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第三話 首無し騎士の笑い声1-首を狩る者たち




 疾風は風呂上がりに出会いたくなかった。

 今日はお気に入りの入浴剤を使い、疲れを流し終え。さあてあとは新刊の小説でも読もうかと思案していた。

 近頃有名な賞で評判の良い作品があるからとレビューを見て、大変楽しみにしていた。人間界に下りて久しぶりに出来た娯楽だ。読書は好ましかった。

 お気に入りの乾き物と、優雅に酒でも飲んで、と脳裏に予定を提案していたのだ。

 その風呂に出た後で悪魔と話し込んでいる存をリビングで見つけると力が抜けた。


「依頼か」

「そう、尋ね人だって」


 存は頭の中で情報を整理している様子だったので、改めて悪魔に問いかける。瞳だけで問いかければ、理解した悪魔はぺらぺらと話してくれる。


「首切り借金取りって知ってるかね、人間界の悪徳金融のものらしい。悪魔と契約しているんだがね、違反したんだ」

「何を破ったんだ」

「報酬を被らせたんだよ、他の悪魔とも契約して。舐められている為、少し折檻したいのだが居場所が掴めなくて」

「首切るんだろそいつら、その名前ってことは。そんな奴らにできることが僕らにはないよ」

「まあ見つけるだけでもいいよ、あとの成り行きは何とかなる。此方も見ておくよ」


 悪魔は変わらず多重の声で笑いさざめくと、存を撫で消えていく。

 撫でられた存は幾らか居心地悪そうに、頭をさする。


「悪魔に対してもオキシトシンあるのなら嫌だな」

「あってたまるか、あんなきもちわりいやつ」

「気持ち悪いのか、疾風には何に見えてるんだ、おれと見えてる姿が違う気がする」

「さあてな! 首を切るとか目立つ話なわりに、ニュースにはなってないな」


 疾風がチャンネルを幾らか回したりしていれば、テレビがばひゅんっと音を立てて壊れる。ぷしゅぷしゅと煙が立ち上り、時折びびっと電子音が響く。酷い有様に存は目を見開いた。

 そういえば冷蔵庫や電子レンジでさえ、疾風が触れば異音がするものだ。家の機械ものの昨今による不調は疾風が原因かと納得した。

 じと眼で存へ見つめられた疾風は、しゅんとして紙ならば大丈夫だろうと新聞を数日分漁るがそれでも首を切った死体の話は出てこない。疾風の趣味で新聞といくつか契約を結んでおいてある。記録はいつでも好きに見られる状態だ。


「契約が隠蔽関係だったのかもしれないな」

「はー、なるほど。悪徳金融会社らしきものは見つけたよ」


 新聞に挟まれていたチラシを拾い上げ、疾風は目を通せばげんなりとする。

「お金を差し上げます、皆様にはお金が必要なんです、是非とも貸してさしあげたい!」と広告には記されているので、どこからどうみても胡散臭い者だと疾風は苦笑いを浮かべる。

 ちらりと存をみやる。存は紅茶を啜り、口の中に食べかけの煎餅を放り込んだ。


「いつも言ってるだろ、表に出してることの裏が本音だ」


 お金が欲しいのはこの業者だからこそ、これだけ親切面をしている分とんでもない悪徳なのだと存は言外に意味する。

 疾風は人間の特性について、まだ理解出来ない顔をしていた。





 魔方陣を敷いて香水を置けば、便利屋へ繋がる。

 中央のクッションで寝転がる黄金は、疾風と存を見つけると、扇を口元に当てた。


「何の情報がほしいの? それとも道具かしら」

「首を切っていく借金取り。人数はわからんが、悪魔と多重契約しているらしい」

「あら、だとしたら三人心当たりあるし、その三人は一緒に行動してますわね」

「何か武器になれそうなものないか」


 存が問いかければ、二人を品定めしてから黄金は小首傾げた。


「それなら人数増えるほうがよろしくなくて? 三人相手なら、三人で向かった方が宜しいでしょう?」

「配下を増やせるのか、悪魔の契約なしで?」

「契約の簡略化できる道具はありますわ。契約に含まれてる内容の範囲で、配下が増やせる札がなんと三百万円……といきたいところですけれども」

「値下げしろ値下げ」

「試作段階だからそれもやぶさかではなくてよ、タダにしてあげる。その代わりにレポート百枚ね」


 蜘蛛の巣に括って、従者の札を存へ伸ばせば黄金は小さく笑う。

 疾風は札を覗き込むと、札には首の話をしたからか、首のない人のイラストが描かれていた。


「きっと、縁があるわ。今の話とも、あなた方とも」


 黄金は眠そうに首切る借金取りの情報をすらすらと羊皮紙に書き込んで蜘蛛の巣に括ると、蜘蛛の巣を介して再び存に届けられた。

 視界がぼやけていく、ぼやけきる頃には部屋に戻っている。

 存はイラストの画かれた札をポケットにしまい込み、情報を疾風と読み込むこととした。


「従者はすぐ呼んだほうがいいんじゃないのか」

「いや、配下が多くなればなるほど、多分おれにしがらみがでる。限界までは呼びたくないし頼りたくないな」

「お前は僕がいてしがらみが今あるのか」

「あるよ、料理がうますぎて太りそうだ家からでたくなくなる。更に掃除のうまい人が出てきたら堕落してしまう」

「なんだそれくらいのしがらみなら、呼んでしまえよ阿呆」

 疾風は存を小突いて、いーっと歯を見せて威嚇した。




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