幽霊とマシンガン
引越し先で幽霊と同居することになったOLのゆきの
会社の先輩と幽霊、おかしな生活が始まる
もう30分以上、玄関前のインターフォンが鳴っている
深夜0時半
スマートフォンにはインターフォンを押し続けている
課長からのショートメール
「坂本さん 違うから 話をしたいだけだから ドアを開けて」
「違うから」という意味がわからない
「違う」という言葉が何にかかっているのかわからない
とにかく立ち去ることを祈りつつ
ソファの上で膝を抱えて30分が経過したのだ
40分経過したところで、会社の先輩の鈴江さんに電話する
同じ部署で唯一の女性社員
わたしが入社した2年前からよく面倒をみてくれる
頼りになる先輩だ
事情を話すと「わかった 一旦切るね」と電話を切った3分後
鈴江さんから着信があり 電話をとる
「通報したから」
「え!?け、警察ですか!?」
「事情を聞かれるだろうから、着替えた方がいいかも
まぁ、どんな格好してるかしらんけど、、、」
「た、逮捕されちゃいますよ!?課長」
「仕方ないでしょ?こんな時間に
女性の部屋に押しかけてんだから」
「そ、そうですけど、もっと穏便に、、、」
「まぁ、詳しくは明日話そ 」
「いや、でも、、、そんな、、、」
「わたしは寝る」
電話が切れて、パトカーのサイレンが聴こえてくる
翌日、会社で部長に事情を説明する
「ストーカー行為ってことだね 大変だったね
仕事に戻っていいよ」
もっと色々、詮索されるかと思いきや、拍子抜けだ
「課長は評判よくなかったからね みんな言ってるよ
いつか、そんなことするんじゃないかと思ってた、、って」
食堂で鈴江さんと昼食を一緒に摂っている
「一応聞いておくけど、ゆきのちゃん、課長とはなんにも
ないんでしょう?」
「ありません!なんかショートメールが頻繁にくるから
困ってたんです」
「あぁ、それわたしもあった 仕事以外の話は
全部無視してたら止んだ」
「わたしもそうしてたんですけど、この間、ワールドカップで
日本がドイツに勝ったときついつい返信してしまって」
「ストーカー爆誕(笑)」
「笑いごとじゃないですよ」
「坂本くん、世の中の8割の人間は脳タリンの
ロクデナシだ 覚えておきなさい」
「もっと早く教えといてください」
「とにかく、あなた引越しだね」
そうなのだ もうあの部屋にはいられない
おそらく解雇となる課長の逆恨みが怖い
鈴江さんの部屋から出勤すること数日
鈴江さんと不動産屋へ
「すぐに入居できる部屋はありませんか?」
事情を話すとまだ若い七三分けでメガネの男は親身になって
部屋を探してくれる
数件の部屋を紹介してもらうが、良いと思う部屋は
予算オーバーだったり、すぐに入居できなかったり、、
「あのぉ、、、外に貼ってあったやつ、、、
天神駅徒歩7分、築4年、2LDK 家賃5万というやつは?
もう決まってるんですか?」
鈴江さんが尋ねる
「あぁ、、、あの物件、、、
いやまだ入居者は決まってないんですが、、、」
「、、、が?」
含みのある言い方に鈴江さんが食いつく
どうも、鈴江さんはわたしの置かれた状況を楽しんでいる
フシがある」
「訳ありですか?安すぎますよね?」
鈴江さんの目が笑っている
「自殺や殺人があった訳ではありませんが、、、」
ここ数年で5人も入居者が代わっている
みんな女の幽霊がでるというそうな
「長い人で3ヶ月です」
わたしが「他の部屋を、、、」と言いかけたとき
「部屋を見せて下さい」
と鈴江さんが言った
結果から言うと今わたしは「その部屋」に住んでいる
最初の2週間は鈴江さんも一緒に住むという条件付きだ
今日で3日目の夜
まだ開梱前のダンボールが積まれたリビングで
ふたりで夕食を摂っている
「ゆきのちゃん、もう3日なにもないし
わたしは引き揚げてもよいかな?」
「約束が違います わたしだって怒る時があるんですよ?」
部屋を下見にきて、
「大丈夫!全然、変な感じしないし、ここにしよう!」
と半ば強引に決めてしまったのは鈴江さんだ
「とにかく、なにもなくても2週間は
ここにいてもらいますから」
「はいはい、、、」
しかし、、、異変はその夜に起こった
リビングのテレビでNetflixの韓流ラブロマンスを観ていた
画面が突然変わる
映し出されたのはバトルアクション映画
「え?なんで?」
鈴江さんがリモコンを手に取る
「なんで急に銃撃戦、、、」
ふたたび画面を切り替える
冬の港にたたずむ男と女
潤んだ瞳で男を見つめる女
、、、
ふたたび画面が切り替わり
飛行機から飛び出す男
「なに、、、これ、、、」
鈴江さんがリモコンをいじる
男と女
手榴弾
男と女
マシンガン
「、、、な、、、壊れた、、、?」
と鈴江さんがリモコンをいじっているとき
