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第103話 砂塵を求めて

 ゴールド司教がノウレッジ大陸から排除されて二週間後……

 キティル、メルダ、オリビア、クロースの四人は干上がった地底湖のそこへとやってきた。水が抜かられてまもなく乾ききらずにぬかるんだ地面に足をとられながら、地底湖の底にあった石柱へ向けて四人は歩いていく。

 採掘作業はまだ再開されていない静かな、湖底のほぼ真ん中にひっそりと真っ黒な石柱がたたずんでいた。石柱の前に立ったキティルは顔をあげて石柱をジッと見つめていた。


「グレンさんもクレアさんも一緒に来ればよかったのに」


 石柱を見ながら少し寂しそうにキティルがつぶやく。側に居たメルダがキティルの肩に手をおいた。


「しょうがないわよ。テオドールから戻るように言われたんでしょ」


 四人と一緒に来る予定だったグレンとクレアだったが、冒険者ギルドから連絡がありテオドールへと戻っていた。


「それに大丈夫ですわ。ここで起きたことは私達が二人に報告いたしますから」

「あぁ。任せておけ」


 二人の後ろに居たクロースとオリビアがキティルに声をかけた。振り返ったキティルは笑顔で二人にうなずく。

 同じようにメルダは二人の方を見て笑顔で小さくうなずく。少しずつではあるがメルダはクロースとオリビアとも打ち解けて来た。


「よし」


 つぶやいたキティルは首からぶら下げていた、銀の短剣を持って鞘から抜いて右手に持った。キティルが横を向く、彼女の肩をつかんでいた、メルダの手に力が入るのを感じたからだ。不安そうに石柱を見つめるメルダ。おそらくテオドールで起きた惨劇を思い出しているのだろう。キティルはそっと、メルダの肩に置かれた手の上に自分の左手を重ねる。


「大丈夫よ。メルダ。何も起こらないわ」

「えっ!? でも……」

「根拠はないけど私なら大丈夫な気がするの!」


 自信ありげにキティルが笑った。彼女の表情を見たメルダから不思議と不安は消えていった。安堵したメルダの顔を見たキティルは笑ってメルダの手を軽く握る。


「じゃあやるね」

「えぇ。お願いね」


 うなずいてキティルは、メルダの手から自分の手を離し、一歩前へと出て石柱の目の前へ。小さく息を吐いた彼女は、テオドールの時と同様に、片刃の短剣を刃の部分を上にして、石柱の根本にある台座の溝に短剣をさした。

 青い宝石から一筋の光が伸びて、キティルの額を照らす。光は二つに分かれて下へ向かい、キティルのつま先まで到達すると消えた。


「オ帰リサイマセオ嬢様。ゴ用件ヲドウゾ」


 青い宝石が点滅するとそこから声が聞こえる。キティルは顔をあげて石柱に口を開く。


「エリィは? エリィはどこに居るの?」


 宝石からまた青い光が伸びて、キティルの前まで来ると形を変え長方形の薄い光のボードに変化した。見たこと無い文字がボードに表示されている。キティルの横でボードを覗き込み、文字を見たメルダは顔をしかめた。


「なっなに…… これ? なんて書いてあるのかしら……」


 首をかしげるメルダだった。クロースとオリビアの二人も気になりキティルの背後から覗き込む。


「みたことありませんわね」

「そうだな。それなりに古い文書には目を通しているつもりだったが……」


 魔王討伐のために世界中を回った二人も見たこと無い文字のようだ。だが…… キティルはボードに映る文字を驚いた表情で見つめていた。彼女は指で表示されている文字を静かになぞる。


「うん。やっぱりこれは超古代の精霊文字…… エリィは…… 第六ブロックへ……」

「キティル!? あなた…… これが読めますの?」

「はい。私の家に倉庫にあった古い本が同じ文字で書かれていたんです。すごい魔導書だと思って子供の頃に両親に手伝ってもらって必死に翻訳したんですけど…… ただの恋愛小説で…… 忘れてました!」

「ははっ……」


 クロースの質問にキティルは笑顔で少し恥ずかしそうに答えた。キティルの家は代々村を守護する魔法使いで倉庫には古い道具や書物が置いてあったという。その中に石柱が表示する文字と同じ文字で書かれた書物があったという。

 前を向いて顔をあげたキティルは石柱に向かって尋ねる。


「第六ブロックってどこなんですか?」

「コチラデス」


 ボードから文字が消えて地図が表示された。表示されてる地名は違うが、ロボイセと思われる場所から東に赤い光が点滅している。どうやら赤い光の点滅にエリィが居るようだ。

 キティルは地図に表示されている地名を見て驚いた顔をした。


「えっ!? 黄金海(ゴールドシー)!? でも…… ここから東に海なんて……」


 エリィがいる場所は黄海という場所だという。

 石柱の回答に困惑するキティルだった。なぜならロボイセはノウレッジ大陸の西側のやや内陸に位置する、ここから東は大陸中央部と言われる部分だ。当然そこに海などは存在しない。


「おそらくその海は海でも砂海(さかい)のことですわ。東にあるのはグレートワインダー砂海ですわね……」


 困惑するエリィの背後から、ボードを覗き込んでいたクロースが答える。ボードに表示されているのは、普通の海ではなく砂漠で現在はグレートワインダー砂海と呼ばれている。


「砂海の下にでも白金郷が沈んでるのかもな」

「そうですわね」


 楽しそうにオリビアとクロースが会話している。


「なに楽しそうにしてるのよ。もし本当に砂海の下に沈んでたらどうするつもり?」


 二人の会話を聞いていたメルダは、両手を組んで会話に割り込んだ。


「行く方法を探すだけだ。違うかい?」


 オリビアはメルダに笑顔を向けた。メルダとオリビアの目があった。わずかにメルダの口元が緩んで彼女はキティルに顔を向けた。


「そうね。行きましょうか。キティル」

「えぇ。行きましょう」


 キティルはうなずいた銀の短剣を抜き鞘に戻した。短剣が抜かれると同時に石柱から出ていた光が消えていった。四人はロボイセから東にあるグレートワインダー砂海を目指す。

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