第119話 許されない理由
「戦勝記念パーティの翌日…… 皇帝陛下に呼ばれた私達はアランドロを仲間にするよう命令されたんです」
「いきなりだな」
「オリビアちゃんはガルバルディア帝国の平民でしたからね。貴族が入ってたほしかったんでしょう」
「なるほど…… 帝国のやつららしいな」
クレアは微笑みながらグレンに答え、彼は納得したようにうなずいた。
皇帝に依頼されたクレアたちはアランドロを仲間にした。彼女らは断ることはできなかった。多大なる戦果をもたらした聖剣リオールは帝国の国宝であり、アランドロの参加を断れば帝国は支援を打ち切り聖剣リオールを引き上げさせたであろう。
「アランドロが仲間になってから私に近づいて来て自分と結婚するように言って来ました。私が彼の誘いを断った後から…… パーティ内で物がお金や物が無くなることが増えたんです」
「それって…… アランドロのせいか……」
「はい。そうでしょうね。今なら確信をもって彼が犯人だと言えます。でも、当時彼は私たち前では念力しか使いませんでした。物と物と入れ替えれるなんて誰も知らなかったんです」
寂しそうにクレアは語る。彼女の手は自然と横に座るグレンの手へと置かれていた。ギュッとクレアは強くグレンの手を握った。
「でも…… なんでそんなことしたんだ?」
「彼は私を手に入れたかった…… 第一勇者候補だった私を手に入れれば帝国内の地位は安泰ですからね。その為に事件を起こしパーティが崩壊すれば新たに私とパーティを組むつもりだったみたいです」
「クズだな…… いや正しい野心家でもあるのか」
クレアは静かにうなずいて話を続ける。
「私達の結束はすぐに揺らぎました。魔王討伐軍って言っても身分や出身が違うんですから…… アランドロは特に身分の低かったオリビアちゃんを差別したりあからさまに盗難の犯人ではと言ってました」
「あいつ……」
クレアたちのパーティから会話は減り、互いを監視するような状態が続いたという。だが、旅の初期からの仲間だったクロース、オリビア、クレアの三人は結束が固かった。パーティがなかなか融解しないことに業を煮やしたのかアランドロはある事件を起こした。
カイノプス共和国遠征に失敗したモンデュールが、軍勢を立て直しガルバルディア帝国へと侵攻を開始したのだ。帝国は軍団をまとめ迎え撃つ、クレアたちもガルバルディア帝国の西にあるガイアル砦へと急行した。
「そして…… 戦いの前に聖剣リオールは消えました」
「えっ!?」
「焦る私にアランドロは近づいて来ました。彼はリオールが無くなったことを知っていて一緒に探そうと提案してきたんです。もちろん彼が入れ替えたんですけどね……」
「あいつ……」
アランドロは言葉巧みにクレアを夜に野営地から誘い出した。野営地を抜けた二人は近くの森へ向かった。森の小さな野原の中心に聖剣リオールが刺さっていた。そこまでは彼の計画は順調だった……
「聖剣リオールを見つけた直後にモンデュールが強襲して来たんです」
「それってアランドロが魔王軍と通じてたってことか」
「いえ…… アランドロが聖剣リオールを隠した後に魔王軍が見つけたんでしょう。私達が取りに来ることを見越して放置して置いたんだと思います」
「なるほど……」
急襲された二人は聖剣リオールを奪われてしまった。そして目の前で……
「聖剣リオールはモンデュールが持つ魔剣エフォールによって砕かれました。でも、オリビアちゃんとクロースが助けに来てくれたんです」
クレアの様子が変なのに気づいた二人は後をつけていた。
「私はオリビアちゃんが持って来てくれた。月樹大剣を使ってモンデュールと対峙しました」
激闘の末なんとかモンデュールを討つことが出来たクレアだった。だが、損害も大きくクレア、クロース、オリビアの三人は立ち上がれないほど傷ついていた。魔族の躯が転がる野原に三人は倒れていた。
