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第11話「岐路」

大怪我から奇跡の生還を果たしたといっても、万事解決とならないところが、冒険者稼業の難しいところだ。


リアムの奴も自宅に戻るなり、ハンナから物凄い剣幕で冒険者引退を迫られたそうだ。


「ウチは母1人子1人なうえ…」


「オフクロはセト村からの上京組なんでヤレドに兄弟すらいませんし」


「俺が死んじまったら、本当にオフクロが1人になっちゃいますからね」


元々、ハンナに楽をさせようと、稼ぎの半分を生活費として家に入れていた孝行息子のリアム。


それゆえに、母親を1人残して死ぬことへの恐怖を存分味わった後は、ハンナのお説教に反発する気力も失っていたらしく…


しょぼくれた様子で我が家を訊ねて来た時には、既に引退の決意を固めていた。


花形職ではあるが、肉体労働の究極の冒険者稼業。


大抵の人間にとっては、一生出来る仕事ではなく、怪我や結婚などでフェードアウトするパターンが一般的だ。


極端な例でいえば、最初のクエストで適正のなさを思い知り、引退を余儀なくされる冒険者だって存在する。


それだけに、18歳での引退は、世間的に見ても決して早い年齢ではないが…


問題は、セカンドキャリアをどうするかだ。


「冒険者を始めたばかりの頃は…」


「駄目だったら職人になればいいかくらいに考えていたんですど…」


「もうこの年齢でしょ?」


「今更丁稚で始めるには、さすがにキツイもんがありますよね」


一般的な就業年齢が12歳程度なこの世界。


同世代は既に一人前の職人としてバリバリ働いている頃合いだ。


これから目指す職業としてはあまりに非現実的すぎるし、そもそも受け入れてくれる工房がないだろう。


本来ならば、親しき仲の俺が弟子にし、薬師のノウハウを叩きこんでやればいいんだろうが…


薬師は東洋人種限定ジョブ。


白人のリアムでは、クラスチェンジすら不可能な現実があった。


そうなると、冒険者時代の信用や人脈を活かして、武器屋や防具屋なんかを開店する路線が無難と言えるが…


(リアムの怪我を治すために…)


(ハンナさんのへそくりも使い切っちまったらしいしな)


高位神官を派遣して貰うために、家一軒買えるレベルの出費をしたばかりのグラバー家では、武器や防具を仕入れるお金も残っていない状況だ。


(冒険者のセカンドキャリアか…)


(ホント悩ましい問題ではあるよな)


今更何かをやり直すには、中途半端な年齢で引退するケースが多いせいか…


リアムに限らず、冒険者のセカンドキャリアでの不遇さは、この世界でも大きな社会問題となっていた。


現役時代によほどお金を貯め込んだ者以外は、倉庫労働者になれれば御の字。


繁華街の用心棒からマフィアに転落する者もいれば、貧民街を根城にした窃盗団の一員となる者も珍しくない。


(何とか良い道を考えてやらないといかんよな…)


一通り悩みをぶちまけてすっきりしたのか、多少は気が楽になった様子で自宅に戻るリアムを見送った後は…


リアムのセカンドキャリアのヒントを掴むため、近所の商店街をぶらつくことにした。


スーパーやコンビニ、ドラックストアなんて存在だにしない世界だ。


商店街には、小規模な日用雑貨店や食料品店が立ち並び、買い物客で賑わっていた。


中には小資本でも開業出来そうな商売もあるが…


大量消費時代以前の社会構造なため、店を経営するにあたり、何かしらの職人技が必要なケースが多い。


例えば金物屋なら、切れ味の落ちた包丁を砥石で研ぐくらいのアフターサービスは必要だし、桶屋なら桶のタガの緩みくらいは修理出来ないと商売にならない。


(何の下積みもなしに開業出来る商売なんて…)


(やっぱりあるわけないよな)


小1時間ほど街ブラをすると喉も乾いてきたので、たまたま目に入ったレモネード屋で一服することにした。


元魔王軍の居城だが、大昔は人口数百人程度の散村に過ぎなかったヤレド。


実は地下水源が豊富ではないため、ため池や川などに水道管を通し井戸に水を引いている。


そのせいで、水質も悪く生の水など飲めたものではないため、水を加工した飲料が大変に人気で、街のあちこちにレモネード屋や喫茶店が点在する。


(いくら水が悪いっても…)


(水にレモン汁と砂糖を混ぜただけの飲み物がこんなに人気なんだから…)


(商売なんてわからないもんだよな)


そんなことをぼんやりと考えながら、ウエイトレスが運んで来たレモネードで喉を潤した瞬間。


(…もしかすると、アレをああすれば…)


(結構な商売になるんじゃないか?)


俺の脳裏に「ピカーンッ!」と閃くアイデアが思い浮かんで来た。


居てもたってもいられなくなった俺は、大急ぎでレモネードを飲み干すと、とある目的地に向けて走り出すことになった。

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