第89話 さらばです!
「お見事だな、グリッペンベルク。まさか氷上を渡らせるとは」
「……」
「この2日のブリザードが松花江の表氷を、万の兵士が踏んでも崩れないまでに厚くしたわけか。河川防衛陣に物を言わせていた敵軍は…今頃大慌てだろうよ」
クロパトキンは笑う。
彼は旧満州軍総司令として、長らくハルビンを見てきた。
ゆえに、松花江が凍ることを知っていた。
そこに兵士を渡らせることを考えたグリッペンベルクも、知っていた。
氷結した河川は、時に砲弾さえ弾くほどの厚い氷を育むこともあると。
皇國がいくら神の盾を展開しても、結局ここは、ロシアの箱庭であったのだ。
「……謝罪しよう。貴官の言を、最初から聴くべきだった」
「くくっ、先週とは真逆の態度だな、グリッペンベルク?」
「……」
グリッペンベルクは覚悟の表情でクロパトキンを見る。
ゆっくりと自身の短槍を抜き、自らの左膝の上へ、横向きに構えた。
「……待て。グリッペンベルク。何をしようとしている?」
「吾が槍を、茲に折る」
「っ!」
短槍。
スラヴ開拓者の象徴。
勇猛なるコサックの最たる証。
それを折るということは、名誉も、矜持も、誇りも、全部ひっくるめたロシア帝国軍人としての自分を否定することと等しくて。
「っ、グ、グリッペンベルク!何もそこまで」
「……」
けれど、それをもって軍人としての誠意を示すことができるのなら。悲痛そうに表情を歪め、ぴくりと震える両手を抑えて、短槍を持ち上げる。
「やめろ!そんなことをしたところで私も貴様も――」
クロパトキンが制しに伸ばした手は、空を切り。
グリッペンベルクは思い切り、槍柄を左膝に振り下ろした。
バキィッ!
呆気なく木製の槍柄はへし折れ、パラパラと木片を床に落とす。
「……これでようやく、貴様と肩を並べて戦える」
淋しげな笑顔と、差し出されたグリッペンベルクの右手。
「っ……」
これまでの傲慢も、誇りも、驕りも、誉れも、全て捨てて。
いつからか「ロシア帝国陸軍」という名に貼られ象られた、列強やら白人やら、文明の灯火やらの絢爛豪華な装飾を、一切剥がして、払い落とし。
クロパトキンは、深く頷きその手を取った。
「「…――我らは、『帝国極東軍』だ」」
斯くして初めて現れる――勇猛屈強なる氷雪の戦士たち。
――――――――――
「……全部隊緊急展開。迎撃戦へ突入せよ」
「で、でもあんた指揮本部の許可をまだ」
「即応権限を発動する。直ちに独立防衛戦闘へ移行なさい」
「――ッ、知らないわよ!?」
咲来は松花江ラインの指揮本部への指示仰ぎを諦め、指揮車を旋回させる。
「攻撃飛行船は、渡河船艇並びに艀橋への攻撃命令を中止。当該の目標は存在しない、繰り返す、当該目標は存在せず」
「はッ!」
「503・504支援砲兵に援護要請。目標は松花江を移動中の敵部隊!」
「りょ、了解です!」
指揮本部も事態に気づいたのか、今やほぼ全てのトーチカから機銃迎撃が始まっていた。続けて次々と照明弾が打ち出され、
強力な弾幕を受け、次々と斃れていくロシア兵。
されど数の雪崩は、鉄の暴風とて押し切れず、着々とトーチカへ迫りくる。
「攻撃飛行船、新たな目標70度。トーチカに迫る敵兵団を上空から掃討」
「はは、はいっ!」
攻撃ヘリのごとく、機関銃を構えて直掩飛行船がトーチカへ進路を変える。
「われらも向かうぞ! 特殊歩兵大隊は兵員輸送車を機動展開、6区前衛トーチカの防衛援護へ! 機甲大隊は後ろから電撃的に回り込んで浸透、奴らの尻に鉛の雨を叩き込んでやりなさい!」
発動機が唸り、チェーンを擦らせて車軸を前線を向ける。
その間にもロシア軍は、弾幕の雨をモロに喰らって前衛中隊が全て散って、次の中隊も全て散る。前から順に倒れながら、ドミノのように圧し進み。
純白の雪上に、数千の紅華が咲く。
視界に映る範囲でも、すでに一個師団分の死屍が転がる。
うわァァアァあァ―――!!!
