第111話 楽しい食事の後は
大樹の森でグレンはエミリア達と焚火を囲み昼食をとっていた。
カッツとアランはグレンが支給されている魔法道具、簡単死体回収用自動棺桶の種により棺桶に収納され近くに置かれていた。三体のゴブリンの死体は穴を掘って埋めてから焼却処分した。
なお、昼食としてエミリアが作っていた野菜スープは、返り血などが入ってしまったため作り直していた。
「近くにゴブリンの大集落を見つけてさ。あたいが真っ先に殴り込んだんでさ。そして群がるゴブリンどもをちぎっては投げ! ちぎっては投げ……」
食事をしながらミナリーが得意げに話をしている。
エミリアを残して捜索に出た二人はゴブリンの集落を見つけ襲撃したらしい。機嫌よく饒舌に話す彼女にベルナルドが割り込んでくる。
「違うでがんすよ。姐さんが不用意に飛び出して見つかったから仕方なく突っ込んだでがんす。それに…… 集落もそんなに大きくなかったでガンすよ」
「こら! ベルナルド! 余計ないうんじゃあないよ」
「へーいでがんす」
「この!」
スプーンを持った右手をあげるミナリー、ベルナルドはべーと舌を出すのだった。二人の横に座っているエミリアは笑顔になっていた。グレンは三人の様子を微笑ましく見守っていた。
「いやぁ。さすが新大陸だねぇ。色々あって面白いじゃねえか」
「そうでがんすね」
楽しそうに話をするミナリーとベルナルドをグレンは心配そうに見つめていた。ノウレッジにやって来た冒険者達が、新大陸の環境に浮かれて命を落とす姿を彼は何度も見ている。
「まっあんまり無理するなよ。今日だってエミリアが危なかったんだからな」
「そっそうだな…… 気いつけるよ」
支援員として釘をさそうとグレンが口を開く。ミナリーはグレンの言葉を素直に聞いて恥ずかしそうに頭をかく仕草をした。彼女はエミリアに視線を向けた。
「あたいたちはこれからもっと金を溜めて東に行かにゃきゃいけねえんでね」
「そうか。やっぱり最前線を目指すんだな」
グレンがうなずいた。新人冒険者達のほとんどは未到達である大陸東端を目指して進む、大陸開発の最前線を目標にしている。
「いえ…… ある人を探しているんです。ここから東に居るので……」
寂しそうにエミリアは水が入ったコップを両手に持ち空を見上げていた。空を見上げるエミリアは美しく儚げに見える。グレンはエミリアを見つめ協力を申し出る。
「ある人? 誰だ? 冒険者だったらこっちで調べられるぞ。もちろん違法性がないか君らが会いたがってる目的と理由が必要になるけどな」
「えっと…… それは……」
グレンの言葉に目が泳いで困った様子のエミリアだった。エミリアの様子に首をかしげるグレンだった。ミナリーが手を前に出してグレンに声をかける。
「いやあ! グレンのあんちゃん。ダメだよ。あたいらは冒険者なんだから自分達で探すよ」
「ははっ。そうか。悪かった余計な世話だったな」
「いえ。グレンさんのお心遣いに感謝します」
エミリアはホッと安堵の表情を浮かべ、器を置いてグレンに丁寧に頭をさげた。
「さぁ! じゃんじゃん稼ぐよ。さっき倒したゴブリン達がたくさん宝石や金貨を持ってたんだ」
「おぉ!!! すごいねミナリー! あっ! それって…… チラ」
「あっでがんす!」
ベルナルドとエミリアがグレンに顔を向けた。二人はどこか不安で心配そうな表情をしている。ゴブリンが持っていた宝石や金貨は略奪品であり、ギルドの職員であるグレンに咎められるのでは心配しているようだ。なお、ゴブリンにとって金品に価値はないが持っていることで人間をおびき寄せ襲うことがある。
視線と表情でグレンは二人が何が言いたいのかわかった。
「うん…… あぁ。そうだな。ちょっと待ってな……」
食べ終わった皿を地面に置きグレンは立ちあがった。カッツが収納されていた棺桶を開ける。両手を胸の前に組み、目を閉じたまま静かに棺に横たわるカッツにグレンは手を伸ばす。
