第36話 海底の都市
「行くわよ」
イルマさんの一声で海へと俺らは踏み出した。彼女の特級魔法により、海の中でも呼吸もでき地上のように歩くことができる。
まぁ、魔法使わなくても俺なら歩けるけど。
折角、すごしやすくしてくれてるわけだしね。レイナも水着姿でついてきているがずっと、俺にひっついている。
「この魔法はね。ゴルザ君が開発したの。風の魔法の応用でね、水を割いて、更に空気を吸えるようにしてくれる」
「ほう、流石パパン」
「旦那様、人間のくせにやりますね」
前に魔法の授業の時に、教科書にパパンの名前が載っていたな。飛躍的に魔法文明を進めた人物の一人だとか。
深海はゆっくり歩きなが進んでいく。夕飯の魚を獲りながら進み続けると、古めかしい建物が見えてきた。
「懐かしい。ここで一度祭りをしたことがあります」
レイナが意味不明なことを言っているが無視をするとして、夕食だけじゃなくて朝食も獲得しておこう。
「それにしても凄いわね。この都市は。古代の叡智が詰まっているわ。きっと昔の人類はもっと高度な文明を持っていたのでしょうね」
「そーですね」
「神々との戦いで滅んでしまったのよ。海の底に形だけ残して」
「詳しいですね」
「ここら辺の海は調べてるから。ただ、この魔法って難しくてね。ゴルザ君じゃないと長時間持たないの、最近ようやくできるようになってきたわ」
最近になって出来るようになったらしい。
「ここまで深く海に来たのは初めてよ。これが古代の文明なのね」
壮大な場所みたいな雰囲気を出している所悪いんだけど、そんなに驚く場所ではない気がする……。前世もこんなの見た記憶あるから、既知感が凄くてさ。
「壁画もあるわ。聖神と大きな瞳の戦い?」
「──それこそ、我らが神」
「出たわね。お望み通り来てあげたわ」
さっき部屋に不法侵入していた男が現れた。しかし、先ほどとは違う部分があった。
顔の真ん中に大きな穴が空いている。目と鼻と口が消えて、ブラックホールみたいな大きな穴が空いていて、人の容姿とはかけ離れている。
「まさかとは思ってたけど、悪魔だったのね」
「えぇ、そうだ、そうですとも」
「人の言葉を話せる……上位種ってやつね」
そう言えば悪魔にも人の言葉が話せる存在が居るらしい。でも所詮悪魔だよね、神様とか居るとか言っているから、冷静な判断ができないというか。
やっぱり人間がなんだかんだで一番合理的だよな。俺の国の人ってほとんど御伽話程度の認識だし。
日本にいた時も日本人ってそういうの信じないしさ。
「見て、見てくれ。この大きな抜け殻を」
悪魔が指を刺す場所にドチャクソでかい球体が置いてあった。真っ黒な岩石みたいにも見えるけどあれは?
「こ、これは!?」
「──嘗ての母なる神の抜け殻だ、これこそ全てを終わらせる存在、存在なのです」
「これが、海王神ブルーアイズの抜け殻ですって!?」
な、なんだってぇ!??? こ、これが海王神ブルーアイズの抜け殻だってぇぇぇぇぇ!??
神様って脱皮とかするのか?!
セミじゃん。とツッコミたいがシリアスな雰囲気が流れ始めてしまったので無視しておこう。
「我らが神、俺たちの母は現在、異空間に封印されている。それがようやく解かれる時が近づいています、近づいている」
「……神が目覚めるやはり、あの芥川の本は予言を記していたんだわ!!」
記してないんだわ!!
適当にパパンのノートをパクって書いていただけなんだわ!!
