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第一話 金の生みどころ5ー蜘蛛の貴婦人

「契約した悪魔から、依頼を貰うんだ。人間捜しで困っている他の悪魔も時々紹介して呼んでくれるって。そいつらとはちゃんと金関係で結ばれる顧客になるから、代償は心配要らないとも言われた」

「悪魔の何でも屋みたいなもんだな。契約した悪魔から直接金自体は貰えないのか」

「直接お金をあげられないらしい。何かを介して恵ませることはできると。それなら折角だから働いてみたい」

「とことん真面目だな。人間どうぞくを売り渡す罪悪感はないのか」

「家族を喜ばせる価値のがその人間より勝った、それだけだ。価値のない人は要らない。それでも、おれよりは価値はあるのだろうけれど」

「よくわかんない価値観だがまあ判った、護衛や人手にはなろう。最初の依頼は何だった?」

「サキュバスっていう淫魔から、息子を探して欲しいって」

「特徴は?」

「淫魔の息子だから花のあざがあるってさ、それ以外は判らない。始めたはいいけど、何から手を付ければいいんだろうな」

「事務所の確保だろ、突然金が恵まれれば怪しまれる。探偵事務所作ってやるから、そこへ支払いをしてもらおう。それはお前の家でいいか、あとは」

 疾風が次々と案を出していき、それを継ぎ足すような形で存は小首傾げた。

「人脈、か、な? 情報は大事だし人付き合いが関係しそうだ、人探しなんて。でも悪魔が顧客だと普通の人脈じゃ駄目だよな」

「なら紹介したいやつがいる。人間界でいう情報屋で便利屋で、道具屋だ」

「忙しそうな人だ、会ってみたい。藁にも縋りたいけど、出来れば藁より上等な人を」


 任せろ、と疾風は存の部屋にある香水を借りる。

 香水を自分がいた魔方陣の中心に置き、錫杖でとん、と床を叩くとあっという間に異空間へと繋がる。異空間は真っ暗なのに不思議と眩しさもあった。金糸が発光しているからだった。

 異空間には金糸で出来た蜘蛛の巣が、異空間を彩るように飾られてある。

 部屋の中央に巨大すぎるクッションが五つほど。巨大かまくらを作ったと言われても違和感のないサイズ。

 キングサイズのベッドほどのサイズであるクッションに身を沈めるのは、ピンク髪の巻き髪をした美少女。

 気怠げの大きな零れそうな瞳は赤く。巻き髪は縦ロールでありながら髪を結んでいる箇所もあり、そこには金の簪や櫛を刺している。 グラマラスな女性は花魁のように着物を着崩していて、生足がクッションからは艶めかしく覗く。胸元も危うく、慌てて存は視線を反らせ、疾風はじっと見つめてから視線を合わせる。

 真っ赤な口紅の女性は、疾風に気付くと微笑みかけ。存に気付くと機嫌を悪くする。


「嫌だわ、にんげんがいる」

「まあまあ、綺麗なにんげんだろ。捜し物があって、探して欲しいんだ」

「いやよ」


 すんとすました女性はふいっと視線を反らし、キセルをふかしながら灰をこん、と灰皿に落とす。


「意地悪で言ってるんじゃありませんわ。その子、自発的に喋らない。全部貴方が喋ってる疾風。その子の望みはその子が喋るべきで。その中であたくしに媚びるべきよ」

「すまない、貴方の美しさにぼんやりとして喋るのが出遅れた。おれは加覧存。人間で、悪魔と契約したんだ。悪魔に頼まれて人間を探す仕事をすることとなった。貴方に協力して欲しい」


