第38話 海神擬きvs代行者
私の目の前に現れたのは世界を滅ぼす神の手先。更に限りなく神に近い配下。
このままでは確実に世界は滅ぶ、滅亡への序章がついに開けてしまった。
──かに思えた。
私の前に降臨した存在は多数の黒鳥を引き連れる。神鳥、と言われる聖神の力を宿している鳥らしいけど。
確かにその名に恥じぬ魔力量を感じる。
いや、名前以上だッ
空が全て魔力で染まっているような感覚であった。そら全部が魔力で満たされるなんて未だかつてあり得たことがない。
だが、これまでの常識が全て吹っ飛ばされてしまった。あの黒鳥によって……
「うぁぁぁああああああああああ」
神の鳴き声が聞こえる。神の眷属による神の再現であるが、あれは最早神そのものと言っても過言ではないのかもしれない。
大きな目玉は世界を見下ろすように海面から離れ空へと飛来する。それに呼応するように海面から続々と化け物が現れる。
あれら全てが世界に向かって襲いかかってしまうと考えると恐ろしい。だが、代行者もまた化け物であった。
彼が従える黒鳥が空を舞う化け物を次々と喰らっていく。神擬きの眷属は鳴き声を響かせながら魔力を高める。自身の手下が次々と破壊されていくからだ。黒鳥を排除しようと魔法を発動する。
「あの神擬きは魔力量は多い。尋常じゃないほどに。だけど……黒鳥の方が、魔力が多いだなんて」
「あれは聖神の力を宿していますから」
聖神アルカディア。そこまでの力を保有していたと言うの!? でも、鳥にあそこまでの力を与えられるなら、なぜ滅びたのかしら? 負けてしまったのかしら?
他の神よりも強い力を持っていたとすら思えるのだけど……
「聖神は凄いんですよ! かっこいいし可愛いです! 最高ですよ!!」
このメイドはやたら聖神アルカディアを推してくるけどなんなのかしら? まぁ、代行者と聖神は関係が深いとか色々と知っているらしいけど。どこまでが正解なのかわからないわね。
「うぁぁぁああああああああ」
「るーるーるー」
神擬きが発動する魔法はあたり一面を爆発する魔法。都市を丸ごと焼いてしまうほどの威力であったが一匹の鳥によってそれが防がれた。
「……た、戦いのスケールが違いすぎる……」
人では絶対に辿り着けない、入り込む余地がないであろう光景が広がっている。神擬きが使用する魔法の爆音が脳に響く。全身の全ての部位が死を連想する。
私も特級魔法を使える、魔法学園を卒業したエリートでもある。にも関わらず、見ていることしかできない。
「ゴルザ君でも、あの鳥には勝て……いえ、一匹なら勝てそうね」
思えば、私の周りには化け物が多かった。更に、どんどん新たに強い化け物が現れてくる。
「ふふ、ふふふ、一体私の人生どうなっちゃってるのよ。ゴルザ君に、神擬きに、黒鳥……そして」
そう、未だに動くそぶりを見せない代行者が私は気になってしまった。ただ、空に浮かびながら戦場を眺めている彼が……遂に動いた。
「……飽きた」
いま、なんと言ったのだろうか? 遠すぎて聞こえなかったわ。
ぽそりと呟いた彼の周りには黄金の魔力が迸っている。
「……魔力の迫力だけで漏らしちゃいそうね」
黒鳥を従える代行者ならば、それ以上の魔力量や魔法技術は持っていると察しがついていたけど。
「こりゃ、反則ね。神もだけど、代行者もまた高次元の存在だったのね」
世界を救いたいと思っていたことがバカらしくなってくる。
──こんな存在がいるのであれば、自分の意思など介在する余地がない
私の力など彼からすれば塵に等しい。埃を巻き上げる感覚で世界を彼は滅ぼせるのだから。
「……」
彼の指先に綺麗な火球が生まれる。魔力が集約し、それがどんどん火に転換されていく。魔力から火に変わる際に膨大なエネルギーが発生し、その余波だけで私は意識が持っていかれそうになった。
「るーるるー」
「るるるー」
黒鳥はその波動を喜んでいるようで、大きな奇声を発している。
「──綺麗」
その言葉を最後に目の前が全て、光に包まれた。これこそが神の力なのかもしれない。
神
それは代行者こそ相応しい称号であったのかもしれない。
◾️◾️
ふー、でっかいセミを倒してやったぜ。散々神とか言っておいて、所詮はでっかいセミレベルだったよ。