どーしようか。あの変な悪魔とイルマさん二人で盛り上がっちゃってるし。
「なぁ、レイナ。俺この話ついていけないから、しりとりでもしてようぜ」
「う、うぅ」
「どした?」
「あ、あれ。あれは本当に……か、神です。うぅぅ、こ、怖いですぅ」
……大丈夫か、この子は……後ろからバッグハグされているが嬉しいとかよりも心配の方が勝ってしまう。
「ゼロ様、あの球体ごと吹っ飛ばしてください。してくれたら、世界で一番美女の私が彼女になります!」
「い、いらない。どうしようもなくいらない!」
「いるでしょ! いりますよ! 体もでかいだけじゃなくて、すっごく柔らかいんですよ! 股関節も柔軟性も凄いんですから!」
「アピールすべきポイントが……他にないの?」
言い方がいやらしいんだよな。神とか言っておいて人間の肉欲を刺激するやり方はどうなのだろうか。
まぁ、神様じゃないから言えるんだろうけど。
「ふふふ、こんな誘惑をするのはゼロ様だけですよ。嬉しいですよね?」
「いや、全然」
「えぇ!? 私と付き合いたくないんですか!?」
「特にはね」
「私はゼロ様に彼女が出来たら、その彼女角材で殴るくらい絶対に付き合いたいです!!」
「お前が神なら絶対に邪神だろうな。暴力性高すぎだろ」
本当になんというか、しょうもなさすぎて子供と話している気分になる。
「私のどこかダメなんですか!」
「ダメとかはないけど。逆に俺の何がいいんだ? 自分で言いたくないがそんなに良い性格ではないと思うけど」
「悪い性格も好きですよ! それに匂いとか」
「匂いねぇ……」
そんなに良い匂いしているだろうか。自身の匂いを嗅いでいると、レイナが服の中にモゴモゴ入ってきた。
「うんうん、良い匂いです」
「……そうかね」
「ふふふ、寝ている時にいつもやってます。癖になってますね!」
「主人が寝てる間に何してるの?」
「ついでに、首から脱出!」
レイナは服の首を出す場所、ネックホールから頭を出した。
「すでに俺の首が通っているから狭いんだが」
「カップルみたいで良いじゃないですか! ねぇねぇ、ゼロ様付き合いましょ!」
「お前メイドだろ」
「後悔させません! 幸せにします!」
「うーん」
すっごいベタベタされているのだが……
「ちょっとそこの二人! なにやってるの!? 世界の危機なのよ!?」
「──神の復活前に私があの殻と同化し!! 復活の狼煙をあげるのだ、あげるのです!」
あ、結構展開があっちでは進んでいるようだ……
「あっちでは結構進んでいたな」
「メイドとご主人様の関係も進んでしまいましたね!」
「元気だなお前は」
さっきまで怖いとかおしっこ漏らしたとか言っていたのは、どうしたのだろうか。
「ははなる・うみのかい・じゅんなるかみへと・いたる」
「こ、これは聞いたことない詠唱……まさか、古代の魔法!?」
「これこそ、抜け殻に私が入ることで器を満たす。満たすのです。それにより、神の力を今再び!! そして、封印を壊す!!」
ガタガタ、大地が揺れ始めた。あの悪魔は大きな球体の抜け殻に入り込んで一体化しようとしているらしい。
「二人共逃げるわよ!! ここは危険だから! 同じ服を二人できるとか馬鹿なことしてないで早く!!」
走りにくい、同じ服に二人の首が通されるとこんなに窮屈なのだろうか。
「アンタ達! イチャイチャしてる場合!? このままだとこの魔法で作った領域も崩されるのよ!! あれって絶対ヤバいやつだから魔力なしの衝撃でも壊されてしまうわ!!」
「えへ、ゼロ様の匂いが」
「笑ってる場合じゃないって! 深海でそんな状況になったら一発で空気とかいろいろで死ぬんだから! ほら走れ!」
イルマさんちょっとキレてるな。見た目は小学生だけど、年はパパンと一緒だからロリババアってやつか。
「ゼロ様、ロリババアにキレられるってこんな気持ちなんですね」
「どんな気持ちだよ。そろそろ離れろ」
「いーや! いやいや! もうくっついちゃったもん!」
「情緒どうした?」
こんな幼児退行してしまって本当に大丈夫だろうか。
悪魔云々よりメイドの方が心配だぜ!
──うぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ
海から脱出して浜に戻ると、空は暗雲となり大きな生物の叫び声が響いていた。かなりの大声なので近くの国にも聞こえているだろう。
──うぁぁぁあああああ
海が裂けるように何か大きな、物体が現れた。
「……ゼロ君、逃げてと言いたいけど無理かもしれないわね」
「え?」
「あれは……神よ。多少の劣化はあるかもしれないけど……こんなに大きな魔力は初めて……学生時代ゴルザ君より大きな魔力って見たことなくて、それから今になるまでも見たことがないの」
「ほう、あれは学生時代のパパンより大きいと」
「えぇ……あれが現界したのなら全ては終わりよ。人間なんて、ちっぽけだったのね」
あれ、凄い諦め消沈ムードになってしまったイルマさん。まぁ、確かに魔力が大きいとは思うけど、俺のカラスよりは少ないが……
「ははは……人類を救うためにずっと頑張ってきたのに……こ、こんなあっさり終わってしまうなんて。う、うぅぅ、ふぇぇぇぇぇ」
あ、この人も幼児退行して泣き出してしまった。一方で俺はいまだにレイナと一緒に同じ服着てるし……
「ゼロ様、可哀想なのでなんとかしてあげましょう」
「お前は何かしないのか」
「私は神ですが、力がまだまだなので。全盛期だったら朝飯前だったんですけど。全盛期ならね。あーあ、全盛期だったらなぁ」
全盛期も何もないと思う。絶対俺のカラスよりも弱いし。しかし、このまま放っておくのもダメか。
普通に海が荒れ狂ったら災害で被害出そうだし。ちょっとでかいセミを倒すのと同じくらいだろうね。
「あぁ、世界はこんなにも脆いのね。ふぇぇぇぇぇ」
あ、イルマさんまだ泣いているのか。




