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世界の標的『尊』

 そんなの勝ち目がないじゃないか。

 世界の国は、核だって持ち出せるはずだ。

 それを撃たれたら、一発で死んじまうじゃないか。

 そうすれば、別の世界との鍵が発動して、この世界は終わる。

 心臓に手を当てると、鼓動が早くなっている。

 俺は世界中から狙われている。

 そんな馬鹿な。

 そんなの瞬殺じゃないか。

 俺は死ぬ、すぐに死ぬ。

 これからも狙われ続けて、いつか殺される。

「あ、あははははっ」

 心が耐えきれなくなったのか、笑いがこみ上げてきた。

 そうだ、笑えば良いんだ。

 こんな世界、どっちでもいい。

 俺は、殺される。

 それだけだ!

パシンッ

 頬が痛んだ。

 ゆっくりと瞳を戻すと。

「少年、しっかりしろ。君がしっかりしなくてどうする。少年を守るために、魔女の血判をしたのを忘れたのか」

「魔女の血判……」

 そうだ、三人で、リアンの血で描かれた不思議な魔法陣の上で誓約をした。

 俺を守ってくれるって。

「そうだ。君自身も誓約をしただろう。君自身を守ると。その為に、私達がいるんだ」

 じっと朱い瞳をこちらに向けて、見つめ続けられる。

 それによって、少し気分が落ち着いた気がした。

「あぁ、そうだったな。悪い。俺が正気じゃなかったら、皆に悪いよな。ありがとう」

「よかった。君が平然としてないと、守りきれないからな。心が苦しくなったら、私に言うんだ。ヒュプノで少しは落ち着かせてやれる」

 だから安心しろと、肩を叩かれる。

 本当に心強い。

 柊も、朱莉も、リアンも、皆最強だ。

 少なくても、科学を使う人間になんて負けはしないだろう。

 自然とそう思うことができた。

「処理、終わったよ~」

 気を取り直したところで、左腕を回しながら朱莉がやってくる。

「処理って、何をしたんだ?」

「処理は処理。さっきの出来事を忘れてもらうのが一番なんだけど、あたしの力では難しいから獣憑きにして、正常な思考にできないようにしただけだよ」

 しただけって……

 獣憑きってことは、動物霊的なものを憑依させたのだろう。

 つまり呪ったということだろうか。

 この短時間で?

「そうか。私のヒュプノで、忘れさせても良かっただがな」

「さっき柊さんに守ってもらったから、その御礼みたいなものだよ。気にしないで」

 リアンといい、朱莉といい、いや柊もだけど、とんでもない奴らだな。

 と改めて認識する。


 その後は避難場所であるグラウンドに駆けつけた。

 リアンは先に到着しており、杖も持っていなかった。

 軍用ヘリ墜落については、先生方が救急車を呼んでいた。

 あくまで墜落と火災報知器は偶然であり、生徒に被害がないのは幸いだと校長が言っていた。

 すぐに火災報知器は四階の誰かが押したイタズラという結論が出た。

 しかしその時間帯は、HR中で誰もそこを歩いていなかったため犯人はわからないそうだ。

 それにしても見事なまでに、教室は戦闘の形跡は何も残っていなかった。

 これはリアンのおかげだ。

 流石に軍用ヘリが墜落したとあってはメディアも殺到して、次の日は休校になった。

 HRも進路調査票を渡されて、すぐに終わった。

 普段どおりに帰ろうとしたら、朱莉の家から来たリムジンが待っており三人と朱莉の家に行くことになった。

 夕飯もごちそうになり、非常に豪華な和食で驚いた。

 久しぶりに来た水巻神社は懐かしく、朱莉の幼少期を思い出すのだった。

 夕食の後、神社の大きな本殿に案内されそこでようやく今日のことを話せるのだった。

 本殿であれば結界で守られているため、外部から盗聴されるおそれがないからだそうだ。

 丁寧に座布団まで引いてあり、お茶とお菓子が床においてあった。

「なんとなく想像はついていると思うけが、非常ベルを鳴らしたのは私だ」

 予想通りの答えが帰ってきた。

 なぜなら、誰もいない空間で、火災報知器の非常ベルを鳴らせるのは柊のサイコキネシスくらいだったからだ。

「柊さんは、それで生徒の皆を避難させてくれたんだよね?」

 朱莉が問いかける。

「そうだ。少年には内緒だったが、事前にプレコグニションでおおよその時間はわかっていたからな」

「一般人の誰かがいたら、あんな大立ち回りできないデス」

 「それに危険デス」と付け加えた。

 あんなデンジャラスな光景、一般人が見たら映画としか思えないからな。

「それについては、助かった。クラスや学校の生徒を守ってくれて」

「気にするな。私も被害者はいないに越したことはない、と思っただけだからな」

 出された誇った顔で煎餅を頬張っている。

 こいつ煎餅好きなんだな。

 それにしても、俺に予知の内容を教えず三人で何を企んでいたのだろうか。

 想像がつかない。

 魔女の血判との関係はあるのだろうか?

「にしても、上手くいってよかったデス!」

「ホントだね!」

「ああ、そうだな」

 三人は相槌をうっている。

「なんだよ、奇襲されのを防げたのがってことか?」

「そうじゃないよ。柊さんが、昨日立ててくれた作戦が上手くいったの」

「へ~、どんな?」

「私が説明しよう」

 煎餅を食べ終わった柊が答える。

「昨日私が君にプレコグニションを使った時に見たのは、今日軍用ヘリに強襲されることだった。それを見て思いついたんだ」

 ごほんと咳払いをした。

「私達三人の組織は、それぞれほとんど相手の素性は知らない。存在している事自体が、それぞれが秘匿にしていたから。しかし私は二人に会って思った。少年が言う通り、協定を結んだほうが効果的だと。なにせ、三者とも本気で少年を守ろうとしているのだから。それも、自分たちの扱えない力で。だが簡単には組織の本部に協力したいとは、言い出しにくかった。そうだろう?」

 うんうんとリアンと朱莉がうなずく。

「そこで、三人が協力せざるおえない状況で、少年をそれぞれが守りきった。という既成事実があったらどうなるともう?」

 煎餅を俺の方へ向ける。

「まあ、協力したほうがメリットが有るとも思えるかもな」

「そうだ。だから、少年にはあの場から逃げてもらってはダメだった。プレコグニションを知らせずに、組織も知らない我々のみが知っている強襲を退ける」

 たしかにそれなら納得がいく。

 あの場で奇襲されることを知っていたら、俺は確実に逃げているだろう。

 それこそ非常ベルがなっているなら、グラウンドに。

 そうなったら狙いは俺になるから、グラウンドにいる人達が犠牲になる。

 それよりも、三人が予知した内容を自分たちの組織に知らせずに、あくまで『その場で』協力したように見せかけ、そういった事実を作る。

 するとそれぞれの組織も、協力関係に納得できるだろう。

「まあ、お二人のことを信じられたのも魔女の血判を交わしたからからなんデスけどね」

「それもあるよね。あれって、基本的に破ることのできない約束だもんね」

 そうか、それによってほぼ初対面だった三人は俺を守る契を交わすことで、お互いを信用できたんだ。

 だから賛成したのか。

「そして、お互いに魔女の血判を交わしたとそれぞれの組織に報告すれば、少なくてもここにいる全員とは、組織公認の協力関係になれるというわけだ」

 思わず拍手をしてしまう。

 二人もパチパチと手を叩いていた。


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