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第122話 暑苦しい人

 グレートワインダー砂海の中心から北東に進むとすぐに巨大な岩がある。上から見るとほぼ真四角な形をした岩は、縦横の長さが約四キロで高さは約二十メートルほどである。岩の頂上はくぼんでおり中心に向かうほど深くなっている。底には大量の砂がたまり、さらに地下から水が岩を破って湧き出ており岩自体が巨大なオアシスとなっていた。

 開拓民にこの岩が発見された後、ここは砂漠を横断する旅人の休憩地となった。人々は岩の周囲を大規模に石や土で埋め立て土地を作り建物を建て町を作った。その後はほぼ砂海の中心にあることから、砂上船が出来ると補給地となり以後は交易や遺跡探索の中心地として急速に発展した。いつしか町は岩と同じサンドロックと呼ばれるようになった。

 グレンとクレアを乗せた船がサンドロックの砂港へと入って来る。二つの大きな桟橋がある巨大な砂港だ。グレンたちは砂上船が港に停まると他の乗客と一緒に降りた。


「ピエールちゃん、ナミューちゃん、ありがとう」


 タラップから桟橋に下りたクレアは砂クジラに向かって手を振っている。クレアの横にはグレンが寄り添い町の様子を眺めていた。

 早朝ということもあってか砂港はひっきりなしに船が訪れ、行き交う人の数も多く活気があって騒がしかった。


「ここがサンドロックか…… なんかテオドールに似てるな。このうるさい感じ」

「そうですね…… 雨天蓋(アマノテンガイ)の異常で冒険者さんたちも活気づいているみたいですね」

「うへぇ……」


 顔をしかめるグレンだった。冒険者が多く集まれば当然だが面倒事が増え彼らの仕事が増えるからだ。


「さて…… じゃあここの冒険者ギルドに行くか…… あれ?」


 歩き出そうとしたグレンだったが、クレアが彼の袖を引っ張って止めた。


「ダメですよ。サンドロックのお迎えが来るって言ってました」

「迎え? そうか。わかった」


 二人は冒険者ギルドからの迎えを待つため港の入り口へと移動した。しばらくすると冒険者ギルドの緑の制服を着た女性が二人の元へとやって来た。


「クレアさんとグレンさんですか?」

 

 やってきた女性はグレンのクレアの名前を確認する。現れたのは髪が茶色で短く顎が細く凛々しい顔をつきの女性だ。目はやや細く鋭く瞳の色は濃い茶色で口が小さい。体はそれほど大きくないが薄っすらと透ける胸板は厚く、スカートの裾から見える黒いストッキング越しに透ける両足の太ももは引き締まった筋肉質をしており彼女が鍛えられているのが分かる。

 

「はい。テオドール冒険者ギルドのクレアとグレンです」

「よろしくな」


 右手を胸の前に置いて頭を下げるクレアと右手をあげ挨拶をするグレンだった。女性は二人に向かって頭を下げた。


「押忍! 自分はタミーと言います。よろしくお願いします」


 元気よく答えるタミーだった。声が大きく道行く人たちの何人かが彼女を見た。


「声が大きな…… それにその体…… もしかして冒険者だったのか」

「いえ今も冒険者です。修行の一環として受付やギルドの仕事を経験することで今後の冒険者生活に生かせると思いました」


 背筋を伸ばして真剣な表情で答えるタミーだった。彼女は武闘家で現役の冒険者である。タミーはハモンドのように修行の一環としてギルドの仕事をこなしている。


「あぁ…… そうか。頑張れよ」

「はい! 先輩としてご指導よろしくお願いします!!!!」


 声を張り上げ深々と頭を下げるタミーだった。今度は道行く人々のほとんどが彼女とその前にいるグレンとクレアに向けられる。注目を集めてしまったグレンは恥ずかしくなりタミーに口を開く。


「わかった! もういいから早く冒険者ギルドに案内してくれ」

「押忍! ではこちらへ!」

「えっ!? おい!」


 返事をするとタミーは即座に振り向き背中を見せると、二人を置いて早足で駆けていってしまった。彼女は港の入り口を二メートルほど進むと二人が付いて来てないことに気づいく。


