表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/34

第1話「えっ!?若返ってないんですけど」

俺の名は沢村英司さわむら えいじ


氷河期世代の勝ち組といえば、ちょっと大げさな表現になるが…


大学を卒業後は、都内の中堅企業に就職し、高校時代からの彼女と25歳で結婚。


ベッドタウンにそれなりに広い一軒家を建て、1人娘は反抗期もなくすくすくと育つなど、ほどほどに順調な人生を歩んでいた。


とはいえ、共働きの妻は仕事、高校生の娘は部活が忙しい様子で、近年はそちらにかかり切り。


昔のような家族団欒の雰囲気も段々と薄まって来ているせいか、どこか満ち足りない想いにかられていた。


そんな贅沢な不満を抱えていたことに対する罰でも当たったのか、とある秋の日の休日にスポーツジムに出かけたところ、ランニングマシーンを走行中に激しい胸の痛みに襲われた。


運動中の中年男性の突然死のニュースはちょくちょく耳にしていたが、俺は中高時代は柔道で鳴らしたスポーツマン。


そのうえ、ジム歴15年のベテランでもあったから、こんな悲劇が我が身に起こるなんて想像だにしていなかった。


苦痛に顔を歪めながらその場に倒れ込んだ俺を、周囲の人間は必死に介抱してくれたが、この時には既に心臓の血管が破裂していたようで、手の施しようがなかった。


享年43歳。


本来は、俺の人生はここで終わっていたはずだったのだが…


次に目を覚ますと、あの世ではなく、何故か異世界の宿屋のベッドの中にいた。


漫画などで一通りの知識はあった異世界転生劇だが、いざ我が身に起こってみるとサプライズ感は0。


(あんなあっさり死んでしまうとか冗談じゃない!)


(家のローンだってまだまだ残っているし、娘は来年大学受験だぞ)


(そんな時期に俺が死んでしまったら、我が家は一体どうなるんだよ?)


むしろ、父親としての責務から、悲壮感で胸が一杯になってしまったが…


良く考えると、家のローンは団信でチャラになるはずだし、俺の死亡保険金だってまとまった額が出るはずだ。


(おまけに、嫁は看護師で俺以上の稼ぎがあるしな…)


一家の大黒柱のつもりでいたが、俺がいなくなっても意外に何とかなりそうな我が家の現実があった。


そうなると、この状況を受け入れるだけの精神的な余裕も生まれてくる。


(いくら嘆いても前世に戻れるわけでもないからな)


(せっかく、異世界に転生したんだし…)


(ここはポジティブに考えて、第二の人生をエンジョイしてみるか…)


そう思い直して部屋の鏡台を覗いてみると、そこには藍色のローブを身に纏ったおっさんの姿が映っていた。


(えっ!?)


(全然若返ってないんですけど…)


子供時代から人生をやり直すことも面倒臭いが、おっさんのまま異世界でやり直すのはもっとキツイ話だ。


(中年の新米冒険者なんて…)


(きっとどのパーティも仲間に入れてくれないよな)


ド〇クエ世代の俺としては、せっかく中世欧州風ファンタジーワールドに転生した以上は、戦士や魔法使いとなって冒険を楽しみたい気持ちがあったのだが…


現実的な観点からいきなり断念せざるを得なくなった。


となると、一代で大商店を築く野望を胸抱きながら、商人でも目指してみたくなる展開だが…


部屋の机の上に置いてある小袋の中に入っていた金貨の数は30枚。


日本円にして300万円程度。


異世界生活に慣れるまでの生活費としては十分だが、商売を始める元手としてはまったく足りない。


(経験値の方は10万ポイントも付与されているようだし…)


(起業は諦めて、取得出来そうなジョブの中から、やれそうな職業でも選ぶことにするか…)


少し悩んだ末に、結局、無難な結論に行きついた一方で、こちらのルートでも選択肢の狭さという難問が待ち構えていた。


(武器職人とかも案外面白そうな仕事だけど…)


職人系のジョブを取得したとしても、風来坊のおっさんを雇ってくれるような職場なんてないだろうし、自ら工房を開くには資金が足りない。


(となると、自宅で開業出来そうなアイテム師くらいしかないのでは?)


そんなことを考えながら、ステータスウィンドウのジョブ欄を覗き込んでみると、薬師というレア職業を見つけた。


何でも東洋人風人種限定のジョブで、前世で言うところの漢方薬のようなアイテムを調合出来るそうだ。


(医者とかも存在しなさそうな世界観だし…)


(病気の治療といったら、さしずめ神官あたりの出番か?)


(だとすると、庶民は気軽に治療なんて受けられないだろうし…)


(市販薬の需要とかはそれなりに高そうだよな)


調合作業などは、鍋で薬草を煮込んだり、すり鉢で薬草を擦り込んだりする程度だろうし、おっさんでも負担が少なそうな職業と言える。


(まぁ、贅沢を言ってもしょうがないし…)


(取りあえずはコレでいいかもな)


一度死んだ身の上である気楽さも手伝い、珍しく即断即決をした俺は、元サラリーマンから薬師にクラスチェンジすることになった。


その後は開業手続きのために、地図マップ機能を頼りに、商業ギルドに足を運ぶことになったわけだが…


規定の書類を何枚か書くだけで所属登録が終了するなど、随分とあっさりした事務処理だったように思う。


おまけに、取引先の薬問屋や信頼のおける不動産屋まで紹介して貰えたおかげで、スムーズに仕事を開始することが出来た。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