クレアはモンデュールが倒れる横に並ぶようにして倒れていた。傍らには月樹大剣と折り重ねったモンデュールの魔剣エフォールが落ちていた。
「でも…… 隠れていたアランドロが…… やってきて…… オリビアちゃんを…… 殺そうと……」
戦いの途中で降ってきた雨が地面を叩きつける中、倒れていたクレアはもうろうとする意識の中で、アランドロは倒れたオリビアの横に立って笑う姿を見つけた。直後にアランドロが右手を横に出すと彼の手に短剣が出現した。その光景を見たクレアは全てを理解した。聖剣リオールを盗んだのが誰なのか。
とっさにクレアは剣二手を伸ばした。だが、彼女がつかんだのは月樹大剣ではなく魔剣エフォールだった。
「私は彼への怒りで魔剣エフォールを手にしてしまったんです…… そしてオリビアちゃんに手をかけようとしたアランドロに右腕を切り落としたんです」
怒りに任せてクレアは魔剣を使い、アランドロを攻撃したのだった。クレアは首を横に振り話を続ける。
「でも…… 魔剣を扱ったことのない私に制御は出来ませんでした。暴走した魔剣の力は敵も味方も吹き飛ばしてしまったんです」
暴走した魔剣はクレアでも制御できずに、放たれた魔法が味方と味方の陣地を吹き飛ばしてしまった。
「私はオリビアちゃんとクロースちゃんだけは守ろうと必死でした…… 近くに落ちていた月樹大剣を使って……」
クレアのとっさの判断でエフォールを月樹大剣で破壊しようとした。
「フェアリーアンバーが助けてくれたんです…… そして月樹大剣はムーンライトに……」
ベッドの脇のサイドテーブルに立てかけられたムーンライトと上に置かれたアンバーグローブを見つめるクレアだった。
破壊はできなかったが月樹大剣についていたフェアリーアンバーが魔力を吸いつくして暴走は収まったという。魔力を吸収したフェアリーアンバーは月樹大剣から離れて大剣は小さくなりムーンライトになった。
「小さな剣と白い剣が十字に地面に突き刺さって周囲は何もない不思議な光景でした。」
魔力の暴走はすさまじくわずかな間に直径十キロの範囲が荒野となり、生き残ったのはクレアとオリビアとクロースだけだった。アランドロは右腕を切り落とされた、直後にモンデュール死体と入れ替わり難を逃れていた。
「私は魔剣を使って帝国軍を殲滅した犯罪者となりました。ガルバルディア帝国は私を犯罪者として告発し第一勇者候補から外すように聖女オフィーリアへ要求したんです」
「それで義姉ちゃんは許されざる者って……」
「はい」
クレアはグレンを見てほほ笑んだうなずいた。グレンはクレアの手を強く握り返した。
「私は事件の後にすぐパーティを抜け勇者候補としての役目を終えました」
「でも、義姉ちゃんのせいじゃないだろ? どうしてそんな罪を被ることを?」
「ダメですよ。私が消えなきゃオリビアちゃんやクロースちゃんが巻き込まれてしまいます。そしたら魔王の討伐が…… あの時は世界をまとめるために個人は……」
寂しそうに天井を見上げるくクレアだった。モンデュールを失った魔王は半身を失ったも同様だった。その状態の魔王であれば第一勇者候補の自身がいなくとも、オリビアとクロースの才能と実力があれば討伐はできるであろうとクレアは考えた。クレアはオリビア達が帝国との関係を維持し世界が一丸となって魔王討伐へ向かうために自らが罪を被ったのだった。
パーティを抜けたクレアは故郷へと戻ったが、アランドロは執拗にクレアを追いかけて来た。クレアは身を隠し人知れずノウレッジ大陸へと渡ったのだった。
話が終わったクレアはどこかすがすがしい顔をしていた。グレンはとあることに気づき首を傾げた。
「あれ…… でも聖剣リオールを使ってオリビアは魔王を倒したんだよな?」
「はい。聖剣リオールはオリビアちゃんが破片を集めて修理して自分の物にしました」
「そうなんだ」
「まぁ…… 彼女に言わせると修理前とは別物らしいです。私は修復されてからは触ってないんでわかりませんけどね」
