第105話 とある少年の決意
時は少し戻りオリビア達がノウレッジに訪れた頃……
ここはノウレッジから遠く離れたガルバルディア帝国の辺境の閑静な森に囲まれた邸宅の一室。そこはきらびやかな寝室で、天蓋がある大きなベッドに装飾が施された豪華な家具が並んでいる。ベッドの脇に置かれた全身が映る大きな鏡の前に短くおかっぱ頭の少年が立っていた。
つぶらな茶色の瞳に高い鼻に透き通るような白い肌で、少年は少女と見違えるようなきれいな顔立ちをしている。装飾の施されたベストに黒いズボンを履き少年は鏡の前に立っていた。少年は鏡にうつる自分を見ながら髪型を整えていた。
「えっと…… この服だと目立つから市場で…… でも、あれは…… やっぱり恥ずかしいな。いつも従姉ちゃんはあんなのばっかり……」
手を止めて鏡に映る自分を見ながら、不安そうにつぶやいた少年。だが、すぐに彼は自分を奮い立たせるように首を大きく横に振った。
「ううん。でも…… 付いて行くって決めたんだ…… だから僕は…… それにお従姉ちゃんにだって迷惑が……」
少年は視線を鏡から外し、横に向け窓から見える遠く離れた空を見て拳を握った。
「はい! 開いてるよ」
ドアがノックされ、慌てて少年が返事をする。扉が開かれ二人のメイドが寝室へと入って来た。
「準備のお時間ですよ」
メイドは少年の横に来て深々と頭を下げた。顔をあげた途端に驚きの表情をした。
「まさか一人で着替えを?」
「うん? クローゼットにあったこの服で大丈夫だよね」
「えぇ。ですが…… お着替えなどは私どもに命令していただければお手伝いを……」
戸惑うメイドに向かって少年は笑顔で首を横に振った。
「ううん。大丈夫。だってこれからは何でも一人で……」
「えっ!?」
「なっなんでもない」
少年は慌てた顔をしてベッドに、広げて置いてあった上着を羽織り寝室の扉を指さした。
「さぁ。行こう。みんなを待たせたら悪いしね」
ごまかすように笑って少年は部屋から出ていこうとする。メイド二人は慌てて彼を追いかける。上着の右側が不自然に膨らんでいたが、メイドはそれに気づかないのだった。