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悪役皇女は銃を取る -帝國黙示録-  作者: 占冠 愁
第十二章 決壊 / 血海
72/132

第67話 発破

- 満州総軍 -

総軍司令:大山巌大将


〈後方〉

広島鎮台 - 25,000

第九師団 - 25,000


〈先鋒〉

独立第26連隊『魁星』- 5,000人

司令部 - 閑院宮載仁少将(連隊長)

・禁闕大隊 - 有栖川宮少佐

 └ 装甲車 210輌

・歩兵大隊 ×2

 └ 兵員輸送車 96輌 ×2

・機動砲兵中隊

 └ 牽引速射砲 150門


VS


- 第2シベリア軍団 -

軍団司令 / カウリパウス大将


〈先鋒〉

第17騎兵団 24,000騎

 司令部 - カシタリンスキー団長

 ・第1旅団 短槍騎兵 6,000騎

 ・第2旅団 短槍騎兵 6,000騎

 ・第3旅団 長槍騎兵 6,000騎

 ・銃装兵団 戦列騎兵 6,000騎

〈後方〉

第6騎兵団 24,000騎

第19騎兵団 24,000騎

第14騎兵団 24,000騎

長槍遊撃梯団(クバン・コサック) 1,400騎










「後退命令ッ!」

「塹壕へ急げ! 速やかにトロッコに乗り移れ!」

「塹壕に着いたら決して動くな!!」


 騎兵突撃迫り来る中、ロシア軍の眼前でついに広島鎮台は塹壕へと退避した。


「ッ! 連中、地面の中に隠れはじめました!」

「ク…クククッ! グハハハハァアッ!!」


 24000のコサックを従えて突撃にひた走る第17騎兵団長カシタリンスキーが、場上に高笑いを響かせた。


「突撃の圧迫感に遂に耐えきれなくなったか! ガハハハハッ!!」


 長槍を構えひたすら嘲笑う。

 彼の副官も侮蔑に頬を吊り上げる。


「野蛮人ですからね、理性より本能を優先してしまうんでしょう。」

「ククク、前線にすらまともに維持できぬか…!」

「そんな連中相手に我々は『戦列騎兵』を6000も」

「もはや勝利が約束された戦場。これでは虐殺になってしまうなァ」


 くつくつとカシタリンスキーは笑う。


「このように蛮族どもを一方的に蹂躙するのは、果たして『世界を導く存在』として我らを創り給うた主のご意志に反するのではないか?」

「くく……たしかに動物愛護には反するかもしれませんね。ただ、あの穢らわしい劣等人種どもは、主のご意思の下に為される我らの『導き』に刃向かった」


 副官は胸元の十字架を掲げる。


「我ら文明国への叛逆は即ち、主への背信。もはや、神に見捨てられたも同然……流石の主といえど、人間になり損ねたおサル風情には情けもないでしょう」


 クス、と笑ってカシタリンスキーは髭を撫でる。


「ふ、それでも私は寛大だからな。もう戦力でも質でも圧倒的な差を見せつけられただろう」

「な、なにを?」

「降伏勧告をしてやるとするか。拡声器をもってこい!」

「なんと! なんという、慈悲深さ……!」


 副官は驚いて騎馬を止めた。


「くく、我が大ロシアの技術の結晶、ホーン機構を用いた拡声器だ。」


 突撃が一旦止まり、控えていた部下が、重い木製荷車を転がして巨大な拡声機械を運んでくる。


「戦場でもよく通り、音は3.2kmまで届く。なに、野蛮な猿どもからすれば西洋人の扱う科学なんぞ理解できない。驚き大慌てする様が目に浮かぶ……!」


 速やかにセッティングされていく拡声機構。


「はるか向こうから突然声が響いてくるのだから、何かの魔術と勘違いしキィキィ狂乱状態になって逃げ出すのが関の山…。おぉ蛮族、哀れなり!」


 くはははははッ!と彼が高笑いしてみせるのと同時にすべての準備が終わる。


「いつでも行けます騎兵団長!」

「よし!蛮族共に、文明人の言葉を聞かせてやるとしよう…!」


 彼は大きく息を吸い込んで。


『イエローモンキーども!どうやら兵士の規律も維持できんようだなァッ!』


 キィィィィ―――ン、と高音が響く。


『我らは先鋒だけでも総計24000騎!それも、植民地軍や治安維持隊などではなく――対列強国を想定した本格的な軍隊なのだッ!』


 その声ははるか前線に響き渡り。


「ッ――!?」

「こ、この声は…!?」


 遥か広島鎮台の陣地まで届く。


『我々は戦術歩兵の発展型――戦術騎兵!

 ……まぁこう言っても脳容積の小さい未開猿にはわからぬだろうから、付け足してやろう!我々は銃で武装した騎兵なのだァッ!!』


「しょ、小銃武装…?」

「まさか…ボルトアクションで騎乗しながら襲い掛かってくるってのか??」

「それが、騎兵の機動力を以て展開する、だと!?」


 広鎮の本営に衝撃が走る。


『恐怖に背中を向け散り散りに逃げる貴様らに、戦列を展開し、一斉射撃ッ!

