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第一話 金の生みどころ3ー墓を欲しがる青年


 願った通りに親友の見目そのままだった。現代に模したかのような少年姿が、山から何十キロも離れた人里の墓地にいた。色素だけが違う。

 金髪はきらきらと蜂蜜色より淡く、一本一本が繊細で。まだ瞳の色は見えてないが、百六十一センチの小さめな背丈を見る限りでは年齢は若そうな気がした。白いシャツに、黒いジャケットを腰に巻き付け、黒いパンツに黒いネクタイをしている。本人の色素はカラフルなのに、モノトーンの印象が強い少年の見目だ。

 その日は雨で、小雨が少年に打ち続けていた。少年は墓の前で大の字となっていて。

 ずぶ濡れになっていた少年を疾風は、電信柱の上から眺めていた。

 このまま何事もなければ何をどうして最初の出会いを起こそうかと考えていた。出来るだけ楽しい出会いにしたかった。

「親父あとでな」

 だが少年はずぶ濡れのままふらふらと立ち上がり、何処かへ移動しようとしている。そのまま着いていけば、廃ビルの屋上まで向かっていく。

 廃ビルの屋上から、少年は迷いもなく飛んだ。

 疾風は心臓が潰れる思いで、慌てて黒い翼で真っ先に少年の元に飛び、抱き留める。

 少年はぼんやりと不思議そうな顔をしていた。空中で猛る風の中、髪の毛が大きくばたつき靡く。衣服も風の抵抗を受けていた。

 少年はこくんと首を人形めいた動作で傾げる。びゅお、と羽が風を整え空中で滞在する。


「誰だおまえ」

「落ち着け、何があったんだ? 何でそんな」

「なんで? 何でっておまえに関係あるのか」

「なくても気になるだろう、滅多にない状況だし、見たくない状況だ!」


 お前は幸せであるべきだったんだ! と疾風は悔しさを飲み込む。相手には一切何故なのかは判らないだろうから。

 初めて見つめた瞳は絶望のみどり色をしていた――折角生きているのに、何故今度は自殺を選ぶのだと理解ができなかった。

 疾風は地上に降りると、少年を立たせた。

「ああ、まあ見かけたら助けたくなるか、おまえが人でないとはいえ」

 少年はこくんと一人納得し頷く。疾風はちらりと羽に少年からの視線を感じると、慌てて羽をしまいこむ。

 頭をがしがしと掻きながら困った顔をしていれば、この辺りはやたら街中華の店に囲まれているからかラーメンの匂いが強い。

 やたら匂いから腹が減る場所に降り立ったことへ八つ当たりに、ぼかりと少年の頭を叩いてやった。

「何があったか聞いてやるし、打開策考えてやるから。そんな真似しないでくれ!」

「なんでそこまでしてくれるんだ、前世でおまえにおれは借金があるのか」

「似たようなもんだな、僕は疾風。さあ、命の恩人に名乗ってみろ、まさか名乗れないなんて言わないよな? 望んで助かったわけでもないとの言葉も聞かないぞ僕は」

「……ある加覧がらん ある。変な奴だなあ」


 存は仏頂面で手を引かれ、そのまま近くの街中華の店へと連れ込まれた。立ち話ですむ話ではない予感がしたからだ。

 店は赤い暖簾で、店名は明朝体ででかでかと「おいしい店」と書かれたやたら怪しい店を疾風は選んだ。

 存がまじまじと見上げていると、疾風が背中をぽんと叩き一緒に中へ入ってく。

 メニュー表には、やたらと乱雑に中華や和食や洋食の名前が並んでいて味のある店だ。

 独特のごま油の香りが漂い、お冷やが運ばれてくると、存はきょろきょろとあたりを窺っている。

 疾風は存の様子を見るだけでも、心が何処か救われた。

 生きている。あと少しで死ぬところだったけど、望んでいた子が生きているのだ。

 疾風は適当に、食事しながら話しやすい食べ物を選ぶ。エビチリ、餃子、チャーハン二つ。店主はぶっきらぼうにさっさと作り出すと、二人の前に置き。タバコを咥えて競馬新聞に夢中になっていく。出てきた品に存の死んでいた眼差しは僅か明るさを映し、店内を改めて存は見渡した。


「わあ初めて見たな、メニューが統一されていない店、ナポリタンに天ぷら、角煮だって」

「ほっとけ店の趣味は、一国一城の主次第だ。一応人間界の金は持っているから奢りだ、代わりになんで死のうとしたか教えろ」

「おまえ無関係じゃないか、なんで知りたがるんだ」

「まったく無関係ってわけじゃないんだ、諸事情でな。さて、何があったんだ」

「親からの借金苦で自殺なんて珍しい話でもないだろう? 返す当ても出来ず、失業が続きってよくある話だ」

「坊や若い身空で借金でもあるのか」

「坊や? おっさんだぞおれ。あらさあだもん、二十八だよ」

「はあ!? その見目で!? お前が妖怪じゃないか、妖怪童顔男! 若さの維持方法教えたら、一発で金持ちなれるんじゃないか!」

「整形だと勘違いされて終わったよ、その売り込みも」

「天然物?」

「洗顔は石けんだというと怒られるくらいの肌質だ、お陰で変なのに絡まれやすい」

 どこからどう見ても少年にしか見えない存に、疾風はぽかんとした。か弱さや儚さ、何処か手折られた花のような寿命を感じる弱々しさを持ついい年のおじさんだなんて信じられなかった疾風は、くらくらと目眩を感じながらエビチリを箸で器用に二個摘まむ。

 予想外に美味しい中華に目を見開く疾風の様子に、存は食事を丁寧にいただきますと美しい所作で食べていく。

 食事マナーは何処のお嬢様だと問いただしたくなる疾風ではあったがそれを堪えて話を聞こうとする。

 存はちらりと見やる。

「食事中の重い会話はご遠慮を」


 現代らしくない注意。浮世離れした存に、疾風は食事を奢った意味を探し始めぽかんとする。

 何のための食事の席だ、と疾風は空気の読めない存へ笑った。

 そうだ、親友も空気の読めない奴だったと、少しだけの懐かしさが温かい。疾風はじんわりとじんわりと胸が温かくなっていく。







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