死を前提とした行進は留まることはなく、狂気の鉄槌となって機銃線へ雪崩込む。
銀世界は地獄の様相を呈していた。
「これが『ハルビン死の行進』……!」
これが、総力戦の成れの果て。
握る拳を震わせるヒマさえ与えず、トーチカ線には上空から直掩飛行船が殺到。
機関銃の銃口を敵軍の大兵団へ向けて構える。
「機銃掃討!」
無線に乗って、命令が速やかに上空へと伝えられた。
刹那、攻撃ヘリ顔負けの3個豪雨が地上へ降り注ぐ。
ギュゥゥゥ――ン、タァン!タァン!タァン!タタタタタタタタタタタタ!!!
ドッ、ドドドドドガガ!!ズガガガッガガガガガ!!
正面から、直上から。
七面鳥を弄ぶかのごとく好き放題弾幕で殴られる生身の兵卒の海。
眼前のロシア軍部隊は、瞬く間に戦力をすり減らし、鬼気迫る突撃が鈍っていく。
「東條!なにをしている、後方から殴り込め!」
「ぁ…、っ、はッ!!」
呆然と死の狂騒を眺めていた東條が、我に返って機甲中隊を動かし出す。
次の瞬間。
――ドカァン!!
「!?」
上空が、照らされた。
照明弾か?いや違う、明確な爆発音が聞こえたぞ。
間髪おかずに後ろに離れた通信車から光信号が飛ばされる。
それを読んだ雨煙別が、顔面を蒼白にした。
「……直掩航空隊、一隻が被弾」
耳を疑う。
被弾、だと?飛行船が?
高度1000を飛んでるんだぞ?
「一隻、撃墜……」
「っ、どういうことだ!対空兵器を敵軍は――」
フッと、視界の端に一筋輝く曳光弾。
なにごとかとその発射元をたどれば、地上にある雪塁で囲まれた機関銃陣地。なにひとつおかしな点はない――その銃口が空を向いている、という点を除けば。
「た…対空、射撃……!?」
この短期間で、対空戦闘のマニュアルを築き上げただと?
「ッ、なんてこと! 航空隊を高度2000まで上げさせなさい!」
「そ、それだと機関銃の射程が……」
「三四式の有効射程は!?」
「1700です…!」
「くぅ…!」
次々追い込まれていく皇國陸軍。
冬に入って、一瞬で窮地に叩き落された。
これが、史実発現されることのなかった――列強国の実力か。
「……山下中隊に連絡。敵対空陣地を機銃制圧なさい」
「りょ、了解!攻撃飛行船はどうします?」
「1600まで上昇、対空陣地を回避しつつ射程範囲ギリギリで機銃掃討を続行」
「はッ!」
ドォォン!
間髪おかず後方から砲撃音が響く。
『桜花』の支援砲兵だ。
砲弾は弧を描いて、松花江へと吸い込まれるように飛んでいき。
ズッ――。
「……、爆発、しない…?」
いつまで経っても爆炎が上がらない。
重砲が機能しないだと?まさか。備蓄が少なくとも、砲弾本体に欠陥があったわけではないはずだろう。
「通信車、飛行船観測からはどうかしら!?」
裲が隙なく通信隊へ観測報告を求めると、モールス音が響く車内から悲痛な声が聞こえてくる。
「直掩航空隊より観測結果!着弾観測されるも、発火せず…!」
「は、はぁ?」
「着弾の瞬間撒き散らされるはずの焼夷剤が、おそらく燃えていないのかと!」
「焼夷剤が、使えない…!?」
一体どういう事だ。
先週までは普通に使えたはず。
撒き散らされた焼夷剤をたどって炎が四方八方を焼き尽くし、敵軍を灼熱と窒息の中に閉じ込める最恐の兵器であったはずだ。
「この寒さで焼夷剤の質が悪くなりでもしたのです……?」
まさか。そんな簡単に劣化するものを陸軍が採用するわけが―― "松花江が凍っています!!"