 間髪おかず、1万8000の白騎士が長槍を片手に果敢に突撃するのだ…。

 ……戦局の行方が決したことぐらい、いくら蛮族とはいえわかるな?』


「馬鹿な…ッ!騎兵が銃で武装…!」

「不味い!コサックの突撃さえ持久出来るか怪しいのに!」



『くく、くはははははァッ!!だが、私は寛大であるからして、諸君らに降伏の機会を与える!――速やかに武器を捨てて投降しろ!

 …そうだな、今なら下士官以上は全員処刑で許してやろうか!!蛮族相手にこの慈悲、這って許しを乞えッ!!』



「せ、戦列騎兵……!」

「小銃で武装した騎兵が…その機動力で、銃列を展開!?」

「馬上から一方的に射撃され半壊……そこに注ぐ騎兵突撃、だと?」

「ど、どどどうなさるんです上田鎮台司令!」


 上田は副官に肩を掴まれぐらぐらと揺らされる。


「ということらしい。どういたしましょう、殿下?」


 陣地を共同利用していた玲那へと問いかける。


「ふぅ」

「ため息をついている場合ですかッ!」


 半ば恐慌状態になりかけながら、上田の副官も玲那に畳み掛けた。


「通信班。モールス信号での返信準備を」


 玲那は静かに、御吏小隊の通信兵に命ずる。


「随分と落ち着いているようだがわかっているのか!?」

「ええ。現状はしっかりと把握してございます」

「なら降伏勧告に早く従わないと――「ね。みなさま?」」


 玲那は振り向いて完全に準備の整った大隊にそう声をかける。


「ふふっ、大丈夫ですよ。闕杖官どの」

「左様ですね。では」


 一歩踏み出し、述べる。


「魁星よりロシア軍司令官殿へ。『馬鹿め』!」


 モールス信号機に片手を置いたまま、通信兵は驚愕に目を見開く。

 玲那は急かすように手を大きくパァンと叩いた。


「復唱ッ!」

「魁星よりロシア軍司令官殿へ、『馬鹿め』!

