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第116話 乱暴な呼び出し

 二人の視線の先には赤いフード付きマントを身に着けた三人が道を塞ぐように立って居た。彼ら胸元には赤く塗られた金属の鷲の装飾がされた留め具が見える。鷲は左向きに両方の翼を広げくちばしに細長い剣を咥えて飛ぶようなデザインだ。


「レッドイーグル…… 帝国の奴らだな」

「えぇ。正々堂々というか。見せびらかしたいだけでしょうけど……」


 装飾は帝国軍の紋章だ。鷲が翼を広げて飛ぶ姿は帝国軍が素早く世界をまたにかけるさまを現し剣は勇猛さを表現している。飛ぶ向きは建国地から現在の帝都を見た方角であり、全ての者や物は帝都へ向かうことを現している。

 紋章を見たグレンは前にいる三人が帝国軍の人間だとすぐに分かった。剣に手をかけ視線を横に移動させるグレンだった。


「あと後ろにもだ」

「あらぁ……」

 

 背後の路地から前の三人と同じく、フード付きのマントをつけた二人が現れた。

 顔を見合せたグレンとクレアは互いに小さくうなずいた。グレンが振り向いて後ろを向くとクレアは彼の背中に自分の背中をつけた。

 前後からゆっくりと五人はクレアとグレンとの距離を縮めていく。挟まれた二人はいつでも動けるように身構えている。


「第一勇者候補聖剣大師(ソードマスター)…… 許されざる者クレアだな?」


 五人はクレアとグレンの二メートルほど前にくると立ち止まった。前から来た三人の中央に立つ人間がクレアにむかって尋ねる。低く太い女性の声だった。

 ニコッとほほ笑むとクレアは彼女を見ながら首を横に振る。


「違います。その名前は…… ノウレッジの外に捨ててます。今は冒険者ギルドのクレアですよ」

「あぁそうだ。俺達はテオドール冒険者支援課のグレンとクレアだ。それ以外の何者でもねえな」


 前を向いたままクレアの言葉に同意してグレンがうなずく。彼の言葉を聞いたクレアは目を輝かせて嬉しそうに笑う。


「フッ! 黙れ! 一緒に来てもらおうか!」


 一斉にマントを外す五人、彼らは下は上下黒の制服に身を包み、腰に鍔が金色で十字型の細長い剣をさしていた。五人は男が三人、女が二人だ。男の一人は背の高い短い金髪の緑色の瞳を持った鼻が高く耳が尖ったエルフだ。一人は褐色肌に短い黒髪に茶色い瞳の中年の男で、もう一人は長い黒髪を後ろに縛った黒い瞳に丸い目をした若い男だった。

 女は二人で一人はグレンの前に褐色肌の男と並んで立ち、彼女は同じ褐色肌で藍色の短い髪で紫の色の瞳で顔の丸い幼い少女のような若い。

 最後はクレアに声をかけた女性で、長い太ももまで届くストレートの黒髪にすらっと伸びた鼻に瞳は黒で鋭い目つきをして凛として上品な雰囲気に包まれていた。

 五人は一斉に剣を抜いて二人に襲い掛かる。


「来ますよ。グレン君」

「あぁ」


 グレンは小さくうなずく彼の目が赤い光をだしオーラを纏う。


「いいな? クレアは殺すな。男の方は殺しても構わん!」


 三人の中央にいる黒髪の女が指示をだす。それを聞いたグレンが笑って背後にいるクレアに声をかける。


「だってさ…… 舐められたもんだぜ!!!」


 ニヤリと笑ったグレンは剣に手をかけたまま膝を曲げ腰を落とし前に出た。左から斜め前から迫る女との距離をまず詰めていく。彼が動くことで纏う赤いオーラが激しく揺れ風にたなびく獣毛のようになっている。


「なっ!? クソ!」

「遅い!」


 グレンの接近に直前まで気づかなった女が慌てて剣を突き出そうとした。しかし、グレンの動きの方が圧倒的に早く彼は右前に動きながら彼女と入れ違う。入れ違いながらグレンは剣を抜くと同時に女性の脇腹を斬りつけた。


「あっ!? あっあっ……」


 地面に赤い血がぽたぽたと垂れる、女性が持っていた剣が落ちた音がする。女性の脇腹はグレンの剣にえぐられるように斬られ大量の血を流していた。女性は脇腹を押さえ膝をつき倒れた。

 グレンは背後へと駆け抜けると同時に向きを変え、もう一人の襲い掛かって来ていた男へと彼はむかっていく。グレンは男との距離を瞬時に詰めた。


「なっ!? なんだと!?」


 先ほどの女性と同じようにグレンの動きについていけずに、彼が目の前に迫るまで男性も気づかなった。グレンは膝を曲げ体勢を低くし腕を引いて剣先を男へと向けた。慌てた男性はグレンに向かって剣を振り下ろす。


「がっは!!!!」


 男の剣が振り下ろされるよりも早く、グレンは伸びあがるようにして男の右肩に剣を突き刺した。男の動きは止まり握力を失った男の手から剣が滑り落ちるようにして道に転がる。