おもむろに脳裏に響く、あの衝撃の一言。
「"凍っている"…?」
焼夷剤は、そのイメージの通り液体分を多く含んでいる。
それがこの寒さでやられたとしたら。
「――くそっ!焼夷弾の使用を即刻止めなさい!」
「は、はい?」
「焼夷剤が凍っていてよ!発火回路の主体が外面放出系統の焼夷榴弾は使えない!」
「ッ!」
すぐに通信車から電鍵を叩き奏でる音が響く。
冬将軍の威力は想像以上だ。
もはや一刻も猶予はない。前線を睨みつける。
今なお18万に達する敵の大兵力が、氷結した松花江の上を悠々と前進してきている。
最小限の消耗でこの兵力津波を押し返す方法。潰す方法。
「広範囲に打撃を与える焼夷弾が、使えないなんて……」
裲が唖然と呟く通り、最適役を使用できないのは痛烈の極み。
飛行船から硝安を絨毯爆撃で投下するという方法もあるが、硝安は地雷用に大量に取っておきたい。
(……待て、飛行船?)
目を見開く。
「――そうだ。空対地貫通爆弾!」
「は?くうたい、…?」
「旅順要塞で海軍航空隊が使った対要塞貫通爆弾です! 航空隊の残存4隻に搭載、松花江戦域第3区から第8区まで全力展開!」
「りり、了解であります!」
詳しく説明している時間がない。
玲那の言葉通りの命令を、後続の通信車が電信にして飛ばす。
「18万に及ぶ兵力津波を鎮めるには――…そう、文字通り沈めてしまえばよい」
「沈め、る?」
きょとんと首をかしげる咲来に、不敵に笑ってみせる。
「波を、波間に鎮める。氷結した水面を我が物顔で闊歩する間抜けな方々を、松花江の川底に叩き落とす」
「え、でも松花江は凍りついたって…」
「川が凍りつくのは表面だけです。咲来も知ってるでしょう?」
そう。玲那も咲来も、雨煙別や晩生内たちも、冬の旭川を知っている。
ワカサギ釣りに代表されるように、水面数十センチが凍りつくもそれが断熱材となって、その下にはきちんと水の流れがある。
「っ、砲弾の直撃を受けても松花江の表氷は割れなかったじゃない。数万規模で敵がその上を行軍出来るくらいには、氷結厚が相当よ。2日に渡るブリザードは伊達じゃないわ」
「空対地貫通爆弾のスペックを諳んじておみなさい」
「え?ぇ……、たしか高度3000からの投下で2800mmのコンクリートを貫通」
「3メートルのコンクリートを貫けるように設計されたバンカーバスターが、氷ごときを粉砕できない、と?」
「……なるほどね」
ちょうど、直上を航空隊が飛んでいく。
爆弾倉に収まりきらず、ぶらさげられた空対地貫通爆弾。
「砲弾で貫通できないくらいです。確かに松花江の氷は厚い。かといって徹甲弾を使っても着弾箇所に穴が開くだけ。周囲の厚みゆえに、全面的な表氷決壊には至らない。だからこそロシア軍は、氷上に万軍を歩ませたのでしょう」
氷への絶対的信頼というわけだ。
ロシア軍らしい。
「しかし――こちらには、厚壁を空中から破壊するために作られた兵器がある」
着発式ではなく、伊集院信管を使うことで特定の落下高度で爆発させることができ、爆発の暁には――3000以上のタングステン片を瞬時に撒き散らす、装甲破砕の貴公子。
「戦務参謀、氷上の敵軍は?」
「およそ2個師団……まもなく、此方河岸に」
「猶予ございませんね。爆発高度を-0.5に設定」
「……マイナス?」
だろうな。
その反応は至って自然だ。
普通、信管で高度設定を使う場合、空中にて爆発させるのを趣旨とするから、爆発高度の値は必然的にプラスとなる。
しかし。
この爆弾は、表氷に突っ込んでから爆発させてこそ、意味がある。
「戦艦を内部から全損させる用途で内包された、タングステン3000片。これが氷の中に飛び散れば、表氷は広範囲に渡って崩れ落ちる」
これを四発、上流から下流まで同時多発的にぶちこむ。
松花江がその表氷を維持することは、もはや出来まい。
ヒュルルルルル――…!
