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第100話 勝利とその代償

「来るなアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!」


 迫るグレンに叫びながら左手を向けたゴールド司教。彼の左手が光ると同時に赤い光が、グレンの足元から沸き上がってくる。直後にグレンが歩く地面からいくつも火柱が上がった。

 あっという間にグレンは火柱に包まれて見えなくなってしまった。


「グレン君!!!」


 炎に包まれたグレンを悲痛な声で呼ぶクレアだった。


「はははっ! 油断した…… うげぇ!?!?!?」 


 目を大きく見開きゴールド司教は驚いた表情のまま固まった。

 燃え盛る火炎の中から、黄色いオーラを纏い右肩に大剣をかついだグレンが平然と姿を現した。グレンの姿を見たクレアはホッと胸を撫でおろす。


「クソオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!」


 我に返ったゴールド司教は振り向き、左手を前にして飛び上がった。彼はステンドグラスを突き破って外へと飛び出していってしまった。


「無駄だ!」


 グレンは地面を蹴って浮かび上がると、ゴールド司教が突き破ったステンドグラスまで素早く飛んで行く。彼を追ってグレンも外へと飛び出すのだった。

 外へと出たグレンにゴールド司教は必死に修道院の裏手へ向かって走っていた。グレン達が使ったトンネルを通って逃げようとしているようだ。


「はぁはぁ…… もうこうなったら…… このまま逃げて再起を……」


 必死に走りながらつぶやくゴールド司教だった。必死な彼はグレンが追って来ていることに気づいていない。いや気づかないようにしていると言う方が正しく、ゴールド司教はもう逃げることで頭がいっぱいだった。


「逃がすかよ…… クソじじい!!!!」


 グレンは左手をゴールド司教へと向けた、彼の右手が月のように黄色く光り輝く。ステンドグラスから大量の月菜葉が飛び出し、グレンを追い越してゴールド司教へと向かっていく。


「月の精霊よ。その慈愛溢れる優しき輝きを用いて悪しきものを焼き払え……」


 左手をゴールド司教へと向けたままグレンは口を動かす。

 大量の月菜葉はあっという間に、ゴールド司教へと追いつき彼の前に密集し壁のようになった。


「邪魔するな!!」


 目の前に突如現れた葉の壁に怒りを覚え殴りつけゴールド司教。殴られた月菜葉は衝撃で散らされるのだった。目の前が開き足を進めようとするゴールド司教……


「しまっ!?」


 ゴールド司教が目を見開いた。散らした月菜葉が黄金に光輝き彼の周囲に浮かんでいたのだ。月菜葉はまるで意思を持っているかのようにゴールド司教の周りに浮かび彼を照らしている。

 月菜葉はゴールド司教の囲み回転する、彼の体はミラーボールに照らされたようにいくつもの三日月の光の影が動いていた。


「ルナレーザー!!」

 

 グレンが叫んだ。月菜葉から光線がゴールド司教へと向けて発射された。ルナレーザーは月属性の上級魔法で、月が放つ輝きが熱線となり敵を焼き尽くす。

 全方位から照射された熱線はゴールド司教に全て命中し、彼は声をあげることもできずに一瞬で体中を貫かれた。


「あっあああ……」


 ゴールド司教の体に無数の三日月の形をした穴が開き血が噴き出した。穴だらけにされたゴールド司教は体中から血を流し苦しみながらも前に進もうとする。

 月菜葉が瞬きまたゴールド司教を照らす。ゴールド司教が気配を感じて振り返る……


「げえ!!!!」

「往生際が悪いんだよ!! くそじじい!!!!!!!!!!!!!」


 振り返ったゴールド司教、彼の足元には大剣を構えたグレンが立って居た。グレンは叫びながら大剣でゴールド司教の足を斬りつける。グレンの大剣により両足のふくらはぎから下が切り落とされた。


「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


 両足を失ったうつ伏せに倒れてゴールド司教、彼は必死に膝をつき左腕一つで体を起こし逃げようとする。

自分の足が並んで転がる場所へ向かうゴールド司教、斬られた彼の足を再生しようと先端に触手がうごめく。また、先ほどルナレーザーで貫かられた体の穴にも触手がうごめき再生を始めようとしていた。

 

