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第五話 演習

 約束通りの時間に昨日の公園に向かう。考えてみれば俺が魔法少女になってからまだ一日しか経っていないのだ。まったく、濃い一日だった。

 夜更けの閑静な住宅街。昼間の街中とうって変わって道行く人は皆無だ。それゆえ魔法少女の装束を着ていることも気にならない。

 昨日の公園にたどり着くと、すでにほむらは魔法少女の衣装でブランコに腰掛けていた。冬の初めの冷たい風が彼女のツインテールを揺らしていた。改めて見ても、彼女の背格好はとても8歳には見えない。

 近づく俺の足音に気付いてか、彼女は顔を上げる。

「遅い!」

 俺の姿を認めて開口一番怒鳴った。彼女は俺より年少だが先輩だ。俺は平謝りするしかない

「すみません!」

「まあいい。今日は戦い方を教えるんだったな」

 そう言ってほむらはブランコから飛び降りた。修道服の頭巾が風を受けてふわりと膨らむ。そして彼女はそっと着地した。その動きの全てが完成されていて、それだけで彼女が熟練の魔法少女であることが伝わった。そして彼女は袖口からステッキを取り出し、構えた。

「さあ、お前も!」

 ほむらに指示され慌てて俺もステッキを構えた。そしてほむらの所作を注意深く観察する。彼女はまずはステッキを一振りする。

 たちまちドラム缶の姿をした魔物が二体現れた。俺は慌ててステッキに魔力を込めようとする。それをほむらは手で制した。

「まあ待て。こいつらは攻撃はしてこない。練習台だからな。こいつらで攻撃の仕方を学んでもらう」

 ほむらはステッキに魔力を込める。すると次第にステッキを覆うように、炎のような赤いオーラが現れた。ほむらは解説する。

「魔力を込めるときは自分の属性に応じた魔力を込めるんだ。私の場合は炎属性だからな。情熱を込めている。やってみろ」

「俺、自分の属性が何か分からないんだ」

 俺は正直に答えた。呆れられるかもしれない。失望されるかもしれない。そうした懸念は意外にも、ほむらの一言によって払拭された。

「そうだよな、昨日魔法少女になったばかりだもんな。知らなくて当然さ。でも手がかりは欲しいな。お前が魔法少女になって理由は確か、人生に絶望したから、だったよな?」

「そこまで重くはないけどな。ま、訂正するほど間違ってはない」

 俺は苦笑しながら答える。ほむらはというと、真剣な眼差しで続ける。

「じゃあ、変身する時どう唱えてるんだ?」

「え!?」

 彼女の言葉に俺は狼狽える。あれを唱えるのか、他人の前で。渋る俺をほむらは急かす。

「え、じゃないよ。さあ、早く言えよ」

「いや、でも俺アラフィフのおじさんだし。あれを唱えるのは恥ずかしい」

「気にするな! 今は年齢不詳の魔法少女だ! それに、変身するときの呪文がお前の属性を知る手掛かりになるんだから」

 ほむらな真剣な顔つきで迫る。そんな彼女に俺は折れるしかなかった。

「笑うなよ。マジカル・ホープ、メイクアップだ」

「マジカル・ホープ、メイクアップ……」

 ほむらは顎に手を当てて俯き、俺の変身呪文をかみしめていた。そんな反応を見せられる方が恥ずかしい。俺は顔が熱くなった。これなら、笑い飛ばしてくれた方がよかった。

 そんな俺を気にすることなく、やがてほむらは顔を上げた。

「なるほど、お前の魔力の根源は希望、つまりお前は光属性だ」

「光属性? 俺が?」

「ああ。とりあえず希望をステッキに込めてみてくれ」

 彼女に言われるがまま、半信半疑でありながらも希望を抱いてステッキに魔力を込める。するとたちまちステッキの先に、今まで見たことがないほどまばゆく大きな光の玉が現れた。それを目にしたほむらは感嘆の声を漏らす。