「こっちですよ!! さぁ! 急いでください!!」


 右手をあげ必死に二人を急かすタミーだった。彼女を見てグレンがつぶやく。


「砂漠なのにずいぶん暑苦しいのが来たな……」

「ですねぇ」


 クレアは微笑みながらタミーと右手を振って答える。二人はタミーの元へと向かうのだった。


「冒険者ギルドは町の東側にあります。港からは少し歩きますが…… 修行になります」

「あぁ……」


 すぐ前で拳を突き上げるタミーにグレンはあきれた様子でうなずく。クレアは彼の横で笑っていた。

 港を出て通りを歩く三人の右手に石造りの門が見えて来た。鎧を着た兵士が二人両脇を固め鉄格子の門が硬く閉じられている。

 横を通り過ぎていくグレンが不思議な顔で門を見つめている。


「なんだあの門は?」


 グレンが門を指してタミーに尋ねる。


「あそこは水汲み場です。水を汲みに行くには入場料を払って扉を開けてもらう必要があるんです」

「そうか。水は貴重だもんな」

「えぇ。砂漠の水は黄金より価値がありますから…… それに入場料はサウンドロックから引いてる水道のメンテナンスとかに使うんです」


 サンドロックの町にはオアシスがあり、グレートワインダー砂海の他の町より水は豊富であるがそれでも貴重なことには変わりない。サウドロックの町は上水道が発達し。町のいたるところに水汲み場を設けているその水道と水汲み場の管理は教会から派遣された行政官が行っている。

 タミーされて二人はしばらく三階建ての建物の前へとやってきた。木の扉に宝箱の前で剣が交差する絵が描かれている。


「ここがサンドロック冒険者ギルドです」


 タミーが扉を開けて二人を中へと招きいれる。サウンドロックの冒険者ギルドは長方形で通りに面した部分が短い。


「奥が冒険者ギルドの受付で手前がギルドが運営する酒場です」


 サウンドロックの冒険者ギルドは入り口から入ってすぐが酒場となっており、酒場を通り抜け奥へといくとカウンターと受付がある。

 三人は酒場を通り抜け受付へと向かう。タミーはカウンターの横から二人を奥へと案内する。カウンターの中にある扉から二人はさらに奥へと向かう。


「まずは二人の部屋に案内します。それと…… 後で二人に担当していただく仕事の相談をさせてください」

「わかりました」


 扉の向こうは廊下になっておりタミーの案内で扉から出て右へ向かう。階段を上がり二階へ。二階の扉が並んだ廊下の一番奥の扉をタミーが開けた。


「ここがお二人の部屋です」


 タミーが二人に案内した部屋は広く、赤い絨毯が引かれソファとテーブルが置かれている。奥にはさらに扉が二つ見える。グレンとクレアはロボイセの時のように狭い部屋に案内されると思っており、部屋の広さに面食らって黙ったまま中へ足を踏み入れた。

 

「奥の二つの部屋は寝室になってます。自分はこれから打ち合わせなのでこれで失礼します」


 部屋を見て呆然としている二人に挨拶をしてタミーはさっさっと行ってしまった。

 扉の閉まる音で我に返ったグレンが声をあげる。


「広いな……」

「ねぇ。良いんですかね? こんないい所に……」

「良いんじゃねぇ。使わせてくれるって言ってんだから」


 笑うグレンに困った顔をするクレアだった。


「でも、どうしましょう…… 寝室二つもいらないですよね…… グレン君は一緒じゃないと寝れないですから」

「うっうるせえな」


 顔を真っ赤にして叫ぶグレンにクレアはいたずらに笑うのだった。すぐにクレアが何かに気づきテーブルに向かって駆けていく。


「見てください! テーブルの上に水晶が置かれてますよ」

「本当だ。部屋といい水晶といい至れり尽くせりで怖いな……」


 水晶は職員証をかざすと冒険者の情報などが見えたりする魔法道具だ。通常は冒険者ギルドの受付に置かれているため見せてもらいに行かなければならない。二人はその手間が省けるので喜んでいる。

 クレアはソファに腰かけると水晶に自身の職員証をかざす。水晶から光が天井の近くまで伸び、四角いディスプレイのようになり地図を表示した。クレアの後ろに立って表示される地図をグレンが覗き込む。


「キティル達は…… ランドヘルズってとこに居るのか? かなり東だな」

「ランドヘルズは砂上船の工場がある場所ですね」

「そうなんだ」

「はい。ラウルさんって砂上船を開発した人が居るんですよ。昨日話したリバーホエールの岸壁工事の時に一緒に仕事したんですよ」


 懐かしそうに話すクレアだった。ラウルは砂上船の設計技師で生みの親である。クレアは彼と以前に一緒に仕事をしたことがあり顔見知りだった。

 クレアは再度職員証を水晶にかざした。表示されている地図が変わった。


「えっと…… ミナリーさん達はサンドロックに居るみたいですね」

「アランドロの件があるからでなるべくミナリー達とは接触しない方が良いかもな」

「えぇ。おそらくこの町にすでに帝国軍人が動いているでしょう」


 深刻な顔で二人は顔を見合せてうなずいた。直後……


「タミーです。よろしいですか」


 部屋の扉がノックされた。タミーが二人を訪ねてきたようだ。すぐに水晶の光を消し二人は返事をして扉を開けるのだった。

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