機関銃と能力
何が起こっているのか、一瞬分からなかった。
しかし少し離れている柊たちを見てわかった。
ヘリの機関銃で撃たれているのだ。
柊はそれを恐らくサイコキネシスの壁で守っている。
弾が跳弾して、様々なところに散っている。
その光景を、不謹慎ながら美しいと思った。
弾丸は高速の赤いレーザービームのように見えて、それを綺麗に柊が弾き返しているかだ。
そしてその光景を目にして、なぜ自分事として取られなかったかというと、リアンが張った魔法陣は跳弾をしていなかったのだ。
もちろん機関銃で同じだけ撃たれている。
だがよく見ると、その銃弾はエメラルド色の膜に触れると消えて無くなっているのだ。
だから跳弾の音も感覚もなかった。
それを平然と見守るリアン。
通常の人間なら、ここでこんな反応はできない。
そう、通常の人間なら。
リアンは東洋支部一等アルケミスト。
少なくとも、科学の力の到底及ばない、いわば神の領域にいるのだ。
その事実は可愛らしい見た目からは想像がつかない。
きっと武藤あたりも一生気づくことはないだろう。
この少女が、尋常では無いことを。
「この魔法陣どうなってるんだよ。まるで弾がどこかに消えているみたいだけど……」
はっとして、爆音の中大きな声を出して聞いてみた。
「これは簡単なことデスヨ。時空の間に飛ばしているんデス。つまり亜空間にテレポートさせていることになりマス。テレポートと言っても、キョウカのとは仕組みが全然違いマスが」
亜空間……。
本当にファンタジーな世界観だ。
魔術というのは魔女狩りの時代よりも、科学の発展と同じく発達しているということなのだろう。
これにはヘリの機関銃も歯がたたないだろう。
そう、彼女ら三人の誰一人にも。
そのうち機関銃の音は止んでいた。
だが軍用ヘリの猛攻は止まらない。
「まだ来るぞ! 私が仕留める」
柊が銃声の合間を縫って言った。
守るだけじゃないのか?
これからどうしようというのだ。
「おっとミコト、リアの手を離さないで下さい」
手を引いてくれなければ、銃声が止んだ安堵感で危なく魔法陣の外へ出てしまうところだった。
「あ、ありがとう。危なかったよ」
その瞬間、教室は強烈な光に包まれた。
閃光弾か!
まずい、なにかされるんじゃ……
「大丈夫デス、キョウカを信じてあげて下さい」
光の中でも平然としているリアンは言う。
――ドッッバァァァァン
強烈な爆風と爆発音がした――
――教室の外で。
軍用ヘリはプロペラの音が変わり、今にも墜落しそうだ。
数秒後、ヘリは地面に吸い込まれていった。
墜落したのだ。
下の魔法陣がカンという杖の音とともに、消える。
すぐさま朱莉が近寄ってくる。
「尊君、大丈夫? 今ね、柊さんが投げ込まれたし榴弾を爆発する前に掴んでテレポートさせてヘリに当てたみたい」
「直接手榴弾を掴んだってのか!」
「ああ、そうだよ。気にすることはない、プレコグニションで投げ込まれる位置は特定していた」
「そうか……なんか、ありがとうな」
「気にすることはない、少年は私達に守られていると良い」
今目の当たりにした現状で、本当に三人がいて良かったと思った。
一人だったら、数秒で拿捕されていたか、殺されていただろう。
そして、世界の鍵が開いてしまっただろう。
「それよりどうするんだ、この教室……」
その場は見るも無惨な様子だった。
窓ガラスの破片に、強力な銃弾で破壊された机にロッカー……
片付けるにも、直せないものだってある。
「はぁ……仕方ないデスね。リアが直しておきマス」
「できるのか? 教室全部だぞ」
「リアのことを誰だと思ってるんデス? 一等アルケミスト主席デスヨ?」
つまり本当に直せるということだろう。
「それより、落ちたヘリに向かわなくて良いんデス?」
「そうだな、少年を狙った理由が知りたい。頼んだよ、暁月君」
やれやれと言って、リアは杖を構えた。
俺と朱莉は柊に手を掴まれる。
「私のテレポートには制限がある。触れたモノしか、空間転移ができないんだ」
以外だった。
柊ならなんの制限もなく、超能力を使っていそうだからだ。
だからさっき素手で手榴弾を掴んだのか。
「じゃあ、飛ぶぞ」
まばたきをした。
「Redi ad id quod fieri debet.(時よあるべき姿に戻れ。)」
その瞬間で、学校の裏庭に出ていた。
直前にリアンの呪文が聞こえた気がした。
それよりも、眼の前で大きな軍用ヘリが墜落していた。
オイルが漏れている。
今にも燃え上がりそうだ。
そして操縦者であろう軍服を着た男が二人乗っていた。
その前に立ちふさがる。
「た、助けてくれぇ」
怪我をしていた。
それも大怪我だろう。
一刻も早く手当をしてやりたいところだが、近寄ろうとしたら柊が制したきた。
「一応聞いておくけど、あたしの尊君に手を出した理由は?」
その姿は冷酷だった。
普段の姿らは想像がつかない、剣幕を纏っている。
そう、朱莉だ。
普段の性格なら、絶対に困っている人は放ってはおけないタイプだろう。
でも今は違う。
大怪我をしている人間に、冷血に青龍を向けている。
ただ朱莉の、空色の碧眼は曇ってはいなかった。
強い眼光を放っている。
もしも、この男たちが更に俺に何かをしようとするのなら間違いなく殺す。
そういうオーラを醸し出している。
「言え、ない……」
青龍を、答えた男の肩に躊躇なく突き刺した。
「うっ……」
男は苦痛に顔をゆがめる。
「何してるんだ朱莉。もう良いだろ」
止めようとした、しかし体が動かない。
サイコキネシスだ。
柊が無言で止めているのだ。
くそっ、俺はなにもできないのか。
「答えないなら、このまま刀を太ももまで袈裟斬りにするけど?」
冷血だ。
そして冷酷だ。
そこに慈悲など微塵もない。
「わ、わかった。教えるっ、教えるから、助けてくれ!」
男は完全に恐怖に怯えていた。
朱莉のオーラに押されているのだ。
「早く言って」
「ターゲットは、神代尊だけだ。やつは世界の鍵だ。捕縛したら、世界中に対して政治で有利に立てる。だから国の命令でやった」
その言葉に嘘はなかった。
いや嘘をつける状況ではない。
本当のことなのだろう。
「国が、俺を狙ってるってことか」
「ええ、そうみたいね」
しかし確かだが、朱莉の所属している日本祈祷守護協会というのも国家主導ではなかったか?
国の中でも分裂が起きているということだ。
政治の世界というのはそれだけ難しい。
「他に知っている情報は?」
朱莉が抜いた青龍を男の眼前に向ける。
「な、ないっ! だが、間違いなく世界中の国々が神代尊を狙うだろう」
世界中が、俺を?
なにかの聞き間違いかと思った。
リアンちゃんは、作中の通り尋常ではありません。
可愛らしい見た目とは裏腹に、すっぱり恐怖という感情を捨てているのでしょうね。
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