「にげねば…… うっ!!!」


 這って必死に逃げていたゴールド司教が、急に胸を押さえて苦しみだした。膝をついたまま前に倒れ顔を上げ苦痛の表情を浮かべるゴールド司教だった。


「ゴホッ! ゴボオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!」


 せき込んだゴールド司教が口から大量の血を吐き出した。


「何故じゃ!? ゴボ!! ゴボオオオオオ!!! わしの体は…… どうしたのじゃ…… ぐはああ!」


 大量の血をはいて咳き込むゴールド司教。血はグレンの足元まで流れて来ていた。彼は流れる血でブーツを汚されても気に留めることもなく、真顔で大剣を握りしめ肩にかつぎ苦しむゴールド司教に向かって歩き出した。

 ゴールド司教の頭の前に立ちやつを見下ろすグレン、彼の気配に気づいたゴールド司教は顔をあげた。


「まっ待て!? ゴボォ! わしは…… ゆっ許してくれ!」


 必死にグレンに向かって助けを乞うゴールド司教だった。グレンは黙ったままゴールド司教を見下ろし、ゆっくりと右腕をあげ大剣を回転させ逆手に持ち替えた。左手を大剣にそえ両手を自分の額あたりまで上げた。


「頼む…… わしは……」


 ゴールド司教は顔を青くして鼻水を垂らし泣き出した。グレンは眉一つ動かさずにゴールド司教を見つめていた。


「さよならだ!!! ゴールド!!!!!」

「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!」


 修道院にゴールド司教の声が響く。叫びながら剣を振り下ろしグレンは大剣をゴールド司教の顔へと突き立てた。グレンの大剣はゴールド司教の顔の中心を貫き地面に穴を開ける。目から光を失ったゴールド司教は動かなくなった。冷静な顔でグレンは剣を引き抜こうと両手に力を込めた。


「ふう…… 義姉ちゃん……」


 引き抜かれた大剣の剣先から血が滴り落ちていた。滴り落ちる血を見てほほ笑んだグレンは、大剣を振って血を拭いグレンは肩にかつぐとゆっくりと浮かびあがる。地面には倒れたゴールド司教の死体が静かに転がっていた。

 割れたステンドグラスから、修道院の礼拝堂へと戻りクレアの前へと着地したグレンだった。クレアは心配そうに彼を見つめていた。


「義姉ちゃん…… 大丈夫?」

「…… コク」


 黙ったまま小さくうなずくクレアだった。目をうるませクレアはジッとグレンを見つめている。クレアはなぜかグレンが、このままどこかへ行ってしまうのではという不安に支配されていた。

 いまにも泣きそうな自分を見つめる最愛の彼女にグレンは笑いかけた。しかし……


「グレン君!?」

 

 クレアに笑いかけた直後…… グレンは事切れた人形のように膝から崩れてその場に倒れてしまった。かついでいた大剣は手から力が抜けると同時に地面に落ちた。

 慌ててクレアはグレンに駆け寄り倒れる彼を支える。


「グレン君! 大丈夫!? グレン君!」


 目に涙をためクレアはグレンの体をかかえ丁寧に横に寝かせる。自身も座り込みグレンの頭を自分の膝に乗せフードを外す。


「ダメです! グレン君! ヒールビッグシスターハンド!」


 回復魔法のヒールビッグシスターハンドを唱えるクレア、彼女の左手が緑色に光りだした。クレアは光った左腕をグレンの額におく。柔らかな優しい光にグレンが照らされる。


「グレン君! グレン君! お願い目を覚まして」


 必死にクレアはグレンに声をかける。しかし、グレンは目をつむったまま動かず反応しない。


「お願い…… ダメです……」


 左手の光が強く輝きだす。光は全身へ広がっていき、周囲を緑色に照らし出す。クレアはグレンのために自身の魔力を全解放した、ヒールビッグシスターハンドの効果は聖堂全域へと広がった。懸命にグレンを治療していた、クレアは気づかなかったが、解放された魔力で彼女の背中の怪我も癒えていく。だが、クレアの必死な治療もむなしく、グレンは目を閉じたままで何も反応はなかった……


「グレンくーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!!」


 礼拝堂に義弟を呼ぶクレアの悲痛な声が響くのだった。

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