鉄槌が、松花江に振り下ろされて。
カッ!――ォォォドドドドドド!!
旅順要塞を直上からぶっ壊すためだけに作られた空対地貫通爆弾が、松花江の表氷を粉微塵に砕き割った。
内部炸裂、3000以上のタングステン片は氷上を走る亀裂の魁となって、数万人の進撃路を斬り刻む。
"うわぁぁああ――!?!"
"たっ、たすけ…ごぷっ!"
氷上を渡る数万もの軍勢が、鮮やかに現れた松花江へ、崩れ行く表氷とともに呑まれてゆく。
「水温は0度ギリギリ、外気は氷点下8度。その羽毛詰め込みの防寒装備じゃ、染み込む冷水の重量でマトモに動けないばかりか…、1分経たず低体温症で意識を失い、溺死か凍死でしょう」
こういう理由で、凍結した川へ落ちたら基本は独力で上がることは出来ない。
ゆえに、"凍結した河を渡ることは危険です"――石狩川だろうが、ドナウ川だろうが、凍結する川には世界各国そんな警告看板がある。
ロシア軍のミスはただ一つ。
皇國陸軍が、徹甲弾を超越する要塞破壊用の貫通爆弾を隠し持っていることを知らなかったことだ。
「さらばです、後続のお方々」
さて、これにて増援と補給路は絶った。
「あとは、此方河岸に取り残されたロシア軍を撃滅するだけです――戦務参謀!」
「皇國側河岸残存、6万」
雨煙別も、覚悟の表情であった。
やるぞ。
機甲戦闘団、最後の大舞台だ。
「歩兵援護ございます!?」
「東鎮・名鎮・第九師団・第十三師団と第二装甲旅団が到着、すでに包囲に取り掛かってるわよ」
前方を見てみれば、名古屋鎮台が、第二装甲旅団の強襲突入に続いて決死の突撃を開始して。後方からは遅れていた広島鎮台が到着する。
「――…掃討戦発令」
「わかったわ」
中央即応集団は、孤立した6万を中央から分断しに正面から先鋒で突入する。
「全隊、進発ッ!!」
発動機をけたたましくがなり立てて、車列は旋回。
十字砲火がロシア軍を焼き切ったのは、刹那のことであった。
・・・・・・
・・・・
・・
時系列は少し戻る。
明治37(1904)年11月 サンクト・ペテルブルグ
「なぁにッ!!?」
ニコライ2世は衝撃の余り皿を叩き割った。
「蛮族相手にウラジオストクが落ちた!?どの口でそれを言うかッ!」
ラスプーチンは淡々と報告を続ける。
「我がロシア軍は最強にして精鋭。正面から敗けることなどありえないのは自明。にもかかわらずウラジオストクが落ちたとなれば、蛮族は何らかの卑怯な手を使ったのでさぁ。」
「劣等人種にわ、我らが本土が落ちたなど…!栄光あるロシア帝冠の権威が失墜、他の列強にロシアが――この朕がッ、朕が完全に舐められることになるッ!!」
彼は自身の爪をガリガリとやって、地図を叩き叫んだ。
「何としてでも蛮族を排除せよ!如何なる手段を使ってでもいい、」
「へぇ、左様にする場合、更に民衆に重税を課す必要が――」
「構わんッ!朕の、文明の頂点の顔に泥が塗られたのだ!民が何だ、恥を知れ!!」
(くくく…。皇帝陛下直々の増税の承認もらった…更に贅沢をできるぞ……!)
