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第113話 酸っぱい手紙

 本がズラっと並ぶ本棚置かれ窓の前に大きな黒い机がある部屋。ここは冒険者ギルドのマスターキーセン神父が使っている執務室である。

 席に座るキーセンの前にグレンとクレアとソーラが立っている。ソーラはガルバルディア帝国にハモンドと一緒に行っているタワーに代わり現在の情報収集課をまとめている。


「無事に三人は定期船に乗ったと報告があったよ」

「そうか。ありがとう」


 ソーラが笑顔でキーセンに報告をあげる。ミナリー、ベルナルド、エミリアの三人は定期船に乗りグレートワインダー砂海へと無事旅立ったようだ。

 報告を聞いたグレンが一枚の紙を出してキーセンの机の上に置いた。


「じゃあこの指令書はもう終わりだな」

「あぁ。そうだね。次は三人を追いかけてもらうことになるけどね」


 机に置かれた指令書を見たキーセンがクレアとグレンに笑顔で答える。彼は答えながら机の引き出しを開けて何かを探している。


「はぁ!? どうして? 何か問題があったのか?」

「うーん。あった! これだこれ……」


 キーセンに詰め寄るグレンだった。キーセンはグレンに向かって机から取り出した一枚の地図を見せた。


「グレートワインダー砂海の地図ですね……」


 グレンの横から顔をだしたクレアがつぶやく。キーセンが出したのはグレートワインダー砂海の地図で北側に赤い丸の島のような場所を赤い丸で囲ってある。キーセンは机の上に地図を置き小さくうなずいた。


「うん。グレートワインダー砂海の北にある雨天蓋(アマノテンガイ)に異変があるらしく。調査員を派遣してくれと頼まれてね」

「異変…… ですか?」

「うん。なんでも銀色の魔物が出て近づけないらしい……」


 キーセン神父の言葉にグレンが即座に反応し彼の言葉を遮る。


「銀色の魔物だって!? まさか…… それってキラーブルーのような古代遺跡とかの」

「それは調べてみないとね。だから二人は明日の定期船に乗ってグレートワインダー砂海へ行ってもらう」


 首を横に振ったキーセンは持っていた地図を指して二人に指示をする。


「わかりました」

「じゃあ…… ソーラ君は引き続きグレートワインダー砂海の情報を集めてくれ」

「はーい」

「じゃあ解散だ」


 三人はキーセンの部屋から出てソーラは一人で情報収集課へと戻り、グレンとクレアの二人は受付の様子を見に行くため一階へと下りた。


「あっ! グレン! ちょうどいいところに来たわ! こっちへ来て!」

「うん!?」


 カウンターからミレイユが顔をだし、階段を下りて来たグレンを呼ぶ。彼が近づくとミレイユは持っていた小さな木箱を差し出した。


「おぉ。悪いな。どこからの荷物だ?」

「ギルド内便でロボイセからよ」

「プリシラだな!」


 グレンは嬉しそうに箱を受け取った。どうやらロボイセの受付嬢プリシラからグレン宛ての荷物のようだ。彼の後ろでクレアが目を鋭くして見つめている。受付は混雑もなく二人は冒険者支援課へと戻った。

 席に戻ったグレンはさきほどミレイユから受け取った箱を開ける。


「ジー……」


 気配を感じて振り返ったグレンのすぐ後ろに、クレアが立って居て木箱を覗き込んでいた。グレンはすぐにクレアに声をかける。


「なっなんだよ! 義姉ちゃん?」

「プリシラさんが何を送って来たのか気になったんです」


 渋い顔でプリシラが送って来た箱を見つめるクレアだった。


「えっ!? あぁ。なんだ。そんなことか。ほらよ」


 グレンはクレアの前で箱を開け、そのまま箱を彼女の目の前へと差し出した。箱の中には小さな液体が入った封をされた瓶が入っていた。透明な瓶には三日月の形をした葉っぱが浮いているのが見える。

 

「これは月菜葉…… ですね。その液体は……」

「あぁ。これは酢漬けだからな」


 瓶に入っていたのは月菜葉を酢漬けにしたものだという。


「でもなんでそんなものをプリシラさんが?」

「あぁ。月菜葉の畑が地下街に出来たらしい。それで俺もいろいろと試そうと思って送ってもらうことにしたんだ」

「ふーん」


 グレンは瓶を箱から出して得意げにクレアに見せる。クレアは口を尖らせ不満げに瓶を見つめている。

 ロボイセの地下街はマウンテンデスワームに寄生された魔物に占拠されていたが、冒険者達の努力によりほとんどを奪還された。しかし、町に人がなかなか戻らず一部が月菜葉の畑へと変更されたという。これは鉱山に偏った町の運営ではゴールド司教のようなことが再び起きるという危機感から、後任が町の新たな産業の創出のために行った政策でもある。