 存は現状をすぐ把握すると、すらすらと詫びて、一礼をし。

 改めて会釈をしてから自己紹介をしだすという、何処か誠実さの感じる態度を示した。

 この場は存に任せておこうと疾風は存在の主張を控えめにする。

 悪い気のしなかった女性はふうん、と品定めをし始める。


「紹介金はありまして?」

「おかね? お金が必要かなここは」

「そうよ、あたくしはお金次第で何だってしますわ。そうね、貴方は偉大なる悪魔と契約してる影が見える。なら支払いは其方に頼みましょう、疾風の紹介状より信頼出来る」

「お手柔らかに頼むよ。お嬢サンは何という名前だ」

「ジョロウグモの黄金こがねです。名前の通り、金色の絢爛豪華な御菓子が好きなの」


 黄金はトランプを一つ示して、とんとんと、表面を叩いた。


「これからこのカードから一枚選んで。シャッフルしてからもう一枚選んで頂きます。あたくしの客は豪運でないと認めない」

「……判った、なら今一番上の奴で頼むよ」


 存はこくりと頷き、黄金が見せたハートのエースをシャッフルし出す。存は意識を兎に角集中し、トランプを食い入るように見つめ、唇で数字を唱えている。

 何故数字か判らなかった疾風には見守ることしかできない、この、店の通過儀礼を存だけ見過ごさせるわけにはいかない。

 特別を作る行為は他の客から信頼を失い。黄金の持つ情報はあっという間に手に入る手段をなくしていくだろう。

 沢山得るには平等さがいるのだ、と見守る疾風は内心予想した。とはいえ、現状は心臓がヒヤヒヤする。

 此処は越えねばならない山だと、疾風はしっかりと存の実力を信じることとした。まだ出会って数時間も経ってないが、もしあの子の生まれ変わりならばきっと特別なはずだから天が許すだろうと祈ってる。


「さて、どれを選びます? もしも間違えていたら……そうねえ。貴方の命を貰おうかしら」

「それは脅しにはならないよ、黄金。左から二十四枚目にしてくれ」


 指でカードの枚数を数える動き。瞳を右に寄せながら、指でとんとんと何かを辿るリズムを行い、カードを指定する。存の言葉に、手元で扇のようにカードを広げた黄金は目を見開く。

 さらりと当てた姿に、裏を感じた。


「数えていたのね、シャッフル数」

「意識してずっと眼で追っていたよ、天運じゃなきゃ駄目ならやり直して運試しする?」

「いいわ、実力も運の一つ。天から与えられた運を使いこなしただけだもの。貴方の集中力は魅力的よ。あんな早い動き見て当てるのは異常だもの」


 黄金はすぐそばにある金糸に触れると、そのうちの一本を存に向け飛ばし。飛びつきくっついた金糸は黒く染まり、存の肌に蜘蛛の巣を模したタトゥーとして住み込む。


「それがうちの店の会員証だから、右腕を切り落とさないように」

「気をつけるよ。それで。調べて欲しいことについてはもう喋っていいかな、それともお茶菓子や色恋話のをお好みかな」

「勿論、今後はお客様だもの。うちは前払い制だけど、今日だけは後払いで宜しくてよ。それだけは初心者権限で許してあげる。恋バナはまた今度聞かせてくださいませ?」

「有難う。サキュバスの息子を探しているんだ。花のあざをしていて、二十年前に産み落とされたと教えられた」

「少々お待ちを」


 黄金は蜘蛛の巣を揺らして、糸の一本一本をつつき。そのうちの一つの巣を揺さぶると、小包された羊皮紙が墜ちてくる。

 羊皮紙を開けば、黄金は読みふけり。小さく笑った。


「人間界で、バー魔窟というお店があるから。それを探して。ミミックという子を指名するの。あとは自然に分かるわ」

「有難う!」

「お礼を言うなら、あたくしに沢山お金を落としてからお願いね、期待してますわ、新しい金づるに繋がる天命を」


 香水の匂いが消えてから、視界がぼやけて世界が現実に戻っていく。

 現実の存の部屋に戻れば、黄金はいなくて。疾風が存の会員証がついた腕をつつく。


「人間の客はきっと初めてだよあいつ。気に入ったのかな」

「可愛い子に気に入られたなら本望だし、好みに五月蠅そうだ」



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