 グレンが素早く剣を引き抜く男の肩からドバっと血が吹き出す。そのまま左足を上げたグレンは男を足の裏で蹴り飛ばすのだった。


「うぎゃああああああああああああああ!!! ギャッ!!!!!!!!!!!!!!!」


 叫び声をあげた男は吹き飛び、近くの宿舎の壁へと背中から叩きつけられた。地面へとずり落ちた男はうつむいて肩から血を流した状態で座っている。気を失ったのか死んだのか男はピクリとも動かない。

 足を下して満足そうに動かない男を見つめるグレンだった。


「あっ!」


 驚くクレアの声がした。グレンは即座に彼女の声に反応して振り向いた。


「もう…… 片付けるの早いですよ。一人は捕まえないと話が聞けないじゃないですか!」

 

 振り向くとクレアが右腕を上へと伸ばし、大剣を空に掲げるようにして立っていた…… 彼女の足元には男二人が転がり、一人は右腕がなくもう一人は両足を失っていた。


「そっちだって…… それに俺のはまだ多分生きてる」


 首を横に振りあきれた顔をするグレンだった。彼の反応にクレアはプクっと頬を膨らませる。


「私の方だって生きてますー。それに一人はちゃんと捕まえましたよ。生け捕りです!!」


 視線を空に掲げた大剣に向けるクレアだった。彼女の大剣の白い刀身には一筋の血が垂れている。


「ぐっ…… 嘘でしょ……」


 大剣の先には黒髪の女性が右肩を貫かれて状態で刺さっている。彼女の肩から流れた血が刀身を染めていたのだ。苦痛のためか悔しいのかわからないが顔を歪めクレアを睨みつける女だった。


「はっ!!!!」

「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」


 クレアは気合をいれると敵を薙ぎ払うように横に振りぬいた。同時に女性が剣から抜かれて壁に叩きつけられた。狙ったようにクレアはグレンが男を叩きつけた場所と同じところに女性を投げていた。二人は折り重なるようにして地面に倒れ壁には血の痕が垂れている。

 グレンは静かに剣の血を拭ってしまう。


「さて…… じゃあやりますか」


 大剣を背中へと戻したクレアは腕をまくる仕草をする。彼女は倒れた男二人の下にいき切り落とした腕と足を丁寧に彼らの元へと戻す。

 倒れた二人の間に立った目をつむったクレアは呪文を唱える。


「ヒールビッグシスターハンド!」


 彼女の両手が緑色に光りだした。目を開けたクレアは両腕を広げ、緑の光が男たちに同時に充てるように動かす。光に当てられた男たちの傷はいえゆっくりと手と足がくっついていく。

 

「治療してやるのか?」


 クレアの後ろに来たグレンが声をかける。緑に光った傷を男たちに当てながらクレアは振り返った。


「あら!? ルドルフさんとゆっくりお話したいなら止めませんよ?」

「えっ!? あっ! すぐに治して! 俺も手伝う!」

「ふふふ。じゃあ回復は私がやるんでグレン君は皆さんを縛り付けください。もう暴れないようにしとかないと聖騎士さん達が怪我しちゃいますからね」

「おう!! 任せておけ」


 治安担当のルドルフの名を聞いたグレンは俄然やる気になり、胸を叩いて周囲を必死に見渡すのだった。


「えっと…… おっ!? ちょうどいい!」


 宿泊所の扉の上部分が大量のツタで装飾されていた。グレンはツタを見て小さくうなずくのだった。その後グレンは通りを片付けを行っていた、彼らが持っていた剣を拾い一人ずつ腰の鞘に戻す。

 しばらくして…… クレアの治療が終わった。


「じゃあ、グレン君。お願いします」

「おうよ」


 返事をしたグレンが左手をツタに向けた。ツタがするすると伸びて行き五人へと迫る。伸びたツタは五人を後ろ手に縛り両足を足首の辺りで縛り付け動けなくする。五人を拘束が終わるとツタは切れた。


「次は端っこに持って行くか邪魔だしな」

「そうですね」


 グレンは再びツタに手を向けた。再びスルスルとツタが伸び五人の腕に巻き付き、引きずるようにして通りに端へと持って行く。


「キャッ!!!」

「うわああああああ!!!」


 褐色肌の男の一人と黒髪の女性が声をあげた。二人の体がいきなり浮かび上がった。二人は上に持ち上げられた際にツタと反発して、腕を引っ張らた衝撃で目を覚ましたようだ。続いて他の三人の体も浮かびあがっていく。他の三人はまだ目を覚ましてないようで静かに浮かんでいく。


「なんだ!? 体が……」

「これは……」


 驚くグレンと何かに気づいた顔をするクレアだった。

 

「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

「うわああああああああああああああああああああ!!!」


 五人の体は急速で飛んで行く。音がしてグレンが伸ばしたツタが切れる音がした。五人は五メートルほど先に路地へと引っ張り込まれるようにして消えた。

 グレンとクレアは顔を見合せる。


「追いかけましょう!」

「あぁ……」


 クレアとグレンは五人を追いかけて走り出すのだった。


「あれは…… やっぱり」


 路地を駆けながらクレアは小さくつぶやくのだった。視線を横に向けグレンは心配そうに彼女を見つめるのだった。

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