 復唱します、『馬鹿め!』」


 バルジの戦いに倣ったそれに、衛戍府の面々は笑う。もはや驚愕を通り越して唖然とする上田鎮台司令とその副官殿を傍目に、玲那は杖を取る。


「軍列に戻りましょう。『魁星』、突撃準備」




 同刻。




「クククククク…。蛮族め、今頃感謝に打ち震えているだろう!」

「はっ。団長殿の御慈悲はバイカル湖よりも深く……」

「果てには、蛮族の兵を無駄死にから救ったとて、この極東の地で、私はやつらに崇められる存在にさえなるのだろうなァ!!」


「て、敵司令部より返信!」


「差し詰め、『今すぐ身包み剥いで命を乞う』、か?」


「”ロシア軍司令官へ、『馬鹿め!』" !」


 第17騎兵団司令部に悲鳴のような怒声が響き渡った。


「もう一度言ってみろぉッ!?!」

「は、はッ!ロシア軍司令官へ、『馬鹿め!』とのこと!」

「ふざけるな蛮族共がァッ!!白人様の慈悲を撥ね退けやがってェェッ!!」


 拡声機械を蹴っ飛ばし、叫ぶ。


「文明化してやるというのに、感謝一つすらなく。あ、挙句『馬鹿』だとォ!? こ、この、私がァッ!?」


 彼は一気にサーベルを抜いた。


「神のお選びになったヨーロッパ人への侮辱、万死に値すると知れ――!」


 手綱を思い切り引き、乱暴に馬蹄を鳴らす。


「戦列騎兵を有する我軍、圧倒的な戦力差も蛮族の知能では理解(わか)らないと――文明化の価値さえないッ! 騎兵突撃だ、蛮族を全員なぶり殺せッ!!」


「はッ!全隊、戦列騎兵に続けェッ!!」



「全体われに続けェッ!」

「突破しろ!やれっ!」

「第一突撃コサック8000、敵陣に肉薄!」

「よし、旧来守備との混交、長槍部隊8000が敵陣形の中央突破を敢行し次第、戦列騎兵2000を含めた4000を順次投入する!」


 カシタリンスキーはそう猛る。


「やれ、総隊突撃体制保持!」

「よし見えてきたぞ!敵陣だぁ!」


 そうして早速、前衛突撃を任されたコサック8000は鉄条網と交錯する。


「「突破ァ―――ッ!!」」


 果たして。

 彼らは馬上から引き剥がされ、地表に勢い良く衝突した。


「っわわァッ!」

「か――ぁ、ッ…?!」

「ぐは…、っ!?」


 一斉に落馬するコサックたち。

 自慢の長槍は前方に飛散し、騎兵隊は正面から崩れる。


「な、何が起こっている!?」

「あ…ッ、鋼索の網だ!連中、陣地まで幾重にも張り巡らせてやがる!」

「蛮族め小賢しい…ッ!こんなもので、コサックの突撃を止めようだと!」


 恨めしそうに皇國陣地を睨めつける騎士たち。


「ちくしょうこの鉄条網、案外丈夫だ!鋏じゃ切断できねぇっ!」

「クッ…小癪な!」


 迅速な突撃突破を表掲する彼らにとって、時間の浪費というものは何にも代えがたい焦燥を生む。


「曲芸でやるように、距離をとってから一気に跳躍すればいけるのではないか?」

「お…ぉっ…、たしかにこの高さじゃ行けなくはない!」

「……くくっ、どうやら蛮族共は我がコサックの実力を舐めているらしい。」

「この程度で防げると思うなよ!?全軍整列!一列順番に突破しろ!」

「「「はッ!」」」


 眠る者が羊を数える様の如く、騎馬は並んで一騎ずつ鉄条網を超えていく。


「よし、紆余曲折あったがどうにか突破できそうだッ…!」


 一列目、二列目、三列目。ゆっくりとだが確実に鉄条網を超えて迫るコサック。


 手には長槍、棚引くマント、確勝の笑み。


 中世の騎士を体現したかのような華麗な突撃に、広鎮本営は震え上がる。


「も、もうすぐ最終防衛線が突破されるぞッ!?まだなのか!!?」

「いいえまだです。焦っては事を仕損じます。もっと引きつけるのです」


 前線を睨みつつそう返す。

 敵騎兵団24000の最後尾がまもなく、2列目の鉄条網を突破するか。


「い、急がないと取り返しが!」

「全敵部隊、地雷原に突入しました!」


 広鎮の副官の焦燥を遮って、別海准尉の報告が飛ぶ。

 間髪置かず即座にレバーへ手を掛け。



「爆破」



 瞬間、風が凪ぐ。


 カァァ――――ッ!


 閃光、波動。

 続けて、空振。


「ぐっ―…ぅぉお――!?」


 手を額にかざし、困惑して背後を振り向く敵騎兵の影。

 それもすぐに散り散りになり、火球に呑まれる。


「わッ――は――!?」


 裂光に目をくらますカシタリンスキー。


 刹那。続けて到達する、轟音。


 ドガァ―――ァァアアア――ン!!!


 爆炎、裂音。

 地雷、一斉炸裂。

 騎兵団も鉄条網もなにもかもをひっくるめて、硝安は粉砕する。


「装甲車戦列、重機関銃掃射!!」

「機関銃掃討――ッ!!」


 ガガガガガガガガガ―――!


 空薬莢を勢い良く撒き散らし、反動排給機構(ショートリコイル)が唸る。

 布ベルト装弾数300、分速600発。

 猛烈な銃弾の暴風は容易くスカスカの鉄条網をすり抜け、騎兵団を襲う。


「ぐわァぁああ―――ッ!!?」

「ぎゃぁあああっっ!!!」


 地雷の爆砕を免れた騎馬が弾幕に貫かれ、倒れていく。

 運良く炸裂の直撃を逃れたカシタリンスキーが、鉄条網の狭間で起き上がる。


「な…、なんなんだ、何が起こっている!?」


 絶え間なく続く火線。爆音。炸裂。


「ど、どうなっているんだ!ふ、副官、状況説明をッ!」


 だが、隣の副官は動かない。

 見てみれば、既に腹から下がなくなっていた。


「な…ぁ、っ……!」


 周囲を見回してみれば、あったはずの24000の騎兵の津波は残らず崩れ、血の海となって地上をただただ無益に染めていた。


「どう、なっている…。2万4000の白騎士は、どこへ……??」


 そうして、視線を戦線正面へ向けた瞬間。


 彼は息を詰まらせた。


「なんだ、あれは…。」


 土煙を上げて正面に迫る迷彩色の塊。


 見たこともない生物。なのに生気は感じられない。


 それが近づくにつれ、彼ははっきりと視認する。


「て、鉄の塊、だとォ!?」







「全車突撃」


 轟々と粉塵を撒き散らし、烈進。


「禁闕、全軍の先鋒たれ。3個装甲中隊は延翼旋回」


 前方に発動機が唸り、玲那に率いられた装甲車群は(きっさき)となる。


「自動車化歩兵は我に続け。3個中隊、横陣で進発」


 後続車が横に押し広がり、隙のない壁を形成する。


「後衛、機動砲兵中隊。敵増援の排除を怠るな」


 死屍累々の第17騎兵団を踏み越えて。

 後方に突撃陣を敷くカウリパウス以下、第2シベリア軍団へ。


 火力の塊は長槍(ロンギヌス)となり、やがては一縷の星となる。

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ktaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
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