黒鳥も雑食だからね、セミ食べてたね。結構美味しかったらしいから、もりもり食べていたな。
不思議なことにでっかいセミを食ったら全部のカラスが少しずつ魔力向上していた。栄養があるでっかいセミだったんだな。また、出てきてくれると嬉しいかもしれない。
あんなにガツガツ食べてるの初めて見たしな。
「かぁーかぁー」
「るーるー」
鳴き声も暗黒微笑BGMみたいな感じになっている個体もいるし。普通の鳴き声のカラスもいるけどさ。50羽くらい居るから、正直うるさい。
「ゼロ様」
「なんだ」
「そのカラス、私にください」
「は?」
「ククク、それを利用したら信仰なんていくらでもあげられます。ククク、新世界を創造しその頂点に立つことも可能です!」
何言ってるんだ、こいつ。
「正直、あんなにボコボコに出来るとは思いませんでした。かみもどきって言う名前が相応しいですが、それでも神の名を持つには十分の力を持っていました」
「はぁ?」
「それをあーもあっさり倒すとは……これは信仰心を上げるチャンス! カラスを使いこなせば……ふふふ」
「あげないけど」
「え!!??」
目をびっくりと開けて、口をポカーンと開けながら仰天している表情だった。なぜもらえると思ったのだろうか。
「ぜ、ゼロ様、革命団も持ってて、カラス持ってて、自分も世界で一番強いのに……こ、これ以上何を望むと言うのですか!」
「別に何も望んでないんだけど」
「……あ! ゼロ様と結婚したら全部手に入る……やはり結婚、ゼロ様と結婚は全てを解決する……」
欲が深いな、これで神とか言っているんだから信憑性がないわけだよね。
さて、俺達は一旦イルマさんの家に向かった。あの人から芥川の本をもらわないといけないのだ。さっさと回収して帰るとしよう。
イルマさんも満足しただろう。神なんて存在しないって、今回のことでわかっただろう。
神と思ってたらあんなにもあっさり倒されたりするんだし。
「イルマさん、本ください」
「いいわよ。ほれ」
「どうも」
思っていたよりもあっさりとくれた。確か、俺著者の本って今結構な高値で取引されているって聞いたんだけど。それをあっさりと手放すだなんて、器量がでかい人なんだな。
流石はパパンの同級生だ。
「世界とか神とか、抗うのがアホらしくなってきたのよ。どう足掻いても結果は変わらないからね」
「そうですか」
「代行者、あの強さは反則よ。あれが神なのかしら」
この人、まだ神とか言ってるのか。流石はパパンの同級生だ。厨二仲間だけはあるなぁ。
俺のことを神とか言ってるしさ。神様っていうのはね、もっと常軌を逸して、常識から外れて、圧倒的な力を持っていて、俺みたいな人間や、手下のカラスよりも圧倒的な強さを持っていないといけないの。
だって、
『神』
なんだから。俺は神様会ったことないけど、人間である俺よりも超次元なのはわかる。まぁ、見たことないから居ないんだろうけど。
あと、俺よりも上って見たことないから神は居ない。はい! 以上!! 閉廷!!
「代行者こそ神なのかしら」
イルマさんがそう言っていると、ドタドタとレイナが走ってきた。
「ち、違いますって! 代行者は聖神の夫ですって! 言ったでしょ! あと聖神アルカディアの方が強いですって! ま、まぁ、強いは大分盛ってるかもですけど」
「なんでそんなこと知ってるのよ。どう考えても、アンタみたいな胡散臭いメイドの言うことが信用できないわ」
「あーーーー!!! 言っちゃいけないこと言った! 神様に対して言っちゃいけないこと言った!!! わぁぁぁ!!! 呪ってやる!」
煩いわ。このメイド。
「あ、ゼロ君。芥川龍太郎だけど。もう一冊、私の実家にあるわよ」
「え!?」
「今度家帰るけど、来る?」
「行きます」
「ただ、ちょっと大家族でね。私そろそろ結婚しろって言われてて、誤魔化すために彼氏のふりしてもらうけどそれでもいい?」
「了解だよ、ハニー」
俺がそう言うとドタドタとレイナが走ってきた
「わ、私と言うのがありながら! なんで!? なんで許嫁とか!! 私がいるでしょ! 私が! 絶対に幸せにしますって! 愛してるのに!!」
煩いな。このメイド