「おお〜!」

「これをあいつらにぶつければいいのか?」

「……あ、ああ」

 ほむらは茫然としていたのか、上の空というような返事をした。一方俺は返事を受けて光の玉を魔物に向けて放つ。

「よし、吹っ飛べ!」

 光の玉は猛然と魔物のうちの一体へと突進した。次の瞬間には光の玉は魔物へとぶつかっていた。魔物から眩い光が放射される。俺は思わず目を閉じた。やがて瞼の奥から光が消えるのを感じた俺は恐る恐る目を開ける。なんと魔物は二体とも霧散していた。

 耳に拍手が届く。音のする方に振り返ると、ほむらが目を丸くして拍手していた。

「いや〜恐れ入ったよ! まさかお前にここまでの素質があるとは!」

 彼女の言う通りだ。自分でも驚いている。

「それにしても、魔力の込め方一つでここまで変わるもんなんだな」

「そりゃそうさ! 叩く時もパーで叩くのとグーで叩くのじゃ威力が違うだろ? ま、ここまで素質があるというのは私も想定外だったけどね」

 彼女の言葉を聞いて俺はステッキに目を落とす。俺はようやく何者かになれたのかもしれない。

「よし、それじゃあ今度は回避と防御を学んでもらおう」

 そう言ってほむらはステッキを一振りする。今度は巨大なガトリング砲の姿をした魔物が現れる。一目でこれはヤバいと分かった。

「今度は攻撃してくるからな」

 ほむらがそう言うが早いか、魔物は砲弾を容赦なく撃ち込んできた。

「いだだだだだだ!」

「何やってるんだ! 避けながら攻撃するんだ!」

 ほむらに怒鳴られて俺はようやく回避行動に移る。俺はまず3時の方向に駆けた。それを魔物は認識してか、砲口が俺を追う。恐怖を感じた。

「ほら避けてばっかじゃ埒があかないぞ! 攻撃もしろ!」

 耳に入るほむらの怒鳴り声。俺は覚悟を決めて魔物に突進する。魔物は一瞬怯んだかに見えたが、猛然と弾幕を張った。俺はその上を疾走し、ステッキに魔力を込めた。やり方は覚えている。先ほどと同じように大きく眩い光の玉が現れた。

「よし、砕けろ!」

 光の玉が魔物に向けて突進する。やがてそれは魔物にぶつかり、土煙が立った。

「やったか!?」

 言ってしまったからしまったと思う。何も学んでいない。魔物は表面にヒビが走ったとはいえ健在だった。そして俺に容赦なく集中砲火を浴びせる。俺は無我夢中でステッキを振り回した。

 その時不思議なことが起こった。俺を護るように光のベールが現れ、砲弾を弾いたのだ。ほむらは嬉しそうに叫ぶ。

「いいぞ! マジカルシールドを習得したな!」

 名前が微妙にダサいと思うのは俺だけだろうか? ともあれ安全は確保できた。あとはやることは一つだ。

「あとは削りまくるのみ!」

 俺はステッキに魔力を込めては放ち、込めては放ちを繰り返した。今朝までより明らかに成長している。

 十回ほど繰り返しただろうか、魔物は音を立てて崩れ、破片は風に乗って消えた。

「すごいなお前! 凄まじい素質と成長だ!」

 ほむらが興奮気味に称えてくれた。俺も嬉しくなる。

「ありがとう。ほむらが教えてくれたおかげだよ」

「そうだろう! もっと感謝するがよいぞ〜」

 ちょっとした社交辞令で鼻を伸ばすあたりまだまだ子供だ。まあ、感謝しているのは事実ではあるのだが。

 そしてほむらはこんな嬉しいことも言ってくれた。

「共闘しよう! 今のお前なら心強い」

「本当か!? これからよろしく、ほむら」

「よろしく! お前!」

 ほむらは右手を差し出すが、俺は訝しんだ。

「なあほむら。ひょっとして俺の名前……」

 ほむらはバツの悪そうな顔をする。俺はずっこけてしまった。

「覚えてないんかーい! 実近だよ! ふ、じ、わ、ら、さ、ね、ち、か!」

「あ、あーあ! そうだったな! 改めてよろしく、実近!」

 これは絶対思い出してないやつとみた。俺は不承不承手を握り返した。ともあれ、こうして俺とほむらの共闘が始まった。

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