カッツが所持していた袋をベルトから外した、グレンは袋の口を持って中身を確かめている。袋からグレンが一枚の紙を取り出してみてうなずく。
「あった…… うん。大丈夫だな。略奪品の返却依頼はねえな」
グレンが袋から出したのはゴブリン討伐の依頼書だ。依頼書に特に略奪品の返却がなければ討伐した冒険者に権利が発生する。エミリアとベルナルドはグレンがゴブリンの集落にあった略奪品を、返却しろと言わないか心配していたのだ。
「後は…… これを書き換えて……」
胸元にグレンは手をやり職員証を手に持ち、彼は依頼書に職員証をかざす。依頼書に書かれたいたカッツの名前に斜線が引かれ上からミナリーと書かれる。ミナリーの文字の横には冒険者支援課グレンとの追記がされた。
グレンは依頼書を見て小さくうなずきミナリーの元へと行く。
「よし。これを冒険者ギルドに持って行きな。ゴブリン討伐の依頼の報酬も受け取れる」
「えぇ!? でも? いいのかい?」
依頼書をミナリーに差し出すグレンだった。ミナリーは驚き依頼書を受け取るのを躊躇する。グレンはミナリーの反応を見て笑顔で小さくうなずいた。
「あぁ。構わない。ここのゴブリンの集落をつぶしたのは君らだろ? だったら報酬をもらう権利はあるさ」
「ありがとうよ。じゃあ遠慮なくいただくぜぇ!」
「後…… あの二人の装備品もはいでっていいぞ。どうせ後で廃棄するだけだからな」
「さすがにそれは…… グレンのあんちゃんがやったことだから……」
右手の親指でカッツとアランの棺を指すグレンに遠慮するミナリーだった。グレンは彼女の態度を見て笑っていた。
グレンから依頼書を受け取ったミナリーは依頼書を見て目を輝かせる。
「おぉ。これで今日の報酬に四百ペル追加だ」
「やったでがんす」
「でも、今日の仕事は終わってないからな! 頑張るぞ」
ミナリーの言葉にエミリアとベルナルドが大きくうなずいた。エミリアはミナリーに向かって胸を張り得意げに話をする。
「私も報酬で料理の材料を仕入れたら町で商売するからね。そしたら二人が危険な仕事しなくてもよくなるから」
「おうよ! 頼むぜ! でも一人で頑張る必要はないぜ! これからも皆で頑張るんだ。気合入れいくぜ!!」
「オー」
「オーでガンす!!!」
三人が拳を突き上げ気合を入れている。グレンは新人冒険者たちを暖かい目で見守るのだった。そこへ何かが飛んで来た。
「楽しそうですねぇ」
「「「!!!!!!!!!」」」
優しくおっとりとした声で誰かが上から声を駆けて来た。拳を突き上げていたしていたが固まる。聞き慣れた声にグレンは笑顔で空に目を向けた。そこには……
「おっ! 義姉ちゃん。何かあったの?」
四人の斜め上に五メートルほど、上空にクレアが浮かんで四人を笑顔で眺めている。クレアはグレンの声を聞くとすぐに地上へと下りて来た。つかつかと歩いてグレンの前に来るとムッとした顔をする。
「グレン君! メーーーーーー!!! こんなところで油を売って!!! いつも仕事が終わったらすぐに戻るように言ってるでしょ!!」
「はぁ!? うるせえな。ガキじゃねえんだから! どこで何してようが俺の勝手だろ。だいたい俺は出張帰りで遊んでたんじゃねえ仕事してたんだ!!」
右手でクレアを払うような仕草をするグレンだった。クレアは彼の態度に腕を組んでそっぽを向くのだった。
「もう! 生意気ばっかり言って…… 後でお説教です。まぁいいです。今は……」
クレアは腕を組み視線をエミリアに向けた。振り向いた彼女はエミリアの前に立った。
「あっあ……」
怯えた様子でエミリアはクレアから逃げるように顔をそむけた。クレアはにっこりと微笑み右手を自分の胸の前へと持っていた。
「お久しぶりです。グレゴリウス殿下」
エミリアを見てグレゴリウスと名前を言って深々と頭を下げるクレアだった。エミリアは顔が引きずり青ざめている。ベルナルドは額に手を置いて首を横に振り、ミナリーは顔をしかめしまったという様子だった。
グレンだけはわけがわからず困惑した表情を浮かべていた。