ラスプーチンはほくそ笑む。民衆に対しての認識において、彼らは大韓の両班とよく似通った考えを有していた。
「クソ…、クソ…ッ!何としてでも奴らの穢れた足を神聖な大地から追い出さねば…!ラスプーチン!」
皇帝は青白い顔で叫ぶ。
「なにか…、なにか確実性のある保証はないのか!?蛮族征伐でこのザマ、朕は言葉尻ではもう納得せんぞ!!」
なるほど軍や首脳は、敵はたかが蛮族だ、文明化の使命だ、楽な勝利だ、と吹き込んでツァーリを戦争に駆り立てた。それが転じて沿海州と極東の海上戦力全て、そして累計30万もの陸上戦力を喪失する結果となり、彼はもはやラスプーチンの他を信じなくなっていた。
「軍と政治家どもの言葉に惑わされた陛下のご心配、最もでさァ。けどよ、俺には少しアテがあるんでェ」
「アテとは、なんだ?」
「実は、敵海軍の総大将が、こちらの味方でごぜぇまして…」
「それは本当か!?」
今度は歓喜を含んだ声で彼は立ち上がる。
「えぇ…、今から紹介いたしますとも。入れっ!」
ラスプーチンがそう声をかけた先の虚空。
(遂に、か。)
そこに佇んで待つ人影が、謁見の号令に漸く足を踏み出した。
("もし奴らが地獄に攻め入るならば、私は悪魔とも構わず手を結ぶだろう"――くははっ、誰の言葉だったか)
杖を突き鳴らしてもう一歩。
(そう、これは悪魔との取引だ。私は官軍の情勢全てを、朝敵に譲り渡す代わりに、連中には皇國枢密院そのものを、破壊していただく)
脳裏の片隅で、受けた屈辱を少し回想しつつ。
(皇朝はあの忌々しい独裁機関に散々に踏みにじられてきた。史実知識とやらに頼り切った枢密院はますますつけ上がり堕ちていく。最早、その底なき腐敗の深海に皇國という国家自体が呑み込まれるのは時間の問題……)
頬を少し持ち上げて、彼は今まで片時も離さなかった杖を――、
窓から、投げ捨てた。
(さて。奴らの思い描いてきた王道をへし折る時間だ)
それは陛下より賜った御杖。
彼という人間の中に、最後まで残った忠誠心の残骸で。
(歴史を好き勝手弄ぶのは貴様らの特権ではないことを思い知らしめ、その傲慢を打ち砕こうぞ)
3ヶ月の休養許可を得て、別邸に籠もるふりをしつつ、密かに皇國を出た。
国内に残してきた自分の影武者には、休養という名目で面会を断らせている。決戦を前にあまりにも不審な動きなのだ――それでも枢密院は、彼という『英雄』を、聯合艦隊司令長官の座から引きずり下ろすことはしない。
何故か?
簡単だ。彼らもまた『英雄』であるからだ。
彼らは自分と重ねて、思い込んでしまう。
英雄は当然、祖国に尽くすのだと。史実の通りに英雄となるのだと。
だから、露にも思わない。
東郷平八郎という男が国内にいないこと、ましてや敵国に居ることなんて、誰も考えすらしない。
だから、その虚を突く。
「さぁ、終焉の狂奏を始めよう」
謁見の大広間に出る。
彼はゆっくりと敵帝の前で膝を折って地に手を付き。
そうして頭を垂れた。
「貴様、何者だ」
紛うことなき朝敵の問いかけに皇國軍人は、
―――否。叛逆者は、はっきりと答える。
「皇國海軍聯合艦隊司令長官、東郷平八郎」




