奇襲と魔術
男子はその可愛らしさに燃えているようだ。
そして女子も愛らしさに萌えていた。
まさか同じクラスに入ってくるとは思わなかった。
これも『西洋アルケミー連盟』の差し金だろうか。
いやきっとそうなのだろう。
同じクラスというのはそれだけで、守るには好都合だからだ。
「皆落ち着けー。暁月はまだ日本の学校に慣れていない、そう騒いでやるな」
先生の一声があり、徐々に喧騒は落ち着いてくる。
「暁月、この中に知り合いとかいるか? 良かったら席を隣にしてやるが」
しまった、その質問をすると……
「リアは、ミコトと仲がいいデス!」
一斉にクラスの目がこちらに集まる。
「ミコトー! 隣の席になってもいいデスか?」
「え、あぁ別にいいけど」
「なら、ちょうど一番うしろの窓際が空いているから、そこがお前の席だ。皆、暁月と仲良くしてやれよ」
リアンはこちらに鞄を抱えて歩み寄ってくる。
そして驚くべき行動に出た。
「Te amo magis quam mundum!(私は世界よりあなたを愛しています)」
数時間前魔術を使っていた時に言っていた言語で、何か発した。
そして俺にダイブをかます!
え、なんだこの状況は。
なんで俺リアンに抱きつかれてるんだ。
やばい、これは。
「あー!! あたしの尊君になにしてるの~!」
「神代てめえ、後でぶっ殺す!!!」
「暁月、神代……そういうのは先生の見ていないところでしてくれ」
朱莉には叫ばれ、武藤には殺害予告をされ、先生には呆れられた。
なんで……
なんで…………
「なんで、俺のせいなんだよーーーーーーーーーー!!!」
そうして始業式に向かうのだった。
適当に校長の話を聞きながし、教室に戻る。
今日は始業式だけ日なので、午前で授業は終わる。
皆帰りのHRを待っているのだ。
そんな中でも、俺への様々な視線は永遠と振り続ける。
なぜなら、リアンがずっと手を繋いできているのだ。
「ミコトが近くにいてくれるので、安心デス!」
「せめて、手を離してくれないか」
何度目かのやりとり。
しかしさっぱり手を離してくれる気はないようだ。
「今日は特別デス。キョウカの予知もあるので」
そういえば、その予知とやらの出来事は起きていない。
ずっと身構えていたが、最後まで何もないのか?
それとも予知が外れたのか、そういうことなのだろうか。
「恐らく、もうすぐだ。少年、暁月君から離れるなよ」
柊が耳打ちをして、すぐに自分の席に戻る。
この後に何が待っているのだろうか。
「じゃあ、帰りのHRをはじめるぞー」
国語教師が戻り、生徒が皆自分の席に戻りざわついた教室は静まり返る。
「えーっと、まずは進路希望調査の用紙を……」
その時だった。
ジリリリリリリリリリリリッ!!!
大きな音が校舎全体に響き渡る。
「この音は、非常ベル!」
火災や地震の際に鳴るものだ。
つまり校舎の何処かで火災でもあったのか?
「皆、おちつけー。火災訓練どおりに、外のグラウンドに向かうんだ」
生徒はその言葉を聞いて、急いで教室から出る。
俺も向かおうとしたのだが、繋いでいる手はいかせてくれる様子はなかった。
「ミコト、待ってください」
「来るぞっ!」
柊が白衣をバサリと翻し、声を上げる。
教室にはすでに、魔女の血判を交わした四人しかいない。
朱莉は、布袋から昨日の日本刀。青龍を取り出した。
窓の外から爆音が響く。
これは……ヘリの音!
それも普通の救助ヘリのような、単一の音ではない。
もっと大きなプロペラが複数回っているような音だ。
――バリバリバリバリィィィン
大きな音と、盛大に窓ガラスが砕け散る爆音。
音の正体はすぐにわかった。
マシンガンを持った軍服を着た人物が二人窓から入ってきたのだ。
ここは四階だぞ……
つまりはヘリから降りてきたということだろうか。
なんのために?
俺の前に朱莉が立ちふさがる。
「尊君は、渡さない!」
刀の鞘を抜いた。
その瞬間、俺を押し倒したときのような白い炎が宿ったように見えた。
『神代尊、大人しく投降しろ。そうすれば、他のものに危害は加えない』
ヘリからスピーカーで音声が流れた。
「それは、できないね」
柊が言った。
すると白衣をバサリと薙いだあと、手を前に突き出す。
その瞬間、ガラスの破片がすべて浮かび上がったのだ。
「死にはしないさ」
それらがすべて、軍服の男たちに襲いかかった。
「今だね!」
その間を縫って、朱莉が青龍を一瞬の迷いもなく振るう。
その対象は、マシンガンだった。
一秒も経っていない。
その間に、二人のマシンガンは二つに分断され銃弾がパラパラと地面に転がる。
『司令、応答願います。対象、神代尊を……ば、化け物が守っています!』
ガラスの応酬を受けながら、無線に対して声を荒げる。
すると応答が帰ってきたのか、外にロープが垂らされる。
窓から二人が飛び出し、ロープに掴まるとそのヘリは去っていった。
「させるかっ! 食らうが良い! Psychic hurricane.(サイキックハリケーン)」
柊が、再び白衣を翻し手をヘリに向ける。
そのヘリが飛び立とうとするとき、大きな風に当てられたように回転の軸を失っていた。
だが、ヘリは一つではなかった。
爆音とともに、もう一基のヘリが窓先二十メートル先に鎮座した。
「まずい、暁月君少年をを頼む」
「ラジャー!」
リアンは状況に合わず軽い返事で、俺を守ることを承諾した。
瞬間、その辺りにあった箒を手に取り。
「Alchemize rem hanc.(この物を、錬金する)」
と手早く唱えたと思えば、その箒は箒ではなくなった。
箒の下に小さな七芒星を象った黄金色の魔法陣が発生して、不思議なことに、十時間ほど前に俺の前から飛び去った杖に酷似したモノに変換。
いや錬金した。
そして魔女の血判の際に治したはずの見えない傷を再びなぞる。
「Patitur iterum aperire.(再び開くことを許す)」
するとそこから血が滴り始めた。
見ている限り、再び傷口を開いたようだ。
恐らくこれは魔術。
そして箒から杖に変えたものは錬金術。
少なくてもリアン=暁月という人物は、それをいとも簡単に扱うのだ。
科学では叶わなかった、錬金。つまり物質変換。
それをたった数秒で行う。
その凄さというものは、一介の人間である俺には計り知れなかった。
「Separate mundum meum.(私の世界を隔てる)」
再び呪文を唱え、カンと杖をリノリウムの床に響かせる。
その時には血はもう止まっていた。いや止めたのだろう。
そこには錬金術の時とは色も形も違うエメラルド色の半径二メートルほどの魔法陣が浮かび俺とリアンの下に形成される。
直後筒のように天井までエメラルド色の膜のような物ができる。
「リアン、これはどうなっているんだ」
予想できない事態に、率直に聞くしかなかった。
「この魔法陣のことデス? これは魔女が許すもの以外の、空間を隔てる魔術デスヨ」
「来るよっ!」
朱莉が柊の後ろに隠れる。
――ババババババババババッ
人生で一度も経験したことのないような爆音が響き渡る。