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第一話 金の生みどころ8-再会を望む声

ミミックはダンスがとても得意で、舞台となれば世界で一番美しい女になる。

 サキュバスの色気が益々舞台から放たれて、人を魅了するのだ。手足をくねくねと練習の回数を予感させる隙間なく動かし、リズムを刻んでいく。時には怪しく情婦のように、時には凜とした雄の顔つきで。

 女性を存の帽子に変身させ、一緒に訪れた店内のダンスショーに女性は大歓喜した。これだけ美しい性愛の表現ができるなんてと、興奮しきり。帽子を宥めるのに苦労する存。

 疾風は席にやってきたミミックへ、わざと五回の来訪で縁が切れることを教えてやる。

「あと一回だ。あと一回で返事が宜しくなければもう来ないから安心してくれ」

「そんなあ! あるちゃんもはやちゃんもイイ男なのにい!」

「イイ男は忙しいんだ、それで。どうする?」

「……あれからね。考えてみた。確かに深く考えてみたら会ってみて、親の恋愛話くらいは聞いてみたいわ」

「人間とサキュバスの子なんてロマンチックだもんな、きっと滅多にないし今後のダンスの参考にはなるんじゃないか?」

「そうねえ、それに最後の一回来訪は、折角なら二人に再会お祝いシャンパンでもいれてほしいもの。派手な再会したいわ、そのほうが思い出になる」



 帽子は泣いているのか湿り気がある。

 存は笑い、疾風と店を出ると帽子を脱ぎ、帽子から女性に戻ったサキュバスは明るい顔でたんまりとお金の入ったアタッシュケースを渡してくれた。疾風は受け取ると重みに思わず体が傾き、ぐらりと揺れた。


「有難う、もう大丈夫。今度また一緒にきて、シャンパンいれてあげないと」

「あのお嬢サンの前で、この前のようなことは言わないように。それと……身内からの貢ぎは結構きついと思うから、貴方はシャンパンいれないほうがいい」

「入れようとしたのばれてた?」

「親馬鹿になりそうな顔していたから」

 疾風の揶揄にげらげらと笑い、女性はいなくなる。きっとミミックに会いに行ったのだろう。

 存は黙って二人の様子を見つめてからアタッシュケースを持ち直す、恐らく借金のことを振り返っている気がした疾風は存の足を軽く足で蹴った。疾風からの変わった激励に存は少しだけふわりと笑う。


「これで人間界の借金は減る、有難う」

「生きていてよかっただろう」

「……さあね。でも、願いは変わらないよ。おれは、おれだけの墓を買う。おれの墓をいつか、買う」


 そのいつかは爺になったときではなさそうだな、と疾風は苛ついた。

 苛ついていたからこそ、見逃した。存の右手から、僅かに赤い糸がうねっていることを。

 悪魔から得たのは、金だけではないのだとまだ二人は知らなかった。


 ただ疾風に判るのは、初めて依頼を終えた日の朝焼けはとても美しく、疾風にとってかつての親友の泣き顔を少し薄れさせる効果があったほどの光景。

 朝焼けは、オレンジと蒼、疾風の服の色を思い出させた。



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