わたしは見てしまった
視界の隅
リビングの入り口の廊下のところ
髪の長い白いワンピースの女のことが座っている
『はっ!!』となって振り返ると
そこには誰もいない、、、
「、、、す、、、鈴江さん、、、」
「なに?」
「故障ではない気がします」
「どういう意味?」
「、、、うまく説明できませんが、、、」
「?」
「ラブストーリーが嫌いなのかも、、、」
とわたしが言ったとき再び視界の隅に
白いワンピースの女の子が見えた
表情まではよくわからないが
すこし微笑んでいるように思えた
それから怪奇現象は毎晩起きるようになった
ラブロマンス→バトルアクションの繰り返し
鈴江さんも視界の隅に髪の長い白いワンピースの女の子を見た
振り返り直視しようとすると消える
この繰り返しだ
「トゥルーラブが5話から先に進まん、、、」
鈴江さんが言う
「永遠にふたりは結ばれないんでしょうか、、、?」
「それどころか、、、銃撃戦に巻き込まれ命が危ない」
切り替わりのはいつもアクションムービーだ
「可哀想なふたり、、、」
わたしが呟くと
「あんた、結構肝が座ってるよね、、、」
と鈴江さんが呆れる
「悪い子じゃない気がするんですよね、、、あの子」
ラブロマンスが観られないことを除けば不自由はなかった
SFとかファンタジーは観ていても切り替わらない
YouTubeで鈴江さんがビートルズを観ているときなんかは
視界の隅っこで微笑む女の子が見える
「段々、バト子の趣味がわかってきたね、、、」
鈴江さんがレディオヘッドを聴きなが言う
レディオヘッドはバト子さんも好きなようだ
切り替わらない
「、、、バト子?」
「ラブロマンスは大嫌いで
バトルアクションが好きなバト子ちゃん」
ネーミングセンスがあんまりだ、、、
バト子さんにモデルガンを買ってきた
少しでも仲良くなれないかと
入ったことのない物々しいお店に入った
バト子さんは玄関入って左手の部屋
今は引越しのダンボール置き場で使っていない部屋に
住んでいるようなので、、
その部屋にそっと買ってきたマシンガンを置いてみた
弾もでるやつ
その晩、リビングにいるとモデルガンを撃つ音が聞こえて
わたしと鈴江さんは笑った
異常な状況だが不思議と受け入れてしまうわたしたち
理由はよくわからない
モデルガンを買ってきた翌日の晩
「試してみるか、、、」
鈴江さんが諦めてしばらく観なかった
ラブロマンスを再生する
しばらくストーリーはそのまま再生
しかし、
画面がアクションに切り替わる
「くっそ!」
鈴江さんが吐き捨てるように言う
「分かり合えたと思ったのに!」
「難しいですね」
そのとき、、、
玄関のほうでガチャガチャと音がする
わたしと鈴江さんは顔を見合わせる
ドアが開く
玄関に課長が立っている
『!!!』
わたしは脚がすくんで動けない
鈴江さんが立ち上がりわたしの前に立つ
「警察呼びますよ!!」
叫んだ鈴江さんの頭を課長が叩く
手には鉄の棒のようなものを持っている
うつ伏せに倒れた鈴江さんの頭から血が流れている
動けないし、声も出ない
「坂本くん わたしは、ただ話しがしたかっただけなんだよ?」
歯がガチガチとオトをたてて鳴る
わたしは座り込んだままだ
「全部終わりだ 君のせいだよ?」
課長が腕を振り上げる
『!!!』
課長の後ろにバト子さんがいる
いつもは視界の隅にしか見えないバト子さんが直視できる
目を見開き
鬼の様な形相
マシンガンを振り上げ
課長の後頭部に振り下ろす!
鈍い音がして課長が倒れる
動かなくなった課長を数秒見下ろしていたバト子さん
すぐにわたしのほうを見る
テーブルの上のスマートフォンを指差し
「はやく!はやく!!」
バト子さんの目から信じられないくらい大粒の涙が流れでいる
わたしは震える手で救急車を呼んだ
数日後
病室でわたしはリンゴをむいている
鈴江さんは1週間の入院が必要だった
「定番だよね、、、病室でリンゴ」
「取調室にはカツ丼、病室にはリンゴ」
「なんか楽しそうだね、、、キミ」
「怪我、たいしたことなくてよかったです」
事件はちょっとした、ニュースとなり
わたしはストーカーを返り討ちにしOLとして報道された
「まさか幽霊が殴ったとは言えないもんね、、、」
「手柄をわたしのものにしてバト子さん怒ってるかも、、」
「撃たれないように気をつけなきゃね(笑)」
課長はしばらく刑務所だろうけどわたしは部屋を引越す
ことにした
「引越しのまえにバト子に会いに行こうかな
命の恩人だし」
「大丈夫ですよ あわてなくても」
鈴江さんは不思議そうな顔をしたが
新居にバト子さんが一緒に行くことはまだ内緒にしておく
読んでくださってありがとうございます
ほのぼのとした気分になっていただけたら幸いです