほほ笑むタミーだった。しかし、派手に登場したタミーの存在はすぐに気づかれ焚火に男たちが立ち上がった。


「なんだてめえ!! おい!!! 皆!!!」


 周囲の光の届かない暗闇の中から続々と人が出てて、タミーと女性は十数人武器を持った男女の海賊に囲まれてしまう。


「しまった……」


 周りを見ながら顔をしかめるタミーだった。感情に任せて突っ走ったタミー、彼女は敵陣で孤立し窮地に立たされたことを後悔したがもう後の祭りである。


「おい。こいつ…… ギルドのやつだぜ」

「本当だ。ちょうどいい。少し遊んでギルドから身代金ももらえるな!」


 近くにいた一人がタミーが下げている職員証を見て笑っている。蹄鉄の形の中央に青い宝石がある首飾りがギルドの職員証であるこことをすぐに見抜いた、彼らはグレン達が言うように元冒険者の可能性が高い。


「立てる?」

「えっ!? 多分……」

「私があいつらを引き付けるから逃げなさい」

「でっでも……」


 タミーから逃げろと言われた女性は周囲を見て恐怖で震え躊躇する。囲んだ海賊はにやにやと笑いながら二人との距離をゆっくりと詰め始めた。


「下がれ! お前ら!!!」

「あっ兄貴!? なんで!?」

「へへへっ。面白いこと考えたんだ。どけ!!!」


 海賊たちの動きが止まった。椅子に座っていた男が立ち上がり、海賊たちの囲みを強引にかき分けてタミーたちの前へと現れた。

 男は巨漢の中年で目はやや細く瞳の色は黒で、鼻が低い唇は厚く口の周りに無精ひげが生え頬は土埃でよごれておりお世辞にも清潔とは言えない。ただ、鮮やかな水色の鎧に身を包んでおり鎧だけは綺麗だった。彼はハンマーを右肩に担ぎ左手で自分を指す。


「おいはジーガー! ワンダーキャニオン海賊団の船長たい。お前は? 冒険者ギルドの人間ね?」


 ジーガーと名乗った海賊の問いにタミーは静かにうなずいた。彼女は女性をかばうようにして立ちジーガーに口を開く。


「洞窟の外で冒険者の死体を発見しました。我々にとって彼らは財産であり……」

「はははっ! だったらおいらは海賊だ。人の物を奪って何が悪いかぁ?」


 笑いながら首をかしげ体を傾け下から覗き込むように話すジーガーだった。タミーは言い返さずに黙って視線を横に動かしている。彼女の様子にジーガーはニコッと笑い体を起こした。


「ただ一人でこの場所に乗り込んで来るのは気に入った。あんたがおいに勝ったら二人とも助けてやる」

「えっ!? 兄貴? どうことですか?」

「うるせえ! おいが決めたことだ! 黙っとき!」


 ジーガーの提案に周囲の海賊が騒然としていた。タミーをジッと真顔で見つめジーガーが口を開く。


「さぁどうする? 受けるか? まぁ受けんでもよか。こいつらのおもちゃになりたいんならな」


 視線を横にむけたタミーに見えるのは海賊たちのにやつく顔だった。タミーはジーガーの提案に動揺したがなるべく表情に出さないように努めていた。なぜならタミーの今の立場は冒険者ギルドの職員であり、後ろで女性が彼女にすがるような視線を送っており不安にさせないようにしたからだ。


「わかりました。受けて立ちます」


 タミーは小さくうなずいた。すぐに後ろに振り向いたタミーだった。にやりと笑うジーガーに周囲の海賊たちは歓声をあげた。海賊たちは焚火を消すと各々に松明を持って遠巻きにタミーとジーガーを囲む。海賊たちは円形の闘技場となった。


「離れていてください」

「でっでも……」

「大丈夫です」


 ほほ笑んでタミーは女性に手を差し伸べる。彼女も嬉しそうに笑って手を伸ばす。しかし、すぐに横から女海賊が来て女性の腕をつかんで強引に立たせる。


「ほら!! あんたも邪魔だよ! とっととこっちへ来な!」

「手荒な真似はしないでくれ」

「うるさいよ! ほら! いいのかい? よそ見していると危ないぜ」

「えっ!?」


 慌てて振り向いたタミーにすでに戦いは始められており、彼女の目前には両手で持ったハンマーを振り上げたジーガーの姿が見えた。

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