ニコッとほほ笑みグレンを見るクレアだった。グレンは彼女の笑顔を見て安心しうなずくのだった。グレンは両手を後ろに持って行くと天井に目をやった。
「でも義姉ちゃんの剣はやっぱりこええな…… 敵も味方もなんてさ」
「怖くないです。あの時は私の怒りに呼応してしまったんです。罪はありません。全て使う人間の意思です。それに私は今はあの時と違います」
自身の両手を見てつぶやくクレアだった。彼女は魔剣エフォールを扱ったことで聖剣大師の能力が強化され、全ての剣を自分の意思の支配下に置き強化できるようなった。この能力強化によりクレアが使う剣は全て聖剣となり威力が増す。また、フェアリーアンバーを戻した月樹大剣が暴走しないのも彼女の能力で支配下に置いているからだ。
静かに立ち上がったクレアは窓の前に立って静かに空を見上げる。優しい月の光が彼女を照らす。
「グレン君…… 私は少し怖いんです…… アランドロがまた私の大事な物を……」
寂しそうにつぶやき震えだすクレアだった。
「えっ!? グっグレン君……」
立ち上がったグレンがすっとクレアを背中から抱きしめた。窓から月明りが差し込む小さな部屋で、グレンは彼女の耳元でささやく。
「今は俺がいるだろ。俺はどんな時も義姉ちゃんをずっと信じる。絶対に俺が守るから…… 大丈夫」
「うっうん…… はっ!? ダメーーーーーーーーーーー!!!!」
目をつむってうなずこうとしたクレアがハッと目を見開き、グレンの腕の中で強引に振り向いて彼の胸を両手で押した。不意を突かれたグレンは驚いて何が起きたのかわからない。
「えっ!?」
「生意気です」
「なっなんだよ! 生意気って?!」
驚くグレンの鼻先をクレアは指で軽く押した。彼女は胸を張って首を大きく横に振った。
「グレン君に守ってもらいません! 私がグレン君を守るんです! お姉ちゃんなんですから…… えっ!?」
「ダメなのはそっちだ!」
得意げに笑うクレアにグレンはムッとした顔をする。グレンは逃げられないように肩から右手を彼女の頭の後ろに回し左手で顎を押さえ上を向かせた。グレンはクレアの顔に自分を近づける。
「ちょっ…… グレン君…… ん……」
顔を近づけグレンはクレアの唇を奪った。クレアは驚いていたが彼の強引な口づけを受け入れ、目をつむり身をゆだねるのだった。クレアは絡みあう唇の感触に酔いしれるのだった。
「んは……」
ゆっくりと唇をはなすグレン、クレアは目を開け名残惜しそうに目を潤ませ彼を見つめている。グレンは右手を伸ばしクレアの頭に手を置いた。
「俺が義姉ちゃんを守る…… 別に義姉ちゃんの許可はいらねえだろ。俺が勝手にやるんだから」
「やっぱり…… 生意気です……」
「生意気なのは義姉ちゃんだろ!」
「キャッ!」
顔を真っ赤にして不服そうにするクレアをグレンは抱きかかえた。そのままベッドへと連れ戻すと彼女の寝かせる。グレンはクレアに馬乗りになり両手をついて顔を覗き込む。
「義姉ちゃん…… 好き……」
「グレン君…… 私も大好きです」
「どんなことからも俺が守るから! 誰にも渡さない! 俺のだ!」
「うん。あなたの…… グレン君も…… 私の!」
ほほ笑んだ二人は互いにゆっくりと顔を近づけ口づけをかわす。口づけを終え顔をはなそうとするグレンをクレアは両手を伸ばし彼の頬を両手でつかんではなさなかった。顔を真っ赤にしたクレアはグレンに恥ずかしそうに口を開く。
「あっあの…… 今日は私の事…… お姉ちゃんじゃなくて……」
「あぁ…… クレア」
「ん……」
ニコッとほほ笑みグレンはクレアにまた口づけをする。
抱きしめたあう二人、グレンの手は自然とクレアの胸を伸びていく豊満な乳房を包む黒い下着があわわになり、彼の手は次に下半身へと伸びていき裾をまくり上げクレアの黒い下着があらわれになる。
五年間姉弟として過ごした二人はその溜まった想いを吐き出すかのように、熱く夜を過ごし何度も体を重ねたのだった。