「さーて…… じゃあ…… さっそく」


 瓶の蓋を外したグレンは、指先を瓶につっこみ器用に月菜葉をつまんだ。取り出した指先を自分の口元へと持って行き月菜葉を食べた。

 食べた直後にグレンは顔をしかめた。


「うへ…… すっぺえな。もう少し食べやすくした方が…… でもそうすると保存がな…… 生だとすぐに干からびちまうしな…… 次は塩漬けを……」


 つぶやくグレンにクレアが尋ねる。


「どうです? 女神の光(ルーメ)の力は使えそうですか?」

「ちょっと待ってな」


 グレンは胸のポケットに手をつっこんだ。胸に入っていた月菜葉を彼は机に置く。ずっと胸に入れていたせいかすでに月菜葉は干からびていた。月菜葉により強化される獣化(ビーストモード)を二人は女神の光(ルーメ)と呼んでいた。

 目をつむり意識を集中させるグレン、彼の目の奥が赤く光り黄色いオーラを纏った。


「うん。大丈夫そうだ。生の月菜葉をポケットに入れるよりはよさそうだ。後はこれが何日もつかだな」

「記録に取っておかないとですね」

「あぁ。それで後はプリシラに追加を頼まないとな。よし!」


 グレンは自席に戻ろうとする。クレアは少し不満げに腕を組んでいた。彼女はグレンが自分以外の女と連絡を取るのが不満なのだ。席に着くグレンの後ろでジッとするクレア、彼女の視線がプリシラが送って来た箱へと向けられた。クレアは上に向けられた箱の蓋に、折りたたまれたメモのようなついているのに気づく。


「これは……」


 すっと手を伸ばしクレアは蓋についていたメモを取った。グレンはクレアの動きに気づき。折りたたまれた


「なんだ!? プリシラからの請求書でも着てたのか?」

「ふーん…… グレン君!」


 眉間にシワを寄せたクレアがグレンに詰め寄ってきた。目に涙を溜め明らかにクレアは怒っている。グレンはなぜ彼女が起こっているのかわからず動揺する。


「なっなんだよ! どうしたんだよ?」

「どうしたじゃないですよ! これはどういうことですか!!」

 

 グレンにメモを突き出して見せて来るクレアだった。メモはプリシラからグレンへ宛てた手紙で中身は……


「こんにちはグレンさん。この間はお世話になりました。もしよろしければ今度ロボイセに来たら…… クレアさんに内緒で食事でも…… 町を救ってくれたグっレンさんの勇ましい横顔が今でも脳裏に…… そのたくましい腕で私を…… 抱きしめて…… はっ!? なっなんだよこれ……」


 プリシラからグレンへの想いを綴った手紙だった。グレンは読み上げていくうちに焦って声がうわずっていく。途中で顔をあげクレアに必死に弁解をする。ちなみに文章の終わりには彼女が描いたであろうハートのマークがある。


「俺は知らない! 何も知らねえって!」

「メーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 クレアは両手をあげグレンを叱るのだった。その後…… グレンは必死に弁解したが、クレアは納得できずにしばらくは不機嫌だった。


「たくましい腕…… 横顔」

「やめろ!!! もう…… わかったから…… はぁ…… プリシラめなんのつもりだよ。からかいやがって」


 目を細めてグレンを見るクレアだった。義弟に言い寄るプリシラを苦々しく思うクレア、グレンはプリシラにからかわれたと思っていた。


「なっなに? まだ怒ってるのかよ…… はぁ…… もう!」


 ジッと見つめて来るクレアの視線に耐え切れずグレンはクレアに背中を向けた。クレアはプクっと頬を膨らませると義弟の背中に近づき手を伸ばす。


「義姉ちゃん!?」


 大きなグレンの背中の裾を掴んでクレアはギュッと握りしめた。グレンは振り向くとクレアは目に涙を溜めジッとグレンを見つめていた。


「グレン君は…… 私のですよ…… どこにも行っちゃダメですからね」

「なんだ…… ふっ」


 必死に首を振りながらグレンの裾を握るクレア、グレンは首を横に振り振り向いた。手が裾から外れ冷たく悲しい気持ちになるクレアだった。しかしすぐに頭に暖かく優しい感触が届く。


「どこにも行かねえよ。ずっと義姉ちゃんの側にいるよ……」

「うん…… 約束です」


 グレンはクレアの頭を優しく撫でてほほ笑む。クレアはうつむいて小さくうなずきグレンに抱き着くのだった。しばらくして…… クレアはハッとしてグレンの胸から頭をはなした彼の顔を見た。


「あっ! そうだ!」

「どうした?」

「うふふ。プリシラさんへの返事は私が書いてあげますね」

「はぁ!?」


 クレアの急な提案に首をかしげるグレンだった。クレアは少し寂しそうにグレンの顔を覗き込んだ。


「いけませんか?」


 目に涙をためて顔を近づけるクレアに、グレンが抵抗できるはずもなくすぐに彼女が返事を書くことを了承する。


「別に…… 適当に書いといてくれ。あぁ! 酢漬けを定期的に送ってもらえるように手配だけは忘れないでくれ」

「はーい!」


 明るく元気よく返事をしたクレアは自席に戻ってプリシラへの返事を書き始める。クレアの機嫌が戻りホッするグレン、だが…… 筆を滑らせる彼女の口元は緩み怪しくにやけていた……

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